凪くんとのデート 続編!
「如月界莉って……」
私がそう呟くと凪くんは「知ってる?」と顔を覗き込みながら聞いて来た。
「うん。私、会った事あると思う。多分、響彼くん、私の叔父の友人だったような。」
「えっ!?良いな〜。僕も会ってみたい。」
「まあ、私も一度しか会った事無いけれどね。」
そして質問者の一ノ瀬玲音さんが質問した。
「実は俺の娘がもう少しで誕生日なんですよ。誕生日プレゼントをサプライズにしようか迷ってるんですけど、どっちが良いと思いますか?」
『ララ、どっちが良いと思う?』
トレーナーさんがララちゃんにそう言うとララちゃんは赤マルの書いてあるカードを選んだ。
『赤マルを選んだって事はサプライズの方が良いって事かな?』
トレーナーさんがそう言うとララちゃんは嬉しそうにキューと鳴いた。
『という事ですので、是非、サプライズでプレゼントを贈ってあげて下さい。』
そして他に数人が質問して占いショーは終わった。
ショーが終わると出入口が混雑していたので私達は人混みを避ける為、人が減るまで待った。
「じゃあ、そろそろ行こうか。」
「うん。そうだね。」
そして私達が席を立って出口に向かっている時、誰かが私に声を掛けてきた。
「ねえ、君。TVに出てみませんか?」
「いえ、別に。それより貴方は……?」
私が眉を下げながらそう言うと私に声を掛けて来た人はジャケットの内ポケットから名刺を取り出した。
「私はこういう者です。」
「芸能事務所の代表取締役兼プロデューサー?」
「はい。那賀浩介と申します。君程の美人は芸能界にも中々居ない。」
「ありがとうございます。でも興味ありません。」
「事務所に所属するだけでも。」
「いえ、結構です。」
「少しだけ、話だけでも聞いていかない?」
「美乃梨が嫌がっています。やめて下さい。」
と凪くんが止めてくれても、
「美乃梨さんと言うのですか。」
と話にならない。
那賀さんはあまりにしつこいようだったので京翠を呼び出した。とは言っても京翠は近くに居るはずなので簡単なハンドサインを出しただけだが。
「美乃梨様なら上手く断れそうだと思っておりましたが……社会経験が乏しい事を忘れておりました。」
「ひと言余計よ。」
京翠が来た事に那賀さんはとても驚いている様子だった。
「一体どこから?」
「そんな事はどうでも良いですよ。それより、これ以上美乃梨様に迷惑を掛けるのであれば私は容赦致しませんから。」
「誰だあんたは。関係ないだろ!」
「関係なくはありません。私は美乃梨様の"ボディーガード"ですから。心身共に美乃梨様を護る事が仕事でございます。」
「それがどうした?私はこの子の才能を見込んで芸能界に勧誘しているだけだ。」
「分からないようなら一つだけヒントを渡しましょうか。美乃梨様の名字は"恋咲"ですよ?」
京翠がそう言うと那賀さんは青ざめて私に謝りどこかへ逃げるように走って行った。すると凪くんは不思議そうな顔で聞いて来た。
「美乃梨の家って芸能界と何かあるのか?」
「その事なんだけど、私、あまり詳しくないのよね。京翠の方が知っているんじゃない?」
私が京翠にそう言うと、京翠は頷いて答えた。
「柄灯くん、WAKABAプロダクションって聞いた事ありますか?」
「あの大手芸能プロダクションですか?」
「はい。あの会社は恋咲家の経営する会社の内の一つ何です。」
「え……ええーーー!!マジですか!?」
「本当ですよ。」
「美乃梨ってやっぱ桁違いのお嬢様だったんだ。」
「そんな事無いわよ。それに景くん達も同じようなものだし。」
「へえー。」
と何故か凪くんは不機嫌そうになった。
「どうしたの?凪くん。」
「デート中に美乃梨が景の話するからちょっと嫉妬。
……なんてね、彼氏でも無いのに口出す権利は無いよね。」
「私の方こそごめん。デート中に他の男の子の話題は禁句だったね。」
「別に会話の中にちょっと混ざる程度なら良いと思うんだけど、あの流れだと完全に景や千秋や真央先輩の話に変わるな、と思って。」
