101 聖女が町にやって来た 3
2日目が問題だった。
というのも、教会側が怪しい施設と指摘した場所を視察するからだ。まずは魔王城だ。
私は血塗れ仮面の服装に早変わりして、視察団を出迎える。
「ワハハハハ!!よく来たな、聖女ども!!魔王城は誰の挑戦でも受けるぞ!!」
聖女も神官騎士団の面々も、顔が引きつっている。聖女がルミナに質問して、ルミナが回答している。
「聖女様、そ、その・・・エミリア先生は、少々残念なところがありまして、本人はバレてないつもりで、やっていますので、ご協力をお願いします」
「分かりました。そういう優しさも必要ですからね」
おい!!全部聞こえているよ!!
私は、恥ずかしい気持ちを押し殺し、血塗れ仮面を演じる。
外観を見るだけだと思っていたが、聖女は冒険者の経験もあるらしく、魔王城に挑戦者として入場した。パーティーを組んだ神官騎士も優秀だったので、5階層まで攻略した。
「いいダンジョンだと思います。これでもB級冒険者ですから、それなりに経験はあるんですよ。私の経験で言うと、ここまで充実したダンジョンは初めてです。脱出用の転移スポットもあるし、難易度も徐々に高くなっていくし・・・私が冒険者のままだったら、しばらく滞在して、攻略したいですね」
かなりの評価を受けていた。魔王に言ったら喜ぶだろう。
「今回は視察に来たので、これ以上は時間的に攻略できません。それが少し残念ですがね。評価は、「冒険者ギルドの評価を承認する」としておきましょう。私たち教会にダンジョンの良し悪しを認定する権限はありませんからね」
続いて、次の視察場所に向かうところで、最近できたダンジョンの話題になった。ルミナが説明する。
「最近できたダンジョンなのですが、こちらも質が高いんですよ。今は優良ダンジョンの認定待ちです。新種の経典が発見されまして、フランシス神父を中心に新教会の関係者が分析をしています。それ以後も、稀に経典が発見されるので、「導きの洞窟」として申請しています」
余談だが、ダンジョンマスターがダンジョンの名前を付けることはない。普通は冒険者ギルドや領主などが付けることが多い。ギルドなどが調査して、その調査結果から名前を決めるのだ。それでいうと、最初から名前を付けていた魔王城は、レアケースなのだ。
「是非、行ってみたいです。可能でしょうか?」
「可能かどうかで言えば可能です。でも、次の視察先の拷問所と魔法研究所の視察が出来なくなりますが・・・」
「構いませんよ。どちらもニシレッド王国の施設ですし、報告書を読む限り、問題なさそうですからね。それに拷問所なんかは、問題が「ある」か「ない」かの評価しかしませんし、拷問をしているところなんて、正直見たいとも思いませんしね・・・」
詳しく聞いたところ、魔王城に挑戦した所為で、聖女の冒険者スイッチが入ってしまったようだ。
「分かりました。確認をしてみます。ポンさん、大丈夫でしょうか?」
「問題ないよ。影の軍団もそっちには待機しているから大丈夫だ」
「では聖女様、参りましょうか」
「はい」
これは運がいい。だって、ヤバい施設を見せなくていいんだからね。ルミナもほっとしたのだろう、私に小声で言ってきた。
「なるべく長く、「導きの洞窟」に滞在しましょう。こちらとしても、拷問所などは、無理して見せたい施設ではありませんからね」
そんな時、シビルという痩せぎすの文官が反対意見を述べる。
「聖女様、日程通りにやりましょう。拷問所は教会としても視察しておきたい場所ですし、教皇様直々の命令でもありますので」
「私としては、拷問所を見たところで、あまり意味があるとは思えません。どこの国だって、拷問は厳しいでしょう?それにコーガルの拷問所が特に危険なことをしているわけではないでしょう?」
「しかしですねえ、コーガルの拷問所の自供率は異常です。絶対に危ないことをしているに違いありません。そうでないと・・・」
なんで、シビルはそんなに拷問所に行きたいんだ?
仕方なく、私は案を出した。
「それでは、「導きの洞窟」に行った帰りの立ち寄るのはどうでしょうか?夜間なので、拷問はやっていないと思いますが、施設や設備などは視察できますよ。我が拷問所はすべての面で、国際基準を満たしていますからね」
「お詳しいのですね」
「これでも、拷問主任官の資格を持っていますからね。私でよければ、教えられる範囲で質問に答えますよ」
「そ、そうですか・・・」
若干引かれている。
それから「導きの洞窟」に向かう途中、拷問所担当の文官があれこれと質問してきた。すべて、無難に受け答えした。
聖女が文官に尋ねる。
「エミリア様のような拷問主任官がいますし、またマホット所長は拷問管理官ですから、話を聞いた限りでは、特に問題はないように思います。後は施設を少し点検するだけで大丈夫ですよ。アレでしたら、私だけで行ってもよさそうなくらいです」
「ダンジョン攻略が長引いたら、それでお願いするかもしれません」
何とかなったようだ。しかし、シビルは鬼の形相を浮かべている。
勘だが、何かよからぬことを考えているのかもしれない。多分、シビルは教皇派の者で、難癖を付けようと思っていたのだろう。
だったら猶更、拷問所には行かせられないね。
★★★
そうこうしている内に「導きの洞窟」に到着する。
ルミナとも話して、少し「導きの洞窟」の周辺を視察してもらった。私が急遽案内役となり、聖女に説明する。
「発見されて間もないダンジョンですが、宿、道具屋、食堂、武器屋など、一通り揃っております。近々ギルド支部もできるようです」
「いいですね。冒険者目線に立つと、非常に有難いです。ダンジョンに入る前にこういった場所に案内されたのも、冒険者を思ってのことなのでしょうね。特別に冒険者へのサポートという項目を作り、加点しておきます」
こっちは時間稼ぎをしたかっただけなんだけど、思いがけず高評価をもらった。
そして私たちは、「導きの洞窟」に入ることになる。入るのは、聖女、拷問所担当の文官、男性騎士、女性騎士、それに私だ。聖女が言うには、大勢で入ると他の冒険者に迷惑が掛かるので少人数にしたとのことだった。それと聖女と一緒に入るメンバーは、聖女の冒険者時代のパーティーメンバーだったらしく、久しぶりにパーティー活動をしたかったとのことだった。
ダンジョンに入ると、聖女は雰囲気が変わった。
「エミリアさん、ダンジョン内では、フリアと呼んでよね。反応が遅くなるからね。魔王城では、大勢で入ったから、聖女を演じていたけど、本当はこんな感じなのよ」
文官が言う。
「俺たちもそうだ。なんで天才魔導士の俺が、拷問所の視察なんてしなくちゃいけないんだと思っていたしな。それなら、もっと面白そうなところに案内してほしいよ」
女性騎士が言う。
「自分で天才って言ってれば、世話ないわね。しがないB級魔導士でしょ?」
男性騎士も続く。
「それよりもまずは、エミリア殿に自己紹介くらいしたらどうだ?」
完全に冒険者のノリだ。
それぞれ、文官が魔導士のドルト、女性騎士がターニャ、男性騎士がバイスだそうだ。
聖女が言う。
「ところで、なぜ巫女の衣装なの?」
これは鋭い質問だった。私も実は迷った。
血塗れ仮面は魔王城のボス設定だから、その恰好はおかしい。道場主エミリアのままでもいいのだが、世界観を考えると聖女と巫女が共闘するほうが、魔王は喜びそうだからそうした。最近、世界観は便利だが、深い言葉のように思えてくる。
なので、こう答えた。
「世界観の問題です」
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