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王子様は1人じゃないっ!  作者: 華咲果恋
本編2年生
84/123

満月の前に

会議室に入るとお父様とお母様、お祖父様や伯母様、響彼くんに律ちゃん、稔と煌と架、それに景くんまでもが揃っていた。


「お待たせしてすみません。皆さん揃ってどうなさったのですか?」


「急に呼び出してすまないな。フェリクス様からの助言により、美乃梨と煌が仮死状態の時に出入りする者を決めようと思ってな。」


「そうですか……?」


「仮死状態の時に出入りできるのは血の繋がった者、しかも3人までと言う制限まである。だから誰が出入りするかを決めようと思ってな。」


お父様の説明が終わると私と煌は並んで席に座った。


「煌、どういう事?」


「皆、仮死状態の時が心配だから出入りしたいと言い出したそうです。」


「なるほど。」


私と煌が話している間、皆んなも誰が出入りするのか話し合っていた。


「美乃梨と煌は誰に来て欲しいんだ?」


お父様がそんな事を聞いて来た。


「別に誰でも構いません。」

「私もそう思います。仮死状態なんですし誰が来ても変わりませんから。」


結局、話し合っても埒があかず、くじで決まったそうだ。

私の方には稔とお祖父様と伯母様、煌の方にはお母様と景くんと響彼くんが出入りする事になった。


「では、私はこれで失礼します。煌、少しついて来てくれる?」


「はい。では、俺もこれで。」


私は煌を連れてバルコニーに向かった。

月明かりに照らされたバルコニーは、まるでスポットライトの当たったステージのようだった。


「煌、絶対に起きてね。」


「はい。……姉さんも必ず目を覚まして下さいね。」


煌は懇願するようにそう言った。

私は軽く微笑んで返した。



 少し騒がしい声がして、目を覚ました。

外はまだ暗いようだけど、誰が来ているのかしら?

