100 聖女が町にやって来た 2
聖女は神官騎士30名、文官10名を引き連れてやって来た。
ドノバンが言うには、神官騎士は精鋭のようで、ホクシン流剣術道場の猛者クラスに匹敵する実力を持つという。
「まあ、ゴーケンさんやオデット程ではないけど・・・」
一方、聖女は金髪青目の美人、ダボッとした修道服の上からでも分かるくらいの胸を持っている。
非常に羨ましい。コイツが人格者でなかったら、ネクロデスに言って、スケルトンにしてやってもいいくらいだ。そうしたら、その胸も・・・
駄目だ!!
最近、周囲が幸せオーラばかり出すので、私の心は荒んでいる。このままでは、身も心も血塗れ仮面になってしまう・・・闇落ちしたら、それこそ討伐対象だ。
そんなことは置いておいて、聖女は本当に良い人だった。
最初に孤児院を案内したのだが、孤児たちにも笑顔で接して、温かい言葉を掛けていた。
「みなさん、辛いかもしれませんが、笑顔を忘れずに。神様はきっと見てくれていますよ」
孤児院の視察を終えた私たちは、次の視察場所、ホクシン流剣術道場に向かう。
向かう途中に聖女が、お付きの文官に何かを伝えていた。
「孤児院などの福祉活動にも積極的、評価はAでお願いします」
ルミナが訪ねる。
「これですか?私情を挟まないように客観的に評価しているのです。ここに来る調査費用も信者たちの寄付金で来ています。調査が有益なものになるように、色々な角度から分析をしているのです。そうしなければ、自信を持って判断できません。人とは弱いものですから」
聖女は、職務に忠実な、真面目な人のようだった。
ホクシン流剣術道場に着く。案内係は私だ。
「我が道場では、初心者から上級者まで幅広い門下生がいます。特に初心者にはソフト模擬戦を取り入れるなど、工夫を凝らしています。そして、特に力を入れているのは、礼儀やマナー、相手を敬う心などの精神面です。そういった心を育てなければ、ただのならず者を育ててしまいますからね」
私の後ろで、クスクスと門下生が笑うのが聞こえる。多分、「お前が言うな」「礼儀って?」と思っているのだろう。私が睨み付けると笑うのを止めた。
「いい指導をされていますね。技術的な指導もそうですが、精神面を重視して指導されているところには感銘を受けました。評価はAですね」
これは嬉しい。ゴーケンやティーグ、オデットにお願いして、特に素行の悪い門下生を半殺しにしてもらったからね。心配といえば、そいつら全員を半殺しにしてないところだ。トラブルを起こさなければいいが・・・
それから、なるべく早く視察を終わらせようと必死になって、頑張った結果、ホクシン流剣術道場はA評価のまま、終了することになった。
続いては、高度治療センターだ。
聖女が言う。
「ここは凄く楽しみにしていたんですよ。私も回復術師の端くれですからね」
本当に興味があったみたいで、案内係のフランシス神父に仕切りに質問をしていた。
「なるほど・・・回復魔法とポーションを併用しているのですね?それに外科手術も」
「そうなのです。それぞれ、効果がある症状が違いますからね」
「これは画期的ですね。我が教会も見習わなければなりません。研修生を受け入れることはできますか?」
「もちろんです。こちらは儲けを考えていません。病に苦しむ患者が少しでも、いなくなればいいのです」
これには聖女も感動していた。
そんな時、聖女が私に声を掛けてくる。
「ところで、エミリア様はなぜ、そのような恰好を?ベールで顔を覆っていますけど・・・」
私は巫女の恰好をしている。高度治療センターに来るときは、いつもこの格好をしているしね。
「世界観の問題です。詳しくは言えませんが」
最近、これで通すようにしている。大体は納得してくれる、というか、諦めてくれる。
「そ、そうですか・・・」
上手くいったようだ。私も魔王の口癖がうつてしまったようだ。でも、使い勝手がいい。
私のことは無視して、聖女の視察は続く。
「この施設は学べきことが多くありますね。この施設を視察できただけで、今回ここに来た甲斐があります。評価はSです」
最高評価を受けた。
★★★
次は再びルミナが案内係になり、世界樹に案内する。
「高度治療センターが潤沢にポーションが使えるのも、こちらの世界樹があるからです。世界樹の管理をしているエルフたちが、良心的な価格で貴重な素材を提供してくれているのです」
「多種族との共存が実現できていますし、言うことはありません。それに世界樹を見ることができて、感動でいっぱいです。ここを評価するなんて、できません。なので、「評価はなし」とします」
感動しすぎて、「評価なし」とはなったが、好印象を与えられたようだ。
その後もゴブリン居住区などを視察し、いずれも高評価を受けた。1日目の視察予定場所は以上なのだが、ライライが聖女の胸に飛び込んだ。
「ライライライ!!」
聖女は嬉しそうにライライを撫でながら言った。
「なんと愛らしい・・・これはどういうことでしょうか?」
このタヌキ型の愛らしい黄色い魔物は、少しでも私たちの評価を上げようと努力しているのではない。ただ、餌が欲しいだけだ。抱き着いた場所が、屋台街だったので、そうしたのだろう。
「聖女様、ライライは聖女様に何か買ってほしいのかもしれませんよ。ライライは優しい方に餌をもらうのが好きですからね」
少し言い方を間違えた「優しい人から餌を貰う」のではなく、「餌をくれた人が全員、優しい認定」をされるのだ。
「神獣様にそう言ってもらえれると嬉しい限りです。では早速・・・」
お付きの文官が財布を出そうとしたので、聖女が止める。
「ここは私が出します。信者の寄付金ではなく、私が出したほうが、神獣様にも喜ばれると思いますので」
そんな訳はない。ライライは餌が貰えれば、それでいいのだ。
それにライライは事前に自分が食べたい屋台をチェックしていたようで、チェックしていた屋台の前を通り掛かると、仕切りに「ライライ!!」と鳴く。
「いっぱい食べてくださいね。本当に愛らしい」
聖女よ!!お前は今日だけかもしれないが、私は毎日だぞ。
教会が餌代を支給してくれるようになって、かなり楽になったけど・・・
まあ、聖女がライライにメロメロになってくれて、良かったと思おう。
こんな感じで、1日目の日程は終了した。最高評価と言っていいくらいだ。
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