番外編 初めの一歩 前編
前半は優里目線
《ユーリちゃん!さっき話していた和真くんの連絡先ちゃんと届いた?》
みのりんからそんなメッセージが届いた。
「届いたけど……」
独り言を呟きながらみのりんに返信した。
《頑張ってね!》
みのりんからの返信メッセージを見ると、何だか頑張れる気がして、坂下くんへのメッセージを考えた。
「……あー!分かんない!トモく〜ん!」
好きな人を遊びに誘うのにどんなメッセージを送って良いか分からず、取り敢えず我が家で一番恋愛経験が豊富な兄、トモくんの部屋に向かった。
「優里、どうしたん?誠兄やったら今風呂入ってんで。」
そう言えば、トモくんの部屋は従兄弟の令也と2人部屋だった。
「……何でも、ない。」
令也からスッと顔を逸らした。
トモくんとおじいちゃん以外にこんな事相談できない。ましてや一つ下の令也なんて頼れる筈がない!
「何なん?めっちゃ顔赤いけど。熱でもあるんちゃう?」
「無いよ!」
私がそう返すと、令也はニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「もしかして優里、好きな奴出来たん?」
「ち、違うし!令也には関係ないでしょ!」
「いや、その反応絶対そうやん。」
令也は少し呆れたようにそう言った。
そう言えば"少し"はモテるみたいだから恋愛経験はあるのかも。
「令也って告白された事あるよね?」
「うん、あるけど?」
「好きな人とかいないの?」
「いや、好きとかじゃなくて気になってる人は居るけど。まあ、その人は彼氏?みたいな人が居るし。」
「彼氏みたいな人って何?」
「いや、この前聞いたら付き合ってないって言ってたけど両思いっぽいから。」
少しデジャブを感じる内容だった。
「因みに気になる人って誰?」
「……美乃梨先輩。」
「彼氏みたいな人って九条くんの事?」
「そうやけど?」
私はみのりんの名前を聞くと同時に納得した。
みのりんと九条くんの関係性は少し複雑だから。
「令也、みのりんの事まだ好きにはなってないの?」
「うん。美乃梨先輩は今の俺にとっては美人で優しい先輩。でもあんな先輩が近くにいたら普通好きになるやろ?」
「それは本当にそう。みのりんは万人にモテるからね。」
「まあ、俺の元カノは美乃梨先輩と真反対のタイプやったけ、」
「元カノ!?」
令也による突然の爆弾発言に大声を出してしまった。
「優里うるさい。何やねんいきなり。」
「も、元カノが居るの?つい最近まで小学生だったのに……?」
「小5、小6くらいやと学年に何組かはカップル出来るもんやろ?」
「え、何それ。初耳なんだけど。令也の学校がちょっと変わってたんじゃない?」
「そんな事ないわ。」
そんな話をしていると、お風呂上がりのトモくんがやって来た。
「あ、トモくん!ちょっと話聞いて〜!」
「良いけど、どうしたんだ?」
「トモくんって彼女をデートに誘う時、なんて言って誘ってた?」
トモくんは少し思い出すように頭を捻った後、私の方を見た。
「俺、今まで自分からデートに誘った事ない。」
「嘘でしょ!?今まで彼女何人居た事あるの?」
私の問いにトモくんは指折り数えていった。
「9、いや10人か。」
「そんなに居たのに自分からデート誘った事ないの!?」
「今までの彼女は『私の事好きじゃなくても良いから付き合って欲しい』って言ってたから。俺が相手を好きになったことはないし。」
「付き合ってんのに片想いって、彼女さん達可哀想やな。」
トモくんの話を聞いてそう呟いた令也に激しく同意した。
トモくんは「相手がいいって言ったんだから別に良いだろ」とか言ってる。
「もう、トモくんに相談しようとしてたのに……」
「だから相談なら俺が乗ったるって。」
令也は自分の胸に拳を当てて「任せろ!」と言っている。トモくんに頼れないとなると今頼れるのは令也しかいない。
「じゃあ、令也は彼女をデートに誘う時どうやって誘ってた?」
「直接か、電話やな。で、優里の好きな相手って誰?」
「言うわけないでしょ!?」
「爽夜先輩?千秋先輩?凪先輩?」
「全然違うし。」
「有栖川先輩、篤季先輩。」
「どっちも違う。」
私がそう返すと令也はあ、と思いついたような表情になった。