そして会場を出た時、噂をすれば影がさすと言うように本人達の登場だった。
「あ、美乃梨!……と凪。」
「真央先輩!?それに景も千秋も篤季も貴翠さんも?どうしてここに、」
「皆、奇遇だね。」
私は凪くんの言葉に被せながら言った。
するとその時、後ろから声が聞こえた。
もちろん先程から感じていた気配の正体だ。
「美乃梨〜!」
「律ちゃんと稔。どうしてついて来たの?」
「ごめんなさい、姉さん。」
「稔、謝る相手は私では無いわ。」
「凪さん、ごめんなさい。」
稔が謝ると凪くんは稔の頭を撫でながら言った。
「別に良いよ。お姉ちゃんがとられるのが嫌だっただけでしょ?僕も泉とか雫がデートするとか言い出したら絶対着いて行くから。」
「ごめんね、凪くん。あと紹介するね。」
と言い私は律ちゃんの紹介を皆の前でした。
「律ちゃんはお父様の妹。つまりは私の叔母です。」
「恋咲律。18歳です。薫お兄様とは15個差?くらいだった筈。篤季と貴翠以外は初めましてかな?」
「律ちゃんは2年前からイギリスに行ってだんだけど昨日帰って来たの。律ちゃんのお兄ちゃんで私の叔父である響彼くんも帰って来たから今度紹介するね。」
「じゃあさ、文化祭。文化祭に誘ってよ!」
「まだあと2週間くらいあるよ?」
「そんな事はどうでも良いの。稔も行きたいよね?」
「はい!煌達も誘います!」
という事で何故かこのタイミングで文化祭に誘う約束が決まってしまった。
『ねえ、凪くん。どうする?』
『美乃梨が良いならデートの続きして良い?』
『うん。』
私達は皆にひと言告げて時間も時間なのでお土産屋さんに向かった。
「あ、美乃梨、ペンギンと映れる写真スポット!」
「可愛い!やってみようよ!」
私は近くの人に「すみません、写真を撮って貰えますか?」とお願いし3枚撮って貰った。
「お土産は奮発出来るね。」
「そうだね。私は家用にお菓子を何箱か、あとお留守番してる煌達に渡そうかな。……ねえ、凪くん。雅美ちゃん達にお揃いのキーホルダーとか渡しても嫌がられないかな?」
「大丈夫だよ。逆に凄い喜ぶと思う。僕は瀧達には一つずつお土産を渡すつもりなんだけど、千秋達には要らないよね?他は透と爽夜と部活の子達に何個か渡そうかな。」
そして私は家用と私の家で働いてくれているシェフや本堂家の皆さん用にお菓子を5箱買った。
そして、煌には文房具セットとブックカバーを、架にはイルカやペンギンのぬいぐるみを買った。京駕さんには多機能ボールペンを、京翠にはゴールドのイルカのネックレスを買った。
雅美ちゃん達とお揃いにするキーホルダーはピンク、オレンジ、パープル、イエローの4色の入ったペンギンのキーホルダーにした。
そしてお会計で引換券を出すと店員さんが
「こちらはお釣りが出ませんので商品をもう一つ程選んで下さい。こちらのリップクリームなどはどうでしょうか?値段も丁度良いと思いますし。」
と言った。
「ではそれもお願いします。」
そしてお会計を済ませると凪くんがお店の外で待っていてくれた。
「凪くんの方が早かったんだね。」
「うん。一応家でどんなのが欲しいか確認してたからね。じゃあバスの時間もあるし、そろそろ行こう。」
「うん。」
そしてバスに乗り込むと案外人が少なくて席が空いていた。私は一日中はしゃぎ回って疲れたせいかすぐに眠気に襲われてしまった。
「み、美乃梨!?……寝てるのか。」
美乃梨が急に僕にもたれかかって来たから僕は思わず声を出してしまった。
「本当はもっと美乃梨に意識して貰いたかったんだけど、美乃梨が楽しんでたし、今日のところはこのくらいで良いかな。」
僕は美乃梨が起きないように小さい声で話した。
「美乃梨。僕は美乃梨が誰の事が好きでも諦めたくない。自己満足かもしれないけど、美乃梨が婚約者を選ぶその時まではこの片想いを続けさせてね。今日は僕とデートしてくれて、ありがとう。」
そしてあっという間にバス停まで着いた。
「美乃梨、着いたよ。」
