《BD記念》孤独な魔法師は多彩皇女に祝われる。
アスターシアの近衛騎士の一人『ジスタ・フォークス』のお誕生日祝いのお話。
※時間軸としてはアスターシアが六歳の頃です。
→サブタイトル「最強皇女と兄弟」(1話~13話)付近。
──現魔法師団四番隊隊長、ジスタ・フォークスは子爵家の生まれだった。
貴族の人間であるならば『能力』は必須だとされている中で、
彼は子爵家の長男でありながら能力を持たない『無能力者』として生まれたため、
実の父親からも子爵家に居座り続ける妾からも実の弟からも嫌われて育った。
──僕を唯一愛してくれたのは病弱だった実の母だけで、
使用人からも陰口を叩かれる惨めな日々を送ってきた。
父は弟を産んで弱ってしまった母をあっさりと見捨て、
どこかから連れてきた女を妾にし腹違いの弟を生ませた。
それでも能力者であった実の弟は次の後継者として優しく愛情を込めて父自らが育てていた。
僕や母は領地内にある古びた一軒家に追い出され、
貴族の生まれでありながら領民と同じように自給自足の生活を送った。
そのお陰か領民からはとても優しくされ、
僕らが困っていたら大勢の人が助けてくれた。
僕にとっての”家族”とは母と領民だった。
──そんなある日、
魔法に精通している農家のおじさんから、
「魔法学園へ通ってみたらどうだ?」と言われた。
興味はあったけれど病弱な母を残して王都へ向かうことなんてできないと言ったら、
それを聞いていた母から「興味があるのなら行ってきなさい」と後押しされた。
そのことがきっかけで僕はエスポワール魔法学園の入学試験を受けることにした。
──エスポワール魔法学園。
ここは先々代女皇アストレア・コンヴィクションが、
魔法師育成のために建てた学園。
魔法専攻のカリキュラムが組まれた学園で、
成績優秀者には『魔法師団』への入団権が獲得できる仕組みになっている。
魔法学園の他に通常の教育を施す学園も同時期に建てられた。
『魔法師団』の給料は相当高いと学園内で噂を耳にした僕は、
魔法師団への入団を目指してあらゆる魔法研究や修行を必死に取り組んだ。
──お金を貯めて、
王都にあるエスポワール大病院に母を診断してもらうために。
そう決意して必死に取り組んできたけれど、
僕の願いは虚しく、母は僕が二年生の頃に亡くなった。
最期を看取ることもできず、
火葬された母のお骨が農家のおじさん経由で僕の元へと届けられた。
母を失った悲しみに暮れていた時に、
追い打ちをかけるようにもう一つ悲しいことが起きた。
──それは女皇アステリアが崩御したこと。
国中は大きな悲しみに包まれ、
街中を歩けば真っ黒な服を着た人たちをたくさん見かけた。
そしてその数日後新たにシシアーティア第一皇女が女皇として即位した。
■
そうして悲しみに暮れ、
目標を失いフラフラとさ迷っていた僕の前に、
帝国最強の魔法師と謳われるカノナス師団長が現れた。
突然学園内の廊下を歩いていた僕に声をかけてきたと思ったら、
「魔法師団へ入らない?」と言われた。
突然のことに驚いて反射的に頷きを返してしまい、
そうして僕は流れるように魔法師団へと入団した。
当時の魔法師団には女性はおらず、
騎士団同様男性のみを受け付けていた。
何かやっていないと母を思い出してしまうと思った僕は、
無心で魔法師団の訓練に励んだ。
そうして二年後に僕は四番隊の隊長を任されるようになった。
ただがむしゃらに訓練していくうちにこの頃にはもう”カノナス師団長の次点”、
”第二のカノナス師団長”と同じ団員たちから言われるようになっていた。
そうしてその三ヶ月後に魔法師団の規則に大きな変化が訪れた。
──そう、女皇シシアーティアが魔法師団へ女性の入団を許可したのだ。
それにより秋の入団試験には男性だけでなく女性の姿も見られるようになった。
この大きな変更は世間を賑やかせた。
もちろん先代女皇の時代から魔法師団にいる一部の男子はこの変更に不満を抱いていたが、
その年に入団してきたグローリア・ヴァレンタインの魔法の精密性と速度に圧巻され、
