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チート過ぎる裏ボス皇女様のゆったり日和  作者: 紗那
Ⅰ.別格皇女と騒動
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26.別格皇女と苦悩宰相(2)

ノルベルトが帰ってくるのは意外と早かった。

ノルベルトを呼んだ時と同様、

第二宮殿に戻っているということは伝えておいたから、

迷わず私の部屋に移動してきた。


「何やら闇商人の者たちと会話していました」

「闇商人……ねぇ」


我が国の宰相ともあろう人物が取り締まるべき人間と何かしらの会話をしていたというのだ。

まさかあれだけ真面目に働いていたアルベール宰相がそのような不信行為を働くとは……。

信じ難い気持ちもあるけれど、

実際に見てきたノルベルトがそう言うのだからそれが真実だろう。


「どんな会話だった?」

「確か……名前は伏せていましたが、

闇商人に聞いていた人容姿や性別などから僕が推測して、

シルヴィア夫人についてでした」

「シルヴィア夫人?」


──そういえば最近見かけないな……。

シルヴィア夫人はフィーリアの専属侍女となったアルベール宰相の妻だ。

私やノルベルト同様にアフェクやフィーリアにも二人の専属侍女が付いているが、

数日前までは見かけたその姿が見当たらない。


「確か……アンナからはお家の都合でしばらく休むと聞いていたのですが……」

「そうよね……」


アンナ・ロクサーヌ。

シルヴィア夫人と共にフィーリア付きの専属侍女の名前だ。


フィーリアはシルヴィア夫人と共に付いているもう一人の侍女アンナからそう聞かされていた。

そのことはアンナから言われた時にフィーリアが私やノルベルト達にも教えてくれていたから聞き覚えがある。

家の事情──生まれた生家ではなく夫妻の家の事情だと思って何も問いただしたりしなかったのだけれど……。

アルベール宰相が闇商人にまでシルヴィア夫人のことを聞いているとなるとそうではなかったということになる。


「とりあえず……アルベール宰相の元へ行ってみるしかないわね」

「一応は姉上が用があるようなので第一宮殿に戻るように伝えておいたので……」

「ありがとう、助かるわ」


様子見だけでなくそこまでしてくれていたとは……。

その場所に姿を見せた訳ではなく、

アルベール宰相が気付くであろうところにそう書いたカードを空間移動で入れておいたそうだ。


「それじゃあまた第一宮殿に行きましょうか」

「はい!」



「それで……アスターシア様、私への急用というのは?」

「単刀直入に言います。”何を隠しているのですか?”」

「何も」

「いいえ、シルヴィア夫人が何者かによって人身売買を生業とする闇商人に攫われたのでしょう?」

「なっ……!」


目の前のソファに座るアルベール宰相は確かに憔悴した表情をしている。

こんなにも疲れている顔は初めて見た。


問いただしてみれば案の定しらばっくれて答えない。

そう思っていると隣からフィーリアが思いもよらない言葉を告げ、

私もアフェクもそしてアルベール宰相も驚いて目を見開く。


「あの……フィーリア?」

「一向にお話されませんので心を読んじゃいました!」

「何してるんだフィーリア……」


ニコニコと満面の笑みで何かとんでもないことを言われた……。

若干引き気味のアフェクとノルベルトを見遣り、

私が次に声に出したのは──。


「良くやったわフィーリア!」

「姉上!?」


良い子良い子とその銀色の髪を撫でてやりながら、

アルベール宰相が憔悴していた理由がやっと分かった。

そりゃあ最愛の奥方が攫われたともなれば何としてでも探すだろう。


「それではアルベール宰相?

