105 巫女 VS 聖女
視察団の事件から聖女フリアは、コーガルに住むことになった。
教会の悪事が判明し、断罪するため、新教会に移籍したというわけだ。それで、コーガルはお祭り騒ぎだ。フランシス神父なんかは、涙を流して喜んでいる。
「これで、コーガルは聖地と言っていい場所となりました。これからも神に感謝して、精進を続けます」
最初は私も喜んだ。
しかし、巫女という立場の私は、複雑な心境だった。だって、聖女は巫女の完全な上位互換だったからだ。
まず年季が違う。
フリアは聖女として、何年も活動して来た。もう聖女が板についている。昨日今日巫女になった私が太刀打ちできる相手ではなかった。慰問活動にしても、聖女が呼ばれるので、だんだんと私は呼ばれなくなる。最初は巫女に嫌々なったのだが、いざその地位が奪われそうになると、腹立たしくなるのは、人間誰しも経験があるだろう。
それにフリアは絶対にボロを出さない。
これまで、教会にもバレなかったくらいだから、筋金入りだ。一方私はというと、既に道場主エミリアで、血塗れ仮面であることは、コーガルの住民には周知されている。巫女として活動しているのに「エミリア先生」と呼ばれたり、「血塗れ仮面が白くなった」などの声を掛けられることもある。
コーガルの住民は、全く世界観というものを理解していない。
そんな私にも、唯一勝っている部分がある。
それはライライだ。神獣様という設定なので、それなりにライライは人気がある。無駄飯喰らいのごく潰しではあるが、愛想はいいからね。
ならば、ライライを前面に押し出して、活動して行こうと思っていた。
衝撃の事実が判明するまでは・・・
★★★
ある時、聖女と共にイベントに参加していた。ゴブリン居住区においての触れ合いイベントだ。偶々魔王も来ていて、聖女が連れていた白い子犬、リュカをモフり始めた。
「これは珍しい!!フェンリルとはな」
「フェンリル?」
「伝説の神獣じゃ、雷獣と並び称される存在じゃな」
なんと聖女が連れているリュカは、神獣フェンリルだったのだ。
この話はあっという間に広まった。
すぐに、町はお祭り騒ぎになった。だって伝説の神獣が発見され、その神獣が聖女に懐いているのだから。
これ以後、大々的に新教会とニシレッド王国は、聖女フリアと神獣リュカをプロパガンダに使うことにした。悪の巣窟であった教会に鉄槌を喰らわせるという設定だ。元々聖女フリアの人気もあり、多くの国で支持されることになる。イシス連邦国と隣国のレコキスト王国がすぐに賛成してくれたことも大きい。
そうなると巫女としての存在意義が無くなってしまった。そもそも、私もプロパガンダで巫女になったのに、唯一のアイデンティティであった「神獣を従えし者」という設定が崩壊してしまった。聖女も神獣を従えているからね。
新教会も私の扱いをどうするかを決めかね、頭を悩ましている。
結局、ライライは神獣ではなく、雷獣という新たな名称になった。体のいい降格だ。私はというと聖女のアシスタント的なポジションにされてしまった。一言で言うと飼育係だ。実際はクマキチやクマコ、ワイルドウルフなどは、私に従っているのだが、表向きは聖女が従えているように見せている。
ライライはというと、イベントになると聖女の胸に飛び込みリュカとともに愛想を振りまく。私といるよりも聖女といたほうが、餌をたくさんもらえるからだ。
ライライ!!雷獣としてのプライドはないのか!?
と叫びたくなったが、ライライは餌のことしか考えてないので、無視することにした。
★★★
それからしばらくして、私はアシスタントポジションも失った。
というのも、ある演劇が大ヒットしたからだ。元々ニシレッド王国もプロパガンダ用に、演劇を作っていたのだが、ありきたりな話で、マンネリ化していた。なので少し趣向を変えた内容にしたところ、大ヒットしたのだった。すべてフィクションなのだが、聖女のアシスタントをしている巫女が、実は犯罪組織の黒幕で、裏で糸を引いていたというものだった。その巫女は夜な夜な、通行人を襲い、悪魔召喚の儀式を行うため、血を集めているという設定だった。
どうみても、私がモデルだ。
最終的には、悪魔召喚をする寸前で、聖女が気付いて巫女を討ち取るのだが、最後まで、黒幕が分からない演出は、観客に大いにウケたのだった。
そうなると、変に影響された子供たちが、活動中に石を投げたり、罵倒したりするようになる。
「帰れ!!お前は実は悪い奴なんだろ!?」
「知ってるぞ、お前は血塗れ仮面なんだろ?」
「僕がやっつけてやる」
そのような状況になったので、私は巫女を引退することになった。ひっそりと、巫女服を脱いだ。状況が状況だけに引退セレモニーもできず、可哀想に思った魔王がお疲れ様会を開いてくれた。祖父やお祖母様、シャドウこと父のコジール、ポン、ポコ、リンなどが来てくれた。
「当初の予定とは違うが、よく頑張った。退職金を支給しよう」
「ありがとうございます」
「ライライ!!」
「うむ、ライライにもな」
魔王だけでなく、それぞれが優しい言葉を掛けてくれた。本当に有難い。
帰り道、ポンと二人きりになった。
「エミリア、お疲れ様。何なら、俺だけの巫女になってもいいんだぜ」
ポンなりに気を遣ってくれたのだろう。私は笑顔で言った。
「巫女なんて懲り懲りだよ。二度とやらないよ」
なぜか分からないが、ポンは涙を流していた。
多分、私ことを思って、代わりに泣いてくれたのだと思う。
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