新たな情報
「美乃梨様、お客様がいらっしゃいました。」
書斎で本を読んでいるとシャルルからそう告げられて私はシャルルに聞いた。
「お客様って誰?」
「七倉蓮介さん達です。」
「えっ!?」
私は驚いて扉を開けた。
「七倉先生!?お久しぶりです。」
七倉先生と一緒にいたのはあの時お母様とお父様の魔法で蘇生された七倉先生のご家族だった。
「恋咲には本当に迷惑を掛けた。本当に申し訳ない。今日は改めて謝罪をさせてくれ。」
「その事についてはもう大丈夫です。それよりご家族の皆様が無事で本当に良かったです。」
「ありがとう。」
そして七倉先生のご家族は1人ずつ挨拶をして下さった。
「初めまして。七倉翔也です。旧姓は月ヶ瀬で、ご存知かもしれませんが有栖川家の分家であり、魔法使いの裏方をしていました。この度は蓮介が多大なるご迷惑をお掛けしました。」
「いえ、私には強いボディーガードが居ますし気になさらないで下さい。」
私がそう言うと翔也さんはありがとうございますとお礼を言った。
「蓮介の母の七倉瑠璃香です。この度は本当にすみませんでした。おかげで助けられました。」
「七倉深雪です。兄がご迷惑をお掛けしました。」
「七倉恭太郎です。この度は色々すみませんでした。本当にありがとうございました!」
「どう致しまして。ですが殆どリクスお兄様達のおかげですけれど。」
私がそう言うと七倉先生は首を横に振った。
「いや恋咲にも恋咲の弟にも本当に助けられた。ありがとう。そう言えばフェリクス様はどこにいらっしゃるんだ?ローサ様と利一様は海外に居る子孫に会いに回っていると聞いたが。」
「リクスお兄様は煌と律ちゃんに協力して貰いながら禁忌の魔法使いの情報を調べているらしく、私もしばらくお会いしていないんです。多分今日もどこかで文献を読んでいるんでしょうけれど。」
「そうか。明日から学校に復帰するからフェリクス様が帰っていらっしゃったら教えてくれないか?」
「はい!勿論です。」
そして七倉先生達はお父様達にも挨拶をするからと書斎を出て行った。
「美乃梨様、良かったですね。」
シャルルは微笑みながらそう言った。
「何のこと?」
「七倉蓮介さん達家族の心配をずっとしていらしたでしょう?皆さんご無事そうで。」
「そうね。ありがとう、シャルル。」
そして私も書斎を後にして部屋に戻った。
「貴翠!用があったのなら電話で伝えてくれたら良かったのに。」
部屋の前には貴翠が立っていた。
「いえ、用という程のものではありませんので。」
「貴翠、今時間があるなら散歩に付き合ってくれないかしら?」
「勿論です。」
私は貴翠と一緒に庭に出た。
お母様が好きな紫陽花が綺麗に咲いている。
「あのね、貴翠。聞きたいことがあるんだけれど。」
「私の美乃梨様に対する感情についてですか?そんな顔をなさらないで下さい。エミリア様の頃の記憶が戻った時には聞かれると思っておりましたので。」
私がおずおずと尋ねると貴翠は眉尻を下げながら微笑んで言った。
「煌様からも聞かれました。まあ、煌様は美乃梨様よりストレートに聞かれましたが。私がフィデリスとしてエミリア様にお仕えしていた頃、私はエミリア様に恋心を抱いておりました。」
貴翠は懐かしむような顔でそう言った。
「正直に申しますと美乃梨様への感情はエミリア様へ向けていた感情と似ている所もございます。」
「それってフィデルが私に向けていた感情を記憶と一緒に持ち続けているという事じゃないの?」
「始めは私もそう考えておりましたが煌様に対しては美乃梨様への感情と同じ感情を向けていませんので。それどころか煌様がエミリア様の生まれ変わりと気付くことが出来ませんでしたから。」
「それは煌が全く別の自分に生まれ変わったからじゃないの?」
私がそう言うと貴翠は首を横に振った。
「確かにそれもあると思いますが、私がエミリア様を、お慕いしている方を見つけられないなどあり得ませんので。私が美乃梨様へ向けている感情はエミリア様への感情の延長線上にあるものと、美乃梨様と出会ってから芽生えたものが交わって居るのです。」
貴翠はそう言って私の目を見つめた。
「ですから恋愛感情も混ざっていますが、多くは美乃梨様と出会ってから芽生えた忠誠心や信頼です。ですからご安心下さい。」
「ありがとう、貴翠。そうよね、貴翠には音さんが居るものね。」
「はい。音さんは私のように美乃梨様に仕える事が夢だといつも語っておられます。」
「えっ?私、音さんとはお友達だと思って居たのに。」
「そうですか。音さんに伝えるときっと喜ぶでしょうね。」
貴翠は優しく微笑んだ。
―貴翠目線―
美乃梨様との散歩が終わり一時部屋に帰らせて頂いた。
先程の事を音さんにお伝えする為だ。
電話をかけるとすぐに出てくれるのは美乃梨様関連だと分かっていらっしゃるからだろう。
『貴翠さんから電話なんて珍しいですね。どうしました?』
「いえ、それ程急ぎの用ではありませんが、先程美乃梨様と散歩をしていまして、」
『美乃梨さんと散歩ですか!?羨ましいです!』
「それはそうでしょうが、私は音さんの事も羨ましいですよ。先程美乃梨様に音さんが将来的に美乃梨様にお仕えしたいという旨を話しましたら、美乃梨様が音さんはお友達だと思っていたのに、と残念そうにされていましたから。」
