番外編 私の悩み
今回は優里目線の番外編です。
「私ってさ、一見悩みとか無さそうに見えるじゃん?でも本当は少しくらいあるんだよね。」
「え、何?それ僕に言ってるの?」
ヤマがそう言いながらスマホから顔を上げた。
「まあ、優里も思春期だもんな。悩みくらいあっても普通じゃない?」
「お母さんとお父さん、来週から海外転勤だよね。」
「ああ。じいちゃんがこっちに来るからね。空いたおじさん達の部屋はじいちゃんが使うだろ?で、今1人部屋のトモが令也と2人部屋になるんだってさ。」
お父さんとお母さんはこれから5年以上は海外で働く事になっている。正直、今までも忙しい2人と顔を合わせる事は少なかったからか、寂しさはあまり感じない。が、私には男兄弟しか居ないため、お母さんが居なくなるのは思春期の私には少し痛い。
「おーい、優里。令也とじいちゃんが来るの今日の午後って事忘れてないか?」
「忘れてるわけないよ!トモくんとお兄ちゃんは?」
「トモはレンと一緒に部屋の片付けしてるぞ。令也の荷物が届いたからな。そろそろ迎えに行くから呼んで来て。」
「はーい。」
私はトモくんの部屋に行った。
ノックをすると「どうぞー」と中から聞こえたので、遠慮なく開けた。
「トモくんの部屋っていつ見ても広いよね〜!」
「優里、俺とヤマの部屋も同じ広さだぞ?2人で使うと狭くなるだけだ。トモの部屋も明日には俺達の部屋と同じ狭さになるぞ。」
「令也の物を置くスペースはもう開けた。優里、何かしに来たんだろ?」
「あ、そうだった。令也とおじいちゃんの迎えに行くからトモくんもお兄ちゃんも準備して。」
そして2人を連れてリビングに行くと、ヤマが、
「おじさん達が車貸してくれるらしいけど、レンが運転する?」
と言った。お兄ちゃんは即答で却下した。
「無理だ。俺あんなでかい車運転した事ねえから。ヤマはあるだろ?」
「僕も2回くらいしか無いけど。まあ早く行かないとじいちゃん達来るから仕方がないから僕が運転するよ。」
そしてお父さんの車である8人乗りの車に乗り込んだ。最寄りの駅まで行くと、相変わらず元気そうなおじいちゃんと、いつの間にか私の背を抜かしていた令也が待っていた。
「おじいちゃん!久しぶり!」
「優里、元気してたか?」
久しぶりに聞くおじいちゃんの関西弁に懐かしさを覚えながら、おじいちゃんに抱き着いた。
「おじいちゃん、お兄ちゃん達とは会っていたんでしょ?」
「ああ。あれは偶々や。あいつらが遊びに来てた時に会ったんや。」
そしておじいちゃんから離れて、お兄ちゃんとヤマに頭をガシガシ撫でられている令也に近付いた。
「久しぶり、令也。あんた何食べたらそんなに伸びるの?」
「優里、久しぶりやな。てか別に何も特別なもんは食べてへんって。俺、今成長期やから。」
「今身長何センチ?」
「160センチ。」
令也は自慢するように言った。
「何で私の周りは皆んな背高いの!」
「じいちゃんと父さん達の背が高いからやろ。」
私と令也がそんな言い合いをしていると、ヤマに呼ばれたので、車に乗り込んだ。
「じいちゃん、令也、今から家に行く前にどこか案内しようか?それとも優里と散歩にでも行くか?」
「わしは案内してくれ。令也はどうするんや?」
「俺は優里と散歩行きたいわ。」
「了解。じゃ、優里と令也はここで降りて歩いて帰って来てね?」
ヤマはウインクしながらそう言うと、車を止めて私達に出て行くよう促した。
「じゃあ、気を付けて行ってらっしゃい。」
「うん!おじいちゃん、行って来ます!」
そしてヤマ達の乗る車が見えなくなった後、私は令也に話しかけた。
「令也、どこか行きたい所とかある?」
「ん〜、あ!俺、優里の友達に会いたい!」
「そんなの入学すれば会えるでしょ?」
「でも、あの人達ずっと優里の事見てるけど知り合いや無いん?」
令也が顔を向ける方を見ると、柄灯くんと松岡くんがこちらを見ていた。私の目線に気付くと、2人ともこちらに向かってやって来た。
「よ、秋月。彼氏か?」
「違うよ!今日から私の家に一緒に住む事になった従兄弟。」
「年上?」
「一個下だよ。」
「じゃあ、瀧と同い年だ。初めまして、秋月の友達の柄灯凪です。君は?」
「俺は秋月令也です。今年の4月から、中学1年になります。」
すると、松岡くんが、
「秋月って4人兄弟だよな?従兄弟も増えるなら大家族じゃねえか。」
と言った。
「違うよ。私の兄はトモくんとレンだから。ヤマは令也と同じく従兄弟。」
「へえ。あ、そうだ。今日は雅美休みなんだけど、今から家来る?」
