いよいよ年明け
今日は大晦日。真央くんや景くん、千秋も集まる。
十年に一度、一つの家に集まって年を迎えるそうだ。
新年を迎えたら聡兄様の養子縁組があるのでとても楽しみだ。午後8時を過ぎた辺りから人が増えて来た。
「いらっしゃい、千秋。」
「お邪魔します。真央達はまだか?」
「少し前に2人とも来ているわ。」
そして私は千秋をホールに案内した。
年明けまでの間、あまりゆっくりは出来ず、来た方への挨拶がある。
「美乃梨さん、初めまして。景の母の有栖川冴です。いつも景がお世話になっております。」
「初めまして。景くんには私の方がお世話になっています。」
「初めまして、景の父の有栖川拓です。」
「初めまして。恋咲美乃梨です。」
そして集まってい人への挨拶を大方済ませると、私は休憩をする為にバルコニーに出た。
「厚着したつもりだけど寒いね。」
「美乃梨様、シャルルさんが羽織る物を渡してくれました。」
「ありがとう、京翠。新年を迎える時って少し落ち着かないわ。」
「そうですね。大晦日には毎年のように思います。一年は短いと。」
「そうね。私が今の学校に転入してからもう4ヶ月も経ったと考えると一瞬ね。」
「そうですね。ですが、私は18を迎えるのがとても憂鬱です。」
「どうして?成人出来るのに。」
すると京翠は溜め息をついた。
「成人すると年齢を理由に断れない為、今よりも更にお見合いが増えてしまうので。」
「そっか。京翠は恋愛するつもりが無いのよね?」
「はい。私が恋愛しても美乃梨様以上に優先する存在にはならないので。それを分かってくれている相手だとしても少し躊躇いますね。」
京翠は恋愛は何よりも最も避けたい存在だと言った。
きっと貴翠も同じだろうとそう言った。
「もし結婚するとしたら美乃梨様のファンが良いですね。美乃梨様の話を聞きたがるような。」
そう言われて私は1人、頭に浮かんだ。
「音さんみたいな?」
「星川さんですか?確かにあの子のような相手だと助かりますね。私に恋愛感情を持たず、美乃梨様を好いているような。」
「京翠には音さんのような方が理想なのね。」
「そうですね。星川さんが一番理想的な方ですね。貴翠にでも紹介してみてはどうです?」
「……音さんに聞いてみようかしら?」
「連絡先を知ってるのですか?」
「この間交換して貰ったの。」
そして私は音さんに電話を掛けた。
ワンコールで通話が始まった。
『美乃梨さん!!お久しぶりにお声が聞けるなんて、感激です!』
「音さん、突然掛けてごめんね。今大丈夫?」
『何よりも美乃梨さんが最優先なので大丈夫です!』
「あの、突然なのだけど音さんには好きな人が居るのかしら?」
『いえ、居ません。それにこの先も美乃梨さん以上に素敵な人が現れない限りは出来ません。私の母の実家が実は名家で、私は彼氏が出来ない限りは祖母に決められた人と結婚するそうです。』
「そう。なら貴翠か京翠はどう?音さんと同じような立場なのだけど。貴翠にはまだ聞いていないから分からないけど。」
『……貴翠さんや本堂先生と付き合えば美乃梨さんのお家に行けますか!?』
「ええ。勿論遊びに来て貰いたいわ。それに京翠も貴翠も私に付いてくれているから卒業しても大人になっても音さんと会え、」
『します!お付き合いさせて下さい!』
と音さんは勢い良く返事をした。貴翠には聞いて居ないのでまた今度という事になった。電話を終え、京翠は言った。
「まさか星川さんも同じ立場だったなんて驚きです。貴翠なら良い相手が出来たと喜ぶでしょう。」
「まさか私が貴翠の相手を選ぶ事になるなんて。主人としてはおかしくないのかもしれないけれど貴翠には悪い事をしたわね。」
すると京翠はスマホを取り出して手早く操作した後、
「美乃梨様、貴翠の意思ならメッセージを送って確認致しましたのでご安心を。」
と言った。
「貴翠は何て?」
「美乃梨様が選んで下さった相手なら、と。それに星川さんについては調べた事があるそうなので。」
「どうして?」
