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王子様は1人じゃないっ!  作者: 華咲果恋
本編2年生
80/123

苦難の前の始業式

「三日月先生、今日も泊まられるんですよね?」


「ああ。世話になるよ。」


三日月先生は最近ずっと家に泊まり続けている。

きっと三日月家の知っている情報を伝える為だろう。


「それより恋咲は明後日どうするんだ?」


「明後日、ですか?」


「やっぱり忘れてるよな。明後日は始業式だ。」


「そうでした。すみません、忘れてしまっていて。」


「いや、色々あったからな。それに始業式には出席するのかどうか聞きたかっただけだから。」


「出席するつもりです。」


すると、その時足音が聞こえて来た。


「美乃梨様、こちらに居ましたか。」


「三日月先生も居らしたんですね。丁度良かったです。」


「貴翠、京翠。2人揃ってどうしたの?」


私がそう聞くと、先に貴翠が答えた。


「美乃梨様、私はもう卒業してしまったので学校で美乃梨様のお側に仕える事が出来なくなりました。ですので学校以外はどこへでも着いて行く所存であると伝えに参りました。」


「そう。ありがとう、貴翠。それで、京翠は?」


「私は今年も教育実習生として学校に行くつもりだったんですが、それも叶わなそうなので、どうにか美乃梨様のお側に居られる方法を三日月先生に尋ねに来ました。」


京翠に何か良い案が無いかと尋ねられた三日月先生は考え込むように頭を捻りながら返していた。


「良い案と言われても、実習生でないのなら教師になるしか無いのでは?校長はこちら側の人間なので事情を話せば副担任にして貰えると思うぞ。」


「教員免許は持っていないのですが。」


「それもそうだな。それなら、学生ボランティアで良いんじゃないか?毎年うちの学校は希望者が居れば受け入れてるらしいし。」


「そのようなものが……!早速校長に取り合ってみます。」


 翌日、京翠は嬉しそうに学生ボランティアとして受け入れて貰える事になったと報告してくれた。私はそんな事よりも校長先生もこちら側の人だったという事に驚きを隠さなかったのだが。


「美乃梨様、薫様がお呼びです。」


突然シャルルにそう言われ、私は昨日の宣言通りついて来ている貴翠と京翠と一緒にお父様のお部屋へ向かった。


「美乃梨様、いらっしゃいませ。」


「アーチー、ありがとう。お父様は?」


「奥にいらっしゃいます。」


アーチーに案内されるがまま奥に向かうと、一方にはお父様とお母様が並んでいて、もう一方にはリクスお兄様と煌が揃っていた。


「美乃梨、急に呼んですまないな。」


「いえ。」


「美乃梨と煌に関わる事なのでな。ご先祖様の封印を解く日取りが決まった。四月の二十五日。満月の日だ。」


「分かりました。」


「父上達の封印を解いた後の流れを簡単に説明する。

一つ、父上達に魔力を預け二人を一時的に仮死状態とする。

一つ、美乃梨と煌が仮死状態の時は隔離する事。

一つ、仮死状態の間、血の繋がりのあるもの以外との接触は禁ずる。

一つ、接触出来る者は最高でも四人までとする。

以上の四つを破ると無事二人に魔力が帰らずそのまま二人が目覚めぬかもしれぬので守るように。特に美乃梨への信仰心の強い二人には厳しい所業かも知れぬが()()守るように。他の者へも伝えておけ。」


「「はい。」」


「あの、フェリクス様。血の繋がりのある者と言うのは具体的にはどの程度でしょうか?」


「再従兄弟くらいなら問題ないだろう。」


「ありがとうございます。」


そして私は煌が部屋を出た後、お父様とお母様に尋ねた。


「煌と稔と架の誕生会は今まで通り行いますよね?」


「それは、煌達の意向によるわね。」


「美乃梨、安心しなさい。私は例年通り行うつもりだ。」


「お父様、ありがとうございます。……少し、嫌な予感がするので、今回の誕生会だけは行って下さい。」


「嫌な予感だと?」


「はい。怖いと言うよりは、先が見えないと言いますか……私は後悔したくないので、絶対に煌と稔と架の誕生日はお祝いしたいのです。」


私がそう言うと、気付けばお父様とお母様に抱き付かれていた。


「美乃梨、今まで我慢ばかりさせてごめんなさい。」


「自分の気持ちを素直に口に出す事が出来ないのは、私達の所為だな。本当にすまない。」


「お母様もお父様もどうしたのですか?」


「……美乃梨、怖くないと言うお前の手は何かに怯えるように震えていた。」


「貴方はきっと今までもそうだったのでしょう。私は薫よりも貴方の事を見ているつもりだったわ。でも、自分の感情を押し込んでしまう癖を付けさせてしまったのは私なのね。」