柄灯が突然そう言うと、令也は頷いた。
「行きたいです!」
そして柄灯くんの家まで向かった。
柄灯くんの家に着くと、玄関の扉が開いた。
中から出て来たのは、柄灯くんの弟である瀧くんと、流くんだった。
「凪も爽夜も遅えぞ。あ、優里さん。こんにちは。」
「こんにちは、瀧くん。いきなりお邪魔しちゃってごめんね。」
「いえいえ。それより、後ろの奴は誰ですか?」
「私の従兄弟なの。4月から、瀧くんと同じ中学1年生だよ。」
すると瀧くんは令也に向かって挨拶をした。
「初めまして。柄灯瀧っス。」
「俺は秋月令也です。よろしく。」
「関西弁だ!初めて聞いた。令也って関西出身?」
「ああ。大阪から来た。」
「そうなんだ。ってここで立ち話はあれだな。」
瀧くんはそう言いながらスリッパを準備してくれた。
「お邪魔しま〜す。」
リビングに行くと、ソファでくつろいでいた雅美が飛び起きた。
「優里!?急にどうしたの?」
「やっほー!雅美!今年から私の従兄弟とおじいちゃんが越して来るのはもう話したよね?」
「え、うん。もしかしてその後ろの子が……?」
「うん。」
そして令也が雅美に向かって挨拶をした。
「大阪から来た秋月令也です。優里がいつもお世話になってます。」
「初めまして。鳳雅美です。いつも優里をお世話してまーす。」
「ちょっと、2人して何なの!?私、雅美にお世話された記憶なんてないけど。」
「それより令也くん。もし、演技で関西出身の役をする事になったら関西弁、教えてくれない?」
「全然良いですよ。それより雅美さん、演技してる人なんですか?」
2人は私の事を無視して話し続ける。
「まあ、まだ全然端くれだけどね。」
「令也、雅美のこれ、ただの謙遜だから。数ヶ月後には雅美がどれくらい凄いか実感すると思うよ。」
「?そうなんや。楽しみやわ。」
そして雅美達の家を後にして私の家に向かった。
「私の友達はどうだった?皆んないい人達でしょ?」
「そうやな。俺も中学入学したらめっちゃ友達つくりたいわ。入学式が楽しみや。」
「令也が入学したら私の友達を他にも紹介してあげるね。」
「うん。楽しみにしてる。」
家に着くと、トモくんがおじいちゃんに勉強を教えられていた。おじいちゃんは実は国立大学の元教授だったりする。
「相変わらず家の大人達は凄い人が多いね。」
「ほんまにな。俺全然勉強出来ひんのに。」
そして今日は令也とおじいちゃんの歓迎も兼ねて、お兄ちゃん特製のご馳走様だ。
「母さんと父さんも、今日はいつもより早く帰って来れるって。」
お兄ちゃんがそう言った時、リビングの扉が開いた。
「遅くなってごめんね。」
「もう食べ始めてるか?」
飛び込んで来たお母さんとお父さんが息を切らしてそう聞いて来た。
「これからだよ。父さんも母さんもお帰り。」
「ただいま、蓮。お義父さん、お久しぶりです。令也も元気にしてた?」
「久しぶりやな、小百合さん。風介、海外行くのは来週からやったな?」
「あ、ああ。親父には優里達の世話を掛ける。」
「何が優里達の世話を掛けるや。蓮も大和も誠も優里も令也もわしの孫やねんからわしが世話してもおかしない。風介と小百合さんは与えられた仕事はちゃんと熟して来なさい。」
おじいちゃんはお父さんとお母さんに向かってはっきりと言い切った。
「お義父さん……ありがとうございます。」
「親父、相変わらずやな。」
「おじいちゃんかっこいい!」
と私はついおじいちゃんに抱き着いた。するとお兄ちゃんがしゃもじを持ちながらコホンと咳払いをして言った。
「盛り上がってるとこ悪いんだけど、折角の飯が冷めるんだけど。」
「ごめん蓮。今から食べるよ。」
そして久しぶりにお母さん達と食卓を囲んだ。
お母さんは私に学校の事などを色々聞いて来た。
「優里は好きな人とか居ないの?」
「ゴホッ、え!?何で!?」
急にそんな事を聞かれて私は咽せながら聞き返した。
「誠は優里くらいの頃から彼女が居たから。蓮はそうでもなかったみたいだけど。」
「……好きな人なんて、居ない、」
「そう言えばこの間デートとか行ってたよな?」
お兄ちゃんがそんな事を言ったせいでお母さんは面白がるような顔で問い詰めて来るし、お父さんは「優里に彼氏はまだ早い!」とか言って来るしで大変な状況になった。
「彼氏なんて居ないって!それより令也!令也ってモテてるんでしょ?」
私は話の矛先を令也に変えた。
美味しそうにハンバーグを頬張っていた令也がこっちを見て言った。
「ん?おへのはなひ?」
