37.奔走皇女と猫
翌朝の天気の良い晴天の中、
アスターシアの気分は優れずにいた。
「(何だか変な夢を見たわね……)」
それが何だったのかは具体的には覚えていないけれど、
本当に良いものではなかったとは思う。
後味の悪い、それこそモヤモヤした感じが起きてからずっと抜けなくて、
公務は謹慎中だし『それなら』と思って、
アスターシアはアフェク達を連れて『猫の庭』と呼んでいる庭園の一角に来ていた。
「姉上、気分が優れないのですか?」
「ううーん………」
「ほらお姉様!ここに去年生まれた子猫が……!わわっ」
「あ、こら。そう突進してくるんじゃない」
私がこの一角を見つけてからずっと構い続けている猫を無心で撫でつつ、
無意識の間に何回か深いため息をしてしまっていたようで、
アフェク達にとても気を遣われてしまっている。
……いたたまれない。
申し訳ない気持ちでいっぱいだけれど、
アフェクたちも何だか楽しそうにしているし良い気分転換なのかもしれない。
「何かお悩み事ですか?」
「ううん……ただ単に夢見が悪かっただけだから、大丈夫」
「悪い夢は人に話すといいと聞きます。
もしよろしければ僕たちに教えてくれませんか?」
「ありがとう、本当に大丈夫よ。
今はもうあんまり内容も覚えていないから」
何故か他の猫たちに突進されているフィーリアとアフェクを見つめながら、
心配して声をかけてくれたノルベルトにお礼を言う。
今まで見た夢は覚えているのに、
何故か今回だけ二つ見たはずなのに後者の二つ目だけは何も覚えていない。
何なのかしら……と思いつつアフェク達の様子を見ると、
「すごく気に入られてるのね、アフェク」
「助けてほしいです……」
たくさんの猫達がよじ登ったりしていて、
大変そうだなぁと思いつつも平和だなぁと感じる。
──もしもあの時に事前に回避できなかったらと考えると余計に。
「アフェクは動物に好かれるのか?」
「どうでしょう……?僕もよくわからないです」
「アフェク兄様はよく好かれる方だと思いますよ?」
「そうだろうか……」
何かと私とノルベルト、
アフェクとフィーリアで行動することの方が多いから、
アフェクについてはフィーリアに聞くのが良いのかも。
「ここ、姉上の秘密基地だったのに、
いつの間にか秘密じゃなくなりましたね」
「本当にねぇ……」
私たちはよくここに来るようになった。
元々は私が見つけたこの場所をノルベルトに案内したのがきっかけだけれど。
まぁ皆猫好きだしね。
こんな穴場を見つけてしまえば来てしまうのも無理もない。
「しかし意外な発見をしましたね」
「アフェクが動物に好かれること?」
「はい」
確かに今も色んな猫たちが乗りかかろうとして重そうではある。
今までこうやって一日中姉弟でダラダラすることもなかったからなのだろうか。
──とても美しくて鮮やかに見える。
アスターシアという存在はこの空間を壊した張本人だ。
だからこそ私にはこの他愛のない時間が眩しく見えるのかもしれない……いいや眩しい。
私が見て良いものじゃないような心地がしてしまう。
それでもこれが現実で背くべきことじゃないということは理解している。
「お姉様?どうかされましたか」
「ううん、何でもない。暖かいから眠気がね……」
「確かに今日も暖かいですよね!」
フィーリアに声をかけられて今まで考えていたことは頭から消して、
この暖かな日差しに意識を向ける。
考えていたことを悟られないように全く別なことを話そうと思っていたけれど、
言った傍から眠気が誘われてしまいそう……。
「この三毛猫ちゃんはふっくらしてますね~」
「フィーリアはその子がお気に入りなの?」
「毛がふわふわです!」
「なるほど」
ノルベルトはアフェクに乗りかかっている猫達から、
アフェクを救うことに手一杯のようで、
私はフィーリアがずっと膝の上に乗せている猫の頭を撫でてみる。
ラスボスでも猫に好かれるのだから、
元々フィーリアは本当に誰からも好かれるような子だったのだろう。
それをアスターシアがあの極悪非道な人格に変えてしまった。
民を愛していながら何故滅びの道を進もうとするのかは未だに謎だけれど、
私は絶対に彼女のように諦めないと決めている。
いずれはゲーム通り、この心優しいフィーリアが女皇となればいい。
『アスターシア』という存在さえなくなれば、
ゲームのような国もろとも滅ぶなんてことは根本からなくなるのだから。
「アフェクは大変ね」
「とっても好かれていますよね、アフェク兄様」
「しまいにはノルにまで猫たちが群がりそうね」
「兄様達可愛いですっ」
猫たちに突進されている兄弟の姿は本当に微笑ましくて、
ついつい頬が緩んでしまう。
フィーリアもいつもは頼りのあるかっこいいノルベルトが少し困っている様子を見て楽しそうにしている。
──困ってる姿を見れて楽しそうなところはちょっとラスボス気質があるかもしれない……。
「姉上達……見守っているだけでなく助けていただきたいです……」
「良いじゃない、可愛らしくて」
「助ける気皆無なんですね……」
助けてほしそうにしているが、
これはもう微笑ましすぎるしゲームでは見れなかったシーンでもあるから、
もうずっと見ていたい気分でいる。
フィーリアは隣でニコニコしているだけで何も言わない。
ある意味反応としてはこっちが一番怖いかもしれない。
今日は一日中アフェク達と一緒に猫と戯れることにした。




