日頃の感謝を
夢から覚めると見慣れた天蓋があった。
「美乃梨様、起きられましたか?」
「シャルル、おはよう。一つ聞きたい事があるの。私って昨日千秋に告白された?あれは夢?」
「はい?」
「でも頬をつねって痛かった、筈。夢じゃないよね?どこまで本当か分からない。」
するとシャルルは溜息をついて言った。
「美乃梨様と千秋様が両想いになられたのは夢ではありません。現実です。美乃梨様は記憶力がよろしいのにどうして夢だと思うのです?」
「これは記憶力云々ではなくて現実味が無いから思ったの。シャルル、千秋に電話しても良いかな?」
「良いと思いますよ。レオ曰く、千秋様はとても早起きだそうなので。」
「そう。ありがとう。」
私は自分の部屋のバルコニーに出た。そして千秋に電話を掛けた。
『もしもし、美乃梨か?』
「うん。急に電話掛けてごめんなさい。今大丈夫?」
『ああ。丁度俺も美乃梨に電話を掛けようか迷っていたから。』
「千秋も?私、千秋に告白されたのが全部私の妄想が作り上げた夢なんじゃないかって思ったの。シャルルは否定してくれて、私も覚えては居るんだけど、やっぱり不安で。」
『俺もだ。現実味が無さすぎて本当は夢なんじゃないかって何度も思った。だが、美乃梨の嬉しそうな顔を思い出すと夢じゃないって思えたんだ。現実であんな嬉しそうな顔をしているのを見たのは昨日が初めてだからな。』
千秋はフッと笑い声を溢して言った。
電話越しの少し落ち着いた声が何とも言えない優しさでつい顔が紅くなってしまう。私は手で顔をパタパタと仰ぎながら言った。
「千秋って電話だと声が少し変わるね。落ち着いた大人っぽい声してる。」
『それを言うなら美乃梨も、綺麗な声をしている。』
「あ、ありがとう。なんか変な感じ。耳元で聞こえるから千秋が隣に居るみたい。」
『……』
私が言った言葉に千秋は黙ってしまった。
「どうしたの?」
『ああ、悪い。美乃梨があまりにも可愛い事を言ってくるから。』
「か、可愛い!?」
『何だ?凪や真央から言われ慣れているだろ?』
「いや、千秋の口から聞けるとは思ってなくて。」
『俺だって美乃梨の事可愛いと思ってたよ。でも俺は凪達みたいに思った事を口にするのが得意ではないから、思っていただけだがな。』
「そういえば一つ聞きたかったの。私が千秋に好きって言った後、姫になって欲しいって言ったの、もしかして私がそういうのに憧れているから?」
『……ああ。結構恥ずかしいからあまり言わないでくれ。』
「そう?私は初めて千秋達と会った時本物の王子様みたいって思ったよ。3人とも本当にキラキラしてたから。」
『……3人とも、か。』
千秋の声が低くなった。
「もしかしてだけど、嫉妬?いや、違うか。千秋は嫉妬なんて、」
『ああ。』
「ええ!?本当に嫉妬なの!?」
『何でそんなに驚くんだよ。俺だって嫉妬くらい人並みにする。』
「そっか。まあ私も千秋が爽夜くん達とばかり仲が良くて嫉妬してたもの。」
私がそう言うと千秋は『俺だって』と言った。
『俺だって美乃梨と爽夜はよく2人で居るからいつも爽夜に嫉妬してた。』
「それは爽夜くんは一番仲が良い友達だから。爽夜くんには千秋の事が好きだってバレてたからずっと応援してくれてたんだよ。まあ、偶にからかって来ていたけど。」
『そうか。なら良かった。』
「じゃあそろそろ朝食食べるから切るね。またね、千秋。」
「ああ。」
そして私は電話を切った。数分のつもりだったが30分程時間が経ってしまった。私は急いで着替えて部屋まで迎えに来てくれていた京翠と食堂に向かった。
「おはよ、美乃梨。」
「おはよう、律ちゃん。あれ、響彼くんは?」
「響彼兄様は疲れてたみたいだから部屋で寝ているんじゃない?流石にお昼までには呼びに行った方がいいと思うし、美乃梨朝食食べ終えたら呼んで来てくれない?」
「良いよ。煌達もまだみたいね。」
「……うん、応援しつつもショックなものはショックだったんだね。」
「そう、なの?え、何が?」
私がそう言うと律ちゃんが「美乃梨は相変わらずだよね。そういうところも良いと思うけど。」と言った。
私が座っていると聡兄様が入って来た。
「美乃梨、おはよう。美乃梨の割にはゆっくりなんだな。」
「いや、起きてはいたんだけど……」
「成程〜、千秋くんと話してたんだね。電話とか。」
「な、んで分かるの。」
