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チート過ぎる裏ボス皇女様のゆったり日和  作者: 紗那
第一章『最強皇女と帝国』
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01.最強皇女様誕生!

ーーどうしてか重たい瞼を開けてみると、見慣れない豪華な装飾が施され、見たことのないシャンデリアが部屋を明るく照らしている。


ここはどこなのだろうか……?



ぼんやりとする意識の中、全く見たことのない場所にどうして自分がいるのか分からず、そして何故か身体は思うように動かせない。

一体何が起きているのだろうか……?


「陛下! ご無事に御生まれになりました! 元気な可愛らしい皇女様でございます!」

「まぁ……! なんて愛らしいの……! 初めまして可愛い私の皇女様。あなたに会えて嬉しいわ」

「あぁ、とても愛らしい子だ。よく頑張ったねシシアーティア。そしてありがとう可愛い僕たちの子に会わせてくれて」


不意にギュッと隣に寝転んでいた女性に抱き抱えられる。

ーーこの人たちは一体何を言っているんだろうか? 皇女様?私はただの一般人なのに。

高校に通う途中だったことは覚えているけれど、その後のことは霞がかっていて何も思い出すことができない。


というか()()()()()()()?どこかで聞いたか見た覚えのある名前だ……誰だったっけ?


「シシアーティア。この子の名前はどうする?」

「そうね……実はもう決めているのよ!『アスターシア』。あなたはアスターシア。私の可愛いアスタ、よろしくね」

「アスターシア……アスタか。良い名前だね」


シシアーティアと呼ばれた女性のすぐ傍に座っていた男性が、私を見下ろしながら優しい声色でそう告げる。

ーーアスターシア? 今、この人たちは私のことをアスターシアと言ったの?!


それって確か……私が遊んでいた乙女ゲーム『落花流水(らっかりゅうすい)-眷恋の契り-(-けんれんのちぎり-)』の裏ボスの名前じゃない?

巷で有名な悪役令嬢に転生ではなく、ラスボスに転生するのでもなく、まさかの裏ボスに転生するとは思わなかった……っ!!


アスターシアはファンの間では『らくこい』と呼ばれている乙女ゲームのその裏ルートのボス『アスターシア・コンヴィクション』。

彼女は全攻略キャラのルートをクリア済みで、さらに攻略対象者との相性・好感度がMAXでなければ出てこない、全キャラ裏ルートのボスで最強最悪のチート過ぎる皇女様なのだ。

この裏ルートでエスポワール帝国の皇族間にあった姉弟姉妹の関係性。第二皇子アフェクルートの回想で出てきた『毒殺未遂事件』『女皇暗殺事件』の真相が分かるのだ。それくらいゲームの核心に触れるルートだったりするのだ。


そして何故『最強最悪の皇女』と呼ばれているのか。

それはこの裏ルートではヒロインがラスボスのフィーリアと共に共闘するという個人的に熱い展開が繰り広げられたのだが、それでも彼女には勝てなかった。

どれほど影響力があり力があり強い意志があり、勇気があり度胸があり愛の強さがあれど彼女には()()()勝てない。


ーー本当の意味でのバットエンド。


ヒロインが持つ聖女の万能な力があろうとも、ラスボスのフィーリアのチート能力をもってしても、全キャラが一致団結して共に戦おうとも勝てない。ーーどうしても負けてしまう。

そんな強過ぎて逆にファンの間からは批判を食らったキャラ。何しろ攻略対象者だけではなくヒロインまでもが死亡してしまうのだから。


まさか……そんな、そんな彼女に転生したなんて……。

今ものすごく頭を抱えたいけれど何故か身体が上手く動かない。しかしもうどうしようもないことは仕方がない。

ーーそれならばアスターシアのチート能力を駆使して、ゲームの世界観をぶち壊してしまえばいいのでは……? うん、そうと決まれば落ち込んではいられないな。私は思考を切り替えて心の中でそう決意する。


ーー今優しい顔をして私の顔を覗き込んでいるのは、らくこいの舞台『エスポワール帝国』の現女皇シシアーティア。そしてその隣にいる男性は皇配バルムヘルツ。私の両親だ。


とりあえず今の現状を確認することにしよう。まずは思うように身体が動かないこと。そして、先程のシシアーティアに告げていた助産師の言葉を思い返すと、つまりはまだゲーム開始前のアスターシアが産まれた日。

それが今日で、だからこそ今の私はまだ赤ん坊で、身体が思うように動かないのだろう。だからシシアーティア……母上は私に対して『初めまして』と言った。

ーーならばまだゲームのシナリオを変えられる。それも根本から。


ゲームのアスターシアは捻くれていたし性格が歪みきっていた。強い精神力を持ち正しい知識を得て、ゲームシナリオの強制力に負けないように今からたくさん勉強していかないと。