「……ん?凪くん?あ、ごめんね肩借りて。」
「全然良いよ。」
バスから降りると美乃梨の運転手の本堂さんが車を停めて待っていた。
「じゃあね、美乃梨。また月曜日に。」
「またね、凪くん。」
最後の最後に美乃梨の寝顔が見れたのはラッキーだったな、と思いながら僕は家まで歩き出した。
私は京駕さんの運転する車に乗って家まで帰った。
「そういえば、律ちゃん達はまだ帰って来ていないのかな?」
「はい。先程貴翠から連絡がありまして、もう少し楽しんでから帰るそうですよ。」
「そうなの。あ、京翠。これお土産。」
「ありがとうございます、美乃梨様。イルカのネックレスですか。シンプルで使いやすそうですね。」
「京翠にはシンプルな物の方が似合うと思って。」
「京駕さん、お土産です。」
「私にも下さるなんて、ありがとうございます。大切に使わせて頂きます。」
「こちらこそいつも学校の送り迎え、ありがとうございます。」
そして玄関の扉を開けると煌と架が待っていた。
「「姉さん、お帰りなさい。」」
「煌、架。ただいま。お土産買って来たよ。」
私はそう言い2人にお土産を渡した。
「姉さんからのお土産……大切に保存します。」
「煌、気持ちは嬉しいけれど使ってね。」
「ぬいぐるみ!可愛い!姉さん、もしかして僕が可愛い物好きな事知ってたんですか!?」
「何となくね、架は私と趣味が似ている気がして。」
どうやら2人とも喜んでいる様子なので私も嬉しくなった。そしてリビングに行くと響彼くんが居た。
「お帰り、美乃梨。」
「ただいま、響彼くん。お父様とお母様は?」
「2人は今日は帰って来れないそうだ。」
「そうなんですか。」
「美乃梨、水族館は楽しかったか?」
「はい!ペンギンを膝に乗せたり出来てとても楽しかったです。」
「そうか、良かったな。……だが、何故敬語なんだ?昔は私相手に敬語など使って居なかっただろう?」
「響彼くんと話すのが久しぶりだから敬語になってしまうみたい。律ちゃんは5個差で歳が近いけれど、響彼くんは少し歳が離れているから。」
「敬語でなくて良い。聡に対しては"聡兄様"と呼んでるそうじゃないか。聡が電話で自慢して来た。そうだ、美乃梨。私の事も響彼兄様と呼んで、……いや律と被るな。」
「響彼くんは響彼くんだよ。煌達には"響彼兄"って呼ばれてるじゃない。」
「まあ、そうだな。」
響彼くんはそう言うと立ち上がった。
「話は変わるけど美乃梨に伝えておこうと思ってな。美乃梨、恋咲家跡取りとしての仕事が出来た。来月、私の会社のパーティーに出席してくれ。」
「響彼くんの会社?」
「そうだ。私は今、WAKABAプロダクションの社長をしてるんだ。とは言っても殆どお飾りだけどね。パーティーだから美乃梨の友人も呼んで構わないよ。人数が多い方が楽しいしな。服はこちらで準備しておくから人数が決まったら教えてくれ。」
「うん。ありがとう、響彼くん。」
「それと、婚約者候補の3人は強制参加になるから3人の両親には伝えてあるけど美乃梨からも伝えておいてくれるか?」
「分かった。」
しばらくして律ちゃん達も帰って来た。
「よし、律も稔も貴翠も篤季も帰って来たな。今日は皆で夕飯を食べよう。」
「私達も共によろしいのですか?」
「ああ。今日の夕飯は聡が作ってくれたからな。」
そして食堂に移動すると待ち構えていたというように聡兄様が立っていた。
「皆遅いよ。せっかく僕が腕を振るったのに。」
「聡、待たせたな。貴翠達も聡のご飯を食べたいと思って待っていたのだ。」
「早く座って。料理が冷めるから。」
聡兄様は皆を急かして座らせた。そして今日は京翠、貴翠、篤季、京駕さんも一緒に座った。
「美乃梨、凪くんとデートに行ったんだって?」
私は飲んでいたスープが喉に詰まりかけた。
「どうして聡兄様が知ってるの!?」
「律から聞いた。」
聡兄様がそう言うので律ちゃんを軽く睨むと、律ちゃんは悪びれずに
「美乃梨がデートなんて一大事、言わないでいられる訳無いじゃない!」
と言った。
