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チート過ぎる裏ボス皇女様のゆったり日和  作者: 紗那
Ⅰ.平静皇女とシナリオ①
27/81

20.夢寐皇女と厭世皇女

ノルベルトと話し合ったその日の夜。

何事もなくシーナやレイナに挨拶をしてから私はベッドに横たわり眠りについた──はずだった。


見える景色はもう見慣れた王宮。

ただその部屋は空気がどんよりしているような嫌な感じがして私は身震いをする。

……知っている場所の筈なのに知らない?

よく分からない不思議な感覚に疑問を抱きながらも、

辺りを見回してみると……よく知った人物がベッドの上で蹲って泣いていた。


「アフェク……ごめんなさい……すまない……」

『ノル!?』


今の彼そっくりな姿で泣きじゃくっていた。

ああ、一体どうしたんだろう?

どうして泣いているの?

そう思って近寄ってその震えている肩に手を置こうとしたけれど私の手はノルベルトの肩に触れることなく通り抜けていった。

何が起きているのかさっぱり分からないまま、

辺りの景色は眩く光って場面が移り変わる。


『うっ……ここは』


白い光がある程度柔らかくなって辺りが見えるようになった。

さっきと同じように周囲を見て回ると、

そこに見慣れた二人がいた。


「ご苦労さま、エリノア嬢」

「いいえアスターシア皇女殿下。

まさか貴方様が私めを引き入れてくださるなんて……。

このことが両陛下や摂政殿にバレたら大変では?」

「その辺は問題ないわ。どうにかなるもの」


”アスターシア”っ!!

ああ……分かってしまった。

ここはゲームの世界線の昨日の出来事。

アスターシアがエリノア嬢を手引きし、

アフェクを毒殺しようとしたその日……っ!


恭しく頭を垂れるエリノア嬢に、

アスターシアは何も映さない瞳でエリノア嬢を見下ろしていた。

何故?自分で手引きしてアフェクが死ぬように誘導しておきながら、

その瞳には愉しそうでもなくただ”無”の色を宿していた。

……アスターシアは狂気的な快楽を求めて行ったわけじゃない?


愉しげでも悲しげでもない。

本当に何も映していない。

その顔には感情すらない。

まるで恐ろしいほど綺麗な人形のようだ。

ただ私に分かったことは、

全てにおいてあのアスターシアは退屈そうだということだけ。

退屈を癒そうと何か行動を起こしてみたけれど、

やっぱり面白みも楽しさもない。

そんな風に私には見える。

私は”あのアスターシア”が分からない。

何を思って何を考えているのかさっぱり分からない。

ただ『恐ろしい』と思った。何も無い彼女を。


──するとまた場面は切り替わる。

そこには毒に苦しんでいるアフェクが床に倒れ込み痙攣している姿があった。


『アフェク……ッ!』


声をかけてもやっぱり”私の声”は届かない。

苦しんでいるのに届かない。

ましてやその元凶は私なのだ。

……こうならないために事前に行動したのに、

残酷にも夢はこのような光景を見せてくるのね……。

そう思うとこの光景を見せてくる夢に対して苛立ちが湧いてくる。

けれど見せてくるということは私に知っておけと”何かが”そう言うの?

『目を逸らすな』とこれが”アスターシア(わたし)”なのだと。

 

「アフェク……さぁこれを飲んで。

これは解毒剤だ。アスターシア様の目を盗んで調合してきた」

「あ、あにうえ……」


一瞬にしてこの部屋に入ってきたノルベルトが手に持っていた小瓶の蓋を開け、

倒れたまま動けなくなっていたアフェクの上半身を起こし、

その解毒剤をアフェクの口へ運ぶ。

──なるほど。

ゲームでこれが別名『暗殺未遂事件』と言われていたのは、

アスターシアに隠れてこっそりとノルベルトがアフェクのことを救ったからだったのか。


ノルベルトはアスターシアがやろうとしていたことを知っていた。

だけどアスターシアが怖くて反発できなかった。

だからこうしてバレないようにこっそりとアフェクを救ったんだ。

初めに見た蹲って泣いていたノルベルトは、

後悔から来た涙だったということなのだろう。

──この世界でもノルベルトは弟であるアフェクのことを大切に大切に思っていたのね……。


アスターシアが自分に反発したと知ればどんな行動を起こすのか理解していながらも、

ノルベルトは自分の為ではなく弟のために危険を冒してまでもアフェクを救った。

──それでも()()()()()()()()()()()()

アフェクもノルベルトもフィーリアも……救われない。


『ごめんね……ごめんなさい』


私は触れることはできないと分かっていながらも、

二人をそっと包み込むように抱きしめる。

心が痛い。悲痛に涙が出そうになるもグッと堪えた。

”私に”泣く権利などない。

この状況を作ったのは紛れもない私なのだから、

泣くことも謝罪も許されない。

それでも私は謝り続けた。何度も何度も。

 

二人を抱きしめる腕からは何も感じない。その温かさも。

私にはこんな風に二人に接する資格がないと分かっていながら、

それでもこの夢が覚めるまで私はずっと二人のことを抱きしめ続けた──……。


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