30.夢寐皇女と厭世皇女(2)
──また、なの?
シーナやレイナに挨拶をしてベッドに横たわり眠りについたことはよく覚えている。
それなのに今私の視界が捉えている景色は王宮内の広間。
玉座があるということは五年前にアフェク生誕祭とノルベルトのお披露目をした広間だ。
「ダメじゃない。私に逆らおうとするなんて」
「あ、兄、……兄上ッッ!」
──聞こえてきた悲痛な叫びと目の前の惨状に私は呆然と立ち尽くす。
ノルベルトが血塗れで倒れ伏していて、
アフェクが泣きながら彼の名前を呼んでいたから。
そんな二人を何の感情も映さない瞳でアスターシアは見下ろしていた。
本来ならば女皇にしか座ることが許されない玉座に座って。
──まさか。
嫌な予感がした。
これから”起きる”ことへの対策を練っている私にとって最悪な。
「何故……ッ何故ですかッ?
兄上のみならず父上や母上……叔父様までッ!
”表向きには事故死”としておきながら、
あなたが殺したことに違いはないッ!」
……ッ。ああ、やはりそうだ。
これは以前見た夢の続き。
そして──現実でもこれから起きること。
アスターシアが手引きしていない以上は、
その代わりとなる別の誰かが引き起こす。
そう考えて私は密かに準備していた。
……それなのに。
夢はまた私に最悪な結末を見せてくる。
これが私なのだとでも言い聞かせたいみたいに。
「……そんなことはどうでもいいのよ。
ノルベルトがいなくなってしまった以上は、
次はあなたの番ね」
「……ッ」
「私の”退屈を癒す”役に立ってちょうだい?
その代わりに──そうね、あなたを摂政にして、
フィーリアを女皇に即位させましょう」
「!? ど、どういうことですかッ!
母上が亡くなってしまった以上、
次の女皇はあなたがなるはずでは……ッ」
「女皇なんて立場、つまらないだけよ。
アフェク、表向きにはこう公表なさい。
”第一皇女アスターシアは両陛下と共に亡くなられた”ってね」
これは……ッ。
ゲームでも謎だった部分。
何故第一皇女が生きていたのに第二皇女であるフィーリアが女皇として即位していたのか。
それは裏ルートでも語られることはなかった。
アフェクルートの回想でも見たことはない。
そもそもこの夢の内容全てがゲームでは語られなかったところだ。
『つまらない』。
もうこのアスターシアには女皇公務ですら、
その退屈を癒すほど熱中できるものではないというのね……。
それもそうか。
最終的にエスポワール帝国は滅びる。
その血統は途絶えなくても本家の血筋は途絶える。
「フィーリアにも少し役に立ってもらわないと」
「ッ、まさかフィーリアにも何か……ッ」
「さあね?」
床に座り込んでいたアフェクの横を玉座から腰を上げたアスターシアが通り過ぎていく。
彼女の表情はどこまでもつまらなさそうで、
愉しそうでも嬉しそうでも悲しそうでもなかった。
「兄上……僕はどうしたら……。
姉上はフィーリアにさえ手を出して……」
「……」
物言わぬ青年に悲しげに泣き崩れた少年が問いかける。
アスターシアの能力には逆らえない。
けれど気持ちは、心はそれを望んでいない。
……アフェクはこれからどうするのだろう。
たった一人でフィーリアとこの国をアスターシアから守らなければならないのだろうか。
──いや、実際そうだった。
アスターシアによって人格を作り替えられたフィーリアはこれから好き勝手に国を崩壊へと導いていく。
本当は心優しい少女だったのに。
アスターシアの”退屈しのぎ”という理由だけで。
頼りのノルベルトもいなくなり、
フィーリアは暴走し国を破滅へと向かわせる。
姉であるアスターシアはそもそもの元凶。
──たった一人で国や民を守ろうと彼は必死にもがき続ける。
それがアフェクルートで明かされた彼の心情。
そうして表舞台から降りたアスターシアは裏へと隠れ、
フィーリアは女皇に、アフェクは摂政になった。
──これでゲームを開始するための舞台は整った。




