番外編 響彼の再会
後半は響彼目線です。
バサッと風に吹かれたチラシが飛んで来た。
私は一緒に居た貴翠と京翠と共にあちこちに飛び散らかったチラシを拾った。
「すみません、ありがとうございます。」
チラシの持ち主らしい女性がお礼を言ってくれた。
「私、カフェをオープンしたばかりでして、チラシを拾ってくれたお礼として是非ランチを食べて行って下さい。」
丁度お昼過ぎまで時間を潰さなければならなかった為、お言葉に甘える事にした。
「オシャレなお店ですね。」
「ありがとうございます。実はこのお店は昔からの夢だったんです。」
「そうなんですね。夢を叶えられるなんて素敵です。」
「そう言って貰えて嬉しいです。」
そしてランチはパスタを注文した。
しばらくしてパスタを持って来てくれた店長さんは少し懐かしむような表情をしていた。
「どうかしましたか?」
「ごめんなさい、少し懐かしい人に似ていて……」
「ご迷惑で無ければ懐かしい人について教えて貰えますか?」
「ええ。聞いてくれます?」
店長さんは「どうぞ食べながら、」と私達にパスタを勧めた後、話し始めた。
「私が高校生だった頃、彼氏が居たんです。彼は少し他の人とは違った雰囲気を纏っていてずっと大きな秘密を隠しているみたいだったんです。結局すれ違いが重なって別れる事になってしまったんですが……」
店長さんのお話に少しデジャブを感じながらも相槌を打った。
「その時の彼と貴方の顔が似ていて……何て、私未練たらたら過ぎですよね。」
「そんな事、ないと思います!それは、えっと、店長さんが本当にその人の事が好きだっていう事なんじゃ無いですか?」
「そうなのかな……?あ、遅くなってごめんなさい。私の名前は夜時和歌です。」
私が名前が分からず店長さんと呼んでいる事に気付いて名乗ってくれた。
「私は恋咲美乃梨です。こちらの2人は私のボディーガードで、」
「本堂京翠です。」
「本堂貴翠です。」
夜時さんは2人の挨拶に反応しなかった。
「あの、どうされました?」
「恋咲、さんですか?」
「はい、そうですけど。」
私がそう答えると夜時さんは何か考えているような仕草をした。
「恋咲……まさか、いや、そんなわけ……」
そして私に向き直って行った。
「恋咲さん、恋咲響彼って身内に居たりします?」
まさか夜時さんの口から響彼くんの名前が出て来るとは思わず一瞬驚きで固まってしまった。
「は、はい。私の叔父です。」
「はあ〜、こんな事ってあるの!?」
夜時さんは頭を抑えながらそう言った。
「もしかして、先程のお話は響彼様とのお話ですか?」
貴翠が夜時さんに向かってそう聞いた。
夜時さんは無言で頷いた。
「恋咲さんと響彼さん、似てるとは思って居たんです。でもまさか血縁者とは……名字を聞くまで思いませんでした。恋咲なんて珍しい名字そうそう居ませんし。」
そして夜時さんは唇の前に親指を立てて言った。
「今話した事は全部響彼さんには言わないで下さい。未練たらたらなんて知られたくないので。」
その時丁度、お店の扉が開いた。
タイミング悪く来たのは響彼くんだった。
このお店に来たのは私がこのお店でお昼を食べてから向かうと連絡したからだろう。
元々今日は響彼くんと律ちゃんの誕生日プレゼントを買いに行く約束をしていた為、ランチを終えたら合流する予定だった。が、まさかこんな偶然が起こるとは思っても見なかった。
「美乃梨、迎えに来たぞ。」
「響彼くん、今じゃない……」
「美乃梨、どうした?そんな複雑そうな顔をして、貴翠も京翠も変だぞ?」
響彼くんは私達のすぐ側に来た。
すると必然的に私の前にいる夜時さんの顔ははっきり見えるもので……
「和歌……?」
「響彼さん、こんなに美人な姪っ子さんがいらしたんですね。」
「あ、ああ。」
店内に流れるのは穏やかな音楽と気まずい空気だけ。
「……和歌。夢、叶えたんだな。おめでとう。」
「ありがとうございます。響彼さんこそ、大企業の御曹司ですし素敵な奥さんと幸せに暮らしているんでしょうね。」
「はあ?そんな訳ないだろう?和歌以外に、!」
何だか少女マンガの予感がして私は貴翠と京翠と少しその場を離れた。
美乃梨を迎えに行ったらまさか約7年ぶりに彼女と再会する事になるとは全く考えていなかった。
律の誕生日プレゼントを一緒に選ぼうと可愛い姪に頼まれてしまえば叔父としては断れる筈が無かった。