「美乃梨様のファンクラブの会員は美乃梨様にとって害が無いかを貴翠は裏で調べていたそうです。」
「そ、そう。相変わらず仕事熱心ね。そうだ、聞き忘れていたのだけれど、貴翠は結局私のボディーガードとして合格したの?」
私がそういうと京翠は考える素振りを見せ、言った。
「それは、貴翠本人の口から聞いた方が良いかと。」
京翠にそう言われ、私はホールに戻った。
ホールは相変わらず賑わっており、五家当主の周りには人が集まっていた。神崎家当主である麗華さんはしばらくの間公式の場はお休みの為、夫君の冬真さんが挨拶をしている。
年明け1時間前、五家当主がそれぞれ挨拶を終え、次第に次世代のトップに立つ跡取りに目が向き始める。
有栖川家は双子の兄妹、志紀都くんと紗奈咲ちゃん。
倉津木家は跡取りになるのではと一部で噂になっている紅音くん。
九条家は5年後に当主になる事が公表されている千夏さん。
そして恋咲家は私が注目される。
神崎家当主の麗華さんはまだ若く、20代なので跡取りについてはまだ影すらない。
私の場合は婚約者に誰を選ぶかを探られる。基本、身内や当事者の関係者以外には15になるまで教えられないので私は笑顔で流した。
逆に婚約者の居ない紅音くんや志紀都くん、紗奈咲ちゃんには自分の子供を婚約者に、と権力目当てに薦める人達が群がっている。
慣れている紅音くんはともかく、志紀都くんと紗奈咲ちゃんはこうした公式の場への参加は今日が初めて。両親は当主と当主夫人の為隣には立ってくれていないので戸惑っている様子だった。
「志紀都くん、紗奈咲ちゃん、久しぶりね。今、大丈夫かしら?」
私は自分の跡取りという立場を利用して2人に助け舟を出した。私が声を掛けると、2人は瞳を輝かした。そして2人の周りを囲っていた人達も立場が上の私に遠慮して離れて行った。
「美乃梨さん、お久しぶりです。景兄さんや父上から美乃梨さんのお話は聞いていました。」
「美乃梨ちゃん、助けてくれてありがとう。景兄様から美乃梨ちゃんと殆ど毎日会っていると聞いて私も会いたいと思っていました。」
「私も会いたかったわ。2人とも大きくなったわね。前に会った時はこんなだったのに。」
私が手を腰上くらいに当てながら言うと志紀都くんは胸を張って言った。
「僕は成長期に入ったので今年一年間で10センチも身長が伸びたんです!」
「わ、私も5センチ伸びたわ。美乃梨ちゃん、私の方が志紀都くんよりも高いの!」
「ふふっ、2人ともまだまだ伸びるわよ。もしかしたら私が大人になる頃には私よりも高いかもしれないわよ?」
「私、美乃梨ちゃんみたいにかっこよくなりたいわ!志紀都くんよりもかっこよくなるの!」
と紗奈咲ちゃんは笑顔で言った。
「僕が紗奈咲に負ける訳無いでしょ。」
と志紀都くんが紗奈咲ちゃんに向かって言った。紗奈咲ちゃんは頬を膨らましながら「そんな事ないわ!」と言った。そしてとうとう年明け。カウントダウンが始まり、集まった声がホール一帯に広がった。
「美乃梨さん、僕達もカウントダウンしましょう。」
「そうね。5」
「4!」
「3」
「「「2、1、0!」」」
そして大歓声の後、私は隣に居た志紀都くんと紗奈咲ちゃんに新年の挨拶をした。
「明けましておめでとうございます。志紀都くん、紗奈咲ちゃん。」
「はい。今年もよろしくお願いします。」
「美乃梨ちゃん、これから公式の場に慣れていくつもりだけど慣れるまでは手助けしてくれる?」
「もちろんよ。私に出来る事なら何でもするわ。志紀都くんもね。」
「ありがとうございます。」
2人は両親に挨拶をしに行くと席を外した。
「美乃梨様、明けましておめでとうございます。今年も命を賭けて貴方様をお護り致します。」
「明けましておめでとうございます。今年も誠心誠意美乃梨様に仕えさせていただきます。」
「ありがとう。私も2人が誇れる主人になれるように努力するわね。」
そして私もお父様とお母様へ挨拶に向かったが五家当主が並んで座っている所は列が出来ており、先に煌達が挨拶をしに来てくれた。