部屋にいる筈のシャルルが見当たらず、部屋の扉を開けた。


「シャルル?って律ちゃん!?どうしてここに?」


「美乃梨、おはよっ!今日暇!?」


「ええ、特に用事は無いけれど……」


「なら付いて来て!」


律ちゃんはそう言うと私の腕を引いて走って行った。


「待って、律ちゃん!私まだ着替えていないわ!」


「うーん、それもそうね!シャルル、5分で美乃梨の支度をして頂戴!」


「律様、私を舐めているのですか?3分で十分です。」


そして今度は部屋に向かって走った。

シャルルは宣言通り3分程で支度を終えてしまった。


「ありがとう、シャルル。」


そしてまた律ちゃんの所に向かうと車が準備されていた。

車に乗り込むと、響彼くんと煌と稔と架が居た。


「じゃあ私が運転するから皆んなはゆっくりしてて良いからね!」


律ちゃんはそう言うと運転席に座ってエンジンをかけた。


「響彼くん、今何時?」


「まだ午前3時だ。急に起こされたかと思うと連れて来られた。」


後ろの席に座っている煌達も眠そうだ。

稔と架に関しては眠そうというより既に寝ている。


「美乃梨も煌も少しは寝たらどうだ?私もまだ眠たいので寝る。」


「私はもう目が覚めてしまったから大丈夫よ。」


煌は目を擦りながら響彼くんの言葉に頷いた。

それからしばらく車に揺られながら景色を眺めていた。

そして2時間弱経つと、律ちゃんに皆んなを起こすように言われた。


「煌、稔、架、響彼くん。皆んな起きて!」


皆んなが起きると律ちゃんは車の窓を開けた。


「わあ〜、海だ!」


架が声を上げた。


少し明るくなって来た窓の外には凪いだ海があった。そして律ちゃんは車を止めると砂浜に向かった。


「ほら、皆んな!早くしないと始まっちゃうよ!」


律ちゃんは一番に砂浜に走った。

それに続いて架と稔も走って行った。

私と響彼くんと煌は後ろをついて行った。


黒い空が紫に染まり始め、水平線から少し太陽が顔を出した。ゆっくりと太陽は登っていき、私達は静かにその姿を見つめた。


「日の出なんて見たの何年振りだろう。」


「響彼兄様、疲れ取れたでしょ?」


「ああ。」


律ちゃんは皆んなを寄せて写真を撮った。


「お父様達と薫お兄様に送っちゃお!」


律ちゃんはそう言いながら何枚もパシャパシャと写真を撮った。


「律姉、連れて来てくれてありがとう!」


「良いんだよ、架。綺麗だったでしょ?」


「うん!」


「律姉、僕日の出写真撮るの忘れちゃったんだけど、律姉撮ってるなら送ってくれない?」


「良いけど、どうしたの?」


稔の発言に律ちゃんは首を傾げた。


「自分で後でまた見たいのもあるけど……泉ちゃんにも見せてあげたいから。」


「泉ちゃんって?」


「すっごく可愛い子!」


律ちゃんの質問に対して、稔は笑顔でそう言った。

稔が最近泉ちゃんと連絡を取ってるという事は知っていたけれど実際に本人からその話を聞くと微笑ましくなる。


「ははーん、稔の好きな子なのね。いっちばん綺麗に撮れた写真送ってあげる!」


律ちゃんは面白がるようにそう言った。

すると稔は当然というような顔で返した。


「泉ちゃんに送る写真は一番綺麗に撮れたものだけに決まってるでしょ?」


「……稔って時々怖いよね。」


「なあ律、そろそろ腹が減ったんだが帰らせてくれないか?」


響彼くんが稔と話していた律ちゃんにそう言った。


「あ、ならこの辺りに美味しそうなお店があるよ!」


律ちゃんがそう言ったので、車に乗り込み、そのお店まで運転してもらった。


車から降りると律ちゃんはスマホを見ながら細い路地に入って行った。私達も後ろを続いて行く。


「あ、あった!」


少し長い坂を登ると小さなカフェがあった。


「いらっしゃいませ、えっ、何、芸能人??ママー!おねーちゃん!来てー!」


煌達と同じくらいの女の子が出迎えてくれた。

その女の子が大きな声で呼ぶと母親と姉らしい人が奥から出て来た。


「どうしたの?結衣(ゆい)?あらお客さん?いらっしゃいませ。今はまだ人も少ないですし、お好きな席に座って下さい。」


母親らしき人はそう言うと奥の方へ戻って行った。


「こちら、お水です。ご注文がお決まりになったらベルでお呼び下さい。」


接客をしてくれたのは高校生くらいの店員さんだった。


「すみません、良ければおすすめのメニューを教えてくれませんか?」


私がそう聞くと店員さんは笑顔で教えてくれた。


「1番はフレンチトーストです。私の父が作っているんですが、父のフレンチトーストは世界一美味しいですよ!」


「そうですか。ならフレンチトーストをよろしくお願いします。皆んなはどうする?」


「僕もそれで!」


結局皆んな、同じフレンチトーストを頼む事になった。

注文したフレンチトーストが届くまでの間、皆んなで色々話して待った。


「律ちゃん、このお店に来た事あるの?」


