18.怪訝宰相と報告
アフェクの毒殺を防いだその翌日。
この国の宰相アルベールは女皇シシアーティアと皇配バルムヘルツ、
摂政ベルンハルトへ昨夜あったことを報告に来ていた。
「まさかアフェクに付けた侍女がクリムゾン王国の人間だったとは……」
報告を聞いて驚いているバルムヘルツの言葉に、
『無理もない』とアルベールは思う。
使用人の中から厳選した人物がまさか隣国の貴族令嬢で、
国王に命令されて侵入してきた諜報員だとは思ってもみなかった。
加えてここ五年間何も行動に移すこともなく、
従順と第二皇子殿下に仕えていたのだから。
「エリノア・カロル・ブランディーヌ……。
隣国の侯爵家の長女……。
この情報はアルベールが集めてきたのか?流石だな」
「いいえ私が集めた情報ではありません」
「えっ……!?」
てっきり私が情報収集をし、
この事態を事前に防いだと御三方は思われていたようだ。
──アスターシア様には昨夜のことは陛下方にも言うなと言われたが……。
「厳密にはこの報告書はアスターシア皇女殿下が、
私宛に送られた情報を元に私が制作したものです」
「アスターシアが……?」
やはりアスターシア様は陛下方にも秘密裡に動いていたようだ。
あの方は何故か単独行動をしがちに思える。
それもフィーリア様が生まれてから。
今回のような事件に対して単独で動かれるといったことはなかったけれど。
独自に動いて私でも知り得ない情報を集めているようだ。
「アスターシアがなぜ……?」
「アスターシア皇女殿下ご本人からによりますと、
”ご自身の能力で得た情報”だと仰られておりました」
「能力で!?」
……思えば今までアスターシア様はご自身の能力を伏せておられた。
私だけでなく御家族である陛下方、
専属侍女の二人や近衛騎士の二人にも。
アフェク皇子殿下やノルベルト皇子殿下の能力に関しては私たちは知っているのに対し、
アスターシア様とフィーリア様の能力は未だ不明。
フィーリア様に関してはまだ生まれたばかりであるから一体どんな能力を持っているのかまだ分からないけれど、
アスターシア様に関しては既に覚醒されておられるはずだ。
「アスターシアは能力の訓練をカノナス師団長に受けているというのは聞いていたけれど……。
一体どのような能力を使って情報を集めたのかしら……?
アメーリアに向けた手紙の中で”精神系統の能力”を持っているということは分かっているけれど、
精神系統の能力は情報収集向きではないのでは?」
「その辺はどうなんだ、カノナス師団長」
ベルンハルト様の言葉に、
私と一緒にエリノア嬢の尋問をしていたカノナス師団長に視線が向く。
私も彼は少なからずアスターシア様がひた隠しにしている能力について知っている思っていた。
そしてアスターシア様が単独行動をとっている理由も。
「確かに陛下が仰られますように、
精神系統の能力は大抵は相手の心を読むなどの心理へ干渉するもので、
今回のような生まれや年齢、
得意不得意や能力の詳細など個人の情報を事細かに集めるといったことはできません。
しかしアスターシア様は先程仰られていました”精神系統の能力”を含め六つの能力を持っておられるとても稀有なお方です。
加えて『覚醒者』に選ばれた能力者の中でも第一位という強さと影響力を有します」
「六つ!?」
カノナス師団長から告げられた言葉は予想外過ぎることだった。
バルムヘルツ様も初めて知った事実に驚きの声を上げている。
まさかアスターシア様には六つの能力があるとは……。
だからこそ短期間の内にエリノア嬢の個人情報を集められたということなのか……。
加えて世界で最強の能力者の通称『覚醒者』の内の第一位。
複数の能力を持っているだけでも『覚醒者』になれるが、
アスターシア様はそれとその能力の強さも世界中でも抜きん出ているということになる。
元々『覚醒者』に選ばれる人間はごく少数だ。
そして『覚醒者』に選定する権限を持つオルテンシア神聖国の中央にあるオルテンシア大教会の大司教ミアが厳選した中で通った能力者に与えられる通称。
『覚醒者』となれる資格を持っていたとしてもその人物の過去やこれまでの行いによっては与えられない事例もあるほどなれる可能性が限りなく低いものでもある。
──まるで本当にせラフィーナ様の再来のようだ。
「はい。今回はその内の一つ『解析鑑定』を使用されたようです」
「解析鑑定というのは……?」
「相手を視界に入れ発動することで、
相手の個人情報を解析しこの報告書のようにその人間に関するありとあらゆる情報を視ることができるという能力です」
「あの子にそんな能力が……」
……何という能力の効力だろう。
アスターシア様にとって自身の視界に入った人間のあらゆる情報は筒抜けだということだ。
カノナス師団長が言った通りだとすれば、
相手を視界に入れて能力を発動──つまりその意思が必要となるということのようではあるが。
つまりはアスターシア様自身が能力の使用を望んでいなければ、
この『解析鑑定』という能力による情報収集は行われないということなのだろう。
──しかし驚くべきなのはこれがまだ六つの内の一つであるということ。
残り五つの内一つは私が昨夜見たエリノア嬢の行動を制限していたあの能力なのだろう。
それを除いてもあと四つ。
この四つに関しては全くもって分からない。
そもそもアスターシア様が能力を人前で初めて使用されたのは昨夜が初めてだ。
私が知らないことは山ほどあるだろう。
「アスターシア皇女殿下は陛下からご相談を受けたと聞いた翌日、
アフェク皇子殿下の元に半日おられましたよね?」
「えぇ、私が今回のことを断片的に予知して……。
けれど私やバルムヘルツはアフェクの元には居られないから、
アスターシアに相談したわ……。
その翌日には私との約束通りアフェクの傍にいてくれたみたいだけれど」
「アスターシア様がアフェク様のお傍に居られたその時にエリノア嬢の情報を収集したのだと思います」
「つまりアスターシア皇女殿下は、
アフェク皇子殿下をお守りすると同時に、
エリノア嬢の情報を視ることが目的だったということですか」
「そうだと思われます。
そこはアスターシア様ご本人ではありませんので私めの憶測ではありますが……」
アスターシア様は女皇陛下との約束のアフェク皇子殿下をお守りすることと、
エリノア嬢の情報を洗いざらい集めることを目的として、
昨日は半日間アフェク皇子殿下の元に居られたということか……。
どこまでもアフェク皇子殿下をお守りしたいという思いが伝わってくるようだ。
アスターシア様は本当にご兄妹を大切に思われているのだな……。
「後々にアスターシア様ご本人から、
ご自分の能力についてお話して下さると思いますよ」
「そう……分かりました、ありがとう。カノナス師団長」
陛下は短時間で襲いかかってくる大きな情報に少々追いつけていないようではあったが、
どうやら情報を整理することができたようだ。
八年間明かされてこなかったアスターシア様の情報。
アスターシア様が隠してこられたことが明かされる日はそう遠くはないのだろう。




