《BD記念》仁愛皇女と享楽
主人公アスターシア・コンヴィクションのお誕生日祝いのお話。
※時間軸としてはアスターシアが16歳の頃です。
→サブタイトル「継続皇女と前進」~「矜持皇女と授与式」(41話~60話)の間。
──すっかり寒さも厳しくなり雪で真っ白に染まる城下を見下ろしながら、
私は一人、第二宮殿に隣接された塔の最上階にいた。
寒いのは苦手だけれどふとこうしてぼーっと民の住む街並みをただ見つめるのは幼い頃からの趣味だ。
今日は私の生まれた日。
そのため母上主催の誕生日パーティーが夕方に第一宮殿の大広間で執り行われる。
いつもならこの昼間の時間帯は勉強をしているか、
能力の特訓、護身術の稽古、あるいは公務をしていることが多いのだけれど、
今日に限って特に何も予定がなく暇を持て余していた。
といっても久しぶりの何もない日なのだけれど。
「フィーリアもアフェクもノルも皆何かやっているみたいだし……」
私が何もないからといって今朝から忙しなく動いている弟たちの邪魔をする訳にはいかないし……。
というかなぜ予定が急遽なくなったんだろうか。
そんなことを考えながらただぼーっとしていると、
「アスターシア様、そろそろご支度をしませんと」
「シーナ。ああ、もうそんな時間になったのね」
しばらく姿を見ていなかったシーナがいつの間にか後ろにいて、
もうそろそろ誕生日パーティーのための身支度の準備を始める時間になった。
こういう何もない時間って本当にあっという間だと思いながら、
そろそろ冷えてきたしと思って素直にシーナの後ろをついて行った。
■
「珍しいですね。お姉様は寒さが苦手ですのに」
「塔にいたこと?まぁ……ちょっとね」
既に身支度を終えていたフィーリアがドレスに着替え終え、
ヘアセットをしてもらっているときに私の部屋を訪れた。
今朝一緒に朝食をとってから一切姿を見なかったから心配していたのだと、
シーナが私の居場所を教えた後に安堵した表情でそう言った。
まぁ私が寒さが大の苦手だと言うことはフィーリアだけでなく、
アフェクたち、シーナたち、母上、父上、叔父上、
近衛騎士の皆、カノナス師団長などなど……関わりの多い人達にもうバレていることだから、
最近の私は開き直っているのだけれど!
やっぱりこの時期に長時間外にいたのは意外だったのね……。
ああしてただ何をする訳でもなくぼーっと穏やかな街の様子を見る度に、
ああ、ゲームの世界のように民の生活は脅かされていない、
私はあのアスターシアとは違うのだと再認識して安堵する。
それはいつも私の誕生日が近付くにつれて不安に思っていることだった。
けれどいつも民の穏やかな暮らしを見て安堵し、
その後にフィーリア達からお祝いしてもらって心温まる。
ここ数年の誕生日はそんな温かな気持ちでいられている。
「さぁ、準備が整いましたよ」
「ありがとう、シーナ」
そんなことを思い返している内にどうやら準備が整ったようだ。
とても楽しそうで嬉しそうなシーナの笑顔を見て、
私も嬉しくて自然と笑みを浮かべていた。
「今年もお兄様とお母様たちとたくさんプレゼントを用意しましたから楽しみにしてくださいね!」
「本当?ふふ、会場で見れるのを楽しみにしてるわ」
とっても嬉しそうでワクワクした表情を見せるフィーリアに先導してもらって、
毎年恒例の家族とそして近しい人達とだけの誕生日パーティーの会場へ向かう。
「そういえば去年はアフェクだったけど、
今年はフィーリアがエスコートしてくれるのね」
「はい!今年のエスコート担当を勝ち取りましたので!」
「……勝ち取り?」
「いつもお兄様たちとお姉様が以前教えてくださった『じゃんけん』というもので決めているんです」
──初耳だった。
今年で16歳になる私にとって三人にこうして祝ってもらうのは6回目になるというのに、
今日初めて三人の間でそんなことをしていることを知った。
「ふふ……」
「お姉様?」
「ううん。愛されてるんだなって改めて思ったの」
「当然です!私たちは皆お姉様のことを敬愛していますもの」
フィーリアにこう言われるとああ、本当に幸せだと改めて感じる。
いつまでもゲーム世界のアスターシアの姿がチラついて不安になることが多くあるけれど、
そんな不安もこの子達は吹き飛ばしてくれるのね。
本当にありがたいなぁ……。
じんわりとまた違った温かさで心が満たされていく。
私が成したいと思っていることは間違ってなかった。
これからもゲームの強制力に抗おうと改めて固く決心する。
「さぁ着きましたよ!
改めて、お誕生日おめでとうございます!お姉様!」
「ありがとう」
第一宮殿の大広間の大扉を開くと同時に、
フィーリアが満面の笑みで告げられた言葉に連鎖して、
既に会場内にいた大切な人達から同じように祝福の言葉を投げかけられる。
──なんて眩しいのかしら。
こんなにも幸せなことがあって良いのかと一瞬思ったけれど、
今はただ大切な人達とのこの時間を楽しもうとフィーリアと共に大広間への一歩を踏み出した。
【終】