「え?無いよ?慧星から聞いたのよ。」


「慧星くん?」


その時丁度、頼んでいたフレンチトーストが届いた。


「あの、もしかして二条先輩のお知り合いの方ですか?」


フレンチトーストを届けてくれた店員さんがそう言った。


「ええ、そうよ。貴方は、慧星の彼女?」


「か、彼女なんてそんな大それた者ではありません。二条先輩とは同じ高校で最近話すようになったというだけで、ただの後輩です。」


「そうなんだ。改めて、私は恋咲律、慧星の幼馴染。慧星の事、よろしくね。」


「はい!あ、自己紹介を忘れてました。私は高橋涼香(たかはしりょうか)です。あっちにいるのは妹の結衣です。」


結衣ちゃんは空いているテーブルを拭いていた。

涼香さんが手招きをすると結衣ちゃんはトコトコと歩いて来た。


「もしかして、架くんですか?グミのCMの。」


「うん……僕のこと知ってくれてるの?」


「はい。えっと、これからも頑張って下さい!」


「ありがとう。」


「あと、サイン下さい!」


そして架がサインをすると結衣ちゃんは目をキラキラさせて受け取った。


「ありがとうございます!宝物にします!」


「どう致しまして。」


そしてフレンチトーストを食べ終わり、お店を後にした。


「涼香ちゃん、またね!」


「はい!律さん、皆さん、またお越しになって下さい!」


「架くんもまた来てね!」


帰り道、運転は響彼くんがする事になった。

律ちゃんは私の隣の席に座って外を眺めていた。


「ねえ律ちゃん、律ちゃんはもしかして涼香さんの事を知っていたの?」


「ふふっ、これから長い付き合いになる相手だからね。」


「……?」


律ちゃんはボソリと呟いた。


家に着くと、貴翠と京翠と京駕さんが出迎えてくれた。


「美乃梨様、お帰りなさいませ。」


「ただいま、貴翠。」


私は貴翠と京翠と一緒に部屋に向かった。

そして、京駕さんがシャルルと一緒にお茶を用意して来てくれた。


「美乃梨様、今日はどうされる予定ですか?」


「特に予定は無いけれど……学校の辺りまで散歩してみたいわ。」


「左様ですか。ぜひお供させて頂きたいです。」


京駕さんがそう言ってくれた。


「ありがとうございます。ぜひ、お願いします。」


「美乃梨様、私はボディーガードですので勿論お供致しますよ?」


「私もです。」


「分かってるわ、貴翠、京翠。2人ともありがとう。」


昼食は軽く食べ、本を読んで時間を潰していたら、アーチーに呼ばれた。


「どうしたの?アーチー。」


「薫様と紫乃凛様がお茶会をしたいと申しておりまして、美乃梨様がお忙しい様子でなければ呼んで来て欲しいと。」


「楽しそうね!本を片付けたらすぐに向かうと伝えておいて!」


私はすぐに読んでいた本を片付けてお茶会室に向かった。


「美乃梨、好きな所に座って頂戴。」


お茶会室にはお父様とお母様と煌と稔と架、それに聡兄様と花央さんも揃っていた。


「家族揃ってのお茶会なんて、このメンバーでは初めてね。聡は、まあ良いとして、花央は慣れたかしら?」


「はい。皆さんお優しい方ばかりで、とても良くして貰っています。」


「そんな他人行儀でなくて良いのよ。貴方はもう私達の娘なのだから。」


するとお母様は私に話題を振って来た。


「美乃梨、婚約者候補の皆さんとはどうなの?」


「えっ、いや、い、今まで通りですけれど。」


「紫乃凛、私は美乃梨の恋愛話など聞きたく無い。」


お父様は耳を塞ぎながらそう言った。

なので私はお父様とお母様に話題を振り返した。


「お父様とお母様って、お父様の婚約者候補だったお母様をお父様が選んで婚約者になったんですよね?少しだけ京駕さんや京翠から聞いた事がありますが、詳しく聞いてみたいです。」


「良いぞ。私は美乃梨とは違い、婚約者候補が5人いたのだが、婚約者候補など要らないと思っていた。何故なら婚約者候補が決まる何年も前から紫乃凛を好いて居たからな。父上に言っても聞き入れて貰えなかった為、紫乃凛以外の婚約者候補には紫乃凛以外選ぶつもりがないと説明した。」


お父様の話に、お母様は深くため息をついた。


「薫、やはりそんな事をして居たのね。」


「当たり前だ。だが、婚約者候補期間の2年間、どれだけアピールをしても紫乃凛は私の事を幼馴染としてしか扱ってくれなかったのだ。」


お父様はお母様の方をチラッと見ながらそう言った。


「だから私は十五の誕生日を迎えた日、紫乃凛を振り向かせようと精一杯告白したのだ。」


「そういえば、前に京翠から聞いて、ずっと気になっていたんです!」


「そうか。美乃梨も婚約者を選ぶ時に参考にしてくれても良い。私が、紫乃凛に告白した時の言葉は、『この世に生を亨けて初めて好きになったのが紫乃凛だった。この先何度生まれ変わろうと私はまた紫乃凛を好きになる。紫乃凛の代わりなど他に誰も居ない。どうか、私の唯一の妻として生涯を共にしてくれないか?』だったな。」