「有栖川先輩といつも一緒にいるあの先輩やろ?」
「トモくん、おやすみ〜」
令也の発言を無視してトモくんの部屋を後にした。
考えて考えて、それでもどんな文章を打って良いのか分からずに、意を決して電話をかける事にした。
『……もしもし、秋月?』
「急に電話してごめんね!みのりんから坂下くんの連絡先教えてもらって……」
『そうなんだ。』
「うん。それでね、明日何だけど、時間ある?もし良かったらどこか遊びに行かない?」
『うん。……えっ!?』
「もしかして予定ある?」
『いや、全然大丈夫、だけど。』
「じゃあ明日10時に駅前集合で大丈夫?」
『うん。分かった。』
私はおやすみ、とだけ呟いて通話を切った。
そしてすぐにグループチャットにメッセージを送った。
《皆んな助けて〜!!》
一番に返信してくれたのはみのりんだった。
《ユーリちゃん、どこに行くかは決めてる?》
《まだだけど……》
私がそう返すとみのりんからURLが送られて来た。
開いてみると、駅前のショッピングモールのイベントのお知らせだった。
《実は響彼くんからペアチケット貰ったんだけど私、明日は別の予定があるの。もし良かったらユーリちゃん達で使ってくれない?》
《えっ!良いの!?ありがと〜!》
その後、みのりんからQRコードが送られて来た。
しばらくみのりんと話していると、雅美とレイラからも返信が来た。
《ユリ、もしかしなくてもデート!?》
《やるじゃん坂下!ユーリ、明日告るの!?》
《告るっていうか、返事はするつもりだけど。》
《頑張ってね、ユーリちゃん!》
《ユリ、ちゃんと結果報告してね?》
《分かってるよ〜》
《ユーリ、この間買ってたワンピース来て行ったら?めちゃくちゃ可愛かったよ!》
《ありがと、レイラ!そうする!》
レイラのお陰で服装に迷う事は無さそうだ。
勇気を出して告白してくれた坂下くんを待たせるわけにはいかないから、明日は頑張って自分の気持ちを伝えなくちゃ。私は明日に備えて今日は早く寝ることにした。
―和真目線―
秋月から明日遊びに誘われて俺は何をすれば良いのか分からず一人で"デート"に関して検索をかけている。
「和真、彼女出来たのか?」
後ろから急に声をかけて来たのは兄貴だった。
「……そうなると嬉しいんだけど。」
「どんな子?可愛い?」
「……可愛いよ」
俺が素直にそう言うと思って居なかったらしく、兄貴は驚いたような顔をした。そしてその後、料理中の母さんに、
「母さん、今日の夕飯赤飯作って!」
と大声で言った。
「急に言われても無理よ〜。あ、でも父さんがそろそろ帰って来るみたいだからスーパーに寄って赤飯買って来て貰うわ。」
母さんは父さんに電話をかけると赤飯を買ってくるように頼んだ。
「で、どうして赤飯?」
母さんは兄貴に向かってそう聞いた。
「和真が明日デートするんだって!」
「本当!?ならちゃんとした格好して行きなさいよ?それで、相手はどんな子かしら?」
母さんは興味津々のようで秋月についてずっと聞いてくる。兄貴も母さんの横で同じように聞いて来た。
「秋月は凄え優しくてかっこいいんだよ。」
「そうなんだ。和真、写真は無いのか?」
そう言われて自分のスマホのカメラロールを開いた。
自分で思っていたよりも秋月と映っている写真があった。
「この端に居るのが秋月。」
「凄く可愛い子じゃない!いつでも家に連れて来てくれて良いわよ〜!私は大歓迎だから!」
母さんは興奮したようにそう言った。
「そうだな。和真、是非俺にも紹介して欲しい。和真の友達は恋咲さん以外会ったことが無いからね。」
兄貴がそう言うと母さんが俺に聞いて来た。
「恋咲さんって?」
俺は母さんに美乃梨と千秋と景と真央先輩が映ってる写真を見せた。
「何この美人な子達!景くん以外は見たことないわね。それで、恋咲さんはどの子?」
美乃梨を指すと母さんは目を丸くした。
「とても可愛い子じゃない!景くんもだけどこの子達芸能人とかなの?」
母さんはそう聞いて来た。
景は何度か家に遊びに来たことがあり、母さんに気に入られている。
「全員芸能人じゃないよ。美乃梨の弟は最近俳優デビューしたけど。」
「誰々!?」
