103 真相
私は現場に急行する。
報告のとおり、大乱闘だった。驚いたのは一般市民だ。ほとんどが微笑ましく見守っており、「また、いつものことか」と思っているようだった。どんな町だよ・・・
状況は門下生が5人、神官騎士が12人、数で言えば倍近いのに門下生は、精鋭の神官騎士団と互角以上に渡り合っていた。
人数が倍近いのに、やるものだと正直感心した。
でもそういう問題ではない。私は必死に喧嘩を止めるように警告するが、全く聞いてくれない。私に目もくれず、門下生も神官騎士も殴り合っている。こうなると、私は無力だ。相手が攻撃してくれないと何もできない。結局、応援部隊の到着まで、まごまごしていただけだった。
到着した応援部隊には、ゴーケンとティーグが居たので、あっという間に鎮圧した。私は路地裏に入り、ひっそりと道場主エミリアに戻った。正義のヒーローとして、非常に情けない。
でも気を取り直して、道場主エミリアとして登場する。
「貴方たちは、何をやっているんですか!?ちゃんと説明しなさい」
門下生の一人が言う。
「飲んでいたら、急にむかむかして、殴りかかったんですよ。それで大人しく殴られたらいいものを相手も殴り返してきて、それで喧嘩に・・・」
いきなり殴り掛かるなんて、何を考えているんだ!!
しばらくして、聖女とシビルもやって来た。シビルは喧嘩に加わった神官騎士団から聞き取り調査をしている。そんなことをしている内にルミナとドノバンもやって来た。
シビルが言う。
「これは大問題ですよ。何でもそちらの門下生が、いきなり殴りかかって来たとのことです。事実なら教会として対処しなければなりません。それにホクシン流剣術道場の評価を考え直したほうがいいかもしれませんよ。聖女様」
「そうですね。ただ、詳しい状況が分からないと、何とも・・・」
ルミナが言う。
「このような事件が起きたことは、領主として謝罪させてください。それでまずは、状況を調査させてください。こちらに非があるようでしたら、きちんと対応させていただきます」
それからドノバンが領兵に指示して、事情聴取を行っていく。
そんな時、ドノバンが声を掛けて来た。
「エミリア先生!!これを見て」
「こ、これは・・・」
神官騎士の右腕に魔法陣が刻印されていた。ルミナが確認すると、工作員が刻印されている魔法陣と酷似しているらしい。私はこっそりと聖女に魔法陣のことについて説明する。
「そんなことが・・・どおりで・・・」
聖女も思い当たる節があるみたいだった。
ルミナが言う。
「人数が多いので、一度拷問所で詳しい事情聴取を行います。拷問所といっても、いきなり拷問をするわけではありません。1日猶予を貰えれば、何とか致します。それで滞在日数が延びるかもしれませんが、その分の費用はこちらが負担いたします」
「そ、それでは・・・」
シビルが言い掛けたところで、聖女が遮る。
「そうしてもらいましょう。喧嘩両成敗ですからね。それに神官騎士であれば、そんな酔っ払いを軽くあしらうことが求められます。また、実際に拷問所を体験した者から感想を聞けば、いい調査になると思いますしね」
これにはシビルも納得するしかなかった。
後で確認したところ、喧嘩をした神官騎士12人の内4人に魔法陣が刻印されていたという。
★★★
次の日は日程を変更し、聖女が楽しみにしていたモフモフ接待をすることになった。当然、裏ではマホットを筆頭にした魔法研究所の職員が総出で、魔法陣の解析作業をしている。ここに来たのは、シビルを拷問所から引き離すためだ。
また、腹が立つけど、昼食などはかなり豪華な物を振る舞った。ルミナが言うには、接待して、心証をよくしようと画策していると思わせるためだという。そうすれば、金に汚さそうなシビルは、気を良くすると考えたからだ。
シビルが言う。
「いくら心証を良くしようとされてもねえ・・・それならば、それなりの・・・・」
暗に現金を要求するような素振りも見せている。皆、腹が立っていたが、必死に耐えていた。ライライを除いてはね。ライライは気にせずにパクパク食べていたけど。
話を戻すと、私たちが訪れたのは、ゴブリン居住区に併設されているワイルドウルフの飼育所だ。最近は、デモンズラインで捕獲するワイルドウルフよりも、こちらで生まれたワイルドウルフにゴブリンライダーたちは乗っている。
デモンズラインで捕獲した個体と比べると戦闘力は低いが、大人しく従順だ。なので、こちらで生まれ育ったワイルドウルフは騎獣としては最適なのだ。
聖女はというと、ワイルドウルフをこれでもかというくらいにモフり、飼育員のゴブリンにも優しく声を掛けていた。
「大変なお仕事をされていますね。困ったことがあれば、何でも言ってください。できることはしますよ」
少し考えた飼育員のゴブリンは言った。
「1匹だけ、困ったワイルドウルフがいるんです。その子はリュカというのですが、ずっと子犬サイズのままで、体が真っ白なんですよ。騎獣にもなれないし、かといって処分するのも、可哀想ですし・・・」
「だったら私が面倒を見ます!!」
真っ白な体で小型犬サイズのリュカを飼育員のゴブリンが連れてやって来たのだが、すぐに聖女になついた。聖女もメロメロになり、餌を与えている。何となくだが、ライライと同じ匂いを感じてしまう。リュカは明らかに賢いし、誰にすり寄るのが一番得かを考えているようだった。
それはライライも同じで、リュカが聖女から餌を貰っているのを見て、聖女の胸に飛び込んだ。
「ライライ様もリュカも、ゆっくり食べてください。まだまだありますからね」
結局、ルミナが危険性はないと判断して、リュカは聖女が引き取ることになってしまった。聖女はご満悦だ。一方シビルはというと、ゴブリンたちを蔑んだ目で見ながらつぶやいた。
「下等な劣等種が・・・虫唾が走る。聖女も聖女だ。変な犬っころを飼うと言い出しやがって・・・」
どうもシビルは好きになれない。まあ、この視察が終われば会うこともないし、我慢することにした。
その日の視察はそれで終わったのだが、また事件が起こった。
門下生がまた喧嘩をしてしまった。
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