「素敵ですね。」

「流石お父様ですね、かっこいいです。」


私と花央さんの反応とは違い、お母様は聡兄様、煌や架の反応は微妙なものだった。


「あの時の周りの子達の引いた顔は忘れられないわ。」


「流石養父上と言うか……逆に尊敬します。」


「……凄いと思います。」


「僕には到底真似出来ません。」


お父様は「そうか?」と首を傾げた。

すると稔がお父様に向かって言った。


「お父様、流石です!僕も告白する時はお父様を参考にさせて頂きます。」


稔の発言に、煌と架は少し引いたように言った。


「本気か?稔。」


「稔も凄いね。」


どうやら稔はお父様と思考が似ているらしい。

お母様は溜息をつきながら、「相手の方に迷惑をかけなければ良いけれど。」と言った。


「美乃梨と花央は養父上のように告白されたいの?」


「そうですね。憧れではあります、ね、美乃梨さん?」


「ええ。そんな素敵な告白を一度はされてみたいわ。あ、私はする側ね。」


聡兄様は私達とお父様を交互に見た後、「養父上の顔立ちだから良いだけでは……」と言った。


そしてお父様とお母様の休憩時間が終わるようなので、私達はお暇する事になった。


それからしばらく読書をした後、夕方になって来たので散歩に行く事にした。


「貴翠、京翠、そろそろ散歩に行くわよ。京駕さんは先に玄関で待って居て貰ってるわ。」


「分かりました。今すぐ向かいます。」


そして学校方面まで4人で歩いて行った。


「ドライバーの京駕さんとこうして歩いてるなんて少し変な感じがします。」


「そうですね。偶にはこういうのんびりした休日も良いですね。」


私達がそう話しながら歩いていると、後ろから声が聞こえて来た。


「美乃梨?貴翠も一緒か。」


声をかけて来たのは卒業式ぶりの仁先輩と、颯先輩のお姉さんである杏さんだった。


「仁先輩!お久しぶりですね!あ、杏さんもご一緒だったんですね。」


「私の事覚えててくれたの?美乃梨ちゃん記憶力良いね!」


「ありがとうございます。」


「美乃梨も貴翠も久しぶりだな。元気にしてるか?」


仁先輩はそう聞いて来た。


「仁、それは親戚のおじさんの言葉じゃん。でも確かに、美乃梨ちゃんも隣の子も少し疲れた顔してるね。」


「えっ?そうか?」


杏さんの言葉に、私と貴翠は顔を見合わせた。


「あれ、違った?特に貴翠くん?の方は凄く深刻そうな顔に見えたけど。」


「俺にはいつも通りに見えるけど。まあ、杏の勘はよく当たるけどな。じゃあな、貴翠、美乃梨。貴翠、なんか悩んでるなら京翠さんとかに相談しろよ!」


杏さんと仁先輩はそう言って歩いて行った。


私は隣にいる貴翠を見た。


「貴翠、そんなに深刻な悩みがあったの?」


「いえ。美乃梨様がお元気で居てくださる限り、私の悩みなどございませんよ。」


「そう。それなら、良かったわ。」


そして家まで歩いて帰った。



 翌朝、貴翠と京翠と京駕さんを私の部屋に呼んだ。


「貴翠、京翠、京駕さん。今日3人を呼んだのは確認したい事があったからです。臣下の誓いの取り下げは本当にしなくても良いのですか?」


私の質問に3人は即答した。


「はい。」

「取り下げるわけありません。」

「勿論でございます。」


臣下の誓いは、一生身を捧げて主人に仕える事を約束した誓いだ。全うした者には名誉となり、逆に全う出来なかった者には不名誉になる。その上、身を捧げて護るという誓いを果たせなかった場合はに相応の処分が下る。例えば、魔力の剥奪や、寿命の短縮などだ。


「今なら、取り下げが可能なのよ?」


臣下の誓いは、魔法における誓いの中で最も取り下げが難しいものだ。臣下の誓いを取り下げる場合、取り下げる当人と主人、そして当人と主人の魔力を一時的に溜める器となる第三者が必要だ。そして、満月の日は誓いの取り下げが不可能である。明後日はとうとう満月だ。今日、明日を逃せば誓いの取り下げが敵わなくなる。


「美乃梨様、私共は名誉の為に美乃梨様に自ら臣下の誓いを立てたわけではございませんよ。」


京駕さんが優しく微笑みながらそう言った。

貴翠と京翠も笑顔で頷いた。


「ありがとうございます。」


そんな穏やかな始まりを迎えた今日は、決行日の前日だ。

皆んなが準備に慌ただしくしている中、私のする事は只々無理をしないでゆっくり過ごすという事だ。この事はお父様だけでなく、お母様と聡兄様と花央さん、それに響彼くんや律ちゃんからもお願いされてしまった為、今日は無計画に過ごす事にした。


