《BD記念》幸甚皇女は祝われる。
主人公アスターシア・コンヴィクションのお誕生日祝いのお話。
※時間軸としてはアスターシアが11歳の頃です。
→サブタイトル「奔走皇女と兄妹」(31話~40話)付近。
──寒々とした朝の冷たい空気に身を震わせながら、
アスターシアはベッドの上でググッと大きく腕を伸ばしてベッドから降りた。
「おはようございます、アスターシア様」
「おはよう。シーナ、レイナ」
「おはようございます」
既に部屋に待機していた専属侍女のシーナとレイナに朝の挨拶を交し、
今日のドレスと髪型をセットしてもらう。
ああ、やっぱりこの時期は苦手だわ……。
──それはもちろん、この寒さのことだ。
前世でも寒さには滅法弱かったのだけれど、
まさか裏ボスチート皇女になってもそれは引き継がれているとは思わないじゃない……。
ふぁぁ、と小さくあくびをすると後ろで髪を梳かしていたレイナの笑う気配がした。
「以前、寒くてまだ起きたくないと駄々をこねられていた時のことを思い出しますね」
「うぅ……頑張って起きた私に酷い仕打ちだわレイナ……」
「ふふ、申し訳ありません。
しかしあれから私達も気持ちよくアスターシア様に起きていただくために、
カノナス師団長と一緒に様々な対策を練ったのですよ」
「そうね……」
私の部屋には小さな暖炉が設置され、
私が起きる三十分ほど前にシーナかレイナが暖炉の火を灯しておき、
事前に部屋を暖めておくようにされていた。
この時期は二人の起きる時間をいつもより早めにしてしまっていることが本当に申し訳なくて頭が上がらないのだけれど、
簡易暖炉を造ったカノナス師団長も凄まじいと思う。
私が知る『暖炉』とは少し違い部屋にある暖炉は年々改良され、
今では時間指定で火を灯したり消したりすることができるようになった。
つまりシーナ達が私が眠るのを見届けて部屋から退出する前に、
明日の朝の火を灯す時間と夜の火を消す時間をある決められた場所に魔力を注ぐとタブレット端末のタッチパネルのようなものが宙に浮かび上がる。
──何ともハイテクな技術……。
「そういえばここ最近王宮内がいつも以上に賑わっているみたいね」
「はい、王宮内では従事している使用人達がアスターシア様の誕生祭の準備で盛り上がっているみたいです。
王宮だけでなく王都でもアスターシア様のお誕生日を祝う宴が民の中で行われるそうですよ」
「そんなことまで……何だか大々的で気恥しいわね」
「それだけアスターシア様への敬意が深いのですよ」
レイナの言葉に私は言い難い喜びで心が温かくなるのを感じてついつい頬が緩む。
身支度を整え終えた私はシーナ達を連れて部屋を出ると、
既に近衛騎士のユージス、ルーカス、ジスタの三人が廊下に控えていた。
「おはよう、三人とも。今日もよろしくね」
「はい」
三人と合流した私は習慣になっている家族皆で朝食をとるため食堂へと向かった。
ちらりと窓の外を見てみれば雲ひとつない晴天で、
今日もまた良い日になりそうな予感がした。
■
「おはよう」
「おはようございます!お姉様」
「おはようございます、姉上」
食堂には既にフィーリアとアフェクが席に座っていて、
私の姿に気付いた二人が顔を綻ばせて挨拶を返してくれた。
今年はフィーリアの能力が開花するというめでたくも予想外の事態が起きたが、
今のところ能力の暴走もなく安定していてその点は一安心している。
「すみません、遅れてしまいました」
「あら、ノル。おはよう!まだ母上達も来ていないから全く遅れてなんかないわよ」
「おはようございます、ノル兄様!」
「おはよう」
私が席につくとほぼ同時にノルベルトが食堂に入ってきた。
ノルベルトと席に着いた後、フィーリアが専属侍女の一人アンナに持たせていた箱を受け取り、
それを私に差し出した。
「お姉様、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう、フィーリア。……これは?」
「きっと祝宴が始まるとお姉様に渡す時間がないかなと思って……開けてみて下さい!」
小さく綺麗なラッピングが施された箱を貰った私は、
そっと巻かれていたリボンを解いて箱を開ける。
何が入っているのかしら?と不思議に思いながらあけてみると……
「万年筆?」
「はい!お姉様にお誕生日の贈り物をと考えてみたのですが、
きっと実用性のある物の方が喜ばれるかなと思ったのです」
「そうね……。綺麗なデザインだけれど、どうして蝶なの?」
フィーリアから貰った万年筆はただの万年筆ではなく、
蝶のデザインが施された受注品であることは確かなこの世に一つしかない物だった。
「ただ単純に高価な万年筆では味気ないと思って、
何か特徴的なものがあれば良いなと思ってノル兄様たちと一緒に考えてみたのです。
お姉様を動物や植物に例えるならば何だろうって。
それで私はお姉様のことを蝶のようだと思いました」
「私が蝶のよう?」
「はい!自由で優雅で美しいでしょう?
だからお姉様にピッタリだと思ったのです」
自由で優雅で美しい……?
ニコニコと楽しげにそう告げるフィーリアの言葉に私は頭を傾げる。
私的にはそこまで言われるような美しい人間ではないと思っているからこそそう言われることを自然と受け入れられない。
「ごめんなさいね、遅れてしまったわ」
「おはようございます、母上」
不思議に思っている間に母上と父上、叔父上が食堂に入ってきた。
こうして全員が揃ったことで話は途中で終わり、
朝食をとることとなった。
■
朝食を食べ終わったあと、
シーナとレイナの手で誕生祭のドレスに変えられた。
普段は下ろしている髪も今回はお団子に結い上げている。
身支度を早めに終えた私は、
フィーリアに貰った万年筆をテーブルの上に置いて、
先程言われた言葉を思い出す。
私が蝶なら……フィーリアは薔薇かしら?
桃色の薔薇か白色の百合。
きっとどっちも似合うわねと考えていると、
扉の向こうから声がかけられる。
「アスターシア様、そろそろお時間です」
「ありがとう。今向かいます」
フィーリアには食堂から一度部屋に戻る前に、
「絶対に使ってくださいね!保管したりしたらダメですよ!」と言われてしまったし、
大切に使うことを約束して別れた。
これから母上主催の誕生祭が開かれるため、
私はシーナ達と共に広間へと向かった。
■
「お姉様、お揃いですね!」
「ええ、いつかやりたいと言っていたから実行できて良かったわ」
広間前で既に待機していたフィーリアにコソッと声をかけられる。
目の前にいるフィーリアも私と同じくお団子ヘアーにしてもらっていて、
ドレスだって色違いのお揃いだ。
違うのは髪飾りだけ。
アフェクとノルベルトも兄弟でお揃いの礼装にしており、
とてもかっこよく決まっている。
「またお揃いにしましょうね」
「はい!」
広間の中から声をかけられるまでもう少し。
とても嬉しそうで楽しそうにしているフィーリアに私も頬が緩む。
──これからもこうして姉弟仲良く過ごせたら……。
そんな思いを抱えながら私たちはたくさんの来賓客が待つ広間へと足を踏み入れた。