午前中はどうしても仕事を抜け出せず、午後に駅前に迎えに行く為それまで京翠達と時間を潰しておいてくれ、と連絡すると近くのカフェでランチを食べてから向かうと連絡が返って来た。
病み上がりの姪をそんなに歩かせるのも悪い為、仕事を出来る限り早く終わらせて美乃梨から送られて来た
カフェの場所を調べて向かった。
カフェの前に車を止め、扉を開けると美乃梨は驚いたような困ったような表情を浮かべるし、貴翠と京翠は少し呆れたような表情をした。
美乃梨のすぐ前に誰か従業員らしき人が座っており、何となく見覚えがあり、気が付けば近付いていた。
「和歌……?」
そこに居たのは7年前に別れを告げた私の元恋人だった。
色々な思いが巡ったが、一番に出て来た言葉は、
「……和歌。夢、叶えたんだな。おめでとう。」
だった。
というのも、和歌と出会ったのは10年前、彼女が高校1年生の頃だった。私の落としたハンカチを拾ってくれた彼女は私よりも一つ年下で上品な人だというのが第一印象だった。
その時は特に何も無く別れたが、数日後。
友人である矢城に誘われ、近くの小さなレストランに行く事になった。
こじんまりとしたレストランは決して繁盛しているとは言えないが味は確かに美味しかった。
そのレストランで偶々アルバイトをしていた和歌と再会した。
私はそのレストランを気に入り、その後頻繁に足を運ぶようになった。勿論、和歌と会う回数も増え、老夫婦と和歌しか居ないレストランでの話し相手は必然的に年の近しい和歌になっていた。
気付けばお互い惹かれあって居て、気付けば恋人になって居た。運命などを信じない私も、和歌との出会いには運命的なものを感じていた。
だが、知り合いから友人、友人から恋人へと、関係が進んでいくにつれ、伝えられない秘密に罪悪感を感じるようになって行った。
私と和歌は魔法使いと一般人。
禁断では無いにしろ、本家に居て、当主の息子である私は魔法使いと結婚するべきだろう。そんな思考が私の頭から離れなくなった。
次第に和歌への連絡が仕事で忙しいから、というものばかりになって行った。和歌の方も受験生だった為、勉強で忙しく2人で会う時間は無くなっていった。
とうとう付き合い始めて3年が経つ頃、私の方から別れを切り出した。和歌への想いが無くなった訳では無い。むしろ好き過ぎるくらいだった。
和歌からの返事は「そうですか。」だけだった。
自分から別れを切り出しておきながら、私は心のどこかで反対して欲しかったのだ。どれだけ矛盾しているのだろう。
そして和歌との付き合いに別れを告げ、7年。
目の前に居るのはあの時話してくれた夢を叶えた彼女だった。その事実を認識するまでにどれ程の思考が頭を巡ったか分からない。
「ありがとうございます。響彼さんこそ、大企業の御曹司ですし素敵な奥さんと幸せに暮らしているんでしょうね。」
和歌のこの言葉を聞いて私は少し、いや、かなり動揺した。彼女に私は必要ないと言われたようだった。
「はあ?そんな訳ないだろう?和歌以外に、!」
つい、そんな事を言い返してしまい必死に口を塞いだ。
「私が、何ですか?」
切望するような瞳に見つめられ、言葉に詰まった。
これはきっと、私に都合が良いように見えているだけの幻覚だ。彼女が私に未練がある訳ない。
自分にそう言い聞かせても、目の前の瞳は私を期待させてくる。意を決して言葉を続けた。
「私が和歌以外に誰かを好きになると思ったか?和歌以外の誰かと結婚すると、本気で思ったのか?」
「……そんな顔してそんな事言われると期待しますよ。」
和歌は耳まで赤く染めてそう言った。
「思う存分期待してくれ。」
私よりも頭一つ分以上小さい彼女を気付けば両腕の中に囲ってしまっていた。
「響彼さん、会いたかったです。この7年間、どれだけ忘れようとしても忘れる事が出来ませんでした。」
「私も会いたかった。会おうと思えば会いに来れた。だが、会いにくる勇気は無かったんだ。好きだよ、和歌。私と結婚を前提に付き合ってくれないか?」
「は、い!?今流れで『はい』って言いそうになりましたけど、結婚前提、ですか?」
「何かおかしいか?」
「いえ、別に、おかしくは……」
「それで、返事は"はい"か?"いいえ"か?まあ、はい以外の選択肢を選んだ場合頷くまで聞き続けるが。」
「そんなの、"はい、喜んで"に決まってますよ!」
恋愛面における響彼の性格は稔とよく似た感じです。