「顔だよ」
「顔だね」
聡兄様と同時に律ちゃんが言った。
私はパッと顔を手で隠して2人を見た。
「そんなに、分かりやすかった……?」
私がそう言うと2人は目を丸くさせて顔を見合わせながら言った。
「千秋くんが心配になる理由も分かるよ。」
「そうだね。無自覚だからね。」
「何が!?」
「もう私、心配になって来るよ。京翠、くれぐれも美乃梨をよろしくね。」
「僕からも、美乃梨の事を頼むね。」
「分かっております、律様、聡様。」
3人は一致団結した。
そして朝食を食べながら談話する。
「そういえば聡兄、もうすぐだよね?」
と律ちゃんが聡兄様に言った。私は何の事か分からず律ちゃんに尋ねた。
「聡兄の結婚のこと。確か3月よね?」
「そうだよ。」
「そうなの!?」
「あと、来月聡兄は養子縁組で美乃梨のお兄ちゃんになるから。」
と律ちゃんはとんでもなく大きい爆弾発言をして来た。
「えっ!?初耳なんだけど。」
「そりゃ、初めて言ったから。」
「律ちゃん何で教えてくれなかったの!」
「だって決まったの一昨日だよ?養子縁組したら聡兄が本家に居ても誰も文句言えなくなるから。」
と律ちゃんが言った。そういえば聡兄様は分家の一部の人に妬まれていると言っていた。多分木野家以外の分家から。
「じゃあ来月から聡兄様は正真正銘のお兄様だね。でもそれだと律ちゃんの甥になっちゃうけど。」
私がそう言うと律ちゃんが
「随分と大きい甥が出来るね。聡兄って呼び方は意地でも変えないけど。」
と言った。
「何で意地でもなんだよ。別に呼び捨てにしたら良いだろ。」
「いや、聡兄はどんな立場でも聡兄だし。」
「それより、聡兄様が花央さんと結婚するなら花央さんは私の姉になるんだよね!」
「そうだよ。花央も喜んでたよ。可愛い妹が出来るって。」
私は楽しみだなと思いながら朝食を終えて響彼くんの部屋に向かった。ノックをすると響彼くんが開けてくれた。
「起きてたんだ。……疲れきった顔してるけど。」
「ああ。実はパーティーの後、美乃梨や煌達をスカウトしたがる人が多くてな。」
「私は断るけど煌達には聞いてみないと分からないんじゃない?特に稔と架は楽しんでそうだけど。」
「そうだな。一応3人にも聞いてみる。煌はまあ、断るだろうけどな。」
響彼くんはそう言いながら積み上がっていた書類や名刺を片付けた。
「響彼くん、仮眠でもしたら?それとも私が治癒魔法掛けようか?」
「頼みたいのは山々だが、美乃梨は治癒魔法が苦手だろう?」
響彼くんがそう言うとずっとボディーガードとして後ろに居た京翠が言った。
「なら私が致しましょうか?」
「そうだな。京翠に頼む。」
響彼くんはそう言い、京翠に治癒魔法をかけてもらっていた。(何だか京翠に負けた気分。)
「京翠、助かった。ありがとう。」
「いえ、美乃梨様がご心配されていたからしたまでですので。」
そして響彼くんは朝食を食べに食堂へ向かった。
私は部屋へ戻った。
「美乃梨様、今日はどのようにお過ごしでしょうか?」
「少し、お約束があるの。それと行きたいお店も。」
「茉乃凛様達とのお茶会ですね。まだ少し時間はございますがもう向かわれますか?」
「ええ。」
私は京翠と何故か着いて来た貴翠と一緒に京駕さんの運転する車で倉津木家本家に向かった。インターホンを鳴らすまでもなくお出迎えが来てくれた。ここはお母様の実家なので私に対して待遇は凄く良い。
「お待ちしておりました、恋咲美乃梨様。」
出迎えてくれた方は何度か顔を見た事がある倉津木家の使用人だった。
「凛哉様と紅音様が東屋にてお待ちです。」
そう言いながら東屋まで案内してくれた。東屋に着くと伯父様と紅音くんが居た。
「いらっしゃい、美乃梨。」
「お久しぶりです、伯父様。紅音くんも先月ぶり。」
私が挨拶すると伯父様は私を持ち上げた。
「美乃梨、大きくなったな!前はこんなにも小さかったのに。」
と伯父様は指で表したサイズはティーカップ程の大きさだった。
「生まれた時からそんなに小さかった事は一度もありませんよ!」
「そうかそうか」と言いながら伯父様は降ろしてくれた。
「しかし美乃梨は本当に薫とも紫乃凛とも似ているな。前に会ったのは美乃梨が11になる頃だったからもう2年も前か。すっかりお姉さんになったな。」
「ありがとうございます。そういえば伯母様は?」
「すまない美乃梨。姉上は急用の為、私が代わりに来たのだ。」
