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チート過ぎる裏ボス皇女様のゆったり日和  作者: 紗那
第一章『最強皇女と帝国』
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04.義弟と私

 三つ年下のアフェクが生まれてからは王宮内も城下町もお祝いムードで、王宮の第三広間には同盟国や叔母上のいるヒンメル王国からのお祝い品で溢れていた。

 ――弟のことをあんなにも祝い喜んでくれる民の声が嬉しい。

 お祝い品が連日王宮へ届けられるため、検品作業と記録付けをしている父上とアルベール宰相は大変そうだ。


 私はというと、母上について回って皇族としての公務に勤しんでいた。

 母上へ謁見にきた貴族と会ったり、帝国内の地域や公共施設を訪問していったりと近頃は忙しくしている――そんな私も六歳になった。


 アフェクが生まれた年──三年前には許されていなかった能力制御の特訓も、負荷がかかり過ぎない程度なら構わないと母上からお許しが出て、最近はカノナス師団長といる時間が多くなった。

 できればフィーリアが生まれる前までに、ある程度自力で制御できればいいんだけれど……。


 


 春の季節になって最近は暖かくなった。

 今日は能力制御の特訓はお休み。自室でいつも通り黙々と勉強をしているところだった。日差しがポカポカしていて、つい眠ってしまいそうになっていた時に母上から呼び出された。


「母上、お呼びでしょうか」

「勉強中に突然呼び出してしまってごめんなさいね。今日はあなたに会ってもらいたい子がいるの」

「会ってもらいたい子……?」


 ゲーム内でこんなシーンあったっけ? 全く予想外の展開に戸惑いつつも、これがゲームとは違う相違点の一つということなのかもしれないと考える。

 一体誰と母上は会わせたいのか……緊張しながら待つ。


「入ってきてちょうだい」

「はい……」


 私が入ってきた中央の大扉とは違う部屋。その右側にある扉が衛兵の手によって開けられ、父上と一緒に同年代くらいの男の子が謁見室に入ってくる。

 全くゲームでも見覚えのない男の子の登場に、表情には出していないが内心ちょっとしたパニック状態だ。

 やっぱり私が考えていたことは当たっていたんだ……!


「初めまして、アスターシア様。僕はノルベルトといいます。本日より第一皇子としてアスターシア様の補佐を担当します。どうぞよろしくお願いいたします」

「初めまして、ノルベルト。アスターシアといいます。どうぞよろしくね」


 とても不安そうで心細そうな表情をして、小さくハッキリと男の子は自己紹介をしてくれた。

 ――”第一皇子”……。

 

 ゲームに登場するエスポワール帝国の皇族は、第一皇女アスターシア・第二皇女フィーリア・第二皇子アフェクの三人だけだった。

 第二皇子がいるのならば第一皇子がいるはずだと思っていたのに、『らくこい』のどのシナリオにも登場しなかった。何なら名前すらどこにも載っていなかったくらいだ。


 第一皇女アスターシアの”補佐”ということは――。

 ゲーム内で語られることはなかったけれど、アスターシアがどうしてあんなに非道なことをしたのかを、きっと彼は間近で見ていたんじゃないだろうか?

 そうなると私たちプレイヤーが知らないだけで、彼もアスターシアに苦しめられていたのかも……。


「アスターシア様。準備が整いましたので、前へ」

「分かりました」


 そう考えているうちに『主従の契り』を交わすための準備が終わっていた。この『主従の契り』というのは、代々第一皇女として生まれた者が初めに交わすことになる契約だ。


 後に広大な帝国を統べる女皇の補佐となる第一皇子は、帝国内の領土から希少な能力を持って生まれた者が選ばれる。加えて一人親家庭である家の中から選ばれる傾向にある。

 子供を皇族入りさせて第一皇女の補佐役とする代わりに、その子の親の元には王宮から莫大な報奨金が送られ、ある程度の支援を受けられる制度。

 もちろんかつて第一皇女であった母上にも、補佐役である摂政となった義弟ベルンハルトがいる。


 アルベール宰相から契約書を手渡され、私からノルベルトの順で紙に自身の名前を書く。

 これで『主従の契り』は成立し将来の摂政となったノルベルトは主である私への裏切り行為はできなくなった。


 ──といってもこの契約は私が持つ能力の一つ『絶対遵守』を使って契約を上書きしてしまえば無効化できるのだけれど、能力の効果は私とカノナス師団長しか知らないことだ。

 ごめんなさい二人とも。折角苦労して用意してくれたけれど、いざとなったら無効化させてもらうね。


 その後無事に契約が終わったこの日の夜。私はノルベルトの部屋に向かう──前に母上の執務室を訪れていた。


「一体どうしたの、アスタ。相談事って」

「忙しいところお邪魔してしまってごめんなさい。どうしてもすぐに母上に相談したいことがあって……」


 突然部屋に訪れた私に驚いていたけれど、母上は仕事を中断して私の話に耳を傾けてくれた。話を促された私は母上にこう切り出した。


「ノルベルトの母君、リリー・ラモーナさんは王都でも有名な薬師です。彼女も、そして彼女の祖母ローズマリーさんも、王都で急激に流行った流行り病を食い止めた素晴らしいお方ですから、私は医療団への推薦を提案します」


 ノルベルトの母リリー・ラモーナさんは王都でも有名な薬師の方で、彼女の祖母ローズマリーはその当時、急激に流行った感染症を食い止めた凄腕の薬師として、今でも尊敬を集めている有名な方だ。

今の王宮は以前よりも医療関係者の人数が少ない傾向にあるため、彼女を王宮直属の医療団へ推薦してはどうかと。

 もしも彼女が医療団に入ってくれたらノルベルトは王宮内にいる間は限定的にではあるが、母親と会うことができる。もちろん優秀な薬師が増えて国のためにもなる。

全てはリリーさん次第ではあるけれど、ノルベルトが独り見慣れない場所で孤独に過ごすよりもいいだろう。


「そうね……」


 私の提案を聞いた母上は、頬杖をついて考えこみ始めた。これがノルベルトのためにできる唯一のことなのだけれど、この制度には皇族入りした者は実の家族と会うことは許されていない。

 現に叔父上のベルンハルトは第一皇子となってからは父親に会っていない。

 ちなみに立場は第一皇子だけれど、基本的にこの制度によって皇族入りした皇子には皇位継承権はない。そのため皇位継承権を持つのは私とアフェク、そしていずれ生まれるであろうフィーリアの三人だけだ。


「少し検討させてもらってもいいかしら? アスタの意見を父上とアルベール宰相に持ちかけてみるわ。少しだけ時間をちょうだいね」

「ありがとう、母上」

「さぁ、もう遅いからお部屋へ戻ってお休みなさい」

「はい。お休みなさい、母上」


 とりあえず考えてくれるみたいで、ほっとした。

 謁見室で初めて出会ったときに見た、あのどんよりとした絶望の色を帯びたあの瞳は、五歳の子供がするものじゃない。きっと母上も父上もあの瞳に気付いていたはずだ。

 逆にノルベルトは、それほどまでにリリーさんを大好きなことがひしひしと伝わってくる。まずは彼に安心してもらえるように、姉の私が頑張らなくては。



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