「姉さん、明けましておめでとうございます。」
「これからも姉さんの弟として恥じないよう、精一杯努力致します。」
「今年もよろしくお願いします。」
「明けましておめでとう。3人とも私の全世界に自慢したいくらい素敵な自慢の弟よ。」
「ありがとうございます。」
そして千秋や景くん達にも挨拶を済ませた頃、ようやくお父様達の前の列が無くなり、やっと私は挨拶をする事が出来た。
「お父様、お母様。明けまして、おめでとうございます。私の今年の抱負は友人にも乏しいと言われた社会経験を増やす事です。」
「明けましておめでとう、美乃梨。抱負に向かって一生懸命頑張って下さい。」
「美乃梨、今年は二つ目の試練の発表があるので気を引き締めておくように。まあ、美乃梨なら大丈夫だろうが念の為にな。それに巫女との……いや、これは今度伝えるとしよう。ただ、学校では油断しないようにな。京翠、美乃梨の側を離れるなよ。美乃梨も危機感を持って生活を、」
「薫?新年早々美乃梨を長話で引き留めるおつもり?過保護は程々にしておかないと美乃梨に嫌われてしまうわよ。」
とお母様は怖い笑みでお父様に対して言った。お父様が「それは避けたい」と言うとお母様が
「美乃梨ももう小さい子では無いのだから、もう少し外から見守ってあげましょう。」
と言った。
「美乃梨、薫の事は気にせず他の方にも挨拶して来て構わないわ。」
「ありがとうございます、お母様。」
そして私は他の当主の方への挨拶をし、今月から兄となる聡兄様に挨拶をしに行った。
「美乃梨、明けましておめでとう。千秋くんとは仲良くしてるか?」
「そ、そんな事どうして今言うのよ。」
「美乃梨の照れてる顔が見てみたくて。」
「あ、聡兄様の馬鹿」
「そんな事ないよ。そう言えば千秋くんにはもう挨拶に行ったの?」
「ええ。そうだ、伝え忘れていたのだけど、茉莉花ちゃんから誕生祭に招待されたの。聡兄様も。」
「茉莉花ちゃんって二条家の?」
「そうよ。聡兄様は茉莉花ちゃんの付き人の柏木さんと友人なんでしょう?」
「ああ、龍人か。連絡は取り合っているけどここ数ヶ月は会ってないな。と言うか煌も行くでしょ?どっちにしても僕は行かないといけないよ。」
聡兄様は僕は煌のボディーガードだからね、と言いながら笑った。
「それより美乃梨、花央が帰る前に挨拶したいって言ってたよ。」
「花央さんもう帰るの?」
「うん。まあすぐ会えるけどね。」
私は花央さんを探し、ホールを回った。花央さんは那央さんとご両親と一緒に居た。
「美乃梨さん!お久しぶりですね。明けましておめでとうございます。」
「明けましておめでとうございます、花央さん。那央さんもお久しぶりです。」
「ご無沙汰しております。美乃梨さんは初対面ですよね?こちらは私達の両親です。」
すると背の高い男性と女性が私の前で屈んで挨拶をした。
「恋咲家跡取り、恋咲美乃梨さん。お初にお目にかかります、真央の父、神崎央椛です。以後お見知り置きを。」
「お初にお目にかかります。真央の母の神崎真那です。真央がいつもお世話になっております。」
「初めまして、恋咲美乃梨です。こちらこそ真央くんにお世話になっています。」
挨拶を終えると花央さんは申し訳なさそうに
「美乃梨さん、ごめんなさい。私はそろそろお暇させて頂きます。」
と言った。そして花央さんと一緒に央椛さんと真那さんも帰った。
「貴翠、久しぶりだな。元気だったか?」
「お久しぶりです、那央さん。那央さんはまだ帰らないのですか?」
「ああ。聡や紅音と会うのは久しぶりだからな。この後茶会を開く予定だ。美乃梨さんも良ければ参加しますか?」
「お誘いありがとうございます。ですが、私はお母様と伯母様とお茶会をする予定なので……」
「そうでしたか。では、私は紅音達の所に向かいますね。貴翠、京翠、またな。」
那央さんはそう言いながら紅音くん達の所へ行った。
「私もそろそろ向かおうかしら。」
「そうですね。」
そして私はお茶会をする温室に向かった。
