10.制度改定会議
母上が待つ第一会議室にやってきた私は、
用意されていた席に座り話の続きを待つ。
この部屋には女皇である母上と皇配の父上、
その斜め左右には内務卿のクリフォード・エルヴィーノと法官ホレス・ジェレマイアの二人が座っていた。
「昨夜あなたに提案された内容を二人にも話してみました。
具体的な改正案はある程度出ているので、
内容を記した用紙をあなたに見てもらいます。
それから提案者であるあなたの意見を伺いましょう」
「分かりました」
父上の後ろに控えていたアルベール宰相から、
大雑把な改正案が書かれた用紙を渡される。
母上の後ろには叔父上ベルンハルトの姿もあった。
改正案をじっくりと読んでみると、
まず基本的には私が母上に提案したことが載っていた。
一つ。
皇族入りした庶子の片親が一部地域において既に優秀な功績を残し国へ貢献している場合、
その者を王宮直属の分野に適した組織に推薦すること。
これには本人の同意が必要であり、
本人より同意を得られなかった場合においては適用されない。
二つ。
報奨金を庶子からの志願があった場合において、
月々分割払いにし文通による交流を許すこと。
この場合は庶子本人からの志願が必要であり、
第三者による志願は受け付けない。
つまりは今までの実の家族と交流を持つことが許されなかった制度内容を、
『交流を持つ』点だけ許されるようになったということ。
これは改正案の一部でしかないけれど大きな進展だ。
しかし実際に会うことは許されない。
許されるのはその子の親が王宮直属の組織に加入した場合のみ。
これは子が選ばれた時点で既に親が”国へ貢献している功績”を持っていなければ容認できないということ。
結構な難関の壁ではあるけれど、
代々家系がそういった仕事を生業としている場合は有利だろう。
とはいえ本人の同意が必要ではあるけれど。
今までこの制度が改正されることはなかった。
その最もな証人が叔父上だ。
叔父上が皇族入りしたのはノルベルトと同じく五歳の時。
それ以降叔父上は実の父親に会うどころか文通による交流すらしていない。
ちなみにこの制度は貴族には適用されないものだ。
あくまでも帝国内の庶民の出の子供に限る。
貴族が皇族入りするには皇女の婚約者──配偶者となることだけ。
「この改正案に異論はありません。
しかし一つだけ提案があります」
「構いません」
「この改正案を”現在”の人物のみに限らず、
”過去”の人物にも適用していただけないでしょうか」
「アスターシア……」
”現在”──つまりノルベルトとその母リリーさんに限らず、
”過去”の叔父上とその父ブルクハルト・クリスティアンにも適用してほしいと私は提案した。
叔父上の父ブルクハルトさんは帝国で一番大きな商会を営む会長だ。
他国との貿易・外交にとても貢献している方。
それならばこの改正案も彼に適用する資格はあることになる。
「それは良い提案ですね!」
「しかし殿下は義弟とはいえノルベルト様に少々甘いのでは?
それでは今までの──……」
ああ……始まった。
保守派の典型的な否定の文句が。
人は今まで当たり前だったことが変わることに恐怖を抱く。
その気持ちは分かるけれど古い決まりは時に害だ。
それに私の提案は何も家族のためだけではない。
有能な人材を王宮直属の各分野ごとの組織に集め、
その分野をゆくゆくは国にとって利益の生じる発展に導いてもらう、
またはそういった提案を出してもらうことも目的にしている。
「まぁまぁ、良いじゃありませんか。
新しいこともどんどん取り入れないと廃れる一方ですよ」
「それは……」
エルヴィーノ公爵の言葉に思う節があったのだろう。
それ以降ジェレマイア侯爵は口を閉ざしてしまった。
「では皆異論はないということでよろしいですか?」
「ええ」
「構いませんよ」
「では今すぐにとはいきませんが来年には実行するということで、
具体案を早速詰めていきましょう」
流石にすぐには無理だろうなと思っていたけれど、
推薦状とある程度の説明は後日リリーさんのお家へ行って、
事前に説明に行くそうだ。
どうなるのかは分からないけれど何とかなって良かった……。
そう思いつつ気を引き締めて具体的な改正案を纏めていくことに集中した。




