卒業証書授与式
「明日の卒業式のお手伝い、みのりん誰かに頼んだりした?」
「ううん。ユーリちゃんは?」
「私は同じ部活の子に頼んだよ。卒業式に参加出来るの!?って目をキラキラさせながら手伝ってくれるって言ってた。レイラは柄灯くんに頼んだらしい。」
「私は、どうしよう……」
私とユーリちゃんでそんな話をしていると後ろから声を掛けられた。
「何の話をしてるんだ?」
「千秋に爽夜くんに透くんも!先に体育館に行ったんじゃ……」
「ああ。その事だけど、明日卒業式だからいつも使ってる方の体育館は準備で使えないから今日は練習無しだって。」
「そうなんだ。」
「で、何の話をしてたんだ?」
「実は明日の卒業式、私は卒業生の保護者の受付のお手伝いをするんだけど、1人で1クラスは大変だろうからって皆んな手伝ってくれる人を誘ってるんだけど、私はまだ誰も誘ってなくて。」
「ああ。それなら俺、景に誘われたぞ。」
「俺も。和真に誘われた。凪も姫野に誘われたって言ってたな。」
意外な事に爽夜くんも透くんももう誘われていた。
なので私は千秋を誘おうと口を開いた時、
「ちあ、」
「俺が手伝う。」
先に千秋がそう言ってくれた。
「えっ、良いの?私も千秋を誘おうとしていたところだったけど……」
「ああ。俺も手伝いくらいなら出来るからな。」
「あ、ありがとう。」
優しく微笑みながら言う千秋に赤くなった顔を見られないように顔を背けた。
「じゃ!みのりん、私は先に帰るね。」
「俺も、そろそろ帰るわ。透、行くぞ。」
「あ、ああ。」
そして3人は出て行ってしまった。
「美乃梨……」
急に静かになった教室に千秋の声が響いた。
「何?」
「俺の事、もっと頼ってくれて良いから。別に俺じゃなくても京翠さんとか貴翠さんでも良いから。ですよね、京翠さん。」
千秋の問いにずっと後ろに立っていた京翠が答えた。
「はい。美乃梨様は誰かに頼るということが比較的少ないですし、私共は美乃梨様に頼られて迷惑に感じることは一切ございませんので、いつでも気軽に頼って下さい。」
「ええ。ありがとう、2人とも。……って、京翠は卒業式の準備に参加しなくて良いの?」
「はい。椅子等は2年生の方々が並べて下さって居ますし、私には何より美乃梨様のボディーガードという役割がありますので、三日月先生に融通を聞かせて頂きました。」
「そう。ってまさか明日も?」
「残念ながら、明日は卒業式に参加する際、教育実習生として参加しなくてはならない為、四六時中美乃梨様のお側につく事は出来ません。ですが、その際は九条くんにお任せしても良いですか?」
「はい。」
そして真央くんに遅くなるから先に帰ってと言われたので、私、京翠、千秋、景くん、篤季で帰った。
翌日。食堂に向かうといつもと違いきっちりと髪を固めている貴翠が居た。流石に今日、京駕さんに車を運転して貰うのは申し訳なく感じ、他の人に頼んだ。
京駕さんは気にしなくて良いと言ったけれど、やはり皐月さんも居るので家族で向かって下さいと言っておいた。なのに……
「何で京翠はこっちに居るの?」
「私は美乃梨様のボディーガードですから。父さんからも母さんからも貴翠からも美乃梨様を護って来て下さいと言われておりますし。」
「そう。それで車の運転は誰になったの?」
「響彼様です。」
「響彼くんって免許持ってるの?」
と私が言うと後ろから
「持っている。」
という声が聞こえた。
「この家は広いから車が無いと不便だからな。律と違って私は免許を取るまで車の運転をした事が無かったしな。」
「そういえば、律ちゃんは免許を取る前から敷地内では自分で運転したりもしてたのよね?」
「ああ。他に人を乗せないならと父上達に言われていたがな。千秋くんや景くん達はここに来るのか?迎えに言った方が良いのか?」
「皆ここに来るから皆が揃ったら乗せてくれる?」
「6人乗りだな。京翠、本堂家に手配を頼めるか?」
「承知致しました。」
そして真央くんと景くんと千秋が来たので響彼くんの運転する車で学校へと向かった。勿論、早めに来ている為、人の多さは変わらない。
「じゃあ、響彼くん。行ってきます!」
「ああ。行ってらっしゃい。あ、美乃梨。今日の午後は空いてるか?」
