大切な記憶
「お帰り、美乃梨!景くんと千秋くんと真央くんも久しぶりだな。」
家に着くと玄関に出迎えてくれたのは慧星くんだった。
「慧星くん!」
「「「慧星さん!?」」」
「やっと起きたんだな。本当に後一日遅かったらって何度も考えたんだからな。」
慧星くんはそう言いながら私の頭にポンと手を置いた。
「……無事で良かった。」
「慧星、わざわざ休日ではなく今日来たというのは何かあるんですよね。」
「流石京翠。美乃梨、部屋に入っても良いか?」
「え、ええ。勿論良いけれど。」
慧星くんは私と景くん達を連れて私の部屋へ向かった。
私の部屋の前には何故か貴翠も待っていた。
「何か用があるなら入っても構わないのに……」
「いえ。主人の帰りを待たずに主人の部屋に入るなど言語道断ですので。」
「そう。相変わらず真面目ね、貴翠。」
そして部屋に入ると慧星くんは説明してくれた。
「この鍵、美乃梨に預かっただろ?」
「ええ。そうね。」
「美乃梨が起きてから直接返そうと思ってまだ俺が持っていたんだが……今朝見てみると鍵の形が変わってたんだよ。これも多分美乃梨が事前にかけておいた魔法だろ?」
「えっ?」
慧星くんの言った魔法に私は心当たりが全く無かった。
「まあ、取り敢えずこの鍵に合う何か箱みたいな物を見つけようぜ。」
慧星くんがそう言ったので私は貴翠と京翠にも手伝ってもらい鍵のかかる箱を探した。
「どこにあるんだろう?」
「美乃梨、あの棚は?」
「もう見たわ。」
「そのぬいぐるみの下は?」
「ぬいぐるみの下?」
慧星くんに言われた通りぬいぐるみの下を見てみると、本が置いてあった。
「この本、鍵穴がついてるわ。あ、慧星くんが昔くれた本型の宝箱だったわね。」
慧星くんから鍵を預かり、鍵穴に差し込んでみた。するとぴったりでカチャリとなりながら本型の宝箱は開いた。
宝箱をゆっくりと開けてみると……
「写真?……と、手紙。」
数十枚の多くの写真と、箱の一番下には封筒が入っていた。
写真には私や景くん達が笑顔で写っている。
私は一番下に入っていた手紙を手に取った。
封を切り、手紙を開いた。
《私へ。無事に目が覚めたなら何よりよ。これを見つけてくれたのなら慧星くんにちゃんと感謝しないとだわ。リクスお兄様から聞いたでしょう?記憶障害は新しい記憶程起こりやすいって。景くんと千秋と真央くんとはたくさんの大切な思い出があるの。この箱の写真を見て。楽しかった思い出だから、絶対に思い出せるわ。》
手紙はそれだけだった。
私は一枚一枚写真を見て行った。
一番新しい、煌達の誕生会の写真。その写真を手に取った瞬間、写真だけには収まりきらない情景が頭の中にドッと流れて来た。
「美乃梨、どうした?ぼーっとして。」
慧星くんは私の視界を遮るように手を振った。
「慧星くん、ありがとう。」
「ん?おう、どう致しまして……?」
慧星くんは首を傾げながらそう言った。
「景くん、真央くん、千秋。また、皆んなで旅行行こうね!」
景くん達の方に向かって私はそう言った。
「えっ、美乃梨ちゃん?」
「思い出したのか?」
「うん!全部思い出したよ。まあ、元々数日で戻る予定だったんだけどね。」
「美乃梨、良かった〜!ここ数日、話しかけても気まずそうに顔を逸らされてたから……」
「ごめんね、真央くん。」
真央くんは安堵したように溜め息をついた。
「美乃梨様も無事記憶を取り戻されたようですし、皆様今日は早く帰って体を休めて下さい。ここ数日心労もあったでしょうし。」
貴翠がそう言うと景くん達は頷いた。
景くん達が帰った後、
「じゃ、俺もそろそろ帰るな。」
「あ、慧星くん。色々迷惑をかけてごめんなさい。本当にありがとう。」
「ありがとうはこっちの台詞だ。俺を頼って信頼してくれてありがとう。じゃあ、またな。」
「うん!」
慧星くんが帰り、一気に私の部屋は静かになった。
すると貴翠と京翠が真面目な顔をして私の方を向いた。
「美乃梨様、お伝えしなければならない事があります。」
「分かったわ。」
私は部屋に防音魔法をかけた。
私は貴翠と京翠にも椅子に座るように促し、2人が切り出すまで待った。
「お伝えしなければならない事というのはこの間フェリクス様も仰っていた私の隠している事です。」