次第に不満の声は自然と消えていった。
その翌年の春。
カノナス師団長の補佐となる副団長を決めようという会議が行われた。
その際に一番初めに僕が選ばれたけれど、
僕はそれを辞退した。
この道の楽しさを教えてくれた恩人であるカノナス師団長の助けになりたい気持ちはあるけれど、
僕は元々そういったことは得意じゃない。
そうして様々な意見が出された末、
僕の次点と言われるようになったグローリアが魔法師団副団長を務めることになった。
■
──それからしばらく経ったある日。
カノナス師団長に呼ばれて僕は第一王宮にある大広間へと足を踏み入れた。
つい先日女皇陛下の元に第一皇女が生まれ、
国内は次代の女皇の誕生に大きなお祝いムードに包まれていた。
この日、僕は騎士団の六番隊隊長ユージス・コグニシオン、
九番隊隊長ルーカス・グラディウスと共に第一皇女アスターシア様の近衛騎士に任命された。
「──では以上が近衛騎士の守っていただくべき規則となります」
女皇陛下が作った新たな役職『宰相』。
その宰相に選ばれたアルベール・アルフレッド宰相に僕達は近衛騎士として守るべきルールを教わった。
こうして僕は次代の女皇の近衛騎士に選ばれた。
■
『──お前はなんで生まれたの?』
不意に聞こえた声にバッと勢いよく起き上がる。
窓から差し込む日差しが朝の訪れを示していた。
自分の生まれた日だからなのかかつて父の妾に言われた言葉を思い出してしまったらしい。
馬鹿馬鹿しいとベッドから起き上がり、
テーブルの上に広がる数枚の便箋をちらりと見る。
この頃になって父と実の弟からお金の催促が書かれた手紙が送られてくるようになった。
僕がアスターシア様の近衛騎士になったと知ったからだろう。
何しろ立場としては子爵である父よりも僕の方が上になってしまったからだ。
今まで僕に一言も告げたことのない優しい言葉をつらつらと書き連ねられている手紙の内容を初めて見た時は吐き気がした。
──それをなぜ今になって告げてくるのかと。
今はもう憤りを通り越して呆れを感じている。
流石は金に目がない欲望丸出しの貴族様だ、と。
恵んでなどやるものかと思うけれど、
最近になってからは魔法師団の訓練場のある区間に無理矢理入ってきて僕を無理矢理に家に連れ帰ろうとやってくることが多くなってきた。
その度に対応した他の団員達が上手く引き返してもらうように応じてくれていて申し訳なく思っている。
それでも皆、僕を優しく受け入れてくれていて、
本当にここに来て良かったと心から思う。
「では、行ってくる。
魔法道具の調整と管理は任せたよ」
「はいっ」
僕が任されている四番隊の隊員達にそう告げて、
僕は第二宮殿へ急ぐ。
今日はルーカスさんが九番隊の訓練があるため、
僕が代わりに近衛騎士の仕事に入ることになっている。
アスターシア様は遅れたとしてもあまり気にされない方だと分かっているけれど、
彼女を守る騎士である僕が時間に遅れるなどあってはならない。
第二宮殿に到着した後、
門の付近でつい先程まで近衛騎士としてアスターシア様の傍についていたルーカスさんと合流し、
アスターシア様は今、先日義弟となられたノルベルト様と共に庭園へいるという情報をもらう。
第二宮殿を後にするルーカスさんに頭を下げ、
急いで庭園へ向かうとそこにはノルベルト様と共に楽しげに談笑しているアスターシア様の姿があった。
僕に気付いたユージスさんが手を振り、
僕が近付くと「おはよう」と言ってくれた。
今日もまた少し離れたところでお二人を見守る。
ノルベルト様が来られてから思ったことだが、
アスターシア様はこの頃よく笑われるようになった。
初めてお会いした時、
その時はまだ赤子であったけれど、
すくすくとご成長されていくうちにアスターシア様が年相応な明るくはしゃがれることはなかった。
三歳だった頃は既に勉学に励み、
どう見ても年相応には見えない落ち着きがあった。
年相応に明るい笑顔を見せることはなく、
いつもどこか達観した目をしていた。
母君である女皇陛下のような予知能力も──そもそも能力自体、開花していなかったはずなのに。