「空いてるけど……?」
「そうか。分かった。」
何があるかを聞く前に、響彼くんは帰ってしまった。
真央くんは2年生での準備があるので先に教室へ向かった。私も千秋と京翠と景くんと一緒に三日月先生の居る4組へと向かった。
教室の扉を開けると、凪くんと爽夜くんと透くんとレイラちゃんが既にきていた。
「みのりんおっはー!九条と有栖川くんとも。京翠センセおはようございます!」
「おはよう、レイラちゃん。」
少しして、和真くんとユーリちゃんとお手伝いの子、音さんと綾ちゃんが来た。
「綾ちゃん。久しぶりね。」
「うん!久しぶり!星川ちゃんからお手伝い頼まれて来たんだけど、やけに機嫌良いなって思ってたらやっぱり美乃梨ちゃんが居た。」
そして全員揃ったので三日月先生が最後の確認をしてそれぞれ持ち場に着いた。京翠は行かなければならないそうで、私に何度も頭を下げ、千秋に向かって
「美乃梨様の事をよろしくお願いします。」
と言い、体育館の方へと向かった。
そしてしばらく待っていると、バラバラと保護者の方々がやって来た。
「生徒様の御名前をこちらに書いて下さい。」
一番最初に来たのは男性と女性が1人ずつだった。
生徒の名前の欄には三笠藍と書かれていた。
「葉月くんと藍先輩の!?」
つい声を出してしまい、慌てて口を塞いだ。
「初めまして、藍と葉月の母の夏妃です。」
「父の征太郎です。」
「私は葉月くんのクラスメイトの恋咲美乃梨です。藍先輩には体育祭で大変お世話になりました。」
「あら。美乃梨さんの名字ってもしかして響彼さんのご家族?」
「はい。響彼は私の叔父です。」
「ん?誰だ?」
「ほら、前に言ったじゃない。葉月がソングライターとして芸能事務所に所属したって。そこの社長さんの名前。」
「ああ。そうか。」
そしてお2人は体育館へ向かった。
そこからも私と千秋で分担して受け付けをした。
「美乃梨様。お疲れ様です。」
「京駕さんに皐月さん。今日は貴翠の卒業、おめでとうございます。」
「祝いの言葉、有難うございます。是非良ければ、貴翠にも直接伝えてやって下さい。」
「はい。」
そして最後の方は……
「生徒の名前?あ、山代颯です!まだ時間大丈夫かな……」
「はい。まだ30分程余裕はありますよ。」
「良かった〜!今日、弟の卒業式なのに両親が忙しくて来れないから私が代わりに来たの。」
「そうなんですね。あの……もしかして、杏さん、ですか?」
「あ、はい。山代杏です。もしかして颯の知り合い?あ〜、恋咲さんか。」
杏さんは私の名札を見て納得したように言った。
「私の事、知ってるんですか?」
「ええ。光奈から聞いてる。めちゃくちゃ可愛い後輩が出来たって。確か、下の名前は美乃梨ちゃん?だっけ。噂通り可愛いね!」
「ありがとうございます。」
私は恥ずかしさと嬉しさではにかみながらお礼を言った。すると、先程までは黙って話を聞いていた千秋が杏さんに挨拶をした。
「颯さんには俺もバスケ部でお世話になりました。」
「あ、君は九条千秋くんかな?颯から聞いてるよ。めちゃくちゃイケメンで、その上バスケ部のエース候補だ!って。」
そして杏さんは体育館に向かう前に私の耳元で、
『千秋くんと美乃梨ちゃん。すっごいお似合いだね!これから先も仲良くね!』
と言って行った。
そして杏さんが最後だったので、名簿を持って三日月先生の所へ向かった。
「お、恋咲と九条も来たな。じゃあ体育館に向かうぞ。お前達には2年について行って入場して貰う。有栖川と松岡は1組、坂下と笹木は2組に、星川と南は3組、姫野と柄灯は4組、秋月と田中は5組に、恋咲と九条は6組の後ろについて行って入場してくれ。」
そして体育館の前に向かうと2年1組から6組まで並んで待っていた。私は千秋と6組の一番後ろの列に並んだ。前の列の先輩が、
「恋咲さんと九条くんね。席は私達の右隣だからついて来たら分かると思う。」
と言って下さった。
「ありがとうございます。」
とお礼を返し、入場の合図があるまで待っていた。
そして、1組から順に入場して行き、席に着いた。
《ご来場の皆様へ。大変長らくお待たせ致しました。只今より、卒業生の入場です。暖かい拍手でお出迎え下さい。》
