《小話》華美皇女と仮装のお茶会(2)
会場へやってきた私たちは使用人により開けられた広間の大扉を潜り、
ハロウィン仕様に飾られた広間に目を奪われる。
パンプキンのランタンが部屋の隅に飾られ、
机の上にはハロウィン柄のテーブルクロスが広げられている。
「凄いですね……っ!」
「本当にね……」
こんなにも素敵な部屋に飾り付けてくれた使用人たちには感謝しかない。
部屋の中に入った私達とほんのちょっと遅れて母上と父上、叔父上が入ってきた。
「まぁまぁなんて可愛らしいの……っ!」
「シシアーティア、少し落ち着いて」
「姉君、落ち着いてください」
大きく目を見開いて口元を両手で押さえながら私達の姿を見た母上が歓喜の声を上げる。
そんな母上を父上と叔父上が諌めている。
去年もこの光景を見たから私は慣れたけれど、
去年も見たはずのノルベルトと初めて見たアフェクは驚きで口をあんぐりとしている。
母上は魔女の仮装、
父上はお化け、叔父上は死神の仮装をしている。
それぞれ本当に似合っていて素敵だ。
それにしては母上は似合っているのは無論のこと、
父上は少しゆるキャラのようなお化けの格好をしていているけれど、
叔父上は死神……似合いすぎてある意味怖い。
「それじゃあ始めましょう!」
ハロウィンという行事は死者の霊が家族を訪ねてくるとされ、
死者の魂は幽霊や妖精、悪魔などの姿をしており、
家に戻ってきたときに機嫌を損ねないように食べ物や飲み物を用意しておくというものらしいのだが、
私たちがやっているのは単純にいつもとは違う格好をしてお菓子を食べるだけのお茶会になっている。
使用人たちに用意してもらった様々な茶菓子を食べながら、
作法も立場も関係なくただ雑談をするという時間。
この時間を作るようになってからは、
あまり会えなかった父上や叔父上とも話す機会が増えて、
徐々に二人のことも知っていくようになってきた。
「アスターシアのその格好は一体何なんだい?」
「これは妖狐というものです。
妖狐というものは人間や狐以外の動物に化けるそうですよ」
「ほぅ……興味深いな」
私の元へやってきた父上からの質問に私はうろ覚えではあるけれど妖狐について説明する。
妖怪などに馴染みのない父上には伝わるだろうか……と不安に思いながらも、
どうやら納得してくれたようで安心した。
「耳や尻尾もあるのだな」
「そうですね。元は狐ですから」
「あの狐か?」
「ええ、山付近でよく見かける動物の狐です」
「ふむ……」
狐はこの世界にも存在する。
エスポワール帝国にある山付近や山中は狐の生息地になっていて、
山近くにある村や領地には狐が普通に出没する。
父上もあの狐が人に化けたりすることは知らないため、
新しい知識を身に付けられて少し楽しそうだ。
「アフェクは狼男、ノルベルトはヴァンパイアか」
「そうです。二人とも本当に似合っていますよね」
叔父上と会話をしている二人の方へ視線を向ける。
ノルベルトは叔父上に公務について教えてもらっているため、
私やアフェクよりもよく会うことが多い。
「本当に可愛らしいわ~幸せねぇ」
「母上」
私たちを見て悶絶していた母上がどうやら復活したようで、
私と父上の傍にゆったりと寄ってくる。
その手に持っている小皿にはパンプキンパイが乗っていた。
「これ、本当に美味しいわよね。
あのかぼちゃがこんなにも甘くて美味しいものになるなんて」
「確かにお菓子の材料にしてしまうなんて斬新だな。
これはアスターシアが作ったのだろう?」
「はい」
お菓子作りなんて久々にしたから上手くできているかは分からなかったけれど、
味はきちんと食べられる美味しいものになっていることだけは自信がある。
何しろ自分で作った時に味見したし。
まぁシーナ達にはすごく驚かれたし注意されたけれど。
作法も礼儀も関係ない場であるのに、
パンプキンパイをフォークで食べている母上の姿は優雅で綺麗な所作だ。
やっぱり意識しなくても身体に染み込んでいるのだろう。
「アスターシアが試行錯誤して作った創作菓子はどれも美味しくて良いわね」
「ありがとうございます」
お菓子料理しか経験がないのだけれど、
こういった私的なパーティーや行事の時にこうして前世で作ったお菓子を振る舞えるのは嬉しい。
母上たちにとっては見たこともない知らないお菓子だけれど、
こうして『美味しい』と言って好んでくれるのは作り手冥利に尽きる。
「母上は魔女なんですね」
「そうよ。今日だけは悪い子になろうと思って」
ふふ、とお茶目に笑う母上の姿に私もつられて微笑んでしまう。
たまに見せる子供っぽいところを見る度に、
女皇として、母親として私たちに見せる少し遠い存在のようなあの感覚がスっと薄まる感覚がした。
「アフェクたちもすごく素敵だし……。
この催しをアスターシアから教えてもらってよかったわ」
「そうだね。立場も関係なく自由に過ごす時間も、
良い気分転換になって有意義だ」
「ええ、本当に」
母上も父上も本当に心から楽しそうにしていて、
去年何気なくアフェクに教えたハロウィンという行事を教えて良かったと心から思う。
それにしては叔父上、どこであの鎌作ったのかしら……?
色々と小物に関しての疑問は残りつつも、
私たちは今年のハロウィンパーティーを満喫した。
■
「姉上、楽しそうですね」
「ああ、本当によかった」
叔父上と話した後、
ノルベルトとアフェクの二人は両親と喋る姉の姿を見ていた。
普段は艶やかな黒髪に青を基調としたドレスを身にまとっているけれど、
今日のアスターシアは全身が真っ白で神聖な存在のように思える。
何かと一人で抱え込み、
一人で何とかしようとしてしまうアスターシアのことを、
二人は本人に直接問い詰めはしないものの気にかけていた。
何かから必死に避けようとする生き急いだあの姿は、
見ていてハラハラするものがあって不安だった。
アスターシアは僕たちを置いていくのではないかと。
どこまでも遠くへ行ってしまうのではないかと不安になった。
けれどいつものような何かを考え込んでいる様子ではなく、
本当に心から楽しんでいる姿を見てやっと安心できた。
これから先も彼女の笑顔を守れるように。
ノルベルトとアフェクは密かに自分たちで彼女を守ろうと誓いを立てた──……。
小話『仮装のお茶会編』はこの話で終了になります。
次回からは本編に戻ります。




