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チート過ぎる裏ボス皇女様のゆったり日和  作者: 紗那
Ⅰ.奔走皇女と兄妹
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40.夢寐皇女と厭世皇女(4)

初めに目に映ったのはぐしゃぐしゃになった馬車と血塗れの土。

ここは一体……?

初めは分からなかったけれど血を見てしまえばもう嫌というほど分かってしまった。


『(ああ……母上達が亡くなった日なのね……)』


ここはきっと隣国グラジオラス王国から帰ってくる途中だったのだろう。

馬車の行き先には王都の街並みがほんの少しだけ見える。

きちんと整っているというわけではなく、

ちょっとした山道を母上達が乗っていた馬車は進んでいたようだ。

この道はグラジオラス王国から一番近い道のりだから、

アフェク達を心配した母上が早く帰ろうと思っていたのだろう。

──アスターシアに何かされてしまう前に。


「ご苦労さま」

「第一皇女……これで良いのか?」

「構わないわ」

「この二人はお前の両親だろう」

「あら。暗殺部隊に身を置いておきながらそんな人情なんて持っていたのね」

「……」


彼は──!知っている。

どうにかこちら側に引き寄せようと思っている巷を騒がせている剣豪だ。

彼は『レオ・ハルトヴィヒ』。

アフェクの近衛騎士の一人で二番隊隊長イグナーツ・ハルトヴィヒの弟。

イグナーツ隊長には生き別れた弟がいたと以前聞いたことがあった。


「まぁ何はともあれお疲れ様。もう帰っていいわよ」

「そうか。なら失礼する」


血塗れの馬車を一瞬だけ見つめたレオはほとんど一瞬にして、

木々を飛び越えて姿を消してしまった。

アスターシアの傍にはノルベルトの姿もあった。

前髪で顔が隠れていて何を思っているのかは私からは見えない。


「さて……せめて立派なお墓を作ってあげましょう。

これまでの女皇の義務を成し遂げた我が母達への手向けとしてね」

「(あなたが殺したのに、一体何を言っているんだ……)」


アスターシアの何も映さない瞳は冷徹に倒れ伏す母上達を見下ろしている。

何気なく発したその言葉には悲しみも憎しみも何の感情もない無情な声色だった。


「ノルベルト」

「……はい」

「私はここで死んだことにするわ」

「……え?」


しばらくじっと母上達を見下ろしていたアスターシアが思い出したかのようにサラリと告げた言葉に、

ノルベルトは俯かせていた顔を思わず上げる。


「表舞台を見ていくのもつまらない。もう飽きたのよね

(──どうせ最期に全て壊していくのなら、

くだらない世間話(たわごと)なんてもうどうでもいいわよね)」

「……」

「だからあなたも好きになさい」

「今更……ですね」

「そうね。それは否定しない」


……驚いた。今回はアスターシア達の心の声が聞こえるのね。

アスターシアはやっぱり何もかもを諦めているのか……。

どうせ全て壊す。彼女はその通り全て壊していった。

これから先の帝国を寄り良い未来へ導くヒロインという名の救世主すらもアスターシアは殺した。

自分の最後の目的の邪魔をされないように。

──その最後の目的は未だに何なのか分からないまま。

彼女は一体何がしたかったの?


どこからが彼女の本音でどこからが彼女の虚勢だろう?

一体これから彼らを殺していった先に何があるというのか。

全て無くした先に何が待ち受けるのだろうか。

それが分からないまま、アスターシアは誰かを壊していく。


「(いずれにせよこれで私の好きなようにやれる。

良かったわね母上。”あの未来”を見ることもなく死ぬことができて)」

『あなたは本当はどうしたかったの……』


無理に虚勢を張り続けているようにも見えて、

私は何とも言えない気持ちになる。

”ソレ”を見さえしなかったらアスターシアは何を目指して動いただろう。


「はぁ……そろそろ騎士団達の認識を欺き続けるのも疲れたわね……。

ノルベルト、後はよろしく」

「……分かりました」


なるほど……『絶対遵守』でこの光景を見れないように視認を誤解させてたのね。

彼らには馬車がここで止まっただけに見えているはず。

そうしてアスターシアは自分の死体はあると周りにいる騎士団達に認識させてこの場をノルベルトに任せて去っていった。


その後はもちろん辺りは騒然としていて、

唯一無事”だった”ノルベルトの安否確認や、

誰が母上達を暗殺したのかの捜索、

母上の遺体を王宮へ丁寧に持って行くなど騎士団は慌ただしく動いた。


「母上……申し訳ございません」


ぽつりと小さく呟いたノルベルトの言葉は誰にも聞かれることなく、

ただ夢としてこの光景を見ている私にだけ届いた。

──これが母上と父上が暗殺された時の光景だったのね。

その後ノルベルトはアスターシアに殺されている。

──何のためになのかは分からないまま。



『──さて次は……』


騎士団にも見つからない場所へ移動したアスターシアは、

慌ただしく動き回る騎士団の様子を見ながら次の計画を企てる。

──次はきっとフィーリアだろう。

あの子の精神に干渉して人格を作り替えるはずだ。

私にはない『精神干渉』の力。

それがゲームのアスターシアには『精神構造干渉』という一つの能力として保有している。

『絶対遵守』とはまた別の扱いになっているようで、

『精神構造干渉』というこの能力は扱い方が難しいらしい。


「そろそろ舞台を整えていかないとね」


楽しげでもない様子でアスターシアは一人王宮の方へと足を進めた。

これから彼女はゲームを始める。

ヒロインと攻略対象者達が自分の存在に気付き抗おうとするまで、

たった一人で裏の世界を漂い続けるのだろう。

──私という存在はつくづくよく分からない人間だと思った。


『大丈夫……必ず母上たちのことは守り通してみせる。

──何をしてでも』


母上たちの血に塗れた山道を見つめながら、

私はぎゅっと自分の拳を握る。

こうならないように既に準備は進めている。

この日がいつなのかは分からないけれど、

この山道を通って帰ろうとしているということは、

確実にグラジオラス王国へ向かう予定がある辺りだと目星はついた。

大丈夫だと自分に言い聞かせて自信を持たせる。

──そうして私の視界はまた暗転した。



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