「いえ、伯母様とは年越しの際に会えるのでその時にお母様も誘ってお茶会をしますわ。」
私がそう言うと伯父様は「美乃梨は相変わらず我慢ばかりだな」と言った。
「最近、他の方にも言われました。聡兄様とか律ちゃんとか響彼くんに。」
「そう言えば律も響彼も帰って来ているらしいな。反抗期なのか顔は中々見せてくれないが。」
伯父様は素晴らしい笑顔でそう言った。忙しかったお祖父様とお祖母様に代わり、響彼くんと律ちゃんに魔法を教えてくれていたのは凛哉伯父様だ。伯父様の教えは相当厳しいものらしく、2人は伯父様には頭が上がらない。
「私からも2人に伝えておきますね。」
「ああ、よろしく頼む。して、後ろに居るのは京翠と貴翠で間違いないか?」
「はい。」
2人は伯父様に向かって挨拶をした。伯父様と2人が会うのは約5年ぶり。
「2人とも大きくなったな。京駕は元気か?」
「はい。」
伯父様と京駕さんは昔馴染みらしい。
そして私達はお茶を楽しんで帰った。
帰った頃は丁度お昼頃だったので軽く昼食を食べ、京駕さんに行きたかったお店に連れて行って貰った。
「さっきから思っていたのだけれどどうして貴翠も居るの?」
「美乃梨様のいらっしゃる所ならたとえ宇宙の果てだとしても駆けつけますよ?私は美乃梨様の一番の臣下ですから。それに、ボディーガード候補ですし。」
「候補って?」
「ボディーガードとして適切だと父さんと兄さんに評価されればボディーガードになれます。」
「そう。貴翠がボディーガードになってくれたら更に頼もしいわね。頑張ってね。」
「美乃梨様にそう言われて頑張らないわけにはいきませんね。」
私達はお店に入った。このお店は様々な専門店が集まっている。「私はここで」と言っていた京駕さんもやや強引に連れて入った。ここに来た目的は3人に対して感謝を伝える為だからだ。
「貴翠、京翠、京駕さん。いつも本当にありがとうございます。このお店はお父様が貸し切って下さっているので自由に見て回って下さい。欲しいものがあったら私からプレゼントします。」
私がそう言うと3人は申し訳なそうな顔をした。そして京駕さんが
「美乃梨様、お気持ちだけで十分でございます。」
と言った。貴翠と京翠の2人は後ろで頷いている。
「これはお父様から当主命が出ているので断る事は出来ません。すみません、強引で。でもこうでもしないと3人が断るのは目に見えていましたから。お父様とお母様からも3人にぴったりなプレゼントを、と言っていたので。」
私がそう言うと3人は渋々というように頷いた。
そして京駕さんは世界各国から集められたコーヒー店へ、貴翠は世界中の本が集まっている本屋さんへ、京翠は私から離れない。
「京翠、探してくれないと何が欲しいか分からないのだけれど。」
「美乃梨様が選んで下さった物なら頂きます。」
「分かった。じゃあ京翠のは私が選ぶわ。京翠って趣味とかある?」
「いえ、特にございません。」
「そっか。じゃあ回りながら決めよう。」
私は京翠を連れてオーダーメイドのお店に行った。
そこは雑貨を主に取り扱うお店だった。
「京翠、ネクタイピンで良い?」
「はい。美乃梨様が選んで下さった物ならなんでも嬉しいです。」
私は京翠に誕生石の入った名入りネクタイピンをオーダーする事にした。まずはデザインを考える事になった。
「京翠、本当に私のデザインで良いの?京翠のデザインの方がオシャレなのに。」
私がデザインしたのはシンプルに捻れているピンの先に誕生石をあしらった物だ。対して京翠のデザインした物は先端に斜めにラインが入っており、その先に誕生石がついている。
「いえ、美乃梨様のデザインした物の方が素晴らしいです。」
そして次は書体を決める。書体は漢字からアルファベットまで数えきれないくらいの種類があった。
「京翠、どれにする?」
「ではこちらで。」
京翠は一番上に載っているアルファベットの筆記体を選んだ。そしてネクタイピンを注文した。
「では完成した物は後日お届け致します。もしよろしければ美乃梨様の分もお作りしませんか?」
と担当の店員さんが聞いて来た。その店員さんはお父様の知り合いらしい。
「薫様は奥様のアクセサリーを作りによくこちらに来られるので美乃梨様の話もよく聞いておりました。ネックレスでもお作りしますか?」
「では誕生石のネックレスをお願いします。」
