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104 真相 2

 またしても問題を起こしやがった!!

 一体誰がこんな馬鹿どもを育てたんだ!?


 私だよ!!


 今回は、繁華街周辺に戦闘力の高い領兵を多数待機させていたので、大乱闘になる前に鎮圧されていた。事情を聞いたところ、またしても、門下生がいきなり殴りかかったそうだ。それにしても、素行の悪い門下生は、視察前にほとんど半殺しにしたはずだが・・・


 気になって聞いてみると、事情が分かった。

 高度治療センターの所為だ。高度治療センターは「生まれ、種族、性別、身分に関係なく、目の前の患者の治療に全力を尽くす」が信条だ。こんな馬鹿どもでも、一生懸命に治療してくれたらしい。それに馬鹿どもの並外れた生命力と相まって、立ちどころに回復したようだ。


 問題を起こさないようにするには、もう殺すしかないのかもしれない・・・


 とりあえず、私は平謝りした。


「ウチの門下生がご迷惑をお掛けして、申し訳ありません。治療費などはお支払いしますので、どうかご勘弁を」

「エミリア殿、そう言われても困りますよ。治療費だけというのもどうかと、迷惑料とかも払ってもらわないと・・・」


 お前はヤクザか!?


 そんなことをしている内に、ルミナとドノバンと共に、なぜかマホットがやって来た。シビルと聖女に説明を始める。


「儂はマホット、拷問所と魔法研究所の所長をしております。これまでの捜査結果をお伝えに参りました。それに魔法陣の謎も解けましたしな」


 これにシビルは青ざめる。

 マホットが続ける。


「神官騎士に刻印されていた魔法陣と工作員に刻印されていた魔法陣は同種のものです。これはきちんと証明ができます。一見すると一つ一つが全く違う魔法陣のように見えます。しかしそれは、ダミーの術式が多く施されている魔法陣だからです。ダミーの術式をここまで盛り込んだ魔法陣は珍しく、解読には、かなりの時間を要しました。しかし、ダミーの術式をふんだんに施していることが、同じ系統の魔法陣であるという証明になってしまいます。皮肉なことですがな」


 シビルが言う。


「そ、それだけでは、同種の魔法陣と言い切れないのでは?」


「効能も同じなのです。効能は3つ。身体強化、戦闘時には軽いバーサーカー状態になる、そして最大の特徴は、神や信仰を冒涜する者のヘイトを集めることです。ホクシン流剣術道場の門下生が、度々問題を起こしていたのも、この魔法陣が原因です。酷い者には、拷問を受け、一定の条件になると自爆する機能も付与されていました」


 言われてみればそうだ。

 猛者クラスの馬鹿どもは、神なんて信じてないし、よく馬鹿にしている。これは教会にマイナス評価されるかもしれないが、今はそれどころではない。


 ルミナが言う。


「となると領主として見過ごせませんね。視察団を装って、工作員を送り込んで来たとしか思えませんしね。領主の権限で全員を拘束させてもらいます。よろしいですね?」


 するとシビルは驚きの行動に出た。

 なんと、聖女を羽交い絞めにして、喉元にナイフを突きつけた。


「こうなったら終わりだ!!おい!!聖女がどうなってもいいのか?聖女が死ぬと大変なことになるぞ!!世論を操作して、聖女が新教会とニシレッド王国に暗殺されたことにすることもできるんだぞ!!」


「キャー!!怖い!!助けてください!!」


 聖女が怖がって悲鳴を上げるが、ドルトが冷静にツッコミを入れる。


「もう聖女ごっこはいいんじゃねえのか?証拠は十分だし、映像記録の魔道具で証拠も押さえたしな」

「そうね。だったら、今日からは冒険者フリアね。セイ!!」


 聖女はシビルを投げ飛ばした。

 ドノバンがすかさず領兵に指示する。


「聖女への殺人未遂だ!!拘束しろ!!拷問所に送ってやる。あれだけ行きたかった拷問所の視察に行けるぜ。囚人としてだがな」


 シビルは連行されて行く。

 シビルと一緒にやって来た神官騎士たちは、大人しくこれに従った。話を聞いたところ、彼らは魔法陣は身体能力を上げるだけだと聞かされていたようだった。


 マホットが言う。


「さて、今度は拷問所が忙しくなるぞ。エミリア殿、頼めるかな?」

「もちろんですよ」



 ★★★


 結果から言うと、尋問はしたが拷問はしなかった。

 魔法陣が刻印された神官騎士は、詳しい事情なんて知らない。皆、騙されて魔法陣を刻印されていたしね。そして肝心のシビルだが、マホットが担当することになった。


「エミリア殿に拷問官の真髄を見せてやろう。儂もいつまでも拷問ができるわけではないからのう。今回は儂の持てる技術を全て出し切るつもりじゃ。それで何かを感じてくれれば、それでいい。儂の後を継げるのは、エミリア殿しかおらん」