「私は大丈夫です。確かにあの頃は寂しかったですけど、響彼くんが居てくれて、聡兄様が居てくれて、貴翠と京翠と篤季が居て、京駕さんが居て、シャルルが居て、煌達が居て。そして私達が幸せに暮らせるように頑張っているお父様とお母様が居ましたから。」


私がそう言うと2人は少し離れて言った。


「本当に薫が言うように、気が付けば大きくなったわね。」


「美乃梨、寂しい思いをさせて本当にすまなかった。償いとして何でも我が儘を言ってくれ。」


「薫、それは貴方が美乃梨の我が儘を聞きたいだけでしょう。」


「それよりお父様もお母様も煌達の事を気に掛けてあげて下さい。皆んな少なからず寂しい思いをしていますから。私にはもう、一番信頼出来る最高の味方が居ますから安心して下さい。」


私は貴翠と京翠を振り返りながらそう言った。

2人は嬉しそうに微笑んだ。


「お父様、お母様。私はお2人の娘として生まれた事を誇りに思っています。」


「私も美乃梨が私の娘で良かったと思っている。」


「私も、貴方が私の娘として居てくれる事を誇りに思っているわ。でも、どうして突然それを?」


「伝えたくなったので。……もう、伝えられないかもしれないから。」


私は心の中で思っていた事をつい口に出してしまっていた事に気付きお父様とお母様を見たが、幸い聞こえていなかったみたいでほっと息をついた。


そしてそのままお父様のお部屋を後にし、自室へ帰る途中、


「美乃梨様、先程仰っていた言葉の意味を教えて下さい。」


「薫様と紫乃凛様には聞こえていらっしゃらなかったのかもしれませんが、私達にははっきりと聞こえました。」


2人の耳には届いてしまっていたらしい。


「……さっきお母様達に言ったように、先が見えないの。私が18を超えた未来が。」


京翠と貴翠は少し目を見張った。

私が18歳を超えられるかどうかの確率は半分。

でも最近、本当に半分の確率もあるのかと考えるようになった。


「リクスお兄様は何か知っている気がするの。知っていて、敢えて私達の為に隠していると思うの。」


「流石美乃梨だな。」


急に噂の人物が現れて私は少しビクリと肩を揺らした。


「リクスお兄様……」


「煌も先程同じ事を言っておった。そして、貴翠もな。其方らは揃いも揃って勘が鋭いな。」


「フェリクス様、そろそろ教えて下さいますか?」


「良いのか?私が教えない方が良いと思って態々秘匿していたのだぞ?それを本人の居る場所でなど、其方は一番嫌がりそうだが。」


「構いません。美乃梨様が聞きたがっている事ですので。」


「分かった。その代わり、煌を呼ぶ事、そして其方の秘密を明かす事だ。」


(貴翠の秘密……?)

リクスお兄様は何かを隠している。そして貴翠も私に言えない何かを。貴翠は難しい表情をして答えた。


「煌様をお呼びする事は承知致しました。ですが、私の事に関してはまだ時期ではありません。なので時期が来たら必ず明かすと約束します。」


「まあ、良いだろう。」


そして私の部屋に移動した。


「フェリクス様、お久しぶりでございますね。」


「ウェントスか、久しいな。」


「今は美乃梨様に名付けられたシャルルという名がございます。」


「そうか。」


当たり前のように会話をする2人に驚いてしまった。


「リクスお兄様、シャルルと知り合いなんですか?」


「何を言っておるのだ?使い魔達は元は十体程しか居なかったのだぞ?主人と天に上った後、魔力を分けて個体を作るのだから今の個体になる前の記憶も持っているのだ。」


私は使い魔が主人と共に天に旅立つ事は知っていたが、その後どうなるのかは知らなかった。


「そうだったのね。知らなかった。」


そんな事を話しているうちに、貴翠と煌がやって来た。


「兄上、やっと話す気になって下さったのですね。」


「可愛い煌と美乃梨の頼みだからな。」


そして皆が揃ったのでリクスお兄様は教えてくれた。


「美乃梨と煌が契約を白紙に戻し、生き延びる確率は其方らの知るように五割程度だ。だが、生き延びたからと言って目覚めるかどうかは別だ。目覚めぬまま生き延びる確率、つまり昏睡状態となる確率は少なく見積もっても九割以上だ。」