そして1組から順番に卒業生が入場して来た。
「あ、環奈先輩!」
環奈先輩はこちらに気付いて微笑んでくれたので、私も千秋も軽く会釈を返した。
そして2組、3組と入場が終わり、4組。
「石塚先輩、それに仁先輩も!」
そして5組の入場が終わり、6組。
貴翠はいつも通りの笑顔で真っ直ぐ前を見ていた。
その姿に、年下の主人としては感動で涙が溢れそうになった。藍先輩と颯先輩も私達に気付くとキリッとした顔で目配せしてくれたり、ニッと笑ってくれたりした。
そして卒業証書授与が始まり、1人ずつ呼ばれて行った。
「早瀬 環奈。」
「はい。」
環奈先輩は凛々しい姿で卒業証書を受け取った。
「仲井 仁。」
「はい!」
仁先輩はいつもの悪戯っ子のような笑顔ではなく、この先を照らすような明るい笑顔で受け取った。
「三笠 藍。」
「はい。」
藍先輩は少年らしさの残るキリッとした顔で受け取った。
「山代 颯。」
「はい!」
颯先輩は相変わらず副キャプテンの顔で受け取った。
「本堂 貴翠。」
「はい。」
貴翠はいつもと同じ優しい顔で受け取った。
そして学校長式辞の後、在校生代表の挨拶があった。
《在校生送辞。在校生代表、早瀬瑠奈。》
「はい。」
在校生代表は瑠奈先輩らしい。
瑠奈先輩は壇上に上がり、卒業生に向かって礼をしてから送辞を読み上げた。
《送辞。本日、卒業を迎えられる卒業生の皆さん、本当におめでとうございます。皆さんには委員会や部活動、学校行事でも、数えきれない程、お世話になりました。……在校生代表、早瀬瑠奈。》
そして瑠奈先輩は一礼して席へ戻った。
続いて、卒業生答辞は石塚先輩だ。
《卒業生答辞。卒業生代表、石塚仁。》
「はい。」
石塚先輩は来賓の方々、保護者の方々、先生方に礼をして答辞を読み上げた。石塚先輩が答辞を読んでいる際、卒業生の席の方からは所々鼻を啜る音が聞こえて来た。
《……卒業生代表、石塚仁。》
そして石塚先輩が席に戻ると、卒業生の退場が始まった。
《卒業生退場。暖かい拍手でお見送り下さい。》
そして1組から6組まで退場した。
《在校生退場。在校生、規律。》
私は千秋と一緒に2年生の1番後ろの列に付いて退場した。そして花道の準備があるからと、グラウンドへ出た。
「恋咲さんと九条くんは花道の説明聞いてる?」
「いえ。まだ聞いてません。」
「そっか。じゃあ説明するね。あと20分くらいで3年生が来るからこの籠の中の紙吹雪を撒いてね。」
「分かりました。」
3年生が来るまでの間、千秋と話しながら待った。
そして3年生が来るとカメラのシャッター音と拍手、お祝いの言葉に包まれた。
卒業式の入場と同じように1組から順番に花道を通って行った。知っている先輩達は通る時に手を振ってくれたりした。貴翠は態々花道から避けて一礼してから列に戻った。何故かは分からないが貴翠が列に戻った後、涙が溢れて来た。
そして3年生がグラウンドの周りを一周して戻って来て、花道は解散になった。
「美乃梨!千秋!仁さん達のとこ行かねえか……って美乃梨!?泣いてんのか?」
「あ、爽夜くん。何故か卒業式が終わると涙が溢れちゃって……」
「美乃梨って意外とよく泣くよな。」
爽夜くんはそう言いながら私を慰めてくれようと、私の肩に手を置いた。しかし……
「悪い、千秋。」
と言いすぐに私の肩に置いていた手をよけた。
爽夜くんの言葉が気になり、千秋の方を向いても、いつも通りクールな顔をしていた。
私が、爽夜くんに何があったの?と聞くと、爽夜くんは耳元でこっそり教えてくれた。
『千秋の奴、俺が美乃梨の肩に手を置いただけで鬼の形相で並んで来たんだよ。嫉妬してんだろ?』
「うおっ!」
千秋は爽夜くんの服をグイッと引っ張った。
「分かってるって。てか俺、彼女いるし、俺が好きなのは雅美で美乃梨とはただの友達……いや親友だ。そうだよな、美乃梨?」
「ええ!私が好きなのも千秋だけ……っ、い、今のは忘れて!」
私は爽夜くんにつられて言った自分の言葉に、恥ずかしくてこの場から逃げ出したくなった。
顔を覆った手の隙間から千秋の様子を覗いてみると、俯いていて表情が窺えない。けれど、耳が赤くなっていたので、千秋も照れているようだった。