余裕を持って来たので、温室にはお母様も伯母様もまだ来て居なかった。温室で待機していたシャルルは機嫌良くお茶会の準備を始めた。
「どうしたの?シャルル。機嫌良さそうだけど。」
「いえ、私の私的な事なのでお気になさらず。」
「そんな事言われても気になるのだけれど?」
「実はノアと正式に婚姻が決まりまして……」
シャルルは少し紅く染まった頬に手を添えながら言った。
「おめでとう、シャルル!」
「おめでとうございます、シャルルさん。」
「ありがとうございます、美乃梨様、貴翠さん。」
京翠は何故か主人の私よりも先に知っていたそうで、「改めて、本当におめでとうございます。」と言っていた。
「美乃梨様も婚姻まで後5年ですね。2年後には婚約者も決まりますし。」
「そうね。でももしかしたら京翠の方が先に結婚しているかもしれ無いわよ?」
私がそう言うと京翠は笑顔で首を横に振った。
「私は美乃梨様がご結婚なさるまでは誰とも籍を入れません。」
「どうして?」
「美乃梨様が結婚するまでの間、私は美乃梨様専属のボディーガードですから。美乃梨様が結婚なさった後はお相手に立場を譲る事になるでしょうから、私が結婚するとしたらその後ですね。」
それまでに相手が見つかるか分かりませんし、と言いながら京翠は微笑した。
「でも、京翠がしばらく結婚はしないと言っても婚約者は決まるでしょう?」
「そうですね。20歳になる頃には決まっているかと思います。」
「京翠は人気だからきっと決まるのに時間が掛かりそうね。まあ、貴翠も人気だけれど。」
私がそう言うと貴翠はそんな事ございませんよと首を横に振った。
「そうかしら?そう言えば貴翠、音さんとの事を京駕さんに伝えたいのだけれど……私の暴走でもある訳だし。」
「それならもう伝えました。」
「そう。流石貴翠ね。あ、そうだわ。音さんの連絡先をまだ教えていなかったわよね?」
そして私は貴翠に音さんの連絡先を教えた。
しばらくしてシャルルがお茶会の準備を終えた頃にお母様と伯母様がやって来た。
「美乃梨、遅くなってごめんなさいね。」
「いえ、お母様と伯母様がお忙しい事は分かっていますから。」
「ありがとう。それと……」
と言いながら伯母様は後ろを向いた。
「やっほ、美乃梨!女子会をするならと思って後2人集めて来たよ。」
伯母様の後ろに立っていたのは律ちゃんだった。
そして律ちゃんが連れて来たと言う2人は雛菊さんと紗奈咲ちゃんだった。律ちゃんのお付きの満留さんと使い魔のマリーが居た。
「私達もお邪魔してよろしいのかしら?」
「もちろんです、雛菊さん。紗奈咲ちゃんも一緒にお茶会をするのは久しぶりね。」
「うん。私、美乃梨ちゃんとお茶会するの、とっても大好きなの!」
「私もよ。満留さん、マリー、明けましておめでとうございます。マリーは会うのは数年振りかしら?」
「はい。美乃梨様はお元気でしたか?」
「ええ。そうだ、シャルルから聞いたかしら?」
「はい。ノアとの婚姻が決まったそうですね。」
マリーはシャルルに向かって「おめでとう」と微笑んだ。マリーはクールなしっかり者のお姉さんという感じの雰囲気で昔から元気の良かった律ちゃんのストッパー役を担っていた。
「この紅茶、とても美味しい。」
「流石律様ですね。この茶葉は兄が集めているものの一つでお茶会をすると言ったら分けて貰えたんですよ。」
「アーチーからか。アーチー紅茶好きだったもんね。私が留学している頃も良く茶葉を送ってと頼まれていたから。」
律ちゃんはお返しにお菓子を送ってもらってたんだけどね、と笑った。
「それより美乃梨。私、美乃梨に聞きたい事があるのよ。千秋くんと両想いになったでしょう?」
律ちゃんがそう言った時、雛菊さんと伯母様が驚いた表情をした。
「そうなの?美乃梨ちゃん。」
「美乃梨、詳しく聞かせて頂戴。」
私は2人の勢いに押されて話した。
「まあ!青春ね。」
「千秋くんは美乃梨の事を護ってくれるの?」
「伯母様、私は護って貰わないといけない程弱くないです。」
私がそう言うと伯母様は困ったように眉を下げて笑った。
