58.矜恃皇女と戦勝会(1)
──後始末を無事に全て滞りなく終わり、
アスターシアがエリノア嬢に『内諾の契り』を契った後の夕刻。
「お姉様……!」
「フィーリア」
美しく着飾ったフィーリアがパタパタと前の廊下から駆け寄ってくる。
フィーリアとアフェクを心底心配させてしまったけれど、
今朝ゆっくり休んだ後に二人の様子を見に行くととても喜んで迎え入れてくれた。
「綺麗なドレスね。……確か去年叔母上から戴いたものだったかしら」
「はい!今日のお姉様のドレスと色違いのお揃いです!」
「本当ね。……いつかまたお揃いにしましょうって言ったけれど、
また実現する機会ができて嬉しいわ」
「私もです!それにきっとノル兄様達もお揃いの礼服にされるでしょうから楽しみですね……!」
「えぇ」
広間を借りて今回大きな活躍をしてくれた騎士団と魔法師団の人達に集まってもらい、
彼らを労る目的で私主催で開かせてもらった。
……まぁ戦勝会を開く条件として母上にきちんと休むことを言い渡されたけれど。
そんなことをぼんやり思いながら、
既に集っている広間の中へと足を進める。
「本日はお集まりくださりありがとうございます。
先日の戦では皆様見事な働きとその強さを見せてくださいました。
今夜はゆっくりこの戦勝会をお楽しみください」
広間の奥に進んだ私の傍にはノルベルト達が控えている。
私の姿を見た騎士や魔法師の方々が静かに私を見据えている。
玉座の近くまでやってきた私は声高らかにそう告げると、
わぁぁぁ!!と地響きのようにこの広間に集まる人々の歓声が鳴り響いた。
「ユージスやルーカスたちも、部下を労ってやってね」
「はい」
「このような機会を頂き……ありがとうございます」
「いいえ、大事なことだもの」
侍女や使用人達によって用意された豪華な食卓は、
バイキング形式で好きなものを取り皿にとって食べるようになっている。
…………本当、一日でこれだけ用意してくれたのだから感謝しかない。
「フィーリアたちも好きなものをとって食べてきても良いのよ?」
「ではお姉様も一緒に!」
「ふふ、分かったわ。一緒に取りに行きましょうか」
既にお祭り状態となっている広間の光景は、
傍から見てもとても楽しそうで微笑ましい。
今年の秋に入ったばかりの新人騎士の方たちも活躍したと聞くし……後で声をかけに行ってみようかしら?
そう思いながら私はフィーリアと共に丸いテーブルにたくさん置かれた大皿のある場所へと歩を進める。
「第一皇女殿下、先日はお疲れ様でございました」
「オズワルド騎士団長!
最前線に立っていたと聞いたのでご無事な姿を見られてほっとしました」
「ありがとうございます。
新しく入った騎士たちもこの度はよく活躍してくれました。
特にレオは……目まぐるしい活躍ぶりです」
「それは何よりです」
かつては母上と父上を暗殺するため遣わされた暗殺部隊の一員という大罪人ではあったけれど、
『ちょっとしたいざこざ』があった後に、
兄のイグナーツ隊長と共に日々精進していると聞いている。
旧知の幼馴染に会えてノルベルトも楽しそうにしているし本当に良かったわ。
「第二皇女殿下も、
物資の管理や回復瓶の配達、
加えて医療団の手配をしていただき誠にありがとうございました」
「いえ。王宮内で私ができることを探して私なりにやってみただけです。
皆さんのお役に立てたのならば何よりです」
フィーリア自身の分だけでなく、
私の分の料理も取りに行ってくれたフィーリアが戻ってきて、
騎士団長とお話をしている。
まだ十歳とはいえ成長したなぁとこういった皇女としての姿を見る度しみじみ思う。
ノルベルトやアフェクも成長してきて、
すっかりノルベルトには身長を抜かされてしまった。
彼らも彼らで皇子として騎士団の方々や魔法師団の方々に声をかけに行っているようで、
ちょっとした人集りができている。
「アスターシア様」
「カノナス師団長」
前日の夜に会ったばかりではあるけれど、
今まで滅多に見たことがない礼服姿のカノナス師団長はとてもかっこよく不思議な雰囲気を纏っていた。
騎士団長もキリッとした感じだったし、
こういった場では見知った人の知らない部分が垣間見れて楽しい。
「魔法師団の方々も大活躍でしたね」
「ええ、特にジスタは先陣切って敵を戸惑わせていましたから、
お陰で重傷者も数名出はしましたが死者は出ずに済みました」
直接剣を斬り合う騎士団の方も危険ではあるけれど、
魔法師とはその攻撃範囲と威力が違うため、
有能な魔法師が敵側にいた場合、
最も危ないのは指揮をとっている魔法師になる。
特に個人ではなく団体の場合は、
指揮官さえ再起不能にしてしまえば隊列が乱れ、
そこを一気に攻め込めば大きな被害が出ることになっていた。
…………流石は師団長の次点とも言われているジスタだ。
その辺は彼の腕前と器量で何とかしてしまったみたい。
新人の人達にとって初めての大きな実戦。
普段の任務とは違うため恐ろしかったと思うけれど、
騎士団長からも師団長からも果敢に攻め入ったと聞く。
本当に素晴らしい人達が入ってきてくれたものだわ。
「姉上」
「ノル、挨拶はもう良いの?」
「一通り終わりましたので」
明日は母上から最も活躍した者に対して勲章授与が行われる。
新人の騎士や魔法師の方々の中にも授与される人物がいるため、
戦の疲れを労うと共に私たち皇族にほんの少しでも慣れてもらうことが目的だ。
私も後で話しかけにいかないとね。
明日にも直接顔を合わせるとはいえ、
私はその授与式に参列しても何か直接彼らと話す訳ではないが、
今年の勲章のデザインを母上と一緒に考えた身としては、
どんな人に与えられるのか気になるのも事実。
我が国の民でもあるし人目見たかったことも事実ではあるけれど。
「どうやらレオが大活躍だったみたいよ。
これでまた昇進するかもしれないわね」
「そうなると……僕も嬉しいです」
五年前にノルベルトとレオの間で何か約束事を交わしていたのは知っている。
その約束を交わした日以降から、
レオは目まぐるしい活躍ぶりを見せていたから。
それが一体何なのかは私もフィーリアも知らないけれど、
どうやらアフェクは知っているらしい。
……男同士の秘密ということかしら?
まぁ、無理に聞こうとも思わないけれど。
「……これで一段落かしら」
「大きな事態はこれで収まりを見せるでしょう」
「後は細々としたところだけね。
明日は授与式だし、皆にもあまりはしゃぎ過ぎないようには言っているし……残りは一つね」
「はい」
今日のこの戦勝会最後の締めくくりは男女ペアで踊るダンスだ。
初めはノルベルトと踊ることが決まっているため、
その時間になるまでは自由時間になっていたのだが、
こちらへやってきたということはもうそろそろダンスの時間に差し迫っているのだと気付く。
「音楽が流れ出しだわね……。
踊りましょうか、ノル」
「はい」
流れるような動作で私に手を差し伸べるノルベルトの手のひらに自分の手を重ねて、
私たちは広間の中央へと歩を進めた。




