《小話》華美皇女と仮装のお茶会(1)
※現(第8話)時点で未登場のキャラがいます。
→アスターシアとノルベルトの弟と母シシアーティアの義弟。
(名前だけですがアスターシアたちの妹も)
両者共に既に第一話で名前のみ登場していますが、
本人の会話などアスターシアとの絡みがまだないため未登場としています。
その点をご了承ください。
第二宮殿の私の部屋にはアフェク達が集まっていて、
温かい紅茶を飲みながら他愛のない話し合いをしていた。
「ハロウィンでしたっけ。
以前姉上に教えていただいたこの季節にする行事って」
「ん?ええ、そうね」
まったりとしている中突然アフェクに声をかけられて少しびっくりしてしまった。
──確かにアフェクがまだ三歳ぐらいの頃に教えたことがあった。
おとぎ話や童謡などに興味を持っていたアフェクに、
私が知っている行事やお祭りはないかと言われ、
ちょうど秋の季節だったからハロウィンという行事があることを教えた。
もちろんこれはこの世界にはない。
去年はその行事を知った母上が面白がって家族内だけで仮装大会をしたことがあった。
「今年はアフェクも仮装してみる?」
「良いのですか!」
「ええ、母上が楽しかったらしくて、
今年も親族内だけで仮装大会を開こうと考えているみたいだから」
「わぁ!すごく楽しみです!」
とてもキラキラした瞳で私を見上げるアフェクの眩しさに少したじろいでしまう。
ああ、本当に可愛いなぁ……。
「ノルは今年は何をするつもりなの?」
「僕は……そうですね、昨年教えていただいたヴァンパイアというものをやってみようと思います」
「あら、良いわね!」
黒髪に赤目の容姿をしているし黒っぽい服はノルベルトによく似合うと思う。
──母上はきっと私達の仮装が見たいんだろうなぁ。
私は察しているけれどそれをアフェク達に教えることはしなかった。
普段の母上は私達の前ではしっかりとした母親として接している。
「私は妖狐にしてみようかしら……」
「妖狐?」
「そう、狐さんね」
「あの狐さんですか!」
「白狐っていう白い狐にしようかなぁと思っているの」
「とても楽しみです!」
「そうね~。アフェクは何にする?」
「うーん。狼男?というものにしてみようかなと」
アフェクの狼男……!
これは母上が悶絶するに決まっている。
アフェクもノルベルトもきっとカッコ可愛いだろうなぁ。
「二人ともきっとよく似合うわ。
明日が当日だし、シーナたちも張り切って準備してくれたし。
どうなるか楽しみね」
「はい!」
ハロウィンの日よりも一月前にシーナ達、
専属侍女たちには私たちがする仮装の準備をするために、
早めに教えていたため既に衣装は準備できている。
「来年は無理でも再来年辺りにはフィーリアも参加できるかしら……」
「そうですね、そうなるともっと楽しくなりそうです」
去年生まれた妹フィーリアにはまだ早い。
だから再来年辺りにはフィーリアも何か仮装を着られるかもしれない。
と言うよりも母上が仮装しているフィーリアを見たいだろう。
「明日は楽しみましょうね」
「はい」
■
──翌朝になり、会場となる第五宮殿へやってきた。
ここは先々代女皇アステリアが居住していた宮殿で、
今は誰も住んでおらず、ときおり使用人が掃除しにくるくらいで本当に誰にも使われていない。
「ここって……」
「アフェクは初めてだったわね」
去年はアフェクは仮装大会には参加していない。
三十一日の少し前に微熱を出してしまって参加することができなかった。
本当は母上にはアフェクのそばについてもらうつもりでいたけれど、
自分で主催したのだからと言って専属侍女のアリス・シャルロットにアフェクのことを託していた。
「ここは先々代女皇アステリア様が居住されていた宮殿だ」
「お祖母様……ですか?」
「そうなるな」
第百二三代目女皇アステリア・コンヴィクション。
とても厳格な方だと言われている。
その方が夫の皇配と共に晩年を過ごした宮殿。
それがこの第五宮殿。
「ここを使ってもいいんですか?」
「ええ、お祖母様がいなくなった以上、
この宮殿の所有権は母上にあるからね」
「なるほど、そうだったんですね……」
第一宮殿に比べると少し簡素な装飾が多い。
お祖母様が造った宮殿だからこの簡素な装飾は彼女の好みなのだろうと思う。
ここは第一宮殿に比べれば小さい。
二人で住むにはちょうどいい大きさだろう。
「じゃあ広間に行きましょうか」
「はい!」
宮殿の玄関で佇んでいた私たちは、
シーナ達を連れて宮殿内へと足を踏み入れた。
ここはときおり修繕工事を行ったりしているから、
突然床が抜けたり壁に穴が空いていたりなんてことはない。
「少し薄暗いですね……」
「午前はここは日当たりが悪いみたいでね。
午後になるとちょうどいいみたいよ」
「そうなんですか……」
踏み入れた玄関には飾りの準備を進めている使用人たちもいて、
私達の姿を見つけると頭を深く下げて出迎えてくれる。
ここにいる使用人たちは皆この宮殿の管理を任されている人達で、
私たちよりもここについては詳しい。
「ここね」
「では僕達は別室で着替えてからまたこちらに来ますね、姉上」
「ありがとう」
着替え用に用意された部屋に辿り着いた私たちは、
各々の用意された部屋の中へと歩を進める。
私に用意された部屋の向かい側の二つの部屋がアフェク達に用意された部屋だ。
反対側の廊下の部屋とかじゃなくて良かった。
そうなると反対方向からここまで戻ってくることになってしまう。
「シーナ、レイナ。準備よろしくね」
「はい、お任せください」
部屋の中に入ると私はドレッサーの前の椅子に座り、
レイナが持ってきていた白狐の衣装を着せてくれた。
シーナはメイクをしてくれてしっかりと時間をかけて衣装を着る。
「ふむ……どうかしら」
「よくお似合いです、アスターシア様」
「ええ、とてもよくお似合いですっ」
セットしてくれた二人はどうだろうと首を傾げる私の姿を見て、
とても楽しそうに嬉しそうにしていてちょっとした不安が溶けていくのを感じる。
「それじゃあ、二人を待たせてしまっているかもしれないし、
そろそろ向かおうかしら」
「そうですね」
会場となる広間にまではシーナ達がついてきてくれるけれど、
広間内には入ってこない。
これはユージス達近衛騎士も同様だ。
ここには六番隊と七番隊が周辺の警護と宮殿の警護を行っている。
「二人とも待たせてごめんね」
「いいえ、お気になさらず。
……とてもお似合いです、姉上」
扉を開けば既に部屋の前にはアフェク達が待ってくれていた。
狼男に扮したアフェクとヴァンパイアに扮したノルベルト。
二人とも普段は下ろしている前髪を少し上げていてちらりと見える額。
本当にカッコイイ。
カッコイイ兄弟だわと眼福だと幸せになる。
「それじゃあ行きましょうか」
「はい、行きましょう」
そっと手を差し伸べてくれるノルベルトに少し驚いてしまいながらも、
エスコートしてくれるのだと察してそっと片手をノルベルトの差し出された手の上に乗せる。
「アフェクも行きましょう」
「! はい」
空いていた私の片方の手をアフェクの方に差し出すと、
驚きながらも私の手を取ってくれた。
二人に挟まれながら私たちは会場に向かうことにした。