35.夢寐皇女と厭世皇女(3)
その日の夜。
珍しく星空は見えず雲の隙間から月明かりだけが差し込んでいる。
『ここは……』
王宮の屋根の上。
どうしてこんなところにいるのだろう?
そもそも私はフィーリアと語り合って夕飯を食べ、
入浴した後眠りに入ったはずなのに。
「……」
『ッ!?』
私の隣にはアスターシアがいた。
何も映さないその目はどこか遠くを見ている。
……あっちに何があるのかしら。
私よりも濃い紫がかった青色のドレスを着て、
その瞳には光がない。
アスターシアの幼少期に一体何があったのだろうか?
少なくとも三歳の時点で”何か”を見たはず。
見たか、経験したかどちらかがあったはずなのに、
これまで私が見たのはゲームのアフェク回想で見たシーンだけ。
もちろんその中には描写されなかった部分も少しだけあったけれど。
一体何が理由で彼女はこんなことを?
それだけがもう三回目にもなるこの夢を見ても未だ理解出来ていない。
アスターシアは一体何を目指しているのだろう。
そもそもその目指す目標ですら彼女の”退屈”は癒せないのかもしれない。
「綺麗ね……これで、あともう少しで、
この美しい国ともお別れなのかしら……」
『どういう、こと?』
隣にドレスの裾を靡かせながら立っていたアスターシアの口から零れた言葉に私はつい声を出してしまった。
聞こえないことなどもう知っているのに。
ただ退屈を癒すためだけじゃなかったの?
どうしてそんなにも悲しそうなの?
今までそんな表情すら見せたことなんてなかったのに……。
アスターシアは”何か”を知った。
そしてそれに抗う術を見つけられずにこうして生きてきた。
──そう感じてしまう。
彼女は国と民を愛していなかったわけじゃなかったのね……。
「良かった……母上がこれから先起こることを知らなくて」
『起こること?』
どこか安堵したような表情を浮かべるアスターシアを見て、
本当の彼女はこんなにも誰かを気遣える人間なのかと思ってしまう。
私の問いかけには何も答えられることなく、
ただ吹き付ける風に当たり、
静寂がこの場を包み込んでいた。
──アスターシアは一体何を見たの?
ゲームのアスターシアはやはり何かを見て考えが変わった。
これはいつか私も直面する問題なのかもしれない。
私には何も見ることがなかった。
”母上が見なくて”ということは予知なのだと思う。
ゲームのアスターシアは予知能力も持ってたのね……。
それで何かを見たということなのだろうか?
私にはない能力を持つアスターシア。
一体彼女は”それ”を見て何を思ったのだろう。
ただ一つ言えるのは……それは絶望しかないこと。
チート過ぎる能力を持っていながら、
アスターシアには”それ”を避ける術を見つけられなかった。
……だからその前に国を壊そうとしているの?
私には分からないその何かが起きる前に。
滅ぶ前にその滅ぶ対象を無くしてしまおうと。
どうしてその道を──その道しか選ばなかったのだろう。
どうして抗おうとしなかったのだろう。
私の中で疑問が尽きることはなく、
その答えも知らぬままこの日の夢は終わった──……。




