《小話》本懐皇女と雪の聖夜(1)
※時間軸としては「継続皇女とシナリオ②」の一年前のクリスマスのお話です。
(アスターシアが十五歳の頃)
※クリスマスという行事はアスターシアが持ち込んだのという設定です。
(本来の行事とは少々違う点があります、ご了承ください)
──すっかり寒くなったエスポワール帝国の庭園には近衛騎士の面々の他、四人の姿があった。
「すごい……!真っ白ですね!」
「こんなに雪が降るなんて……いつぶりでしょう」
昨夜、ここ近年には見られなかった大雪が振り積もったことで、
季節の木々や花々が彩りを見せていた庭園も、
王宮から見下ろせる王都の街並みも、
全て雪に埋もれ一面真っ白に染まっていた。
「アスターシア様、ここで寝てはいけませんよ」
「わかっています……」
初めて見る雪にはしゃぐフィーリアと、
そんな妹が怪我をしないよう近くで見守っている兄弟を近衛騎士のユージスと共に、
庭園に繋がる廊下から見守っているアスターシアはどう見ても今にも眠ってしまいそうだった。
「こんなに寒いのに元気ね……」
「アスターシア様は御三方の元に行かれないのですか?」
「寒すぎて動けないから無理」
とてつもない早口で返された言葉に、
ユージスは苦笑いを浮かべるしかなかった。
何においても完璧に見える第一皇女が、
実は寒さに弱いことを知れば、
アスターシアを崇拝の域にまで敬愛している貴族や民が見たらどう思うのだろうか。
……きっとそれを彼らが知る日は来ないだろう。
今はいつも公務で見せる『第一皇女としての顔』ではなく、
ただのアスターシアとしてここにいる。
例え苦手な寒い日に表に立つことがあったとしても、
アスターシアは完璧に皆が求める第一皇女としての姿を見せるだろう。
──つまり今は気のおける近衛騎士と兄妹がいることでいつもよりのんびりしているのだ。
「姉上」
「あら、ノル。二人のところにいなくていいの?」
「何やら雪で作るからと追い出されてしまって……」
「雪で?」
苦笑を浮かべながらアスターシアの傍に近寄るノルベルトの言葉に、
まさか素手で雪遊びをするつもりなのかと驚いて、
眠気に苛まれていた思考がはっきりするのを感じる。
ユージスよりも後ろに控えているフィーリアの近衛騎士グローリアに目線を向けると、
アスターシアの伝えたいことを瞬時に察したグローリアが、
フィーリア達の傍に急いで駆け寄って、
事前に持ってきていた手袋とマフラーをフィーリアとアフェクに渡していた。
「姉上手製の手袋とマフラーですね」
「まさかまだあんなに綺麗な状態で使ってもらっているなんてね」
ちょっとだけ目が覚めたアスターシアが、
隣にいたノルベルトの言葉に茶化したようなおどけた感じで返す。
フィーリアとアフェクが持っている手袋とマフラーは、
アスターシアがまだ十歳の時に冬の季節になって作ったものだ。
そんなアスターシアも十五歳になった。
もう五年も前にあげたものを未だ綺麗な状態で使ってくれていることに嬉しくなる。
「こうして遊んでくれているなら、
今夜は問題なく実行できそうね」
「えぇ、あれだけはしゃいでいますから、
すぐに寝付いてくれそうです」
アスターシアがまだ九歳の頃に始めたクリスマスの行事。
とはいえこの行事は民や貴族間に広がっているわけではなく、
皇族間──アスターシア達姉弟の間で行われているものだ。
フィーリアも三歳になり自我も芽生えたことで、
何か欲しいものが出てきたりするのではないか、とアスターシアがノルベルトと協力してふんわりと始めたものだが、
七年経った今もフィーリアとアフェクには内緒でこの時期になるとこっそりとプレゼントを用意している。
基本的にはアスターシアの手製であることが多いけれど、
時折王都内で流行したものや高価で希少なものをプレゼントにしている時もある。
「それにしては年々寒くなってるような気がするわ……。
冬の間だけ寝てたらダメかしら……」
「重症ですね……」
ノルベルトの呆れた声が隣から聞こえてくるが、
アスターシアは全く気にもとめない。
昔は取り繕っていたりしていたけれど、
今となってはそれを隠すことすらしなくなった。
「お姉様〜!見てください!」
「あら、上手くできてるわね」
振り積もった雪で遊んでいたフィーリアから名を呼ばれたアスターシアがそちらへ目線を向けると、
二体の雪だるまが出来上がっていた。
流石に大きな雪だるまは作れなかったみたいだけれど、
二人の身長より少し小さな雪だるまがそこにあった。
「可愛くできました!」
「そうね。綺麗に飾り付けしてあげたのね」
二人が持ち寄っていた色々な物は、
雪だるまの飾り付けのために持ってきたのだと気付き、
目や鼻といった顔ができていてアスターシアはくすりと笑みを浮かべる。
……わざわざ持ってきていたということは、
二人の間で雪だるまを作ることは決定事項だったということだ。
こんな日でもなければ年相応の遊びはできない。
この日と明日を毎年休みにしていて良かったとアスターシアは改めて思う。
「身体が冷えきってはいけませんし、
皆様方、そろそろお部屋へ戻りましょう」
「そうね。二人も雪遊びして手が冷えちゃったでしょうし温まりに行きましょうか」
「はーい!」
庭園と王宮を繋げる廊下の先から専属侍女のシーナが声をかけてきた。
彼女がここに来たということは頼んでいたケーキができたのだろう。
雪だるまから離れ、急いでアスターシア達の元に駆け寄ってきたフィーリアたちと共に王宮内へ入ることにした。
■
「わぁ……!去年とはまた違ったデザインのケーキですね!」
「毎年同じじゃ飽きちゃうかと思って、
新しく考えてみたのよ。
流石はシーナとレイナね、綺麗に出来ているわ」
「ありがとうございます」
アスターシアの部屋へやってきた一行は、
席に着いたアスターシア達の目の前にあるテーブルに並べられたケーキと紅茶を前に感嘆する。
「お姉様は本当に器用ですね……!
私はここまでのお料理はできませんから……」
「元々必要とされない技術ではあるのだし、
そこまで気に病むことは何もないのよ。
ただの趣味みたいなものだしね。
逆に私はフィーリアのようにダーツとかの投げ道具は苦手だもの」
前に一緒にダーツで遊んだことがあったのだが、
フィーリアのように真ん中に射抜くことが全くできなかったことをアスターシアは思い出す。
私は逆にフィーリアが少々苦手な家庭的なことについて得意であっても、
私が苦手な分野はフィーリアが得意だったりする。
──というかいつの間に投げナイフとかを会得したのかと気になって仕方ないという気持ちがアスターシアの思考を占めているのだが。
そこからは日々の色んな雑談をしつつ、
未だ振り続ける雪を窓の向こうに見ながらお昼のティータイムを満喫した姉弟であった。