「無理に話さなくても良いのよ?」
「無理ではありません。兄さんの事を待っていたのです。」
「京翠を……?」
そして貴翠はシャルルが用意した紅茶で喉を潤して話し始めた。
「実は、私には幼児期健忘がありませんでした。私が美乃梨様に出会い、美乃梨様の臣下となったのは偶然ではございません。生まれた頃から美乃梨様がお生まれになるのを只々お待ちしておりましたから。」
「……どういう事?」
私がそう尋ねると貴翠と京翠は頷き合って言った。
「私の前世の名は、フィデリスです。」
「私はアルノルフォでした。」
「ええっ!?フィデリスとアルノルフォって、もしかしてフィデルとノルフォー!?」
「はい。黙っていて申し訳ありませんでした。」
フィデリスもといフィデルとアルノルフォもといノルフォーは私の前世、つまりデア・エミリアの忠臣だった二人の騎士だ。
「言われてみれば、時々似ていると感じる時もあったけれど……」
「私は、美乃梨様の前世がエミリア様である事は美乃梨様が生まれる前から承知しておりました。ですが、煌様の時は気づく事が出来ませんでした。」
貴翠は申し訳なさそうにそう言った。
「フェリクス様曰く、エミリア様の性質はほぼ全て美乃梨様に受け継がれているそうです。ですが私はエミリア様の生まれ変わったもう一方を見つけられるまでは美乃梨様にもこの事を話さないでいようと思っておりました。」
「そうなの?それなら今からでも煌を呼んできた方が良いかしら?」
「いえ、それは少しお待ち下さい。この際、美乃梨様にお伝えしたかった事を全てお伝え致します。美乃梨様、もう終わった事ですが、煌様の分も契約を受け持つなんて無茶、この先は絶対になさらないで下さい。美乃梨様が居なくなれば私の生きている理由は本当に無くなりますから。」
貴翠は懇願するようにそう言った。
「貴翠は私が居なくても大丈夫、」
「違います。私はエミリア様の逝去後、エミリア様から頂いた魔石を使いエミリア様の転生後またすぐ仕えられるよう魔法をかけました。」
「私も、同じようにエミリア様から頂いた魔石を使いもう一度エミリア様の元に仕えられるよう、魔法を施しました。」
「そう、だったのね。」
「私は、もし美乃梨様が目覚めなければ同じ事をしていたと思います。いえ、確実にしていました。」
貴翠は私を真っ直ぐ見つめてそう言い切った。
京翠も同じように私の方を見て言った。
「私もきっと同じ事をしていました。美乃梨様、前世私がエミリア様と出会った時の事を覚えていらっしゃいますか?」
「ええ。勿論よ。」
「エミリア様は孤児でその日食べる物さえ無く、泥塗れだった私を嫌な顔一つせず抱き締めて迎え入れて下さいました。私はあれ以来、ずっとエミリア様に忠誠を誓っていました。ですが、エミリア様は突然姿を消されました。その瞬間、私は世界に1人きりになったような気分でした。エミリア様が居たからこそ見られたものがエミリア様が消えてしまったことで見えなくなってしまったので。」
「本当にごめんね。前の私の性格は何というか楽観的だったから。でも、こうしてまた2人に会うことができてとても嬉しいわ。また私に仕えてくれてありがとう。」
そして煌も呼んできて貴翠と京翠は同じ話を煌にもした。
その後、久しぶりに数百年前の思い出話で盛り上がってしまった。
数百年前……
「エミリア様、また勝手に会談を抜け出して来られたんですか?」
明るめの茶髪に深緑の瞳を持つ忠臣の一人、フィデリスが呆れたようにそう言った。彼は騎士であるが体格にはあまり恵まれ無かった。しかし、その聡明な頭脳で相手を翻弄する。
「フィデルの知ってる通り私は長い話を聞き続けるのは苦手なの。つまらない会談から逃げ出してしまうのは仕方ないことでしょう?」
「ですが、またローサ様方に叱られてしまいますよ?」
「その時はフィデルも一緒に叱られてくれるでしょ?」
エミリアはフィデリスに向かって悪戯っぽくウインクをしながら言った。
「それはまあ、そうですけど。」
「それに自由なところが私の良いところじゃない!ね、ノルフォー?」
