23.別格皇女と覚醒皇女
母上たちに能力の説明をした日から三年後の千五七一年三月十三日。
私は十一歳に、ノルベルトは十歳に、
アフェクは八歳に、フィーリアは五歳になった。
ノルベルトやアフェクは一緒に能力の特訓と剣術に加え護身術も学ぶようになり、
フィーリアも勉学を始めるようになった。
最近はまだ寒いけれど二月に比べれば少し暖かくもなってきた三月。
「アスターシア様ッ、至急こちらへ来ていただけますか!」
「え、ええ」
今日も剣術の稽古から戻ってきてゆったりしていた私の元へ、
アルベール宰相が慌てた様子でやってきた。
突然のことに驚きながらも私を必要とする緊急事態が起きたのだと察して、
急いでアルベール宰相について行った。
■
「うぅ……こわい、こわい……」
「フィーリア!フィーリア!大丈夫よ!」
案内された場所は母上の部屋。
私やアフェク達が住む第二宮殿のすぐ隣にある第一宮殿の最奥の部屋だ。
部屋の中へと足を踏み入れた私が初めに見たのは、
頭を抱えて蹲り何かに怯えたように泣きじゃくるフィーリアの姿。
「フィーリア!……これは一体何が?」
「どうやら能力が開花されたようです……」
父上に呼ばれ先にこの部屋にやってきていたカノナス師団長が、
神妙な面持ちで何が起きたのか理解できずにいた私に説明してくれた。
「フィーリア、落ち着いて。
まずは”そこから”意識を逸らして」
「おねえさま………?」
私の考えが正しいのならば、
フィーリアの能力は『心理干渉』。
私と同じ精神系統の能力だろう。
私とは違い他人の心が読めるこの能力により、
まだ開花したばかりで制御もできないフィーリアは、
脳内に流れ込んでくる母上たちの心の声に怯えているはずだ。
「そうよ、アスターシアよ。
フィーリア、今さっき何が流れ込んできたのか教えてくれる?」
「声が……お母様やお父様、
この部屋にいる人たちの声が……突然聞こえてきて……。
でも聞こえた声はお母様たちは一切話していないの」
「それは今も聞こえるのね?」
「うん……聞こえる。
でも、お姉様の声だけ聞こえない。どうして?」
蹲るフィーリアの傍に腰を下ろし、
私は震えるその背中を優しく撫でながら言葉をかける。
傍に私がいることに気が付いたフィーリアが、
涙に濡らした顔を上げ私を不安げに見つめ返してくる。
私の質問とフィーリアのその回答に母上たちも察したのだろう。
フィーリアの持つ能力が精神系統であると。
その最もな理由が聞こえてくる声と私の声だけが聞こえないこと。
「フィーリア、あなたの能力はね私と同じ精神系統の能力なの」
「精神系統……あの?」
「そう以前先生に教えてもらったわよね。
フィーリアが聞こえてくる”声”は母上達の心の声。
だから母上達が一切話していないはずの言葉が聞こえてくるの」
「心の声……?」
「フィーリアの持つ能力は他者の心を読む能力なのよ。
今はまだ開花したばかりで自分の意思で制御する方法を知らないから、
たくさんの声が聞こえてくるだけなのよ」
「制御方法を知らない……確かに私はアフェク兄様やノル兄様みたいに教わってない……」
「そうね。でも大丈夫よ、ちゃんと制御方法を教えてくださるわ」
ぐずぐずと泣いていたフィーリアもやっと理解して落ち着いたようだ。
私の話に真剣に耳を傾けてくれている。
「そのことについてなのですが……」
「カノナス師団長?」
「フィーリア様へのご教授はアスターシア様がされるのが無難かと」
「え?」
母上達と静かに私たちの会話を聞いていたカノナス師団長から告げられた言葉にびっくりして声が出ない。
「それは何故ですか?」
「アスターシア様も皆様もご存知の通り、
精神系統は稀有な能力です。
私も精神系統の能力者との関わりはアスターシア様が初めてでした。
加えて我が国にアスターシア様以外の同系統の能力者がいなかったため私が共に試行錯誤しながら特訓を行っておりましたが……
今回は同系統の能力者としてアスターシア様がいらっしゃいます。
精神系統の能力を持たず想像するしかない私よりも最も適任かと」
「なるほど……確かにそうですね」
確かにそうかもしれない。
カノナス師団長との特訓はいつも試行錯誤して行っていた。
何せ師団長が精神系統の能力者を初めて見たと仰っていたからだ。
この国最強の魔法師が知らないともなれば他の団員の方たちも知らないのも無理はなかった。
つまりは私以前の前例がいなかった。
何が起きるか分からない以上はカノナス師団長程の実力者でなければ能力の特訓のためとはいえ発動できなかった。
しかし今回の場合は違う。
”前例”として私がいるからだ。
精神系統の能力の扱い方は同じ精神系統の能力者にしか分からない。
だからカノナス師団長は私がフィーリアに教えることを勧めたということだ。
加えて私の能力はフィーリアの能力よりも上位版。
何かあったとしても止めることができる。
私にしがみついている妹を見ながら私はそこまで考える。
「アスターシア、フィーリアの能力のことを任せてもいいかしら?」
「ええ、問題ありません」
「ありがとう、助かるわ。
私たちでは具体的にどのような感じなのかまでは理解が及ばないから……」
精神系統の能力者が見る世界は他の人には理解されにくい。
もちろんそれは他系統の能力者の見る世界を私が理解しようとしても難しい。
各々独自の見方である以上は……能力の制御もままならないフィーリアを精神系統に無理解な人に任せても、
フィーリアの方がもっと不安になるだけだろう。
「じゃあフィーリア、私と一緒に特訓しましょうか」
「お姉様と一緒にいられるの?」
「……そうよ。それに特訓は自分と回りを守るためのものでもある大事な事だからね」
「うん。皆を守るためにも必要なことだものね!
……怖いけど上手く扱えるようになれれば大丈夫だものね」
「ええ、そうよ。だから一生懸命頑張りましょうね」
自分の持つ能力を知り少し怯えた表情でいつつも、
しっかりと決意を固めたその言葉に少し安堵する。
この時点でフィーリアのあのねじ曲がった性格ではなく純粋な性格のままでいられていると再確認したからだ。
ゲームではラスボスとして登場するフィーリアは、
極悪非道な人情に欠けた性格をしていた。
けれどここにいるフィーリアは元のまま素直な子に育っている。
──まぁそれは元凶である私が何もしていないからだけれど。
何せフィーリアを女皇に即位させたのはアスターシアだ。
どうしてそんなことをしたのかは分からないけれど。
けれどただ単なる気まぐれなのかもしれない。
そう考えると嫌悪感が凄いな。
気まぐれにフィーリアの人格を作り替えて女皇に据え置き、
その傍にアフェクを置いた。
一体何がしたかったのか自分のことながらさっぱりだ。
そもそも母上達のことも……いやこれはやめておこう。
フィーリアには私の心は読まれることはないと分かってはいても、
こんなことをフィーリアの前で考えるのはよしておこう。
今はフィーリアの能力のことが最優先。
これからどうやって教えていこうか考えつつ、
フィーリアと共に母上の部屋を後にした。