「目覚める確率は?」


「多く見積もって百分の五以下だろうな。」


胸騒ぎの原因がやっと明確になった。

生き延びても目覚める確率が5パーセントしかない、その事実に妙に納得がいった。


「本来、契約とは自分自身に課すものではなく、保険のためにに施すものだ。だが、エミリアは自分自身に契約を課し、保険としてではなく代償として自分の命を捧げている。そこまでして何を叶えたかったのか私には分からん。だが、願いが二つあった事は分かる。」


「……今までも少し不思議に思っていたのですが、前世の記憶が戻るに連れて分かって来たんです。私の前世の願いのうちの一つは、"愛されること"」


「何故だ?」


「前世は私の外見や功績ばかりが目立ってしまい、()()()を知ろうとしてくれた人は家族と、忠誠を誓ってくれていた2人の騎士だけでした。ですが今世は私を恋愛感情で好いてくれる人が多くいました。皆を傷つけてしまったのは私の所為だったという事に気付きました。」


告白されて、今まで通りでは居られなくて友達では無くなるなんて、全て私自身が蒔いた種だったのに……


「美乃梨様、私が美乃梨様に忠誠を誓ったのとその契約は全く持って関係ないと言い切れますよ。私は、……美乃梨様だったから忠誠を誓ったのです。」


「私もです。美乃梨様と過ごした期間の中で、美乃梨様にお仕えしたいと思ったのです。」


「私も違うと思う。エミリアは私よりもその二人の騎士達とばかり行動を共にしていた。とても幸せそうにな。とても愛に飢えていたようには見えなかった。」


「でも、そうじゃないと説明が付きませんよ。私にこんなにも好意を寄せて貰えるなんて。」


「美乃梨はエミリアと違って自己肯定感が低いな。私はエミリアが何を叶えたかったのかは分からないが、エミリアが一番欲していたものは愛では無いと思うぞ。」


すると煌が呟いた。


「普通の家族、だったと俺は思います。前世は()()()()()というカテゴリーから抜ける事は出来ませんでしたから。前世の俺にとってはその願いは命を掛ける程、大きな価値を成していました。そしてもう一つは、自分とは全くの別人に生まれ変わること。」


煌の言葉に思わず頷いていた。

あの頃の私はその2つの事を最も願っていたから。


「多分、二つ目の願いの方は俺の魔力に刻まれています。姉さんは自己肯定感以外は前世のままですから。」


「ふむ、確かにそうだな。それより煌は前世の記憶が全て戻ったようだな。」


「はい。少し変な感じがします。あまりにも俺と違うのに、身に覚えのある事柄ばかりで。」


「そうだろうな。だが、そのうち慣れるだろう。」


煌は全ての記憶を取り戻したそうだが私はまだぼんやりとしか思い出せていない。一つ明確に思い出せているのは、前世の私にも貴翠と京翠のように2人の騎士がついていた事だ。


「美乃梨、私はそろそろ失礼する。」


「リクスお兄様、態々説明してくれてありがとうございます。」


そして2人が部屋を出て行った後、少し気まずい沈黙が流れた。


「美乃梨様、申し訳ございません。」


貴翠が急に頭を下げた。


「どうしたのよ、急に。」


「美乃梨様に心から仕えているというのに、美乃梨様に隠し事をしてしまって。」


「ああ、そんな事。隠し事くらい誰にだってあるわよ。」


「美乃梨様にも、ですか?」


「私は、ほら!隠すのが下手だから。確かに貴翠が隠している事が何か物凄く気になるわ。でも、貴翠が話したくなったらで良いわよ。だからいつか、私に話せる時に、ちゃんと聞かせてね?」