長身で黒髪碧眼を持つエミリアの忠臣のもう一人、アルノルフォ。彼は騎士としては世界屈指の実力者だがエミリアと武術以外には無関心な為、同じく忠臣のフィデリスからはよく脳筋扱いをされている。
「エミリア様の仰る通りです。自由気ままに世界を渡られるエミリア様が最もお美しいです。」
「ありがとう、ノルフォーもかっこいいわよ。」
《デア・エミリア!見つけましたよ!また逃げましたね!》
魔法で声を拡張させてエミリアの会談相手が近寄って来た。
「あら、もう来たの?フィデル、ノルフォー、逃げるわよ!ほら、早く!」
「……エミリア様、また結婚の催促ですか?」
ドレス姿のエミリアに、フィデリスがそう聞いた。
「ええ。私、好きな人以外と結婚なんてしたくないのに。」
「もしかしてエミリア様にはお慕いしている方がいらっしゃるのですか?」
「いいえ?居ないわよ?」
エミリアの発言にフィデリスはほっと胸を撫で下ろした。
「どうしたの?……もしかして私が結婚したら寂しいのかしら?」
からかうようにそう言ったエミリアにフィデリスは胸の内を明かした。
「エミリア様、私はエミリア様の事を出会った頃からお慕いしております。」
「ありがとう、フィデル。じゃあフィデルはこれからもっとかっこいい姿を私に見せて私を惚れさせなきゃね。私、待つのは苦手だからアピールしてくれなきゃ好きになれないかもしれないわよ?」
エミリアはフィデリスを少しからかってみようとした。
だが、フィデリスの反応はエミリアの想像したものとは少し違っていた。
「そうですね。エミリア様、太陽のように輝く髪と泉のように透き通る瞳がとてもお美しいです。」
生き生きとした笑顔を浮かべたフィデリスはエミリアの髪を掬ってそっと唇を落とした。
「……フィデル、性格変わったの?」
「いえ、内に秘めていた想いを告げた為、遠慮なく口説かせて頂こうと思いまして。」
「ノ、ノルフォー!」
「エミリア様、お呼びでしょうか?」
エミリアは紅くした顔を隠す為、
体格に恵まれたアルノルフォの後ろへと回った。その姿を見たフィデリスはアルノルフォに向かって剣を向けた。
「そこの脳筋、邪魔です。折角のエミリア様のお可愛らしい顔が見えないではありませんか。」
「エミリア様がお可愛らしいのはいつもの事です。顔を見たいというのなら私よりエミリア様に信用していただけば良いだけですよ?」
「偉そうに言っていますけどエミリア様が脳筋の後ろに隠れているのは私を意識しているからですよ?」
アルフォルノはパッと後ろを振り返った。
「エミリア様、そうなのですか?」
「えっ、いや、」
更に顔を紅くさせたエミリアは2人の元から逃げ出した。
「エミリア様、お待ち下さい。」
「エミリア様!護衛なしで行動しないで下さい!」
2人はエミリアを追いかけて走って行った。
「ねえ、フィデル、ノルフォー。私、全く違う自分に生まれ変わるわ。」
「急にどうされました?エミリア様。またいつもの唐突な好奇心ですか?」
「私はエミリア様がいらっしゃる場所ならばどこへでもついて参ります。」
エミリアの突然の発言に2人はそれぞれ答えた。
「そう、またいつか、2人に会いたいわね。フィデル、ノルフォー、愛してるわ。」
エミリアはそう言って姿を消した。
「エミリア様!?」
「どちらへ行かれたのですか!?」
「……アルノルフォ、私はエミリア様の後をを追いますが、貴方はどうするのです?」
「勿論フィデリスと同じ判断を下しますよ。」
そしてフィデリスとアルノルフォはエミリアから貰ったペンダントの魔石を使った。
「貴翠、今は脳筋呼ばわりしないのですね。」
美乃梨様や煌様と思い出話をした後、不意に過去を思い出していると、兄さんがそう聞いて来た。
「私も成長したという事ですよ。」
「そう言えば、少し気にかかったのですがフィデリスはエミリア様を慕っていましたが貴翠は美乃梨様の事をどう思っているのですか?」
私は意識して笑みを浮かべて言った。
「美乃梨様は私の最高の主人だと思っていますよ。」
私が美乃梨様に向けている感情の中に恋愛に関する感情が全く入っていないかと聞かれると即答は出来かねます。
「そうですか。では、私と同じですね。」
兄さんはそう返した。
その日の夜、久しぶりにエミリア様の夢を見た。