「えっと、千秋?」
「今は、見ないでくれ。」
少し見上げると、隠している手の隙間から見える千秋の顔は私に負けず劣らず真っ赤に染まっていた。いつの間にか殆ど変わらなかった千秋の目線が斜め上になっていた。
「……仁さん達の所に向かうぞ。」
千秋は私と爽夜くんに背を向け、少し早足で行ってしまった。
「おい、待てよ!」
そして3年生の集まっている方へ行った。
すると、予想外な事に人集りが出来てしまった。
「恋咲さん!サインを貰えますか?」
「一緒に写真撮ってくれる?」
「恋咲さんの事が好きでした!」
「えっと、あの……」
私がどうしようかと困っていると、石塚先輩が助けて下さった。
「恋咲さんが困っている。ちゃんと列に並べ。」
石塚先輩の掛け声でお団子みたいに集まっていた人達は一列に並んだ。
「恋咲さん、握手して下さい。」
「あ、はい。ご卒業、おめでとうございます。」
「ずっと前から好きでした!」
「ありがとうございます。お気持ちは嬉しいですが、先輩のお気持ちに応える事は出来ません。」
「サイン下さい!」
「えっと、これで良いですか?」
「はい!ありがとうございます!大切にします!」
そして列の最後尾には貴翠が居た。
「えっ、どうして貴翠も並んでるの?」
「私も美乃梨様とお写真を撮ったり、握手をしたり、サインを頂いたりしたかったからです。」
「そんなの別に卒業しても出来るじゃない。」
「いえ。それとこれは別ですから。」
貴翠とは後で写真を撮ると約束し、私はずっと列の整理をしてくれていた石塚先輩にお礼を言った。
「石塚先輩。ありがとうございました。それと、ご卒業おめでとうございます。」
「恋咲さん……こちらこそ、恋咲さんには感謝している。写真や握手などは求めない。出会えて良かった。それだけ伝えたかっただけだ。」
そう言い残して、石塚先輩は行ってしまった。
その後すぐ、貴翠が走って来た。
「美乃梨様!父さんから最高画質のカメラを借りて来ましたので、ご一緒に写真を撮って下さい!」
「ええ。もちろん良いわよ。」
写真を撮った後、貴翠は色紙とペンをサッと出し、
「サインを下さい。」
と言った。
「色紙なんてよく持っていたわね。」
「勿論用意しましたよ。それと、握手もお願いします。」
そして貴翠にサインと握手をした後、バスケ部が集まっている方へと向かった。
「よう、美乃梨。やっと来たか。」
「遅くなってすみません。……あれ、千秋と真央くんは?」
「さっきの美乃梨と同じ状況だ。どうせ告白タイムだろ。」
「颯先輩、仁先輩も居ませんけど……?」
「あいつも告白。杏に。はあ、どいつもこいつもリア充ばっか。」
颯先輩は溜め息をつきながら言った。
「そういえば、私杏さんとお会いしましたよ。綺麗なお姉さんですね。」
「まあ、杏は母親似だからな。うちの父親は強面だから杏は母親似で良かったっていつも言ってる。あ、俺とどっちのが顔良いと思う?」
「比べられません。颯先輩は頼りがいのある兄のようなかっこよさですし、杏さんは大人っぽい美人で、全然違いますから。」
「そうだよな〜、美乃梨ならそう言うと思ってた。」
そして、仁先輩、真央くん、千秋と揃ったので三日月先生に預けていたプレゼントを皆んなで渡した。
「「「ご卒業、おめでとうございます!」」」
「お!スポーツタオルじゃん!しかも名前入り。」
「ありがとう。」
それから、バスケ部の先輩方と写真を撮り、解散となった。
「貴翠、京翠は?」
「そろそろ来ると思いますよ。……っ!?」
急に貴翠が目を見開き、私の前に立ちはだかった。
すると一緒に居た真央くんと千秋も異変を感じ取ったようで真剣な顔つきになった。
「早瀬環奈さんと瑠奈さん以外の巫女らしき気配が致します。」
すると、響彼くんと同じくらいの年齢の、着物を来た男性が近付いて来た。治癒魔法が苦手な私と千秋は少し息が荒くなって来たことから、この人が気配の主である事が分かった。
「初めまして。"月"の皆様。覡の早瀬若奈です。」
その挨拶に対して、貴翠が代表して答えた。
「初めまして。月、とは何でしょうか?」