「どうしてデートが一大事なの?」
「だって同年代の男の子は身内以外話せなかったじゃない。なのにデートに誘われるなんて……」
「私が成長したって事だよ。」
「それと面白そうだったから。」
「そっちが本音じゃ……」
私がそう言うと律ちゃんは「それに、」と続けた。
「それに、美乃梨が普通に笑ってたから。」
「私、そんな無表情じゃないと思うけれど?」
「違うよ。無意識かもしれないけど、昔の美乃梨は身内以外の前では、特に同年代の子の前ではつくり笑顔しか見せてなかったよ。でも今日は素で笑えてるように見えたから。」
「そうかな?」
「そうだよ。実は、昔から心配だったんだよね。まだ親に甘えたい年頃の筈なのにつくり笑顔で我慢して。いつか、本当に心の底から笑えなくなっちゃうんじゃないかって。」
「私、そんなにつくり笑顔ばかりだった?」
私がそう聞くと聡兄様も頷いた。
「うん。美乃梨が丁度甘えたいだろう年頃の時、叔父様は当主になりたてで忙しくて叔母様も当主夫人として忙しくしていたから。頭の良かった美乃梨は忙しくしているのを分かっていたから困らせないように我慢ばかりしていたよ。」
「それは、我慢と言うか、忙しいのに迷惑を掛けられなかっただけだよ。仕方なかったから。」
私がそう言うと響彼くんが言った。
「仕方ない、と言いながら兄上と義姉上が仕事に行ってから私の所に泣きついて来ていたのを覚えてないのか?」
「何で今言うのよ!」
「やはり覚えていたか。ほとんど毎日、私の部屋に来ては私の膝を涙で濡らしていたからな。」
「だから何で今言うの!?」
「美乃梨がつくり笑顔ばかり見せていた事を忘れていたみたいだからな。シャルルに聞けばもっと詳しい事を教えてくれそうだな。」
響彼くんがそう言った時、物凄く嫌な予感がした。
その予感は的中し、シャルルが入って来た。
「デザートを持って来ました。」
「シャルル、丁度良い所に。」
「響彼様、どうなさいましたか?」
「美乃梨が小さい頃はつくり笑顔が多かったという話をしていたのだが、美乃梨がほとんど毎日私の部屋に来て泣いていたのは覚えているな?」
「はい。勿論でございます。」
「その時の事を詳しく教えてくれ。多分美乃梨以外の全員が気になっていると思う。」
私はシャルルに口の動きで「やめて」と言ったがシャルルは首を振って、
「そうですね。美乃梨様は皆様の前で言っておかないと同じように我慢をしそうですので。」
と言った。(私の意思は無視するの?)
「美乃梨様が響彼様のお部屋に向かわれる時は響彼様のお部屋の扉を開くまでずっとつくり笑顔を浮かべておられました。そして響彼様のお部屋に入った途端に涙を溢されて居ました。」
「やはりな。美乃梨は無理をしている時程つくり笑顔が多くなるからな。」
「確かに昔はそうだったかもしれないけど、今は少し面倒くさい人に絡まれた時くらいしかつくり笑顔はしてないわよ。……多分。」
「そうですね。最近はアピールされて照れている顔を隠すためにつくり笑顔を見せますね。」
シャルルがそう言うと、響彼くんと聡兄様が揃って聞いて来た。
「アピール?」
「誰にアピールなんてされるの?」
「響彼様も聡様も知っておられないのですか?試練が始まってから、美乃梨様は4人の方に告白されております。」
「4人もか?」
「流石は叔父様達の娘と言うか。」
「お父様達?」
私が聞くと聡兄様は教えてくれた。
「美乃梨は知らないのか。煌達も知らないかもしれないけど。叔父様と叔母様は美乃梨と同じように三つ目の、最後の試練で一般の高校に通うという試練があったんだよ。」
「そうなの?初めて聞いたわ。」
「それで転入初日に告白された数が2人して三桁近くなんだって。」
「凄いわね。」
「あと、叔父様は一度TVに出てると思うよ。確かスカウトマンに上手く乗せられて。」
「お、お父様。」
私がそう呟いた時、律ちゃんと稔が言った。
「美乃梨も今日スカウトされてたよね。」