 非常に期待されているが、どう反応していいか分からない。私の夢は世界一の拷問官になることではないし・・・



 そして、シビルの拷問が始まった。

 凄いの一言だった。シビルに対して、全く暴力を振るわなかった。映像を映し出す魔道具で、聖女たちも一緒に拷問を見ていたというのもあるだろうが、暴力を振るう必要がなかったのだ。それほど、巧みだった。

 相手の弱い部分を突いたかと思うと、今度は相手を褒め、次第にシビルは心を開いていく。シビルが、虚栄心と自己顕示欲の強い人間だったことを上手く利用していたのだ。


「私はもっと教会で評価されても、いい人間なんです。こんな鉄砲玉のような任務をさせていいような人間ではないんです」

「儂もそう思うぞ。もしシビル殿が儂の部下なら、それなりの高待遇を約束したじゃろうに。全く教会は何を考えておるのか!?宝の持ち腐れとはまさにこのことじゃ!!」

「そ、そうですよね?分かる人には分かるんだ・・・」


 シビルは次第に上機嫌になって、あれこれと聞かれてもいないことを話始める。

 シビルによると、教会からの指示で、拷問所と魔法研究所を視察にかこつけて、襲撃する予定だったようだ。というのも、拷問を受けると自爆するはずの工作員が、自爆することもなく自供しており、更にふんだんにダミーの術式を施している魔法陣といえども、分析されるサンプルが増えれば、いつか事実が露呈すると考えたからだ。


「一緒に聖女も始末するように指示を受けていたんです。最近は人気が出過ぎて、教会としても扱いに困っていましたし、あれこれと口出しするようにもなっていましたからね」


 それからもシビルは語る。


「神を冒涜する者や信仰を否定する者のヘイトを集めるような術式を組み込んだのは、理由があるんですよ」


 シビルによると、喧嘩を吹っかけてきたならず者を戦闘力の高い神官騎士が叩きのめす。そして、住民に神官騎士が頼りになる存在だとアピールする。そして、教会関係者を多数送り込んで、神官騎士の武力と治療院の独占などを背景に教会の影響力を増していくという手口だった。


「他の町では上手くいったのですがね。ここの一般人の戦闘力が、高すぎたことが失敗の原因ですよ。今回は、特に戦闘力の高い奴を連れて来たんですけど、駄目でしたね」


 今まで門下生が度々喧嘩をしていた理由が判明した。

 知らず知らずのうちにコーガルは工作員を撃退していたようだ。教会としてもこんなのは、想定外だっただろう。


「ここまで話を聞いて、シビル殿が優秀な人物と分かった。今すぐに儂の部下にしたいところじゃが、そうもいかん。それで提案じゃが・・・」


 マホットは驚きの提案をする。こちら側の工作員としての活動を依頼したのだ。


「受けてくれるなら、処分保留という形で釈放しよう。あくまで処分保留じゃから、無罪になったわけではないからのう」

「分かりました。それでは、成功しましたら新教会のポストも用意してください。新教会としても、私のような人材は欲しいでしょうからね」

「うむ、新教会にも掛け合ってみよう」


 こうして工作員シビルが誕生したのだった。


 ★★★


 その後、シビルは釈放され、神官騎士とともに教会に帰還していった。

 しかし、訃報が届く。2ヶ月後、シビルが始末されたのだ。


「こうなることは分かっておった。誰があんな馬鹿を部下にしたいと思う?儂が手を下すまでもない。これで、新たな情報が入手できた。あんな馬鹿でも使い道はあるということじゃ」


 マホットもヤバい奴だった。知っていたけど・・・


「入手した情報が精査できたら、今度はこっちが攻め込む番じゃな。拷問所は暇になるが、エミリア殿は忙しくなるかもしれんな?」


 意味深なことを言うマホットを残し、私は拷問所を後にした。

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!

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