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1 プロローグ

 私は道場で祖父のムサールと対峙している。祖父はこのホクシン流剣術道場の道場主で、長年ニシレッド王国の剣術指南役を務めた猛者だ。加齢により、多少は衰えたものの、その技術と強さは健在で、今でも祖父に勝てる剣士はニシレッド王国でも数えるほどだろう。


 一足一刀の間合いから感じられるのは、祖父のただならぬ気合い・・・僅かに木剣の振動が止まる。


 来る!!


 祖父は木剣を振りかぶり、私目掛けて木剣を振り下ろす。


「乱れ桜!!」


 無数の刃が私を襲う。私はその斬撃をギリギリまで引きつけ、スキルを発動した。


「返し突き!!」


 祖父の斬撃をすべて受け流し、祖父の右脇腹に基本通りの突きを撃ち込む。模擬戦なので、全力では突かない。少し衝撃を与える程度だ。しばらくして祖父が呟く。


「儂の負けだ・・・この道場はお前に引き継ぐ。エミリア、この道場はお前の好きにしていい」


 久しぶりに祖父から「模擬戦をしよう」と言われて、やってみたら予想外のことが起きた。若干15歳にして、剣術道場の道場主になってしまった。


 ★★★


 私はエミリア・ホクシン、15歳。黒髪黒目のどこにでもいる普通の少女だ。ただ、人と違う点は私が日本の元OLで、転生者だということだろう。そして、この転生した世界は大人気RPGゲーム、「雷獣物語」の世界だったのだ。私が転生したエミリアは、完全なモブキャラではなく、初期のチュートリアルとして登場するキャラで、勇者に剣術スキルを教える設定だ。


 私が勇者に教える剣術スキルは3つ。ほぼすべての攻撃を無効にする「受け流し」、1ターン~2ターン相手を転ばせてスタンさせる「薙ぎ払い」、そして近接物理攻撃に対してカウンターの突きを放つ「返し突き」だ。ゲームの初期段階でこのスキルがあるのとないのでは、全く難易度が変わってくる。

「雷獣物語」はこれぞRPGという作品で、悪く言えば、「キングオブお約束」のRPGゲームだ。スキルと魔法があり、悪の魔王を討ち倒すというものなのだが、初期の勇者は非常に弱い。なので、私から習ったスキルで何とか耐え忍び、助っ人で加入するパーティーメンバーにおんぶにだっこ状態で凌ぐのが、序盤での立ち回りの鉄則なのだ。


 物語が進むと、強力なスキルや魔法を覚えるので、明らかに火力が足りない私から習ったスキルは、当然使われなくなる。だが、序盤に限っていえば、非常に有用なスキルなのだ。因みに猛者と呼ばれるプレイヤーは、「受け流し」「薙ぎ払い」「返し突き」のスキルだけで、魔王を討ち倒す者もいる。ただ、動画サイトを見た限りでは、5時間の大激闘を繰り広げていたけどね。唯一まともに攻撃できる「返し突き」も通常攻撃と同じくらいの威力しかないから、そうなっても仕方がない。


 ここまで話してきたが、勇者なんて無視して好きに生きようと思っていた時期もあったが、小心者の私は、「万が一、勇者が負けてしまって、世界が滅んでしまったら・・・」と不安になり、勇者が来るまでは、チュートリアルキャラを演じることに決めた。それが終われば自由に生きようと思っている。ゲームでは「祖父から道場を引き継いで、早3年。この技を勇者の貴方に託します」というセリフがある。なので、後3年は道場主をしなければならない。


 まあ、祖父は偉大な剣術家だし、それなりに収入はあるだろうから、3年間、のんびり道場主をやっていればそれでいいし、楽なものだ。15歳で世に出るのも、18歳で世に出るのも大した違いはない。


 しかし、私のこの考えは大間違いだった。

 祖父から渡された帳簿を見て愕然とする。こんなの年寄りの趣味じゃないか・・・


「エミリアよ。この門下生の数で、生活が成り立っていることを不思議に思わなんだのか?道場の収入なんてほぼない。あっても、道場の補修や備品に消えていく。生活費は儂の恩給と婆さんの恩給で賄っておる」


 つまり、私が道場主になったところで、収入はほぼないのだ。絶望に打ちひしがれている私に追い打ちを掛けるように祖父は言う。


「道場は譲ったが、土地と建物は譲っておらんから、賃貸料は払ってもらうぞ。可愛い孫のエミリアだから、特別に安くしてやるし、3ヶ月は無料で貸してやるから、それまでに何とか道場を立て直すんじゃな」


 クソジジイ!!

 私に負けたのだって、わざとじゃないのか?

 もしかして、不良債権となっているこの道場を私に押し付けるために?


 考えても仕方がない。問題は勇者が来るまでの3年間、どうやってこの道場を維持するかだ。まずは、収入を確保しなければ・・・


 こうして、私の道場主としての戦いが始まったのだった。

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