「物理的に護るのは京翠がしてくれるでしょう?護ると言うのは精神的な話よ。美乃梨に辛い事があった時に千秋くんは美乃梨の事を護ってくれるの?」
私がどう答えようと戸惑っているとお母様が言った。
「お姉様、美乃梨が選んだ相手なのですから絶対に良い人ですよ。それに、婚約者候補を決めたのはあの薫ですから。」
「ふふ、そうね。薫が決めた候補なら皆んな凄く良い子なんでしょうね。」
「すみません、"あの"ってどういう事ですか?」
と紗奈咲ちゃんが手を挙げた。すると雛菊さんが苦笑いをしながら答えた。
「それはね、薫さんはとても過保護な親馬鹿なのよ。まあそれは壱さんもあまり変わらないけれどね。」
「そうなんですか?お父様も?」
「薫さん程では無くとも過保護よ。」
紗奈咲ちゃんは少し驚いた表情をして「初耳です。」と言った。
「ねえ、美乃梨ちゃん。千秋さん?ってどんな方なの?」
紗奈咲ちゃんは興味津々という瞳で聞いて来た。
「どんなって、最初は全く表情を変えない人だったわ。でも仲良くなるとよく笑いかけてくれてとにかく……かっこいい人。」
「美乃梨ちゃんの王子様って事かしら?」
と雛菊さんはキラキラしながら聞いて来た。
「……はい。」
私は恥ずかしくなり俯くと伯母様が言った。
「私は反対したいわ。」
「えっ、どうし、」
「こんなに可愛い美乃梨が結婚してしまうなんて……私の癒しがいなくなってしまうわ。」
「お、伯母様?」
私が困惑しているとお母様が伯母様の肩をポンと叩いた。
「お姉様は本当に薫と似ていますね。美乃梨が可愛いのは皆、承知していますから。結婚したら会えなくなるわけでもないですし。」
「そんな事を言っても悲しいものは悲しいのよ。紫乃凛は平気そうね。」
「私は美乃梨が結婚しても仲良くお茶会を開くつもりですので。ね、美乃梨?」
「ええ、もちろんです。お母様ともお父様とも沢山お茶会を開きたいです。」
私がそう言うとお母様はにっこりと微笑んだ。
伯母様も「会えなくなるわけでは無いものね。」と言った。するとしばらく黙って話を聞いていた紗奈咲ちゃんが言った。
「私も、美乃梨ちゃんみたいに婚約者候補が決まるんですか?」
「そうね。紗奈咲ちゃんはどうかしら?雛菊、まだ跡取りは決まっていないのよね?」
伯母様がそう聞くと雛菊さんは「ええ」と頷いた。
「まだ2人とも魔法の基礎の練習中ですから。紗奈咲は跡取りになりたいの?」
「いえ。でも、結婚するなら自分の好きな人が良いなと思っただけです。」
紗奈咲ちゃんは少し恥ずかしそうに言った。その反応にお茶会に参加している全員が反応した。
「もしかして紗奈咲ちゃん、好きな人が居るの?」
一番最初に聞いたのは律ちゃんだった。紗奈咲ちゃんは「どうして分かったの!?」と驚いた表情を浮かべたが他の皆は当然と言うように頷き合っていた。
これは側から見ていたら気付ける事だ。私が千秋の事を好きだというのが多くの人にバレたのは今の紗奈咲ちゃんのような状態だったのだろう。
「それで、相手は誰なの?」
「えっと、か、架くん。」
紗奈咲ちゃんはポッと紅くなっていく頬を両手で抑えながら言った。
「架!?」
「架くん!?」
ここにいる全員、いや、とかに女性陣が声を挙げた。私の後ろにいる貴翠は知っていたかのように微動だにせず、京翠は一度驚いた表情を浮かべたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「紗奈咲ちゃん、いつから架が好きなの?」
私がそう聞くと紗奈咲ちゃんは相変わらず紅い頬を抑えながら言った。
「私が恋咲家本家に来た時、志紀都くんと逸れた上、広過ぎて迷ってしまった事があったの。私が心細くて泣いていた時、丁度魔法の練習が終わった架くんと遭遇したの。架くんは私が泣き止むまで隣に居てくれて志紀都くんを一緒に探してくれたの。」
「私はその時から架くんが好き」と紗奈咲ちゃんが言った。すると律ちゃんが
「婚約者候補なら今からでも決めれるよ?」
