《番外編01》丹念皇女と近衛騎士(2)
《番外編01》「丹念皇女と近衛騎士」の続きです。
アスターシアが騎士団を視察したその数日後。
王宮の大広間にはたくさんの来賓が静かに広間中央を見つめていた。
──謙虚であれ。
──誠実であれ。
──裏切ることなく。
──欺くことなく。
──弱者には常に優しく。
──強者には常に勇ましく。
──己の品位を高め。
──堂々と振る舞い。
──民を守る盾となれ。
──主の敵を討つ矛となれ。
──騎士である身を忘れるな。
黄金に煌めく天井に吊り下がったシャンデリアが陽の光に当てられ幻想的な光景を見せる。
──そう、今日は近衛騎士の叙任式。
母上の隣に立つ私はこの静かで経験したことのない緊張感に少し気圧されそうになるがそれを表に出さないように務める。
「騎士団、六番隊隊長ユージス・コグニシオン。
九番隊隊長ルーカス・グラディウス。
魔法師団、四番隊隊長ジスタ・フォークス。
エスポワール帝国女皇シシアーティアの名において、
我、汝を騎士に任命す。」
母上の静かなそれでいて威厳ある声が広間を響き渡らせていく。
私と母上の前に左膝を立てて跪く三人を見下ろす。
私ではまだ剣を持つことができないため、
母上が代わりに叙任式の誓いを執り行ってくれている。
左膝を立て頭を垂れる三人の表情は見えない。
彼らは一体近衛騎士となることをどう思っているのだろうか。
「あなた達にセラフィーナ様のご加護を」
静かに告げられた母上の言葉には少し不思議な声色で、
私はどこか違和感を覚えたけれど、
きっと気の所為だろうと思い、思考を止めた。
■
「ユージス、ルーカス、ジスタ。
三人とも第一皇女殿下を何としてでもお守りしろ、良いな」
「「「はっ」」」
叙任式を終えた後、
早速三人には私の部屋に来てもらった。
後からやってきたオズワルド騎士団長が三人に声をかけて部屋を後にしていった。
「三人とも、これからどうぞよろしくね」
「はい、殿下」
一人用のソファに座る私の前に並び立つ三人に私は声をかける。
これから先とてもお世話になる人たちだ。
最初はとても重要なことだもの。
ユージス・コグニシオンは青みがかった黒色の短髪に、
群青色の鋭い瞳で大きな体格をしている。
本当に背が高くて初めて会った時には失礼ではあるけれど驚いた。
ルーカス・グラディウスは黒髪のロングヘアをポニーテールにした髪型で、
白みがかった紫色の綺麗な瞳をしている。
ユージスに比べれば体格は細いけれど、
オズワルド騎士団長曰く剣術ならば騎士団の中でも最強クラスだと言っていた。
ジスタ・フォークスは白色の短髪で左側の横髪だけ首下までの長さがあり、
少し薄い青色の混ざった金色の瞳をしている。
第一印象としてはとても白い人。
──やはりまだ彼らも緊張しているみたいだ。
これから何とかして懐柔していかなくちゃ!
勉学だけでなく彼らともたくさん話していかないとね。
これから先、生涯に渡って彼らとは交流を持つことになる。
──そしていずれは私を……。
■
「ユージス、ちょっとこっちに来てもらえない?」
「どうかされましたか」
近衛騎士がつくようになって数日経ったある日のお昼。
今日の勉強のノルマも達成して時間を持て余していた私はユージスとジスタの二人を連れて、
王宮内にある庭園の一角に足を運んでいた。
ゆったりと庭園の一角内を歩いている最中に私は木の上から聞こえる動物の鳴き声に気付いた。
最強裏ボス皇女様の身体能力なら木の上に行くことなど容易いが、
そろそろ叔母上がこちらにやってくるため、
万が一、木から落ちて怪我なんてしたらその責任は常に傍についていたはずのユージス達が負うことになってしまう。
あれだけ何とかして叔父上やアルベール宰相が実現するために動いてくれたのに、
提案した張本人である私が近衛騎士の存在価値を低下させるなんてことをするわけにはいかない。
そこで、私は背の高いユージスにその動物を救ってもらうことにした。
数歩後からついてきていたユージスを呼び、
傍まで来たユージスに対して私は鳴き声の聞こえた木の方を指さす。
「あそこに登って降りられなくなった子猫がいるみたい」
「なるほど。承知いたしました」
私の言葉を聞いて何が言いたいのかすぐに察したユージスが、
しゃがみ込んでいた状態からゆっくりと立ち上がり、
私が指差した木までゆっくり近づくと、
ただつま先立ちになるだけで易々と怯えていた子猫を救い上げた。
流石はユージス。
とはいえそれほど高くない木で、
降りられなくなった子猫は結構地面に近い枝の上にいたこともあって、
ユージスにとっては登るほどでもなかっただろうけれど。
何はともあれ子猫が救われて良かったと小さく息を吐く。
未だ不思議そうにしてユージスに降ろされた場所に留まっている子猫にそっと近寄り、
その小さな身体を優しく撫でくりまわしていると、
傍まで近づいてきていたジスタが微笑する気配を感じた。
「ジスタ?」
「いえ、殿下が子猫と戯れている様子が微笑ましいと思っただけです。失礼いたしました」
少し固い顔をしていたジスタの笑みを初めて見た私は嬉しくなって頬を緩ませる。
……しかし美形の笑みは罪深いな。
なんて思いながら明日、初めて会う叔母上はどんな方だろうかと思い出すと不安になってきた。
母上に似た方だと聞いてはいるけれど、
実際に会って話してみなければ分からない。
緊張するなぁ……と思いながらぼんやりとまた庭園を歩き始めた。