「デザインはどうされますか?」
「マーガレットでお願いします。」
「どの辺りに誕生石を付けますか?」
「花の中心部分でお願いします。」
そしてネックレスのチェーンの色や長さを決めて注文を終えた。
「こちらのお2つは一緒に包装致しますか?」
「いえ、別でお願いします。」
そしてお店を後にした。そして貴翠の所へ向かった。
貴翠はずっと本と睨めっこをしている。
「貴翠、どれにするか決めた?」
「いえ、まだ決まっておりません。」
「それはどこの本なの?」
「フィンランドです。」
「全く読めないわ。何て書いてあるの?」
「『huominen ei tule』明日は来ないという意味ですね。少し古い文体なので100年程前の物でしょうか?少し気になりますね。」
「では貴翠にはそれをプレゼントするわ。もう一冊くらい選んでね。」
そして貴翠は『Gorm na bhflaitheas íon』というアイルランド語らしい本を選んだ。
「京翠はあの本読める?」
「無理ですね。私は貴翠と違いドイツ、イタリア、フランス、スウェーデン、英語、日本語の6カ国語しか分かりませんから。」
「十分凄いと思うけど。」
貴翠の選んだ本を買った後、京駕さんの居るコーヒー豆専門店に向かった。京駕さんは紅茶を淹れるのが上手だけれど、コーヒーを淹れるのはもっと上手い。
お父様は普段コーヒーをあまり飲まないのに京駕さんの淹れたコーヒーならおかわりを頼んでいる程。
「京駕さん、何か良い豆見つかりましたか?」
「はい。こちらでは良い豆しか取り扱っていないようでどれもとても素晴らしい豆です。」
そしてコーヒー豆を何種類かプレゼントすると京駕さんは「これで美味しいコーヒーを淹れますね。」と言ってくれた。
「ありがとうございます。」
そしてお店の皆さんにも貸し切らせて頂いた事への感謝を伝えた。丁度私達がお店を出ようとした時、お店の扉が開いた。そこには煌達と同い年くらいの女の子と付き人らしき男性が2人立っていた。
「お嬢、今は駄目ですって、」
「今は他のお客様の貸し切り中ですのでこちらに来たかったのなら午後から、」
「岬も柏木も黙って。私は久しぶりに会いたかっただけなの。美乃梨お姉様!」
と女の子は私の名前を呼びながら手を振ってくる。
「もしかして茉莉花ちゃん!?」
二条茉莉花ちゃん、彼女は二条財閥のお嬢様で煌達と同じ11歳。昔、私が7歳くらいの頃まではよく二条財閥のパーティーに行っていた。でも7歳を過ぎ、普通の勉強にプラス魔法の勉強が始まって中々会えていなかった。
「久しぶり、前に会ったのはもう6年も前だね。」
「私、美乃梨お姉様が会いに来なくなって寂しかったです。また、パーティーに来てくれますか?」
「ええ、勿論よ。煌達も連れて行くわね。」
二条財閥の現当主はお父様の親友で魔法使いの事を知っている。茉莉花ちゃんのお兄さん、二条慧星くんもその事を知っている。
「慧星くんは元気?」
「お兄様が元気じゃない時なんてありませんわ。」
「確かにそうね。でも慧星くんも京翠と同じ年だったからもう17になるのね。」
「ええ!美乃梨お姉様、実は来月私の誕生祭があるんです。来てくれませんか?もちろん同伴者の人数は自由なのですけど……」
「そうね、久しぶりに慧星さんにも会いたいし、行きたいわ。」
私がそう言うと茉莉花ちゃんは柏木と呼んでいた男性に頼んで招待状を渡してくれた。
「茉莉花ちゃん、後ろに居る人は付き人?見覚えはある気がするのだけれど。」
「ええ。岬は美乃梨お姉様と同い年です。柏木は今年で21です。」
茉莉花ちゃんがそう言うと2人は前に出て来て挨拶をした。
「柏木龍人です。」
「覚えていらっしゃらないかもしれませんが、私はお嬢が3歳の頃から仕えて居る岬涼都と申します。美乃梨様ともお会いした事がございます。」
名前を聞いて私は思い出した。
「涼都くん!思い出した。私より小さくて可愛かったのに背が大きくなってて気付かなかった。」
「美乃梨様もお美しくなっておられますね。」
「美乃梨お姉様、良ければ今から家に来ませんか?」
「私は良いけれど……」
と言いながら私は貴翠達を振り返った。
3人は頷いて答えてくれた。そして私達は茉莉花ちゃんのお家にお邪魔する事になった。
長くなりそうなので切りました。
次回は茉莉花ちゃんのお家での話です!




