50.狂気少女は嗤う。
次々に王宮へ舞い込んでくる騎士団の撤退や魔法師達の捕縛の報告。
玉座に座る父王ピエールがギシギシと音が鳴るほど玉座の肘掛けをその手で強く握るのを傍目にカトリーナは笑みを浮かべる。
──流石に無謀過ぎる。
愚かな父も姉も兄たちもこのことを何故前もって理解していないのかしら。
周りは帝国の分家が治める従属国に囲まれ、
加えて帝国の騎士団や魔法師団はぶっ壊れの勢力。
ましてやあのエルヴィーノ公爵が、
第一皇女が出てくれば勝ち目はないと明言したほどの能力を持った皇族。
あーあ、馬鹿なお姉様たち。
元々この開戦はお姉様の我儘から起きたものなのに。
一体どうやってこの責任を取るつもりなのかしら。
お兄様たちもきっと薄々理解していたはずなのに、
エスポワール帝国に勝てないという思考を押し潰してまでお父様の願いを叶えようとするなんて。
哀れな私の家族。これからどうなることやら。
「陛下にご報告致します!
第一部隊、第三部隊、第八部隊全滅!」
「何だと……っ」
急いで広間に駆けつけた騎士の報告にまたもやお父様が機嫌悪く悪態をつく。
それにしてはまだカスペル兄様達は捕まってないのね。
てっきり早々に捕縛されたものだと思っていたのに。
「どうするの、お姉様。
これじゃあエリノアを救う前に私たちの負けは確定だけど」
「……っ」
「元はお姉様が発端。
この責任はお姉様がとってくださるわよね?」
「カトリーナっ!」
「嫌だわお姉様。事実を言っただけで逆上しないでちょうだい」
今にも掴みかかろうとしてくるお姉様から身軽に避けた。
全く短気なんだから。困っちゃうわ。
あーあ、別働隊で私も戦線に参加できれば良かったんだけど、
お父様から全く許可をもらえないのよねぇ〜。
見てるだけじゃつまらないのよ。
お姉様もお父様も怒り狂っているし、
そんな二人を諌められる兄様たちは戦場。
お母様に至っては病気でベッドの上。
ほんと、暇で暇で仕方ないわ~。
「どこに行くのよ、カトリーナ!」
「どこってお母様のところ」
こんなところで負け確定の報告を聞いていても退屈だし、
それならずっと部屋に籠りきりのお母様の所へ行こうっと。
■
「こんにちは、お母様」
「カトリーナ……。今は戦争中のはずでしょう?
別邸へ避難しなくて良かったの?」
「嫌だわお母様。こんなにも愉しいイベントを別邸なんていうつまらない場所で終わるまで待てって言うの?」
「っ、カトリーナ!言葉を慎みなさい!」
私がやってきたことに気付いたお母様が、
ベッドの上で上半身だけを起こす。
傍に控えていた侍女達が私に道をあけ、部屋の隅に控えた。
──こんなにも元気に怒れるのなら重病っていうのは嘘じゃないかしら。
そんなことを思いながらクスリと笑みを浮かべた。
「何を言うのよお母様。
私をこうしたのはお母様のせいなのに、今更じゃない」
「うっ……そ、それは……」
「お母様ったら私が大切にしてきたもの全て壊していくんだもの。
──加えて婚約者まで秘密裏に殺して」
「お黙りなさいっ!陛下と娼婦の間に生まれた卑劣な子のくせにっ」
「嫉妬かしら、醜いわね。
自分よりも美麗な娼婦にお父様を寝盗られてしまったんだものね」
──そう、私は今目の前にいる王妃の実子ではない。
国王が王妃を迎え、リューク兄様をお腹に宿していることが判明した頃に孕ませた娼婦の子。
しかし娼婦の子供であったとしてもこの国の王であるお父様の血を継ぐ私は王族に迎え入れられた。
お母様は相当に嫉妬深い。
側室すら王に許すことなくその地位を確固たるものにしようと必死だ。
だから王の子の中で私だけが似ていない。
お父様とお兄様たちは金色の髪に青色の瞳、
お母様とお姉様は茶髪に赤色の瞳であるのに対して、
私は母似だから金色の髪に瞳は赤色なのだ。
そんなお母様は私から実母を奪い、
大切にしてきたコレクションを壊し尽くし、
ましてや大好きだった婚約者を殺した。
なんて醜いお母様。
「ふふ、でもまぁ許してあげるわ、お母様。
嬉しいわよね、殺したいまでに憎んだ子から許しを得られるなんて」
「屈辱的に決まっているでしょう……!」
「あらそうなの。それは残念。
そんな醜い矜恃と執着心なんて捨てるに限るわよ?」
「お黙りなさいっ、あなたは見舞いに来たのではなく、
ただ単にわたくしを虐げに来たのでしょう!」
「あらよく分かっているわねお母様。
──お父様は未だにお母様がしてきたことを知らないでいる。
哀れよねぇ、本当は『聖人』と謳われるような立派で善良な人間じゃないのに。
可哀想なお父様にお兄様たち」
「陛下のみならず我が子を侮辱しますかっ」
怒り狂うお母様に侍女達が
「落ち着いてください王妃様っ」「お体に障りますっ」と言って宥めている。
私はただ本当のことを言っただけ。
それに逆上しているのはお母様なのに。
受け入れたくないという意思表示なのでしょうが、
死ぬまで永遠にこの業は背負ってもらわないと私の気が済まないのよ。
だから一生私に弄ばれ続けてちょうだいな。
ね?──大好きなお母様たち。




