51.矜恃皇女と戦線(1)
──クリムゾン王国との戦いにプルメリア神聖王国の騎士団やヒメユリ王国の騎士団など、
エスポワール帝国側への戦力が徐々に拡大していく中、
クリムゾン王国側は疲弊していっていた。
「……ノル、あちらの第三王子と第四王子にご挨拶に向かいましょうか」
「姉上、真っ向から彼らに会いにいくつもりですか!?」
「指揮官である彼らの動きを止められれば、
この意味のない戦いも終わるわ」
「それはそうかもしれませんが……。
最もはクリムゾン王国の国王を止めねばならないのでは?」
「そちらは第一王子殿下達にお任せしましょう」
幾つもの宙に浮かび上がるビジョンから移りゆく戦場を見つめながら、
隣に座っているノルベルトに声をかける。
この戦いを止めるためには指揮官であるあちらの王子二人を無力化してから、
クリムゾン王国の国王を止めなければ終わらないだろう。
意外にも彼らの周りには護衛の兵が少ない。
元々彼らに宛てがわれていた騎士達を前線へ出したのだろう。
「……ノル、場所は分かりますね?」
「はい、いつでも行けます」
「ユージス、ルーカス隊長、お二人も着いてきてもらえますか?」
「「はっ」」
次の瞬間には彼らが潜んでいた森の中にやってきていた。
流石はノルベルトの『空間移動』の能力。
場所さえ知っていればこうして一瞬で飛ぶことができる。
「こんにちは。カスペル第三王子、リューク第四王子」
「なっ……だ、誰だ!?」
突然声をかけられた王子二人は目を見開いてこちらを向く。
それと同時に周りに控えていた騎士達が剣を抜き放ち私たちへその剣先を向ける。
「私はエスポワール帝国第一皇女アスターシア。
あなた方ももうこの戦が無意味であるとご存知ではないのかしら?」
「だ、第一皇女だと……っ!何故こんなところに……っ」
「お二人には私たちと共に《着いてきてもらいます》」
「っ……!な、なんだ……」
傍に控えていた近くの騎士にここから離れるように言われ、
私たちの隙を見て逃げ出そうとしていた二人に私は『絶対遵守』の能力をかける。
全く動けなくなった自分の身体を不思議そうに見下ろしている二人をおいて、
騎士たちがこちらへ剣を振るい襲いかかってきた。
「全く……」
まず私に向かってきた一人の騎士から剣を奪い取り、
柄の部分でその騎士を気絶させ、
次に襲いかかってきた騎士の手を無力化するため剣先で斬りつけてはひらりと交わして次々と無力化していった。
その間にユージスとルーカス隊長が王子二人の護衛隊長だろう男を無力化し、
その他の騎士達をその腕前で無力化していった。
「やっぱり近接戦闘は二人の方が強いわね」
「姉上、王子二人を本部へ飛ばしました」
「ありがとう、ノル」
速攻で騎士たちを無力化した二人の近衛騎士を見つめながら、
奪い取った剣を握る自分の手を見下ろしていると、
隣に王子二人を安全地帯へ連れて行っていたノルベルトが帰ってきていた。
「アスターシア様、お怪我は?」
「ないわ、大丈夫」
縄でまとめて縛り終えたユージスが私たちの元へ駆け寄ってきた。
とりあえずクリムゾン王国側の指揮官は無力化できたし、
次は国王の方をどうにかしなければならないわね。
「本部へ戻りましょう」
「はい」
■
「僕らをどうするつもりです、第一皇女殿下」
「特に何も。この戦いを終わらせるためにあなた方にはここで何もせず待ってもらいます」
「……父上を止めるつもりで?」
「えぇ、でなければ終わらないわ」
縄に縛られ、魔法師団の団員に見張られている第三王子からの質問に私は正直に答えた。
敵国の王子であっても下手な行動はできない。
それこそ彼らがエスポワール帝国側に尋問されて死に至ったなんてことがあれば、
クリムゾン王国の王はそれを正当な理由に戦を続けるだろう。
そして今とは違い、他国に助力を求めて。
特に大陸中央にある『オルテンシア神聖国』を味方に付けられれば、
エスポワール帝国を挟み撃ちすることも可能になる。
『オルテンシア神聖国』は三英傑の一人ヴァレンティーナが建国した国。
世界最大の宗教『ヴァレンティーナ聖教会』の発祥の地といわれている。
オルテンシア神聖国さえ味方につけられれば、
世界中にいる教徒たちも味方につけられるだろう。
そうなってしまえば流石にエスポワール帝国側もどうしようもない。
「殿下、クリムゾン王国の騎士団が撤退を始めたようです」
「そうですか……」
「クリムゾン王国の第一王子、第二王子殿下がクリムゾン王国の王宮へ向かわれるそうです。
証人として殿下に共に来ていただきたいと……」
「分かりました。彼らは今どこに?」
「既に国境付近へ」
「ではそこに向かい彼らと合流します」
魔法師団の副師団長オリヴィアから声をかけられ、
戦線は終息したとの報告にほっと安堵する。
それにしてはほんの少ししか会っていない私に証人となってほしいと言うだなんて……。
国王には降伏していただかなければならないし、丁度いいわ。