「1人はグミのCMに出てて、もう1人は確か来週放送のドラマに出るって。」
俺がそう言うと兄貴が言った。
「恋咲さんって、響彼さんの姪だったよな?じゃあ、かなり育ちの良いお嬢様なんじゃない?」
「ああ、そうだよ。それに、美乃梨だけじゃなくて、景も千秋も真央先輩も美乃梨と同じくらいの御曹司だよ。」
「恋咲家と同じくらいって、相当大きい家系だな。もしかして、あの五家か?」
兄貴は俺にそう聞いて来た。
五家と聞いても俺は何も知らない。
俺は兄貴に聞き返した。
「五家って?」
「恋咲家、九条家、有栖川家、神崎家、倉津木家のこの国の経済のトップを誇る五家だ。もう一つ二条家という家もこの五家に並んで居るけどな。俺の会社にも二条家と恋咲家と倉津木家から出資をして貰っている。」
「そうなんだ。それなら将来美乃梨と仕事することがあるかも。美乃梨、恋咲家の跡取りで次期当主だから。」
俺がそう言うと兄貴は驚いたように目を見張った。そして何かぶつぶつ言った後、頭を抱えて溜息をついた。
「あの時、もっとちゃんとした挨拶をしていれば良かった……」
「大丈夫だって。美乃梨はそんな事気にしねえよ。それに、今の当主はまだ美乃梨の父さんだし。」
そんな話をしていると、玄関から「ただいま〜」という声が聞こえて来た。
「赤飯買って来たぞー」
「父さん、お帰り。」
「ただいま。珍しいな、賢杜と和真がご飯前にリビングにいるなんて。」
父さんはそう言いながらテーブルの上に買って来た赤飯のパックを広げた。
「で、何で赤飯?急に母さんから電話がかかって来たと思えば赤飯買って来てって。」
「そうそう、聞いてよ父さん!和真が明日デートするんだって。」
「おお、和真がか。ならデートの必勝法を教えてやろう。」
父さんは俺の肩に手を置き言った。
「楽しむことだ。勿論一人で勝手に楽しむんじゃないぞ?相手と一緒に楽しむんだ。分かったか?」
「おう!」
「で、和真の彼女はどんな子なんだ?」
父さんはさっきの兄貴と母さんと同じ顔をして聞いて来た。
「父さん、その話はさっきしたわよ〜。可愛くて優しくてかっこいい子だって、和真の彼女は。」
「か、彼女じゃないから!」
「もしかして和真の片想いなの?それならそうと始めに言ってよ〜!母さん応援してるから。」
「まだ俺の片想い、だけど、この前告白したから。秋月の事だから多分明日、返事が来ると思う。」
ゆっくり考えて欲しいと言ってはみたものの、秋月はすぐに答えを出すだろう。秋月は人を待たせるのが苦手だから。
俺が明日のことを考えて唸っていると、兄貴が俺の肩に手を置いた。
「大丈夫だ。和真ならきっと。もしダメだったら、その時は傷心旅行連れてってやるよ。」
「兄貴……彼女の1人も居たことない兄貴に言われてもあんまり安心出来ねえよ。」
「和真!それはそれだから。それに俺にもそのうち彼女出来るし?今は仕事が忙しいだけで。」
兄貴の少し焦ったような口ぶりに思わず笑ってしまった。
「和真、それなら俺からのアドバイスはどうだ?」
父さんがそう聞いて来た。
「実は俺、母さんに10回以上振られたことがあるんだよ。それでもめげずにアプローチし続けたお陰で母さんと付き合えることになったんだよ。」
「「えっ!」」
父さんの話は予想外の事だった。
何たって母さんは子供の俺達に向かっても父さんとの惚気話をしてくるくらいだから。
俺と兄貴で母さんの方を見ると母さんはにこにこしながら言った。
「そうよ。初めて告白された時は『誰こいつ』って思ったもの。父さんとは私のアルバイト先で出会ったんだけど、ひと言も会話した事ない客に告白されても普通は怖いでしょ?」
「父さんはクレーマーを華麗に撃退している母さんに惚れたんだ。その時は名前も知らなかったけどつい、告白してしまったんだ。まあ、若気の至りってやつだよ。まあ、その時は呆気なく振られたけど。」
父さんはハハハと笑った。
「でもな、和真。本気で好きなら諦めるなよ。まあ、引き際ってのもあるんだけど、後悔しないようにもう一度ちゃんと自分の気持ちを伝えた方が良いぞ。」
「分かった。ありがとう、父さん。」
「はい、じゃあそろそろご飯にするわよ。」
今回はデートの前日です。
次回はデート当日ですのでお楽しみに。




