33.覚醒皇女と姉
私、フィーリア・コンヴィクションはエスポワール帝国の第二皇女として生まれた。
第一皇女であるお姉様に第一皇子のノル兄様、
第二皇子のアフェク兄様と四人姉弟の中では一番最年少で、
ついこの間能力が開花して周りの景色がまた一転して変わったばかりだ。
私と同じ精神系統の能力者であるお姉様に能力の制御法を教えてもらってからは、
自分の意思で相手を心を読むことができるようになり、
能力により苛まれることはなくなった。
……お姉様は本当に凄い方だと思う。
私が生まれた頃にアフェク兄様が隣国から送り込まれた貴族令嬢に毒殺されそうになったことがあったと言う。
その時、その令嬢の情報をアルベール宰相に提示し、
未然に防いだのがお姉様だったと聞いた。
他にもお姉様は独自に単独行動で国内のあらゆる情報を集め、
国と民を脅かす存在を排除しようと暗躍している。
一体いつの間に行動しているのかは分からないけれど、
知らぬ間に怪しい人物は捕縛され、
起きたかもしれない事件は未然に防がれている。
加えてお姉様の能力はとてつもない効力と影響力を及ぼす強力なもので、
私が生まれる前には既に剣術と護身術も騎士団の方に習っていたと聞く。
次の女皇であるお姉様が一体どうして戦闘面の強化をしているのかは疑問に思うけれど、
それでもやっぱりお姉様はいつも私や兄様達よりも先を行く。
そんな優しくて強いお姉様の為になることを私はできているだろうか。
そう思い始めるとその不安は私の中で大きくなっていって、
無視することもできないほどに膨らんでしまっていた。
お姉様はきっと「まだ五歳なんだから」と言うだろう。
それでもお姉様は六歳の時点では単独行動をしていた。
アフェク兄様をそのお力で救われた。
どうしてお姉様はそこまで自分と私たちを”違うもの”として見るのだろう。
確かにお姉様が持つ能力もその知恵も身体能力や記憶力は桁違いなのかもしれない。
それでもお姉様はお姉様であって、
決して”違うもの”などではないと思う。
私もお姉様のような強くて優しい人になれるのかしら……。
あの人の妹としてお姉様が自慢できる妹になれるのかと凄く不安に感じている。
お姉様にはバレないようにと気を付けてはいたけれど、
ノル兄様にはバレていた。
どうして気付いたのと聞けば、
ノル兄様も私と同じ気持ちを抱いているからと言っていた。
私よりも長くお姉様のお傍にいるノル兄様までそう感じているなんてと驚いたものだけれど。
兄様たちと共に守られるだけじゃない、
お姉様をお支えし守るような存在になりたい。
それは私が自我を持ち、
知恵を身につけてからずっと掲げている目標。
それを私は成し遂げられるのだろうかと考えるようになった。
お姉様は基本的に自分のことは自分で全てこなす人だ。
それに加えて私たちにもたくさんのことを教え、守ってくれている。
──人間の穢らわしい部分など嫌というほど見たけれど、
それでも信じたいと思えるのはきっと私の周りの環境が良いからなのかもしれない。
私だけじゃない。
私と同じ心を読める精神系統の能力者の思考は、
その時”見た”ものに影響されるのだと思う。
例えば表向きは優しく穏やかな人でも、
裏は最悪な下衆な人間だったとしたら。
それを知ったら今までのような目線でその人を見られるだろうか?
尊敬の念など一瞬にして塵と化すだろう。
信じていた人が本当はこう思っていたなんて知ってしまえば、
もうその人のことは信じられなくなる。
その人だけじゃない赤の他人もそう思ってしまうだろう。
……だから私は環境に恵まれていたのかもしれない。
私が初めて能力を開花させ、
心を読んだのは傍にいたお母様の心の内だった。
心から怖がっている私のことを心配してくれていた。
その次に見たのはお父様。
その次はアルベール宰相とカノナス師団長。
その時私のそばにいた人達は表に見せていた、
発していた言葉と同じことを考えていた。
私の周りにいる人達は皆優しい人たちばかりだったのだ。
──唯一同系統の能力者であるお姉様の心だけは読めなかったけれど。
それでもお姉様が何の悪意もなくただ姉として、
家族として私を大切に思ってくれているのは実感している。
「フィーリア、少しお邪魔してもいい?」
「お姉様っ?どうぞ」
「こんにちは、フィーリア。お邪魔するわね」
今日は大事な公務があると仰っていたのに……っ!
ぼんやりと考え込んでいた私の耳にお姉様の声が聞こえ、
驚きにうるさく心臓が高鳴る。
開けられた扉から部屋に入ってくるお姉様は、
いつもと変わらないのんびりとした雰囲気だったけれど、
その目は私の悩みを見抜いているような透き通った瞳だった。
──あぁ、きっとノル兄様がお姉様に言ったのね。
私が何かに悩んでいると、兄様が言ったに違いない。
「お姉様……」
「……やっぱり私が聞きたいこと、分かってるのね」
少し苦笑しながらも感心したような声色でお姉様は優しく声をかけてくれる。
その顔には『何も言っていないのに分かっているなんて流石だ』と言っていて、
心は読めずとも私や兄様達の前では素直なお姉様に私は悩みなんて飛んでいきそうになる。
ありのままの姿を見せてくれるということは、
それだけお姉様からの信頼を得ているのだから。
この信頼と期待を裏切らないように気を付ければいい。
「悩みは解消しました」
「え?」
私が微笑んで告げた言葉にお姉様が驚いたように目を見開く。
──そうお姉様がこうして来てくれただけで私の悩みはなくなった。
お姉様の期待に応えられるようになればいい。
それが長い道のりでも諦めなければいい。
そう思えたから。