「あの姉さんに付き纏う奴は僕が追い払いたかったですけど、こっそりついて行っていたので出て行くわけにもいかず、もどかしかったです。」
「超しつこい人だったわよね。」
「はい。律姉は手を出しそうになってましたね。」
「えっ!」
「僕も同じ気持ちでしたけど流石に止めました。」
「そうよね。」
「はい。律姉、やるなら姉さんのいない所でですよ。姉さんの前で暴力なんてやめて下さい。」
「そうね。流石にあそこではやってはならないわね。やるなら裏でこっそりと、よね。」
何故か不穏な雰囲気になっている気がしたけれど、私以外は普通にしているのでスルーする事にした。そして、シャルルの持って来てくれたデザートも食べ終わりリビングに戻った。京駕さんは仕事が残っているそうで行ってしまったが。
「今日は私達はこちらへ泊まりますね。」
「ねえ、京翠。提案なのだけれど……折角のお泊まりなのだから夜更かししない?」
「本当は美乃梨様達にはあまり夜更かしして欲しくありませんが、偶になら良いですかね?」
と京翠は聡兄様の方を向いて言った。
「そうだね。特別にな。ただし、お風呂を済ませてからね。」
と聡兄様は言った。聡兄様も一応お客様で泊まる側の筈だけれど保護者意識が働いたみたいだ。
そして私達は聡兄様に言われた通り先にお風呂に入る事になった。
「美乃梨、一緒に入ろうよ。」
「良いよ。そういえば律ちゃん、マリーは?」
「ちょっと仕事を頼んでるの。」
「そうなんだ。マリーは諜報活動が得意だものね。」
そして2人でお風呂に入った。
「やっぱりここのお風呂は大きいね。」
「お祖父様とお祖母様のお家のお風呂も相当大きいわよ。」
「確かにそうだけど、ここのお風呂は薫お兄様がこだわって作ったらしいから。他にも……ほら、別荘の露天風呂とかもね。」
「お父様ってそんなにお風呂が好きなの?」
「う〜ん、どうだろう。お風呂が好きって言うか、一時期温泉にハマってただけだったような……?薫お兄様、行動力が凄いから。」
「確かにお父様は思いついたら即行動している気がするわ。」
私がそう言うと律ちゃんは「そうだね。」と言い笑った。そして律ちゃんは言った。
「その行動力のお陰で紫乃凛お義姉様と結婚出来たようなものだからね。」
「どうして?」
「薫お兄様はね、お義姉様とは幼馴染なのだけれど、そのきっかけが薫お兄様が仲良くなりたいと思ったから、わざわざお忙しいお父様とお母様に頼み込んで会わせて貰おうとしたらしいの。」
「凄いわね。」
「お父様はあまりに必死だったから叶えてあげたらしいの。でも、パーティー以外では偶にしか会えなかったらしく薫お兄様は満足していなかった。ある時、薫お兄様はこっそり家を出てお義姉様に会いに行ったらしいの。」
「流石、お父様。」
「それでね、その後、お母様に叱られても泣きながら会いたかったからって言っていたらしいです。」
「泣きながら……お祖母様もどうしようか困ったでしょうね。」
「多分ね。まあ、その時の薫お兄様はまだ3歳か4歳だったらしいので勝手に家を出て行かないなら、とお義姉様のご両親と相談してほぼ毎日どちらかの家に遊びに行くようにしていたらしいよ。」
律ちゃんによると恋咲家と倉津木家は昔から五家の中で特に仲が良かったそうだが、お祖父様とお祖母様が当主の時期は倉津木家の跡継ぎ争いがあったらしく、忙しかったそうだ。
「跡継ぎ争いって伯母様以外の候補は誰が居たの?」
「えっと、確か茉乃凛ちゃんの弟の……」
「凛哉伯父様ですか?」
「そうそう、凛哉さん。あと、2人の従兄弟の柊さんの3人だった筈。結局、前当主様が最年長の茉乃凛ちゃんを選んで終わったんだけどね。」
「跡継ぎ争い、か……」
「美乃梨は候補じゃなくて確定しているから実感が無いかもしれないけど、基本は跡継ぎ争いが起きるものなの。まあ、身近に居る当主の内、薫お兄様とか壱さんとか麗華ちゃんは跡継ぎ争い無しだったんだけどね。」
「そういえばお父様が言っていたのだけれど、律ちゃんと響彼くんは他に夢があったのよね?」
