15.平静皇女と狐疑
翌日になり私は母上と約束した通りアフェクの部屋にやってきていた。
ここ最近は色々と勉強もしだしたようで色んな本が部屋の本棚に置いてある。
「アフェク、こっちの本よりもこっちの方が分かりやすいと思うわ」
「こっちですか?分かりました!」
部屋にある本棚でアフェクの今日の勉強科目を決める。
まだ礼儀作法とか国語とかそういった基礎知識でいいんじゃないかなぁと以前言ってみたことがあったのだが、
「それでは早く姉上と兄上のお役に立てないじゃありませんか」と膨れっ面で言われてしまった。
シーナには「アスターシア様が仰るのは何だか矛盾しますね」と苦笑いを浮かべられたし。
まぁ確かに三歳で歴史書を片っ端から読んでいたけど……。
そもそも中身が高校生だから許されるようなものであって、
五歳児に数学や経済学はまだ早いと思うの。
実際他の王族や貴族はどうなのか知らないけど。
私が勧めた本を手に取ってアフェクはソファに座り、
早速中身を読み始めた。
こういった時すぐに没頭できるのはいいことよね。
そんなことを思いながら私も手に取った本を読む──振りをして、
エリノアさんの情報を『解析鑑定』で読み取る。
『エリノア・カロル・ブランディーヌ』
生まれは隣国クリムゾン王国のブランディーヌ侯爵家の長女。
年齢は二十八歳。
能力は『毒を操る能力』──これだわ。
条件は食べ物や飲み物などの”口に含むもの”に限定して能力を使用できる。
直接他人の人体に触れることで体内に毒を盛ることはできない。
ただし自身の身体ならば体内の毒の操作は可能。
加えて毒を空から生み出すことはできない。
あくまでも毒の効果を自在に操ることができるだけのようだけれど、
例えば本来ならそこまでの効果はないはずの毒草を利用しても、
効果の強弱を変えられるのならわざわざ強力な毒草を用意できなくても現地でどうにかなるということになる。
だからこの王宮内に初めてやってきたときに持ち物検査で引っかからなかったのかもしれない。
加えて隣国とはいえ他国の貴族令嬢を王宮内に忍び込ませることができたということは、
少なからず国内の貴族の中にエリノアを誘導した人物がいるはずだ。
理由はなんであれ国内の──しかも貴族が背信行為を行っているわけなのだから、
これはアルベール宰相に持ちかけてみる必要がありそうね……。
実行するのなら今日の夜。
誰もが寝静まった時間に仕込みを準備するだろう。
今は私がいるから余計な真似はできない。
アフェクの持つ能力が『瞬間移動』であることは五年も行動に移さず、
静かに観察していた上アフェクの専属侍女だからもう知っているだろうけれど、
肝心の皇位継承者である私の能力については不明瞭なままだからだ。
エリノアは私やノルベルト、フィーリアの能力もアフェク同様に一つしかないと考えているはず。
いや、それ自体は何ら不思議ではない。
大体の能力を持って生まれた人間は一人につき一つであるということが一般的だ。
ただごく稀に複数の能力を持って生まれる者やある程度の年齢に達してから二つ目の能力を開花させる場合がある。
私の場合は完全に前者だけれど。
一番有名どころでは初代女皇セラフィーナがそうであったとされる。
あと最近では第百二二代目女皇アストレアもそうだったらしい。
もちろんこういった複数の能力を持つ者はエスポワール帝国だけには限らない。
大陸中央部にある『オルテンシア神聖国』なんかもそういった能力者が生まれてくることが多い。
何はともあれまだ私に対しては何らかの行動を起こすことは無謀だと考えてくれている分には、
何かしらの対策をされていない以上は動きやすい。
とりあえず今日は久しぶりにアフェクと一日過ごそうかと思っている。
生誕祭が終わって大きな行事は今のところなくなってからは、
アフェクもノルベルトも勉強に打ち込んでいるようで、
邪魔になってはいけないと普段は少しだけ様子を見てからすぐに自室に戻っているか、
内緒でしている護身術や剣術の稽古の方へ行っていることが多い。
久々に一緒にいられるからなのか少し嬉しそうにしているしね。