「おや、珍しい。貴方は半月ですね。本堂家の方とは初めてお会いしました。」
月に関して、昔、どこかで聞いた事がある。
『何だっけ。確か……そう!魔法使いの隠語!』
『美乃梨、知ってるのか?』
『うん。いつ、どこで聞いたかは分からないけど、魔法使いは夜の支配者、月。散りばめられている星が一般人に例えられるの。太陽が魔力。新月は魔法使いの死を意味しているの。』
『貴翠さんの半月は半分魔法使いの血が流れてるからって事だよね?』
『うん。それより、早く景くんに伝えないと!』
景くんは和真くんと一緒にサッカー部の方に居る。
「丁度良かった。半月の貴方に聞きたい事がありまして。月が存在する理由は何でしょうか。」
「よく分かりませんが、月は夜に光をもたらしてくれます。」
「その光の所為で星が見え辛くなったとしても?」
「ええ。それでも、見ようと目を凝らせば、星は見えますので。」
貴翠と早瀬若奈さんが話している中、私と千秋は未だ荒い息が続いていた。真央くんは自然に治癒魔法を使っているのだろう。貴翠は私達の様子に気付いて、助け舟を出してくれた。
「美乃梨様、父さん達が挨拶をしたいと探していました。真央様と千秋様も美乃梨様とご一緒に父さん達の所へ向かって下さいますか?」
「はい。」
そしてその場から離れようとすると更なる気配に立つのがやっとの状況になった。
「お兄ちゃん!お母さん達が探してたよ……?」
「本堂先輩に神崎くん。九条くんと恋咲さんも。兄さんと知り合いだったの?」
状況を悟られないよう表情は隠しているが、呼吸は次第に浅くなって行った。真央くんも笑顔とはいえ眉が歪んできている。
「先程突然話しかけられまして……早瀬さんの御兄弟でしたか。」
「ええ。10個上の兄です。普段は実家の神社に引きこもっているんですが……」
貴翠の返答に環奈先輩は眉を下げながらそう言った。
「兄さんも姉さんもお父さん達が待ってるから早く行くよ。兄と姉がすみません。じゃあ神崎くん、また明日。」
早瀬先輩はそう言いながら若奈さんと環奈先輩を連れて行った。私は息を整えようと深呼吸をした。
「はあ、貴翠。庇ってくれてありがとう。」
「美乃梨様、体調は大丈夫ですか?」
「ええ。短時間だったし大丈夫。真央くんと千秋も大丈夫?」
「ああ。俺も深呼吸をすれば大分ましにはなった。」
「僕は全然大丈夫だよ。」
そしてしばらくその場で休憩していると、景くんと京翠と三日月先生が一緒に来た。
「美乃梨様!ご無事ですか!?」
「ええ。京翠は若奈さんとは会ったの?」
「いえ。三日月先生はお会いしたそうですが。」
「はい。こちらの事がバレていたようで、月と呼ばれた。月ってのは、」
「魔法使いの隠語、ですよね?」
私がそう言うと京翠と三日月先生は驚いたように顔を見合わせた。
「美乃梨様、どこでそれを知りましたか?」
「分からない。でも、随分前に誰かから聞いた気がする。」
「恋咲。月の意味を知っているのは本家で数人、本堂家のような郎党ではほんの一握り。俺みたいな裏方なら一族でなく、裏方全体で数人しか知らない事だ。誰に聞いたか思い出せないか?」
「……私が過去に戻った時に聞いた気がします。」
「ああ〜、あの事故ね。」
「事故、ですか?」
私がそう聞くと三日月先生は頷いた。
「恋咲が10年の時を遡った事は、恋咲家と本堂家と三日月家の間でしばらくの間、隠蔽していた。あれは魔力が暴走して起こった事故だ。自然的に起こったものか、将又人為的に起こされたものか。一時議論が交わされていた。」
「そうなんですか?実はその後、軽い記憶喪失になったので、私は全然覚えていないんです。偶に、知らない筈の事を知っている事があります。」
「そうか。もし思い出したら教えてくれ。体調に、異変は無いか?恋咲も九条も汗が凄いぞ。」
三日月先生はそう言いながらタオルを渡してくれた。
「ありがとうございます。今は大丈夫です。京翠、京駕さんと皐月さんは?」
「貴翠の担任へ挨拶に。そろそろ来ると思います。」
そして京駕さんと皐月さんが来て、貴翠はお父様や五家の当主の方々に伝えに行くと帰った。私達も響彼くんの迎えが来たので、車に乗って帰った。
次回は響彼くんとの秘密のお出掛けです。