僕がよく知る三歳児には全く見えず、
まるで身体の小さな大人だと感じた。
──けれど、ノルベルト様が王宮にお越しになられた日。
珍しくとても悩んでいた姿を思い出す。
初めて来たこの王宮でどうやって馴染ませようか、
母元から離れ悲しい思いをしているノルベルト様にどう接しようか。
眠る時間になるまでずっと考えておられた。
『悩み』というものとは無縁のように見えたアスターシア様が、
分かりやすく悩み考えておられたのがノルベルト様のことだった。
情に厚いお方であることはその前から知っていたけれど、
勉学に費やしていた時間すらも日々のノルベルト様とどう接し、
明日は何を一緒にやろうかということをずっと考えておらた。
初めは少し緊張しておられたノルベルト様も、
そんなアスターシア様のことを理解されたのだろう。
初めて会った日やその翌日に比べて、
柔らかい雰囲気を纏うようになった。
今では心からアスターシア様のことを敬愛しているように見える。
「あっ、ジスタ!ちょっとこっちに来てもらっていい?」
「どうかされましたか?」
パッと不意に後ろを振り向いたアスターシア様が僕の姿を見つけると瞳を輝かせて手招きをする。
一体どうされたんだろう……?と思いながらそっと傍へ歩み寄り、一定の距離を保つ。
「これをジスタにあげたくてずっと待っていたの。
お誕生日おめでとう!」
「おめでとうございます」
一定の距離を保っていた僕の傍へググッと近付いたアスターシア様から手渡されたのは細長い箱。
綺麗にラッピングされた箱に僕は小さく首を傾げる。
「さぁ、開けてみて!」と楽しげにアスターシア様に告げられ、
そっと開けてみるとそこには木製の杖が入っていた。
「これは……?」
「実はカノナス師団長にもうすぐジスタのお誕生日だってことを教えてもらってね。
それでお誕生日の贈り物を何にしようかたくさん考えたの。
──貴方は実用性のある物を好むと聞いて、
魔法を記録して通常の魔法の展開よりももっと早く展開する魔法の杖をカノナス師団長と作ってみました!」
「魔法の展開を早くする……ですか?」
──とんでもない代物をあまり好きではなかった自分の誕生日にいただいてしまった……。
そもそも魔法を展開させるためには、
まず己の思考の中で何の属性を使うかを選択し、
どのような用途で使うのかをイメージして膨張し、
それを魔法道具を介して現実世界に実現させる必要がある。
アスターシア様からの説明によると、
この魔法の杖は予め扱う魔法とその属性を杖に記録させておき、
必要となった時に杖から脳内へ送られた選択肢から扱いたい魔法+属性を脳内で選択さえすればその時点で魔法が展開するというものなのだとか。
──つまりは念じるだけで魔法を展開させることができる。
通常は魔法の種類と属性を思考から魔力を通して魔法道具へ送り込む必要があるのだが、
それを魔法道具に覚えさせておくことで通常よりも早く展開することができるらしい。
──こんな代物、今までどこにもなかったのに。
それをアスターシア様が考案してカノナス師団長が作り出したというのだから恐ろしい。
「まだ試作段階ではあるのだけれど、
その杖はジスタ専用だから。
ぜひ使ってみてほしいの」
「……ありがとうございます。有難く頂戴致します」
深く頭を下げるとアスターシア様や隣にいたノルベルト様からの嬉しそうな雰囲気が伝わってくる。
──そんなにも気にかけてくださっていたのか。
今まで魔法師団の皆に祝われることはあったけれど、
最も光栄な経験をさせていただいてしまった。
皇族である本来ならお見かけすることすら簡単には叶わない方々に祝いの言葉を賜るなんて……。
今まで実の家族から虐げられてきた日々など些細なことのようだ。
好ましく思ってこなかった自分という存在を認められたような気がして心が暖かくなるのを感じる。
──これからもあなたとあなたの大切な方々をお守りします。
戴いたこの杖をマスターして。
地面を見る自分の視線を手元の箱に移し、僕はそう誓う。