洗いざらい語ってくれますね?」

「アスターシア様……」


若干引いた顔をしているし、

その瞳は『あなたの責任ですよ』と恨めしそうにしている。

それはもうとっくに自負していることなのであえてニコニコ笑顔で見返してやった。


「アルベール宰相もご自覚があると思いますが……

そもそも『宰相』という役職にあるあなたが、

取り締まるべき人間と”会っている”ということがどれほどのことかお分かりでしょう?」

「ええ……もちろんですとも。

しかしそれでもシルヴィアの無事を確認せねばならないのです」


ノルベルトの厳しい言葉に苦しげに眉を寄せてアルベール宰相は答えた。

元より叔父上と父上と仲の良い交流関係にある。

二人を裏切ってしまったその気持ちは大きいものだろう。

特に叔父上とは青春時代の苦楽を共に過ごしてきたのだから。


「責任の追求は後にするとして……。

アルベール宰相、あなたが得た情報を教えてくれますか?」

「……分かりました。

しかし陛下方には報告されないのですか?」

「事後報告なんてたくさんしたし……」

「姉上……」


また叔父上に怒られそうだなぁと思うと無意識に遠い目をしてしまった。

隣でアフェクが『何をしているのですか』と言いたげな目線で見られる。

いや私だって極力事前報告したかったのよ……。

何故か運悪く話せる時間がなかっただけで……。

そんなことを思いながらアルベール宰相が得た情報を一つ一つ聞いていくことにした。


まずシルヴィア夫人を攫っていったのが人身売買を生業とする組織『カルミア』。

この組織が人身売買で得た人材をオスクリタ公国へ運んでいるとのこと。

彼らが狙うのは能力を持つもの。

どうやら公国では能力者は高く売れるらしい。

──そういえば噂で、オスクリタ公国には能力者は生まれないと聞いたことがある。

国の周りが能力者を有する国ばかりで、

自国だけがそういった人間の生まれない環境だとしたら……。

それがもし本当ならばそういったことを許容するのも……無理はないのかもしれない。

けれど我が国の民に手を出した以上は見過ごすことはできない。


「アルベール宰相、彼らの本拠地は?」

「王都より北側、特にこの帝国内で秘密裡にではありますが最も人身売買が盛んに行われているアネモネの街にあると掴んでおります」

「アネモネの街……ね」


別称『見放された街』。

元々は商館が多く立ち並ぶとても栄えた街の一つだったと言われている。

かつての女皇アステリアの妹ヘカテイアが幽閉されていた塔がある街。

姉であるアステリアが最も忌み嫌った存在がその街に長らく滞在することになり、

彼女を恐れた民達が離れていったとされている。

──何故そこまで嫌われていたのかは分からないけれど。

良い噂のない廃れた街。

下級層の民たちが暮らす区域でもある。

彼らはそこを自分たちの根城にしているそうだ。


「組織の人員は?」

「不明です。私が見た限りでは数十人ほどおりましたが」

「なるほどね……」


母上達がこの『アネモネの街』をより良くしようと動いていたけれど、

何者かによって阻まれてしまうと聞いたことがある。

あの街を改良されれば困る勢力がいたからということね。

そしてその勢力が……国として原則禁止にしている『人身売買』を生業とする組織。

もしかしたらアルベール宰相が見つけた『カルミア』以外の他勢力もいるかもしれない。


「ルーカス隊長」

「はい」

「騎士団長へ人員を割けるかどうか聞いてもらえますか?」

「了解しました」


部屋の隅に控えていた近衛騎士の一人ルーカス隊長に私は声をかける。

今回ばかりは彼らの捕縛やら応戦で騎士団の力を借りる必要がある。

以前のアフェクの一件のように単独犯ではないことは確実なのだから。

──まぁ私一人でもどうにかなりはするけれど、

それは絶対に叔父上だけじゃなく母上や父上に怒られる。

それどころか母上を悲しませかねない。


「今回は騎士団の協力を得るのですね」

「流石に私単独で動ける規模じゃないもの。

それに騎士団に来てもらう理由は単に彼ら『カルミア』を捕縛するためだけじゃない」

「と言いますと?」

「騎士団がそういった組織に介入してきたと知れば、

他の同職の組織にもある程度の抑止力になる。

大きく動き過ぎれば国が強制的に騎士団を派遣してくると」

「そうですね……しかし逆にその別勢力の情報も掴みづらくなります」

「何かしらヘマをしてくれたら楽で良いんだけど……そうはいかないでしょうしねぇ……。

その辺は彼らに尋問してみるのも有りかもしれない。

自分たちが存続するために一時的に手を取りあった時期もあるでしょうからね」

「ふむ……その線もありますね」


国が原則禁止としている行為を生業としているのだ。

今までに人を攫ったところを街を巡回していた騎士に捕らえられ、

地下牢に入れられている者もいると聞く。

一時期王宮の地下牢に罪人が大量に連行されたことがあった。

もしもその者たちがこういった組織のメンバーだったなら。

大きく人員を失ったことになる。

その時にある組織が存続できない事態に陥ったりもしただろう。

もちろんこれは私の憶測でしかない。

そうであるとは限らないけれど、

もしもそうだった場合はどこかしらで別組織と手を組んで動いていた時期があったことになる。

その時の情報を聞き出せれば或いは……。


「とりあえず、ルーカス隊長が来るまで待ちます。

どれだけ騎士団の人員を派遣できるかによって取るべき行動は変わりますから。

……今すぐにでもシルヴィア夫人を助け出したいところでしょうけれど、

ここで私たちが独自に動いて彼らを無力化できたとしても、

彼らカルミアを捕らえる人員が足りません。

少しだけ待ってもらえますか、アルベール宰相」

「ええ……」


酷なことを言っているということは分かっている。

けれど例え私、アフェク、フィーリア、ノルベルト、

アルベール宰相、ユージス達近衛騎士、

ノルベルト、アフェク、フィーリアの近衛騎士たちで動いたとしても。

彼らを王宮の地下牢へ連れていくには圧倒的に人が足りない。

何しろ私たち皇族はそういった時には戦力外だ。


「アフェクとフィーリアは母上達に報告してくれる?」

「分かりました」

「お気を付けて、お姉様」


ふぅ……アフェク達には王宮に残ってもらうとして。

ノルベルトは……以前『頼ってほしい』と言われ、

それに対して承諾した以上は一緒に来てもらうしかないわね……。

できればああいった闇の部分はアフェク達同様に見てほしくないのだけれど。

というか見るのは早すぎると思う。

今の私が言えたことじゃないけど。


アルベール宰相とオズワルド・ルーベン騎士団長に報告へ向かったルーカス隊長が戻ってくるのを待つ。

シルヴィア夫人が無事かどうかは分からないけれど……。

焦ったところで取るべき行動を間違えればもっと最悪な結果になるかもしれない。

そう思いつつも少しソワソワしてしまう自分がいた。


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