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チート過ぎる裏ボス皇女様のゆったり日和  作者: 紗那
第一章『最強皇女と帝国』
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03.弟と私

──それからついに母上の第二子出産予定日が訪れ、無事に予定日当日に陣痛が来たことで、王宮内にはソワソワとした落ち着かない空気が流れていた。


「もうそろそろで弟君にお会いできますね」

「そうね……」


自室で”その時”を待っている私の隣で、ティーカップに紅茶を注ぎながら穏やかな笑みを浮かべて声をかけてきたのは、私の専属侍女の一人であるシーナ。

薄水色の綺麗な髪に紺碧色の瞳。一見すればとても優しくて柔らかな印象だ。

もちろんその見た目の印象はバッチリ合っているのだけれどね。決して”本当は怖い人”だと言っているわけではないからね!?


「アスターシア様も緊張なされておりますか?」

「それは、流石にね……」


前世では弟はおらず一人っ子だったものだから、私に弟ができるというのはとても不思議な気分で妙にソワソワする。

前世にはなかった経験をするというのは新鮮な心持ちになって楽しくもある。


「アスターシア様、失礼いたします」

「どうぞ~」


扉の向こうから聞きなれた男性の声が聞こえ、私は扉の向こうにいる人物の入室を許可した。

私が声をかけたあと音もなく部屋の中に入ってきたのはアルベール・アルフレッド宰相。父上の補佐をしているいつも多忙な方だ。

水浅葱色の肩下まである長い髪を一つ括りにまとめ、つけている眼鏡のレンズ越しには青碧色の瞳が見える。


「今しがた皇子殿下がお生まれになりました」

「そうですか……母上はお疲れでしょうから、少し時間をあけてから会いに行くことにします」

「承知しました。女皇陛下にはそのようにお伝えしておきます」

「ええ、お願いします」


話を終え深々とお辞儀をしたアルベール宰相に私はにっこりと笑みを返した。

彼が部屋を去ったあと私はシーナとともに王宮の敷地内にある庭園に訪れていた。


私の弟──『アフェク・コンヴィクション』。

『らくこい』最後の制限付きの攻略対象者。

ラスボス女皇フィーリアの摂政で頭脳明晰で腹黒いヤンデレキャラ。そして、フィーリアよりもアスターシアに苦しめられてきた人物。

──絶対に傷つけたりなんてしない。

彼に拒絶されたとしても私から傷つけるような真似だけはしない──いや、したくない。操り操られる関係ではなく姉弟として──身内として、ゲームでは、独り孤独に辛い日々を耐え抜いた彼に、家族の幸福(あい)を与えるためにも、絶対にシナリオ通りの展開にするわけにはいかない。


『らくこい』ではアスターシアは弟のアフェクにも、妹のフィーリアにも無関心だったと思う。基本的にヒロイン目線で進むお話だったけれど、ある程度進めば彼目線のストーリーを読むことができた。

けれど、ラスボスのフィーリアと裏ボスのアスターシア目線のシナリオはなかった。”二人に対して無関心だった”というのは私が裏ルートをプレイしてみて、三姉弟の関係性だけを重視して感じた結果に過ぎず、実際にアスターシアが二人に対してどう思っていたのかは私には分からない。

ただ、ゲーム開始前の『女皇暗殺事件』で母上と一緒にアスターシアが()()()前に、アスターシアが歪んでしまった原因があるんじゃないかと思っている。

それが一体いつの出来事がきっかけなのか分からない以上、これから少し慎重に動いたほうが良いのだろうか。そんなことを考えつつ庭園を歩いていく。

私が何か考えごとをしていることを察しているのだろう、シーナは特に、私に話しかけることもなくただ静かに付き添ってくれている。本当にありがたいなぁと思いながら、私はアフェクに会う覚悟を決めた。


──本当は会うのが怖い。私が()()アスターシアなのだと、本当の意味で実感させられるから。それが恐ろしい。

ゲームと『現実(ここ)』は違うことは分かっているけれど、『らくこい』の世界で、アフェクがヒロインに救われるまでの長い間、アスターシアによって苦しめられてきた過去を知っているからこそ、ヒロインと仲良くなる以前の、あの危うげな姿を見てきたからこそ、私には負い目があった。

正確には私ではないけれど、苦しめた元凶はアスターシア(わたし)だから。

それでも彼を傷つけないと絶対に守ってみせると決めたのだから、ここは勇気を出すところなのだから立ち止まってなどいられないと自分に言い聞かせる。


「シーナ、弟に会いに行くわ」

「はい、かしこまりました」


ただ静かに寄り添ってくれていたシーナに内心感謝しながら、一歩下がって付いてきてくれていたシーナの方へ私は立ち止まって振り返りそう告げる。

私の視線と言葉を受けたシーナはにっこりと優しい微笑みを浮かべて、母上付きの侍女へ素早く意思疎通(テレパシー)を使って報告を入れてくれた。



「アスターシア、気を遣わせてしまってごめんなさいね。この子があなたの弟、アフェクよ」

「アフェク……」


母上の部屋へとやってきた私を母上付きの専属侍女が母上のもとへ案内してくれた。そこには大きな天蓋付きのベッドに上半身だけを起こして、大きなクッションにもたれかかって赤ん坊を抱いている母上の姿と、その赤ん坊の頭を撫でている父上の姿があった。


「抱いてあげて」

 

シーナがベッドの脇に用意してくれた一人用の小さなソファに座ると、母上が赤ん坊の───アフェクの顔が私に見えるようにしてそう告げた。


少し呆然としている私の顔を見て母上は小さく笑う。

その顔には疲労の色が見え隠れしているけれど、本当に嬉しそうで幸せそうにしている。

母上から私の方へ抱きかかえた小さな身体に内心驚いてしまう。


──アフェク。私の愛しい新しい家族。私の弟。

いつか大きくなったときに裏ボス(わたし)からこの国を守ってね。酷な望みだけれど私の願いをあなたに託すよ。



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