私がそう聞くと律ちゃんは恥ずかしそうに言った。
「私、響彼兄様みたいに恋咲家の会社を継ぎたいの。家の当主にはなりたくなかったけど、兄様を見てると思ったの。響彼兄様が今、芸能プロダクションの社長をしているのはね、芸能界に興味があったからなんだって。」
「どうして自分が芸能人になろうと考えなかったのかしら?」
「それは私にもわからない。後で一緒に聞きに行こうよ。」
「うん。」
「ってそうじゃなくて。私はね、この恋咲家が大好きなの。だから好きなものを守りたくて、でも勉強が苦手だったから一生懸命勉強して、イギリスで経済学も学んで。恋咲家のIT企業の社長を目指しているの。」
「恋咲家のIT企業って……リベラニウム?」
「そうだよ。ラテン語で自由なを意味するリベロと夢を意味するソムニウムを掛け合わせたんだって。」
「そうなんだ。『自由な夢』か。良いね!」
「うん。じゃあそろそろ上ろうか。のぼせてきちゃった。」
「確かについ、話し込んじゃったわね。」
そしてお風呂を上がってリビングに戻ると私達以外は全員揃っていた。
「京翠のお風呂上がりって何か新鮮。」
「そうでしょうか?」
「ええ。京翠だけじゃなくて貴翠も篤季も。」
「私も美乃梨様のお風呂上がりの姿など幼少期ぶりな気がします。篤季は固まっていますので無視して下さい。」
「無視って。篤季はのぼせたの?」
「まあ、そのようなものです。」
貴翠はやれやれとため息をついた。
「美乃梨、律、上がったか。」
と響彼くんが歩いて来た。
「響彼くん、さっき律ちゃんと話してたのだけれど、響彼くんは芸能界に興味あったの?」
「ああ、そうだが。……急にどうした?」
「なら、どうして自分が芸能人になろうとは考えなかったの?」
「私が興味あったのは出る側の人間ではなく支える側の人間だからな。」
「でも、お飾の社長だ、って。」
「ああ。私はまだ芸能界について詳しく知って居ないからな。今はまだ様々な国で勉強中だ。」
「そうなんだ。」
私がそう言うと響彼くんは聞いて来た。
「美乃梨はしたい事とか無いのか?」
「特には。強いて言えば、前までは普通の学校に通って同い年の、私に気を使わない友人が出来たらって思ってたけれど、もう叶ったから。」
「そうか。良かったな。」
響彼くんはそう言って軽く微笑んだ。響彼くんの笑った顔はお父様とそっくりだった。
「響彼兄さんも美乃梨も早くしないと時間が過ぎてくよ?」
とTVをつけた聡兄様が言って来た。
すると律ちゃんが、
「実は聡兄が一番乗り気?」
とからかっていた。
その時丁度、TVから声が聞こえて来た。
『お2人は義理の兄弟なんですよね?』
『はい。界莉は俺の妻の弟で。』
『まあ、俺達幼馴染なので昔から仲良かったんですけどね。』
TVに出ていたのは今日、水族館に居た一ノ瀬玲音さんと響彼くんの友人の如月界莉さんだった。
「一ノ瀬玲音さん、今日、水族館に来ていたわ。」
私がそう言うと響彼くんが言った。
「ああ、知っているぞ。美乃梨と貴翠と京翠は界莉とも会った事あるよな?」
「うん。3年くらい前だっけ?」
「ああ。パーティーにも来るぞ。界莉はWAKABAプロダクション所属だからな。他にも玲音さんとか妻のRiriさんも来る予定だ。」
「そうなんだ。でも私、あまり詳しくないのよね。私の友達なら知っている人は多いかもしれないけど。」
「それなら詳しい友人を連れて来たら良い。」
「そうね。人数が多くても困らないものね。」
「ああ。煌達も来てくれるか?」
と響彼くんは煌達の方を向いて言った。
「勿論行きます。これでも当主の子ですから。」
「重役の方への挨拶もしたいですし。」
「人脈も広がると思いますから。」
私は3人の発言を聞いて11歳の弟達がとても大きく、頼もしく感じた。
(前にも記しましたが)聡くんは美乃梨ちゃんの両親を叔父様、叔母様と呼んでいますが正式には従兄叔父、従兄弟叔母です。ややこしいですが、聡くんは再従兄弟です。
次回は夜更かしの続きと例の木についてです。




