43.継続皇女と敢然(2)
フィーリアがエルヴィーノ公爵によって攫われ、
アフェクも彼の能力によって昏睡状態に陥ったという報告を聞いた時。
僕も信じられないと思った。
──それと同時にあれだけ厳重な警護体制を敷いていても、
『内務卿』という立場を持つ彼には意味をなさないだろうとも思っていた。
「……」
「ッ、姉上……」
驚いて目を見開いて固まっていた姉上の雰囲気が一変したことに気づき僕は隣にいる姉上の方へ視線を向ける。
──まるで人を殺すことも厭わないような冷徹な瞳をしていた。
「殿下……」
こんな姉上は初めて見る。
それはブラム副隊長達も同じのようでそこに微かな恐怖と大きな驚きがあった。
エルヴィーノ公爵はこの温厚な方を本気で怒らせてしまった。
滅多に怒らなかった姉上を本気で。
「とりあえず急ぎ王宮へ!
姉上もそれで構いませんよね?」
「ええ、急ぎましょう。
現場にいたはずのクラウス隊長とグローリア隊長の二人なら何か知っているはず」
僕の言葉に至って冷静な声色で返す姉上がほんの少しだけ恐ろしく感じる。
けれどそれと同時にこんな時でも感情のままに取り乱さない姿に流石だと思った。
「了解しました。僕らは先に王宮へ向かいます。
皆さんは後から急ぎ王宮へ!」
「はっ」
僕はすぐさま姉上の手を取って『空間移動』を発動させる。
次の瞬間に目に映った景色にまた絶句するしかなかった──……。
■
フィーリア達がいたはずの綺麗だった部屋は酷く荒らされていて、
壁にもたれ掛かるようにクラウス隊長とグローリア隊長の二人がいた。
「クラウス隊長!グローリア隊長!ご無事ですか?!」
「アスターシア様……ノルベルト様……申し訳ございません……御二方をお守りできず……」
「っ、すぐに医者を呼んできます」
「頼むわ」
ボロボロになってしまった二人のすぐ近くには縄で縛り付けられた『シラー』の別働隊のメンバー達が意識を失ってまとめて座り込んでいた。
「彼らはこれで全員?」
「はい……この部屋へ侵入してきた『シラー』のメンバーは私とクラウス隊長で何とか捕縛できました」
「そう……ありがとう」
「いいえ……感謝を賜るなど……。
お守りすべき方を……私は守れませんでした」
「無理もないわ。相手は内務卿。
あなた達でもそう簡単に手出しできる相手じゃないもの」
──そう相手が悪すぎただけ。
騎士である二人よりも立場は上であるエルヴィーノ公爵は、
厳重な警護体制を敷いていたとしても王宮内を自由に歩き回れる。
……まさか領地へ帰ったという嘘情報を流してきたとは。
「二人とも、医者を呼んできましたのですぐに治療を!」
「ありがとうございます」
二人でこの人数を相手取ったなんて……本当にすごいわ。
ざっと数えただけでも四十六名。
フィーリアを攫いにきただけでこんなに連れてくるとはね。
「アフェクは?」
「こちらに」
第二王宮所属の薬師団の一人であるノルベルトの母リリーさんにアフェクが眠っているベッドへ案内してもらった。
「申し訳ございません。
たまたまこの部屋の近くを通りかかった際にエルヴィーノ公爵をお止めできれば良かったのですが……」
「母さん……」
「リリーさん。そう思ってくれていただけでも十分よ。
もしも行動に移していればどうなっていたか分からないわ……」
「……はい」
深く眠りについているアフェクの傍へ歩み寄ると私はその場でアフェクの手を取って膝を立てて腰を下ろした。
「……精神系統の能力ね」
「! ではエルヴィーノ公爵の能力は……」
「フィーリアより下位の『心理干渉』でしょう」
「とりあえずフィーリアにはエルヴィーノ公爵の能力は通じないのですね……」
「そのはずよ」
まさか精神系統だったとは驚いた。
でも……これは私よりも下位の能力。
──ならいけるわ。
「《目覚めろ》」
「! あ、姉上……?兄上……?」
『絶対遵守』でアフェクの深層心理に覚醒を促したことで次の瞬間にはアフェクが不思議そうに私とそばにいたノルベルトを見上げている。
「アフェク……良かった」
「はっ……フィーリアが!姉上!フィーリアが!」
「分かっているわ……落ち着いて」
「……ごめんなさい。フィーリアを守れなかった……」
「アフェク、あなたのせいじゃないわよ。
だから自分を責めないで。ね?」
「うん……」
ガバッと起き上がったアフェクに私は務めて冷静な声で落ち着くよう促す。
……そうアフェクのせいでもクラウス隊長たちのせいでもない。
エルヴィーノ公爵自身が何かしら行動に移してくるという考えに至れなかった私の責任。
母上達は『異空間創造』で創り出した世界に避難してもらうという策を講じていたのに、
アフェクやフィーリア達をそこへあらかじめ避難させなかったのは私なのだから。
「エルヴィーノ公爵が向かったところが特定できれば良いけど……。
グローリア隊長達が捕らえた彼らの中に情報を持つ者がいるかしら」
「どうでしょうか……。
もし持っていたとしても聞き出す方法が……」
「大丈夫よ」
私はアフェクの傍から離れて縛られたままの黒ずくめの男たちに向けて『鑑定』を使う。
……公爵家の本邸ね。なるほど。
「どうやら公爵家の本邸へ戻ったみたい」
「! そこにフィーリアも?」
「そうだと思うわ」
……どうせは私をおびき寄せるためにフィーリアを攫ったんでしょうね。
全くもって不愉快だけれど感情のままに動いたところで何も解決することはできない。
「呼ばれているということだろうし……真っ向から行くしかないわね」
「……それは危険過ぎます。
エルヴィーノ公爵だって何の準備もしていないわけがありません」
「もちろん分かっているわ」
私をおびき寄せようとしていることをこんなにも分かりやすく示しているわけだし、
エルヴィーノ公爵が何も準備していないはずなどない。
……けれど私も容赦する訳にはいかないのよ。
今まではあまり能力は必要最低限──こういった事態が起きた場合のみ使用してきたけれど、
今回ばかりは全力で使わせてもらう。
どんなものを用意していようと最強皇女のチート能力を惜しみなく使わせてもらうわ。
「とりあえず、アルベール宰相とカノナス師団長と連絡をとりましょう。
向こうの進捗はどれほどか聞かないと」
「分かりました。僕がアルベール宰相のところに。
兄上はカノナス師団長のところへ行ってくれますか?」
「ああ。……だがついさっき目覚めたばかりだ。
能力を使用しても問題はないか?」
「大丈夫です」
ベッドから立ち上がり私たちの傍にやってきていたアフェクがノルベルトに声をかけた。
方針を決めるためにも二人を早急に呼んでもらえるのは有難いけれどここまで動き回ってくれていて申し訳なさが募る。
「姉上はここで待機を。すぐに連れてきます」
「……ありがとう、二人とも」
軽く頭を下げた二人は次の瞬間にはもうこの部屋にはいなくなっていた。
──待っていなさいよ、エルヴィーノ公爵。