「はい。」



 色々あった春休みがようやく終わりを迎えて、今日からは新学期だ。


「おはよう、美乃梨。」

「おはようございます、美乃梨さん。」


「聡兄様!花央さん!何だか久しぶりに感じるわ。」


「何言ってるの?一昨日も一緒に朝食を食べたでしょ?」


「最近は毎日が濃すぎて、時間の感覚がおかしいのよ。」


少し久しく感じてしまう聡兄様と花央さんと一緒に朝食を取り、私は学校へ行く支度をした。

久しぶりに腕を通す制服は何だか懐かしく感じてしまう。


早めに準備が終わり、時間を持て余してリビングでまったりしていると、三日月先生が来た。


「恋咲、準備早いな。」


「三日月先生も早いですね。もう向かわれるんですか?」


「ああ。色々と準備があるからな。」


「私も今日は少し早めに出る予定なので一緒に乗って行きますか?」


「いやいや、そんな事したら他の教員にどんな誤解をされるか……」


「そうですか。」


三日月先生は態々バスで向かうらしい。

そして間も無く篤季と千秋と真央くんと景くんが揃った。


「じゃあ早速行こ。」


「うん、そうだね。」


そして今年も京駕さんの運転で学校へと向かう。


「そう言えば、京翠さんは今年も教育実習生何ですか?」


真央くんが京翠に対してそう聞いた。


「いえ。今年度と来年度は学生ボランティアとして行かせていただきます。」


「そうなんですね。」


そして学校に着き、昇降口に向かうと大きな板が置いてあった。何だろうと思い板の前に行くと、名簿のように名前が書かれていた。


「京翠、これは?」


「クラス替えの発表だと思います。三日月先生から聞きましたが、この学校は毎年クラス替えがあるそうなので。」


「この中から自分の名前を探せば良いのね?」


「はい。」


「僕は美乃梨お嬢様と同じクラスになりたいです!」


名簿の中から名前を探していると、篤季がそう言った。

確かに私も、篤季と同じクラスだと少し心強い。


「みっのり〜ん!」


急に後ろから飛びつかれて振り向くと、肩下まであった髪を顎の上辺りまで切っているユーリちゃんが居た。


「ユーリちゃん、凄く可愛い!」


「えへへ、ありがと。トモくんにね、髪の毛切らせてって言われて切ってもらったんだ〜!結構上手だよね?」


「トモさんが!?凄い、美容師みたい。」


「美容師になりたいらしいよ。あ、みのりんもう自分のクラス見つけた?」


「まだだよ。」


「じゃあ一緒に探そ!」


そしてユーリちゃんと一緒にクラスを探した。

6組まであるので探すのは大変だ。


「あ、見つけた!みのりん!同じクラスだよ!!えっ、待って九条くんと有栖川くんと本堂くんも同じじゃん!」


「「「え」」」


3人の声がぴったり重なった。

残念ながら、レイラちゃんと雅美ちゃんとは離れてしまっていた。凪くんと透くんも別のクラスだ。


同じクラスには他にも知っているメンバーが居た。


「和真くんと爽夜くんと葉月くんも同じだよ!それに羽音ちゃんと音さんも!」


そして3年生の方を見ていた真央くんもこっちに来た。


「僕は匡哉と太一とまた同じクラス。それと早瀬さんと光奈も一緒。美乃梨は?」


「ユーリちゃんとも景くんとも千秋とも篤季とも同じクラスだよ。」


「それは凄いね。」


そして昇降口で真央くんと別れ、教室に向かう事にした。

京翠は残念そうにしながらも職員室に向かった。


「雅美達とは離れたけど、雅美もレイラも柄灯くんと笹木くんと同じクラスだし、今回のクラス替えは結構良いよね。」


「私、クラス替えを経験したのが初めてだから、」


「そっか。でもね、6クラスもあると仲良い子と離れるなんてよくある話なんだよ。」


「そうなの。」


ユーリちゃんと喋りながら教室の扉を開けると、既に何人かの生徒が席に着いていた。


「美乃梨さん!お久しぶりです!」


「音さん!久しぶりね。」


音さんが駆け寄って来てくれた。


「そう言えばこの前聞いたのだけど、音さんって慧星くんと茉莉花ちゃんの従姉妹だったのね。」


「慧星ですか。美乃梨さん、慧星が何か変な事を言ったりしてませんか?」


「変な事、では無いけれど音さんの以外な一面を聞けたわ。勘が鋭いとか。」


「それだけなら、別に構いませんが。美乃梨さん、今後慧星に私に関して何か言われてもスルーして下さって構いませんからね?」


音さんはそう言った後、思い出したように言った。


「そう言えば美乃梨さん。実は今朝、貴翠さんからメッセージが届いたんですが、美乃梨さん、今日のテレビに出るんですよね?貴翠さんからメッセージが届くや否やすぐに録画して来ましたよ。」