「ごめん、何言ってんのか分かんない。」
「俺の話?って言ったんや。別に特別モテてなんかないで。俺より誠兄の方がモテてるやろ。」
令也がそう言うとヤマが頷きながら
「それはそうだろうね。」
と言った。
「なあ、令也がトモの事だけ呼び捨てじゃないのってやっぱりトモはかっこいいからか?」
「え?誠兄がかっこいいって言うより、蓮と大和が兄っぽく無いからやけど?優里に関しては一個しか変わらんし。」
純粋な疑問という様に首を傾げながら言う令也にお兄ちゃんとヤマは落ち込んでいる様子だった。
お父さんとお母さんとおじいちゃんはお腹を抱えて笑っている。トモくんに関しては、我関せずという感じで黙々とご飯を食べている。
「誠は今付き合ってる人とか居るの?」
「今は居ない。最近は面倒臭くなって来たから。」
「トモは初恋まだだからね。」
「何それ、私初めて聞いた。風介くんは知ってた?」
「いや、初耳だ。あまりそういう話をした事がなかったからな。」
そしてご飯が終わるとお父さんとお母さんは荷物を詰めたキャリーバックを持った。明日からお父さんとお母さんは空港近くのホテルに移動する。寝る前にお母さんが私の部屋に来た。
「相変わらず部屋が綺麗ね。」
「お母さん。どうしたの?」
「ごめんね、急に海外に行く事になって。」
「え?別に良いけど。お母さんとお父さんがお仕事を頑張ってくれるから私が暮らしていけるわけだし。周りがお兄ちゃんばかりっていうのはまあ、思春期としてはちょっと思う所はあるけど、おじいちゃんが居てくれるから大丈夫!」
「そっか。偶には帰って来るからね。蓮と誠もだけど大和とも令也とも仲良くね。何かあったらお義父さんに頼ってね。」
「うん。お母さんもお仕事頑張ってね。」
「優里、悩みがあったら私にも何でも相談してくれて良いからね?」
「うん!分かってる。おやすみ。」
そしてお母さんが出て行ってからベットに仰向けになって寝転がった。悩みって言われても具体的に言葉にするのは難しい。……恋愛についてとか、聞かれても分かんない。好きな人とか、別に、居ないし。今までも居た事が無いから恋愛感情が分からない。
「……別に好きとかじゃ無いよね。」
時々ボーッとした時に浮かんでくる顔に私はポツリと呟いた。小学校は同じだったけれど必要以上に話した事がない。でも、私を見てくれていた人も居たんだ。
「坂下くん……クラス替えで同じクラスになれると良いな。」
仲良くなりたい。そう思った。
私は周りの皆んなが恋をしてキラキラしているのを外から見る。今は友達と遊んでいる方が楽しいから恋はまだ先で良いかなって思いながら。
でも、もし初めて誰かを好きになるなら、彼が良い。そう思いながら眠りに着いた。
ピピピッ、ピピピッ。
目覚まし時計を止めて、遠慮なく二度寝をしようとした時、部屋の扉は豪快に開かれた。
「優里ー!おはよ〜!!急がなおじさん達が出る時間に間に合わんで?」
「……ん。そ。」
「そ。じゃないねん!急げや!」
令也はそう言いながら布団を引き剥がして来た。
「ちょ、何すんのよ!まだ眠たいのに!」
「おい。優里起きたか?」
私と令也で布団の取り合いをしているとトモくんがやって来た。
「父さんが優里に挨拶したいって。ほら、おぶってやるから起きろ。」
トモくんはそう言いながら背中に乗せてくれた。
「トモくん、身長伸びた?」
「前測った時は177くらいだった気がする。」
そしてリビングでトモくんの背中から降りると、ヤマとお兄ちゃんが顔を覗き込んで来た。
「優里、お前まだ寝てんだろ?」
「トモにおぶられながら来るなんて優里はまだまだ子供だね。」
眠たい目を擦りながらあくびをした。
すると突然頭に重い何かがのしかかった。私の目線に合わせながらガシガシと撫でられた事でお父さんの手だという事が分かった。
「優里、行って来ます。」
「行ってらっふぁい、おとーさん。」
「本当に目覚めてるか?」
「うん。」
「何か困った事があったら、蓮達に言えよ?あ、蓮と大和には言い辛いかもしれないから誠と親父を頼れ。分かったか?」
「うん!トモくんとおじいちゃんに相談する。だから心配せずに行って来てね、お父さん!」
私がそう言うと、お父さんはニカッと笑って立ち上がった。
「蓮、大和、誠、令也、親父。優里の事を頼んだからな?」
「ああ。任せろ、父さん。」
そしてお父さんとお母さんは家を出て行った。
今日から新メンバーでの6人暮らしが始まる。
次回は美乃梨達の寿命についてのお話です。
お楽しみに。