ゲームをプレイしていた身だからある程度は何が起きるのかは分かっているつもりだけれど、流石にゲーム開始前の今は一体何が起きるのかは分からない。

そもそも私が考えているような”ゲームの強制力”というものが働くとは限らないわけだし、この世界で必要な知識は頭に叩き込まないと。


勉強は得意か?と言われれば、すっっごく面倒くさくて嫌いだとしか答えられない。その上、転生した今世でもやらなければならないのかと、今にも心が折れそうではある。

けれど、自分でゲームの世界観をぶち壊すと決めたのだから、必要だと思ったことは何でも取り入れて習得していかないとね。


ーーそれにしてはラスボスのフィーリア。

彼女も私みたいに転生者だったりしたらどうしよう……。まだ生まれてくるのは先ではあるけれど今から少々不安ではある。

まぁ今考えても仕方がない。その辺りはその時が近づいてきてから考えればいいか。


らくこいのラスボスであるフィーリアは、アスターシアの全能過ぎる能力によって心を壊され思うがままに操られていた。


裏ルートではヒロインのフォルトゥーナによって、『完全に元に』とは言い難いけれど元の心優しい性格に戻っていた。

何年もの間自分を好き勝手操っていた姉のアスターシアに恨みを持ち、自分の人生を弄ばれた上に、自国を荒廃させるような真似をしたアスターシアを排除し、国を建て直すことを目標に姉に立ち向かった。

ほんの少しの間ではあるけれど兄のアフェクとも和解し、その他の敵同士だった攻略対象者とも手を取り合い、物語が進むごとに仲良くなっていくストーリー。


通常ルートにはない唯一の展開がある裏ルートが個人的には好きだ。それに加えて通常ルートでは知り得なかったフィーリアの本性が知れる部分も、この裏ルートにしかないものでもある。

どのルートでもとんでもなく恐ろしい印象しか抱かなかったのに、裏ルートでは素直に兄に甘える可愛い姿が見られたりする。その姿が新鮮で可愛いのだけれど……ってそんな個人的な感想は置いておくとして。


そういえば、ヒロインのフォルトゥーナも転生者で私と同じくらくこいをプレイしていた場合、高確率で逆ハーレムルートを狙うだろうか。

それか第二皇子の婚約者になれるアフェクルートか。

となると真っ先にラスボスであるフィーリアを排除しようと狙ってくるだろう。

大体この手の展開は”ゲームの世界”だから、自分はヒロインだから何をしてもいいと考えている場合が多い。ヒロインが出てきたときには私がフィーリアを守ってあげないと……!


とりあえずはアスターシアが真面目な人間だと思ってくれるように努めないとね。多分母上の能力的に何となく分かっていそうな気がするけれど。

ーーそう()()()()()()()()()()()


とはいえ母上の能力『未来予知』については、そんなに詳しいことは分からない。キャラ設定には、容姿と名前とちょっとした紹介みたいなものはあったけれど、能力がどこまで扱えるのか効果はどれくらいのものなのか、といった細かいところは全く載っていなかった。


これは早く成長して、能力制御の修行をして、アスターシアの能力の一つ『解析』を使ってみるしかないのかもしれない。


アスターシアはこの世界では珍しい複数の能力を持っている、通称『覚醒者(エヴェイユ)』と呼ばれる存在で、ゲームの中でも特に使っており、この世界で最強の能力と言われている『()()()()』という力を持っている。

能力を発動した状態で命じたいことを言葉に紡ぐだけで、どのようなことでも()()命じられるというもの。


これには深くは分からないけれど、裏ルートを攻略して見た限り能力に制限はなかったように思う。

つまりは何でもアリということだ。

流石はチート皇女様とんでもないなぁ……。


しかも後の制作スタッフのインタビュー記事では、アスターシアはこの『絶対遵守』の能力を使用する際、わざわざ言葉に紡がなくても能力を正確に発動できるらしい。

つまり声が出せない状況に追い込んでも能力を扱えるため無意味ということだ。これを知ったときヤバすぎないか……?っと絶句したのを覚えている。


アスターシアがチート過ぎるのはそうなのだがフィーリアも相当ヤバい。

心理干渉(しんりかんしょう)』。相手の心の働きその精神を操ることができる能力。

つまりは相手を狂人または廃人にすることができる。


そして心が読めるため彼女に嘘やはったりは通じないし、その上アスターシアのように”絶対”とはいかないが相手を操ることも可能で、能力を使用したい相手に直接触れる必要もない。

その相手を視界に入れるだけで能力が適応されてしまい、強い精神力がなければフィーリアの能力を跳ね返せない。


ゲームの通常ルートのバットエンドは、攻略対象者との好感度が一定値以下だった場合にバットエンド確定になるのだが、 今までに負った心の傷が曖昧にしか回復していなかった攻略対象者が、フィーリアの能力によって狂人状態になり、ヒロインを襲うという展開が誰かのルートであったほど、『心理干渉』という能力の効果はとんでもなかった。


ーー本当に……とんでもない姉妹だなぁ……。

それに加えて第二皇子アフェクまでチート能力者なのだから、エスポワール帝国の皇族ヤバくないか?


ヒロインの聖女の力はこの世界でも珍しい貴重な能力だというのに、このエスポワール帝国の皇族たちからしたら、そこら中にある能力のひとつだとしか思っていないのでは?


何しろ全然彼女たち(特にアスターシア)には聖女の力が効かないのだから。


ちなみにアフェクの能力は『瞬間移動』。彼が知っている場所または見聞きした場所ならば、どこであろうとも一瞬で飛んで行ける。そしてそれには制限はない。

つまりは自分よりも重たいものでも大きなものでも建物でさえも、彼にかかれば一瞬でどこかへ飛ばすことができる。

…………本当にチートしかいない。


これから彼らに出会ったとき、ゲームは開始される。絶対にゲーム通りにしない為にも、少しずつシナリオを壊していかないと。

そう思って私は重くなった瞼をゆっくりと閉じた。






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