「あ、クッキー作ろう!シャルル、エプロンある?」


「はい。」


部屋を出ようとすると扉の前に貴翠と京翠が立っていた。


「美乃梨様、どちらに向かわれるのですか?」


「調理場よ。2人とも、甘い物は好き?」


「はい。」

「勿論です。」


「なら、ここで待っててね!」


私は少し足早に調理場へ向かった。


料理長(シェフ)!調理場を借りても良いかしら?」


「はい。大丈夫ですよ。皆様の昼食の下拵えも終わりましたし。今日は何を作られるんですか?」


「クッキーともう一つ何か焼き菓子が作りたいです。」


「フィナンシェなどはどうでしょうか?丁度アーモンドプードルもこちらにございますし。」


料理長はそう提案してくれた。


「フィナンシェ、難しいそう……」


「私もお手伝い致します。」


「ありがとうございます!」


そして私は先にココアクッキーを作る事にした。

私がクッキーを作っている間、料理長はフィナンシェの材料を測ってくれていた。クッキー生地を作り、冷蔵庫で休ませている間、フィナンシェ作りに取り掛かる。


「シェフー、凄え暇なんですけど、何かする事ありませんか〜?」


料理長に言われた通りに材料を混ぜていると奥から料理人が出て来た。


「あ、お嬢様!お嬢様がこの調理場に立たれるのはお久しぶりですね。」


翔太(しょうた)さん。お久しぶりです。」


私に気付いて挨拶をしてくれた彼は、木野翔太。聡兄様の二つ上の従兄弟だ。


「聞いて下さいよ、お嬢様。最近聡がここに来ては惚気て来るんですよ。あんな美人な奥さん貰って惚気るのはまあ、当たり前ですけど。俺も早く結婚したいです!」


「お嬢様、良い人紹介して下さいよ〜」と翔太さんに言われた為、私は少し考えてみた。


「私に紹介できる方は満留さんか、律ちゃんくらいですね。

翔太さんは2人とも知ってますよね?」


「まあ、知ってますけど。満留は友達としてなら良いですけど、恋人や家族としては嫌ですし、律様には京翠が居ますから。やっぱり木野家で見合いをする方が早いんですかね。」


翔太さんの言葉に、料理長が言った。


「お前は理想が高すぎるから誰にも受け入れて貰えないんだろ?」


料理長の言葉に、翔太さんはうっと言葉を詰まらせた。


「そ、そんな事言うなら〜、シェフはどーなんですか?」


「え?俺か?俺なら可愛い妻が居るぞ?」


「翔太さん、知らなかったんですか?料理長は奥さんもですけど、5人のお子さんがいらっしゃいますよ。」


「5人も!?初耳なんすけど!えー、良いな〜」


翔太さんが口を尖らせながらそう言うと、料理長は翔太さんの頭をペシンッと叩いた。


「人の事を羨ましがる前に自分自身で努力しろ!」


「分かってますよ〜。で、お嬢様とシェフはさっきから何作ってるんですか?」


「フィナンシェとクッキーです。」


「楽しそうですね。俺も手伝いますよ。」


翔太さんは腕まくりをして手を洗うと型を準備して、フィナンシェを型に移すのを手伝ってくれた。フィナンシェの生地を予熱したオーブンに入れ、焼き始めるのと同時に、冷蔵庫で休ませていたココアクッキー生地を出した。


