13.アフェク誕生祭
いよいよ今日──千五六六年三月六日はアフェクの三度目の誕生日。
国内外の来賓者が王宮の広間に集まっている。
私としては自分の誕生祭の時や他にも第一皇女として母上と共に出席したことがあるのだけれど、
ノルベルトは今日が初めて第一皇子としてこういった行事に臨む。
「不安?」
「ええ、少しだけ」
「そっか……。
大丈夫よ、先生も礼儀作法についてはもう教えることはないって言ってくださったのだから。
それくらいきちんとできるという証よ、自信を持って!」
広間に続く大扉の前で待機している私の隣には、
侍女たちによって着飾られたノルベルトが並んでいた。
私は青と金色のドレス、
ノルベルトは黒と白に少しだけ赤色の刺繍がある軍服のようなものを着ている。
私たちが着ている正装はこの日のために帝国でも超有名なブランド店で特別受注したものだ。
普段からドレスは着ているとはいえ、
こういった特別な日に着るドレスにはまだ慣れない。
緊張しつつも今日は大事な日だ。
閉ざされた広間の大扉の向こうから私と次にノルベルトの名前が呼ばれ、
大扉がギィ……と大きな音を立ててゆっくりと開かれるのと同時に、
私は先導して大勢の来賓が集まる広間の中へと歩を進める。
その後をノルベルトが一歩遅れてついてきているのが気配で分かる。
「まぁ……あの方が第一皇子殿下なのね……!」
「とても凛々しいお顔立ちねぇ」
「第一皇女殿下も変わらず麗しい……」
いたるところから私やノルベルトに向けられた感嘆の言葉が聞こえてくる。
その中にはノルベルトに一目惚れしたように頬を赤く染めている令嬢も視界に入り、
内心『すっっごく気持ちが分かる!』と思いながら顔には出ないように注意する。
広間の一番奥にある玉座に座る母上の元までやってきた私たちは、
ぐるりと方向転換して次に父上に連れられて入ってくるアフェクを迎え入れる。
「まぁ何と愛らしい!陛下と同じ銀色の髪に青空の瞳をしておられるわ……!」
「あの方が第二皇子殿下アフェク様……」
父上と手を繋いでこちらに向かってくる着飾ったアフェクの姿に、
まだ幼いながらにもゲームで見た正装バージョンの立ち絵姿の面影が見える。
流石『らくこい』シリーズの中で唯一攻略制限があっただけある。
……いやよくよく考えたらいつかはその姿を生で見るのでは?
そう思い至ると同時にアフェクの成長が怖くなってきた。
『らくこい』シリーズを全網羅している親友やネットで見かけたファンの大勢が、
アフェクに堕ちている姿を見てきた私的には、
その時に心臓が動いているか分からない。
ノルベルトが大きくなった姿はまずゲームに登場していなかったから分からないけれど、
アフェクとフィーリアの兄妹は『らくこい』シリーズの中で私的に一番美麗だった。
ちなみにアスターシアはシルエットだけの立ち絵しかなかったから、
ゲームでの容姿は私と同じなのかは分からない。
「皆様、今日は我が子第二皇子アフェクの誕生記念パーティーにお越しくださりありがとうございます。
私たちに新しい家族が増え、より一層の我が国の繁栄を願う次第です。
──この場において第一皇女アスターシアを次代の女皇、第一皇位継承者とすることをここに宣伝します!」
玉座からゆっくりと静かに立ち上がった母上を見て、
話し合っていた来賓たちがぴたりと話すのを止め、
母上の方へ視線を向けて言葉を待つ。
「第一皇女殿下にセラフィーナ様のご加護を!」
広間を覆うような祝いの言葉が空気を大きく揺らす。
祝いの言葉以外何も聞こえない。
これが私に向けられた期待なら。
応える以外の選択肢など存在しない。
”これから先起こるであろう最悪の事態からも”私自身の命に代えてこの国を守り切ってみせよう。
かつて多くの人を守り導いた『世界を救った三英傑の一人』エスポワール帝国初代女皇セラフィーナのように。
この手はきっと守ることには向いていないのかもしれない。
ゲームのアスターシアは最終的にエスポワール帝国を滅亡させた”最恐の裏ボス”なのだから。
それでも──今の私には大切な人がいる。
想いは大きな力になると信じて――アフェクやノルベルト、
母上や父上に叔父上や叔母上、アルベール宰相やシーナとレイナ、
そして……いつかは生まれてくる私の妹フィーリア。
たくさんの人たちを”私は”救う。
ゲームのアスターシアのようにはなりはしない。絶対に。




