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チート過ぎる裏ボス皇女様のゆったり日和  作者: 紗那
Ⅰ.矜恃皇女と邁進
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55.次期国王は知る。

エスポワール帝国とクリムゾン王国の戦が終わり、

関係者への対処も今日のところは終いにしようと一息ついていたエルヴィンの元に、

どこか不機嫌な様子のベルディナがやってきた。


「結局、エリノアは救ってくれなかったのね……。

兄様はエスポワール帝国の王宮に行ったのでしょう?

なら女皇に進言できたんじゃなくて?」

「エリノアがどうかしたのか?」

「まさか知らなかったの!?

父上がエリノアに第二皇子を毒殺して来いって命じたのよ。

おかげでエリノアはエスポワール帝国の牢に捕らえられたまま……。

ねえ、兄様。エリノアを救ってちょうだいよ」

「それは……できない。

エリノアがしたことはエスポワール帝国にとっても重罪だ」

「ちょっと兄様!?どうしてよ!

エリノアは兄様の婚約者でしょう!?ねえ!」


執務室から去っていくエルヴィンの後を慌てたように追いかけるヘルディナの声を聴きながら、

エルヴィンは妹から伝えられた内容に頭が真っ白になる。


──父上の命令で第二皇子を毒殺するよう命じた……?

婚約者であるエリノアとはいつかは上に立ち導く民のためにと様々な学問を教える世界一の学院があるプルメリア神聖王国に行くことを決めた後、

今までずっと文通でしか互いの近況を知らなかった。


確かにエリノアの家系は暗殺といった秘密裏に動くことを得意とする一族ではあるけれど、

次期国王であり王太子となったエルヴィンの婚約者を、

まさか自分の父があまりにも危険な命令を下すとは思ってもいなかった。


……ならあの時にエリノアはいたのか。

ほんの少しだけ会った程度ではあるけれど、

あの女皇が自身の息子を毒殺しようとした者を許すとは思わない。

父上はなんということを……ッ!


後ろでわあわあと騒ぎ立てているヘルディナを無視して自室へと滑り込んだエルヴィンは、

へなへなと扉のすぐ近くで崩れ落ちる。


「もっと早くに一度でも帰ってきていれば……!」


国王直々の極秘命令だったのなら、

公爵令嬢である彼女は従わざるを得ない。

加えて他国──しかもエスポワール帝国の皇族の分家が治めるプルメリア神聖王国に行っていたエルヴィン宛の手紙に、

父に命令された事柄を書けるわけがない。


ここ直近で彼女に直接会ったのは自身がまだ留学したばかりの頃。

かの第二皇子が生まれてからほんの少し後。

その時にはまだ父は大国の皇子を毒殺するなど考えついてはいなかったのだろう。

──既にあれから十年も経っている。

彼女が今、エスポワール帝国でどのようにして過ごしているのかは知らない。


──救いたい。

だが、元々父が始めたものだ。

全ての非がこちらにある以上は今更そんな個人的なことで頼み込めるはずもない。

ああ、今わかったよ。

義妹のカトリーナがあれほど父を『愚か』だと言っていた意味が。

こんなことになるまでは……いや、知るまでは、

エルヴィンは純粋に父を慕っていた。


「こんばんは、先程ぶりかしら」

「!?」


途方に暮れているエルヴィンの目の前に、

つい先程まで誰もいなかったはずの室内に一人の女性が降り立つ。

降り立つというよりも現れたという方が正しい。


「アスターシア皇女殿下……?何故ここに……」

「何の前触れもご連絡もなく申し訳ないけれど、

あなたが精神的に参っているようだったからお声かけさせてもらいました」

「どういう……?」


既にエスポワール帝国の王宮へ戻っているはずなのに、

まるで近くで見てきたかのような口ぶりでそう告げられる。

つい先程まで敵国であった大国、エスポワール帝国の次期女皇。

きっとエリノアの居場所と今の生活を知っているであろう人物。


「一つ、あなたに提案があって来ました」

「提案……?」

 

──残念なことにアスターシアがエルヴィンの婚約者であるエリノアを捕らえたことなど知らず、

意味深に笑みを浮かべる第一皇女からの提案は────。




「姉上、もうよろしいのですか」

「ええ、誓ってくださったからね」


ここまで運んでくれたノルベルトとの合流地点である、

クリムゾン王国の王宮の屋根の上にアスターシアは身軽な足取りで飛ぶかのようにスっと着地した。


「何はともあれ、帝国のためになり、

その上”彼ら”のためにもなる。良かったわ」

「……本当に許すのですか」

「気持ちはとても分かるわ。

けれど”いつかのために”少々協力関係にあってもらわないと」

「姉上?」


月のない新月の夜を何も映さないどこか遠くを見るアスターシアの言葉に、

ノルベルトは違和感を覚える。

──まるで自分の知っている姉ではないかのようなその雰囲気に戸惑ってしまう。


「さぁ、帰りましょうか。明日は戦勝会だもの」

「はい」


きっと気のせいだと思ったノルベルトは姉の方へ手を差し伸べる。

流れるようにスっと右手を置いたアスターシアの温もりを感じた瞬間、

二人の姿は王宮の屋根の上から消えていた───。

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