『美乃梨さんのお友達ですか?私が?これ以上ない幸せです!ですが、貴翠さんのように信頼される臣下もなってみたかったんですがね。』
電話越しでも私を羨んでいる顔が想像出来る。
「ではお仕えするのではなく、お支えするのはどうですか?例えば美乃梨様の秘書などは?」
『流石貴翠さん!天才ですね!……そう言えば私からも貴翠さんにお話がありまして。』
「何でしょう?」
急に声のトーンが下がり言いづらそうに音さんは話し始めた。
『美乃梨さんには改めて招待状が届くと思うのですが、再来週私の従兄弟、二条慧星の誕生祭があるんです。慧星は今年で成人なのでそのパーティーにはお祖母様達が来るんです。』
そこまで聞けば音さんの伝えんとする事が理解出来た。
「私が音さんの恋人としてその場に参加すれば良いのですね?」
『はい。よろしくお願いします。まあ、主役は慧星ですし、もし慧星に彼女が居なければ慧星への小言があると思いますから、こちらには回って来ないかもしれませんが。』
「いえ、残念ながらと言いますか、慧星さんには彼女がいらっしゃいますので音さんのお祖母様はこちらにいらっしゃると思いますよ。」
『そうですか。貴翠さんならお祖母様に気に入られると思いますが、気に入られたら気に入られたで中々面倒な方なのでさりげなく距離を取って下さい。』
「はい。分かりました。」
音さんとの電話を終えて、美乃梨様のお部屋へと向かった。美乃梨様のお部屋には兄さんと父さんも揃っていた。
「父さんも兄さんもお揃いで、何かありましたか?」
「あ、貴翠。実はね、リクスお兄様から突然連絡があって、リクスお兄様が追っている人達、確か名前は……」
「アンヘル、ユリウス、ヘレナの3人でしたね。」
「そう!その3人の使い?みたいな人がリクスお兄様に接触してきたそうなの。」
美乃梨様は困ったようにそう仰った。
「それはまた、何故でしょう?」
「アリナちゃんを返して欲しい、と。今お父様が五家会議を緊急で開いているわ。その3人にとってアリナちゃんは娘のような存在なのかもしれない。アリナちゃんにとってもその3人は家族のような存在らしいし。」
「そうですか。そのアリナさんご本人の意思はどうなんでしょう?」
「そうね、それが一番大切だわ。」
美乃梨様はそう言って椅子から立ち上がるとアリナさんの使っていらっしゃるゲストルームへと向かわれた。
「アリナちゃん、今大丈夫?」
美乃梨様がノックをし、そう尋ねられると中から扉が開けられた。
「おねえちゃん?どうしたんですか?」
「実は、アンヘルさん達がアリナちゃんに戻ってきて欲しいと言っているらしくて……アリナちゃん、アンヘルさん達の所に戻りたい?」
美乃梨様がそう仰られるとアリナさんは驚いたように固まった。
「アンヘルたちのところに、戻れる……?」
一瞬目を輝かせたように見えたが、すぐに気が付いたように表情を曇らせた。
「いえ、私はおねえちゃんたちの味方になります。アンヘルにもユリウスにもヘレナにもこれ以上悪いことしないでほしい。特にアンヘルはおねえちゃんとおにいちゃんを連れて来てって言ってたのにずっとかなしそうな顔してた。」
「その、アンヘルについてだが……」
突然声が聞こえ振り向くとフェリクス様が入り口に立っていた。
「リクスお兄様!戻って居たんですね。」
「ああ、先程な。それでアンヘルについてだが、新たな情報を掴むことが出来た。」
「アンヘルには息子と娘が居たらしい。愛する妻を息子が生まれると同時に亡くし、まだ幼い子供達を1人で育てていくことになったそうだ。が、2人ともは成人を目前に亡くなった。原因は魔法使いによる暗殺だ。」
フェリクス様は声を潜めてそう仰った。
「暗殺ってどうして……?」
「簡単に言うと治安が悪かったから、だろうか?エミリアがあの契約を結び姿を消した数十年後くらいから次第に魔法使い界隈での治安が悪化していった。自分より権力や魔力を持つもの、またその子孫は常日頃から命が狙われていた。」
フェリクス様は「勿論私の命が狙われる事など無かったがな。」と付け足して仰った。
「だが、権力のない者はよく群れた。その為、大勢で一人を狙うなどして自分よりも実力のある魔法使いを排除しようとしていた時期があったんだ。」
「そんな事をしても自分達より格上の相手だった場合は負けてしまうんじゃないかしら?」
美乃梨様の問いは尤もなものだった。が、格上相手にも通用する魔法が存在してしまう。
「禁忌の魔法、ですね。」
「流石貴翠だ。そうだ、そこで生まれたのが禁忌の魔法だ。とは言え、その当時はまだ禁忌とされていないがな。後に私や父上、母上、それと私たちの子孫でもある有力な魔法使いによって禁忌と定められた。」
「つまり、アンヘルという者は七倉さんと同じような経験をしたという事ですね?」
「ああ。そしてその怒りの矛先は世の中と禁忌を取り締まっていなかった私達先祖へと向いているようだ。」
次回もお楽しみに!
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