生地を伸ばして型を抜いて鉄板に並べると別の予熱していたオーブンに入れて焼き始めた。


「お嬢様、学校生活はどうですか?」


「毎日とても楽しいですよ。」


「候補様方との噂もよく耳にしますよ。それで、九条家のご子息と相思相愛というのは本当ですか?」


翔太さんはからかうような顔でそう聞いて来た。


「そ、相思相愛なんて誰から聞いたんです!?」


「シャルルさんですよ。」


はあ、と思いきりため息をつきたくなった。


「まあ、千秋の事を好きなのは事実ですけど。そんな事よりも、私は料理長と奥様の馴れ初め話が聞きたいです。」


「そんなに面白いものでは無いと思いますが……」


そして料理長の馴れ初め話が終わった頃、クッキーもフィナンシェも焼き上がった。


「美乃梨様、粗熱が取れたら私達がお皿に移しておきますのでどうぞ皆様をお呼び下さい。」


「え、でも……」


「そうですよ。坊ちゃん達が待ってますよ。」


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて頂きます。」


私は調理場を出ると、京駕さん達が居るであろう書斎へと向かった。


「京駕さん!貴翠、京翠!お菓子が焼き上がったのでお茶にしましょう!」


「分かりました。では、私はお茶の準備をして参りますね。」


「貴翠、京翠、煌達とお父様や響彼くん達を呼んで来てくれるかしら?出来れば聡兄様と花央さんも!」


「「承知致しました。」」


私は次に、庭にある東屋へ向かった。


「……スー、スー、」


トントンと肩を叩くとゆっくりと目を覚ました。


「……っ美乃梨、お嬢様!?」


「おはよう、篤季。目は覚めたかしら?」


「は、はい。」


「篤季、前に約束したクッキー作ったわよ。篤季が好きなココアクッキー。今なら焼き立てだけど、食べない?」


「食べます!すぐに顔を洗って向かいます!」


そして皆んなで食べられる一番広い場所、ランチルームへと向かった。


「美乃梨!クッキーとフィナンシェ作ったって本当!?早く食べさせて!」


京翠と一緒に入って来た律ちゃんが飛び付きながらそう言った。


「律、美乃梨が困ってるから離してやれ。」


響彼くんは私から律ちゃんをベリッと剥がすと、席に座った。


「美乃梨、クッキーとフィナンシェを作ったというのは本当か!?」


律ちゃんと同じような事を言いながら入って来たお父様はお母様と貴翠と一緒だった。


「薫、子供みたいにはしゃぐと父としての尊厳が薄れますよ。」


「やはり律は兄上に似たんだな。」


お母様に同調しながら響彼くんがそう呟いた。


そして、煌達と聡兄様達が篤季と一緒に入って来た。

その後、京駕さんが焼き上がったお菓子と紅茶を持って来て下さった。


全員揃うと貴翠と京翠と京駕さんは私の後ろに立ち、篤季は煌達の後ろに立った。


「何してるの?」


私が一番近くに立っていた京翠に聞くと、京翠は答えた。


「私達は従者の立場ですので、皆様と並んで座る事など出来ません。」


私は少し深く溜息をついた。

この揺るがない兄弟達は京駕さんの教育の賜物だろう。


「お父様、」


私がお父様に目配せをしながらそう言うと、お父様は軽く頷いて言った。


「今日は無礼講だ。席に座ってくれ。それとも、当主として命令した方が良いか?」


お父様の言葉に、京駕さんが頷き席に着くと、貴翠と京翠と篤季も席に着いた。


「では、早速いただこう。」


お父様はそう言うと、先にフィナンシェに手を伸ばした。


「お、美味いな。美乃梨、とても美味い。ありがとう。」


「お口に合って良かったです。」


私は京駕さんの淹れてくれた紅茶を飲んでから、クッキーに手を伸ばした。


「美乃梨、結構上達したね。」


一時期私の料理やお菓子作りの先生をしてくれていた聡兄様がそう言った。それに続いて花央さんも褒めてくれた。


「ええ。とても美味しいです。真央から時々美乃梨さんの作るお弁当の話は聞いて羨ましいなと思っていました。美乃梨さん、今度私にも作り方を教えてくれないかしら?」


「はい!でも、聡兄様の方が上手だと思いますけど。」


私がそう言うと、花央さんが言った。


「聡さんは結構です。私は美乃梨さんと一緒にお菓子作りがしたいだけですので。」


花央さんは笑顔でそう言ってくれた。私としては嬉しい気持ちが大きいのだが、聡兄様が不貞腐れたような顔を私に向けて来るので少し複雑だ。


「花央は僕とはお菓子作りしたくないの?」


しばらくじっとこちらを見ていた聡兄様だが、花央さんが自分の方を向かないからか口を挟んだ。


「したくないという事はありませんけど、私、お菓子作りの経験がありませんので……もう少しまともに作れるようになるまで聡さんには見られたくないのです。」


「別に花央にお菓子作りの経験が無くても僕は一緒に作りたいけど。」


「いえ、それだけでは無く。私、今まで弟しか居ませんでしたから妹ともっと仲良くなりたくて。」


花央さんがそう言うと、聡兄様は「そう言う事なら」と引き下がった。


そしてお茶が終わり、皆んなが帰った後、私は早足で調理場へと向かった。


ココアクッキーを焼く時に、いくつかにチョコチップを混ぜて作ったチョコチップクッキー。料理長に頼んで鉄板に置いてもらっていた。そのクッキーをラッピングすると、まだ片付けで残っている筈なので早足でランチルームへと向かった。


「篤季!良かった、まだ居て。はい、これチョコチップクッキー。」


いきなり渡されて少し戸惑ったような顔をした篤季。


「美乃梨お嬢様、どうしたんですか?クッキーなら先程頂きましたが。」


「あれは、皆んなにあげた物であって、私が篤季に贈った物では無いもの。と言うより、篤季のクッキーを作るついでに一緒に作っただけっていうか……」


「あ、ありがとうございます。」


「いえ、どう致しまして。」



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