音さんがそう言うと、ユーリちゃんと景くんと千秋が驚いたようにこちらを見て来た。


「えっ、私も知らないわ。篤季は知ってたの?」


「はい!兄さん達から必ず録画しておくようにと頼まれておりましたから。」


「貴翠と京翠はあの場に居たのに……」


「みのりんテレビ出るって何!?初耳なんだけど!」


「多分、慧星くんと貴翠達とお出掛けに行った時の事だと思う。飛び入り参加のカラオケ大会があって、私と慧星くんでそれに参加したの。」


「そうなのか?」


「ええ。界莉さんと玲音さんが出ているバラエティ番組らしいの。」


私がそう言うと、ユーリちゃんが言った。


「それ私知ってる!いつも観てるもん!九条くん、有栖川くん18時からだよ。」


「そうなんだ。ありがとう、秋月さん。」


そして少し視線が集まってしまったので、私は逃げるように自分の席へ向かった。


私は3列目の前から3番目だった。


そして殆どの生徒が揃った頃、ダダダッと廊下を走る音が聞こえて来た。ガラッと扉が開くと同時に立っていたのは和真くんだった。


「ギリ、セーフ?」


「和真、始業式早々遅刻ギリギリだよ。」


「景!同じクラスか、良かった!」


そして和真くんの席は私の後ろの席だった。


「おはよう、和真くん。」


「おう、美乃梨!今年は同じクラスか。よろしくな!」


「うん。よろしくね。」


そして放送が入り、始業式の為に体育館に移動する。

体育館への移動は自由なので私はユーリちゃんと一緒に向かう事にした。


「もうホント、みのりんと同じクラスになれて良かったよ。あ、眞木ちゃんだ。」


羽音ちゃんは少し離れた所で1人で歩いていた。


「羽音ちゃん!一緒に体育館向かわない?」


「良いの?」


「ええ!ね、ユーリちゃん!」


「うん!よろしくね、眞木ちゃん!」


ユーリちゃんと羽音ちゃんは別の小学校出身らしく、あまり話した事が無いそうだ。


体育館に着くと全てのクラスが揃うまで待ち、始業式と着任式の後に担任発表があった。私のクラスの担任は予想通り三日月先生だった。


そして教室へ向かっている途中、事件は起こった。


「なあ、葉月。葉月が眞木と付き合ってるって噂、あれデマだよな?」


ユーリちゃんと羽音ちゃんと一緒に歩いていると、前からそんな会話が聞こえて来た。


「何でそんな噂回ってんだよ。」


「何か、野球部のやつが眞木と葉月が2人で歩いてたとか言ってたからさ。どうせ人違いだろ?」


「何で人違いだと思うんだ?」


「いや、葉月と眞木じゃ釣り合わねえって、」


葉月くんと話していた子がそう言った途端、羽音ちゃんは教室と逆方向に走って行った。私はユーリちゃんに、


「三日月先生に私と羽音ちゃんが抜ける事伝えておいて!」


と言ってすぐに羽音ちゃんを追いかけた。


「羽音ちゃん!」


「!美乃梨ちゃん。ごめんね、美乃梨ちゃんなら追いかけて来てくれるよね。」


「前も思ったんだけど、羽音ちゃんってどうしてそんなに葉月くんと付き合ってる事を隠そうとしてるの?嫌なら無理に話さなくて良いけど。」


私がそう言うと羽音ちゃんは首を横に振った。


「どうせもう皆んなに付き合ってる事バレると思うから美乃梨ちゃんには話すよ。……私ね、小学校の時に好きな子が居たの。ある日、その子と何人かの男の子達が教室で話してるのを聞いちゃって、その子も私の事を好きだって言ってくれてたの。」


「うん。」


羽音ちゃんは詳しく説明してくれた。

教室に居た男の子達の会話はこのようなものだったらしい。


「お前って眞木の事好きなのか?」


「そうだけど。それがどうした?」


「いや、眞木だろ?あいつの事好きになるとかお前おかしいだろ。」


「何言ってんだよ、眞木はいい奴だし可愛いだろ。」


「目おかしいんじゃねーの?」


その後言い合っていた2人は殴り合いの喧嘩になってしまったらしい。そして元々は仲が良かったようだが2人はそれ以降絶縁状態になったようだ。羽音ちゃんはそれが全部自分のせいだと言った。


「あの2人が仲が悪くなった理由は私のせいなの。もし、葉月くんと付き合ってる事がバレたらまたあの時と同じ事が起こるんじゃ無いかって思って。葉月くんにまで迷惑かけたくなくて……」


