06.義姉と僕
今日から僕の義姉となったアスターシア様が部屋を去っていったあと、
僕はそのまま身体を後ろへ勢いよく倒れさせる。
大好きな母さんとはもう二度と会えなくなってしまう今日という日が来ないことをずっと願っていたけれど、
時間というものは残酷で、
呪ってきたこの日がやってきてしまった。
アスターシア様のことは町中でもとても優秀な方だと聞き及んでいた。
僕より一つ上の人だというのにあらゆる分野でご活躍されているとても素晴らしい方だと。
もちろんそんなお方と姉弟になれるというのは誇らしくもあるけれど、
それ以上に母さんに会えないことが悲しくてやりきれない。
女皇陛下や皇配殿下も優しく僕を迎え入れてくださったけれど、
それでもこの胸に空いた寂しさは埋まるどころかもっと広くなった。
だって僕はもう母さんには会えないのに、
皇族の人たちはそうじゃないから。
アスターシア様とお話しして少し落ち着いた今では、
その思いが妬みからきているものだと理解している。
──でもさっきアスターシア様とお話ししたとき。
あの方は僕に対して親身になって接してくださった。
貴族の生まれでもない庶子だというのにそんなことは一切気にすることなく、
”姉として”僕に話しかけてくださった。
それに加えて僕自身に相応しい人間かどうかをその目で品定めしろとまで仰っていた。
そこまでご自分のことを卑下することはないのに……。
あの方はどこまでも僕のことを考えてくれていた。
一番驚いたのは『能力で契約を無効化できる』という言葉。
今までどんなに強い精神系の能力者でも破ることはできなかったと、
今朝王宮へ来たときアルベール宰相が言っていたのに、
アスターシア様はそれをものともしないほどの強い能力を持っているということになる。
このことは僕とアスターシア様との秘密だといたずらっ子のような笑みを浮かべて仰っていたから、
誰にも言わないように注意しないと。
どうしてあれほど僕のことを気にかけてくれるのかは分からない。
あの方が何を思って何を考えているのかは、
きっと明日少しだけでも分かるのかもしれない。
明日は現実から目を背けずに姉となったアスターシア様について少しでも理解することに専念しよう。
きっと僕はまだアスターシア様についてあまり知らないだろう。
それはアスターシア様の僕への理解度よりもまだ理解が浅い。
そう思った僕は明日寝坊してしまうという失態を犯さないようにするために、
そのまま就寝することにした──。