と紗奈咲ちゃんに言った。
「そうなんですか?」
「うん。壱さんと雛菊さん、それに薫お兄様と紫乃凛お義姉様の許可、そして当人である架の了承があれば年齢・跡取り関係なく"候補"にはなれるよ。」
紗奈咲ちゃんはしばらく考える素振りをした後、雛菊さんとお母様に言った。
「私、架くんの婚約者候補になりたいです。」
「私は許可を出しますが、壱さんは……」
「私も構いませんよ。でも、壱さんと同じく薫がどう言うか……」
「私が頑張って説得してみせます!」
紗奈咲ちゃんがそう言うと、「あら、」「まあ、」という声が聞こえて来た。
「紗奈咲ちゃん、可愛いね。」
私がそう言うと、紗奈咲ちゃんは謙遜した上、私の事を褒めてくれた。
「ありがとう。でも美乃梨ちゃんの方が可愛いわ。」
温室には和やかな雰囲気が漂った。
そして、今日のお茶会は終了した。
「紗奈咲ちゃん、またね。」
「うん!美乃梨ちゃん、またお茶会に誘ってね。」
紗奈咲ちゃんは約束!と小指を差し出した。そして約束を交わした後、手を振りながら帰って行った。
「美乃梨様、少しお時間よろしいですか?」
「お話があります。」
「?、ええ。」
私は京翠と貴翠に着いて行き、半地下にある書斎に向かった。半地下に着くと京翠が防音魔法を掛けた。それだけで事の重大さが分かる。
「それで、話って何かしら?」
「文化祭の件、覚えていますよね?」
「もちろんよ。」
貴翠は一度深呼吸をしてから言った。
「私は七倉蓮介を疑い、彼のパソコンを調べました。するとデータが消された形跡があり、データを復元しました。するとそこにあった画像は美乃梨様の転入前の画像や、煌様の画像がありました。」
「……この事はお父様には?」
「まだ伝えておりません。薫様にお伝えすると美乃梨様が外に出る事は出来なかったでしょうから。」
「確かにそうね。お父様には私から伝えるわ。それと、煌にはこの事は……」
私が言い淀むと京翠が言った。
「ご安心下さい。聡様にはお伝えしますが、煌様へは私共からは伝えませんので。」
「そう、良かったわ。それよりも七倉先生は転入前から私達の事を知っていたのね。そう言えば陰蔽魔法が上手いのよね。」
「はい。幸いデータを復元出来たのは良い事ですが、私はその他にも何か裏で働いていると考えております。」
「……そう。」
私が少し声のトーンを落としてそう言うと貴翠と京翠が言った。
「美乃梨様。美乃梨様は七倉蓮介を僅かながらも信用を残していたので余計、ご傷心でしょう。ですが臣下である私としては七倉蓮介の事は出来るだけ警戒して頂きたいです。」
「出来るだけ起こらないように致しますが、もし、七倉蓮介と2人きりになるような場面がある場合は前以て知らせて下さい。私が必ず護ります。」
2人は頭を下げて「お願いします」と言った。
「分かってるわよ、文化祭の時から。皆に心配をかけない行動をするから安心して頂戴。」
2人は私の目を真っ直ぐ見つめて跪いた。
「私、本堂貴翠は美乃梨様に忠誠を誓い、一生をこの身をもって護り抜く事を誓いました。この先何があろうとも私は美乃梨様の一番の臣下です。」
「美乃梨様、出来れば私にも臣下の誓いを立てさせて下さい。」
「後悔しても知らないわよ?」
「後悔など致しません。」
そして私は京翠の手を取って誓った。
「私、恋咲美乃梨は臣下として本堂京翠を受け入れる事を誓います。」
「私、本堂京翠は美乃梨様を主人とし、この身を掛けて一生護る事を誓います。」
そして私の魔力の一部が京翠を纏った。これで誓いは成立した。魔力で契約をした私の3人目の臣下だ。1人目は貴翠、2人目は13歳になった頃に京駕さんから、そして今日、3人目の京翠と契約をした。
こうして私を主人として慕ってくれる人がいるから私も心配を掛けないように頑張ろうと思える。
「2人とも、ありがとう。」
私は満面の笑みで2人にお礼を言った。
やっと更新です♪
次回は聡くんの養子縁組と家族会議です。
出来るだけ早めに更新するつもりなので待っていて下さい!