「羽音ちゃんのせいじゃ無いよ。羽音ちゃんの悪口を言う人が悪いんだよ!ね、葉月くん?」


私は覗き込むように見ていた葉月くんにそう言った。


「気付いてたのかよ、恋咲。羽音、俺が周りに何て言われようが羽音のせいなんて絶対にねえから。それにさっきの奴が言ってたのは羽音の悪口じゃなくて俺の悪口だからな。"お前なんかじゃ眞木と釣り合わねえ"って。」


「えっ?」


さっきまで驚いて固まって居た羽音ちゃんが葉月くんの方を見た。


「羽音さ、自分で気付いてないかもだけど結構モテてるんだよ。恋咲が表だとしたら羽音は裏でな。羽音のせいでって、あるとしてもただの嫉妬だ。だからさ、もうバラして良くないか?」


「……からかわれるかもしれないよ?」


「正直そんなのどうでも良いんだよ。俺、羽音の彼氏なのに皆んなの前で羽音って呼べねえし、なのに俺の前で朝葵も恋咲も羽音の事遠慮なく名前で呼んでるし。すっげえズリィんだけど。」


「葉月くん、後悔しないでね?」


「そんなのする訳ねえだろ。やっと胸を張って羽音の彼氏だって言えるんだからさ。」


羽音ちゃんは照れながら「ありがとう。」と言った。


「可愛すぎるだろ。」


「えっ、?」


急な葉月くんの発言に羽音ちゃんは戸惑ったように呟いた。


「なあ、恋咲もそう思うよな?」


「うん!羽音ちゃん凄く可愛い!千秋が居なかったら私絶対羽音ちゃんに恋してたと思う!」


「は?羽音は俺の彼女だから。九条が居なくても恋咲に渡さねえよ?な、羽音?」


「私、葉月くんに告白される前に美乃梨ちゃんに告白されてたらOKしてるかも。」


「何でだよ!」


羽音ちゃんはムスッとしている葉月くんを置いて私の手を引いて教室へ向かった。置いて行かれた葉月くんは拗ねながらも羽音ちゃんのもう片方の手を掴んだ。


「美乃梨ちゃん、新学期早々ごめんね。でも、ありがとう」


羽音ちゃんは明るく笑った。

きっとこれが本来の彼女の姿なのだろう。


教室に着くと葉月くんと話していた子が羽音ちゃんに謝っていた。


「眞木、誤解させるような言い方してごめんな?葉月と眞木が釣り合う訳ねえって言うのは葉月に眞木は勿体無いって意味だっただけだから。」


「私の方こそ勝手に勘違いして……でもね、一つだけ訂正。葉月くんは凄く素敵な彼氏だよ。」


「「え、」」

「「ええーー!」」


羽音ちゃんの言葉に教室中が騒ぎになったが、三日月先生が注意して収まった。


「明日は入学式だ。体育館での部活がある人は準備と片付けを手伝って貰うので明日も登校してもらう。」


三日月先生の言葉に爽夜くんが嫌そうに顔を歪めた。

そして終礼が終わり、帰り際……


「美乃梨、秋月、俺ら雅美達のクラス行くけど一緒に行かねえか?」


「行く!みのりんも一緒に行こ!」


「ええ!」


―後日談―

久しぶりに葉月くんと一緒に帰る事になった。

葉月くんはここ最近ずっと不機嫌そうにムスッとしている。

あの始業式の日から。


「ねえ、どうしてそんなに不機嫌そうな顔してるの?」


私が顔を覗き込みながらそう聞くと、葉月くんは言った。


「羽音の彼氏だ、て堂々と言えるようになったのは嬉しいけどさ、好きな奴の昔の好きだった奴の話を聞くのは結構複雑なんだよ。」


「でも、私が今好きなのは葉月くんだよ?」


「それはそうだけどさー」


謙遜せずにそう答える葉月くんに彼らしさを感じる。


「私も葉月くんの初恋の子の話はあんまり聞きたくないな」


「いや、俺の初恋は羽音だから幾らでも話してやるぞ。」


当たり前のようにそう言う葉月くんは相変わらずだ。

誰よりもかっこいい!


「……葉月くんの彼女になれて良かった。」


「何て?」


「何でも〜?」


「はあ?そんな事言われたら余計気になるんだけど!なーんて、……俺も羽音の彼氏になれて幸せだ。」

読んで下さってありがとうございます♪

これからもよろしくお願いします。

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