五家集結会議
私は恋咲薫。恋咲家当主だ。
勉学が苦手な私が当主に選ばれた訳は私の前の候補であった聡の父親であり、私の従兄弟の匠が辞退したからだ。私には妹と弟が居るが、2人とも歳が離れていた為候補には挙がらなかった。
「はあ、気が重い。」
「何を言っているんです?貴方は当主でしょう?」
「そうだが、今年に入って何度目の会議だ!?」
「まだ5回程でしょう?」
「十分多いと思うが?」
「薫、そんな子供のように駄々を捏ねないで頂戴。美乃梨達に言いますよ?」
「分かった、文句は言わないから子供達には言わないでくれ。せめて子供達の前でだけは"かっこいいお父様"で居たいんだ。」
「では会議に行く準備をして頂戴。」
「分かってる。紫乃凛、行って来る。」
「行ってらっしゃい。」
重い腰を上げて会議が行われる有栖川家に向かった。
有栖川家に着くと壱が迎えてくれた。
「待っておりました、薫さん。」
「雛菊はどうした?」
「子供達の相手をしています。流石にいつも使用人任せは可哀想ですから。」
「そうだよな。」
私が自分のしてた事との違いに肩を落とすと壱は
「どうしたんですか?薫さん。」
と怪訝そうな顔で聞いてくる。
「いや、私は忙しさを理由に子供達に全くと言って良い程構ってあげられて居なかったから。特に美乃梨には我慢をさせ過ぎていて、紫乃凛に指摘されるまで気付くことが出来なかったんだ。」
私が「父親失格だ。」と言うと壱は悪びれもせずにはっきりと言い切った。
「それは確かに酷いですね。」
「ああ、自分でもそう思う。……だが、普通は慰めるものでは無いのか?」
「そういうものですかね?でも、これからもっと親子の時間を作れば良いだけですよね?美乃梨ちゃんなら確かに我慢しそうですが薫さんの事を父親としても当主としても尊敬しているようですから。」
「親子の時間を取ろうと思っても美乃梨は最近学校で出来た友人とばかり遊ぶのだ。」
「おや、美乃梨ちゃんのご友人に嫉妬しているんですか?」
「そんな訳ないではないか。そろそろ会議室に案内してくれ。他の者を待たせてしまう。」
「薫さんは相変わらずですね。」
そして会議室まで案内して貰った。壱とはかれこれ20年程の付き合いなのでつい話し込んでしまうのだ。
「薫、壱さんも遅いですわよ。」
「すまない、茉乃凛。他の者は?」
「まだです。それより薫。貴方、紫乃凛と婚姻してから私の事を一度だって"お義姉さん"と呼んだことがあって?」
「急にどうした。」
「私、考えたの。薫とは長い付き合いですので弟のように思っていますの。なので"お義姉さん"と呼んでみて下さいな。」
「はあ、また私をからかうのか?」
「からかうだなんて、人聞きの悪い。純粋に"お義姉さん"と呼ばれてみたいだけよ。」
この人の悪い癖だ。顔には面白そうと書いてあるではないか。
「はあ、義姉上、他の者はまだ来ないのか?」
「まあ、壱さん、聞いたかしら?薫が義姉上ですって。紫乃凛に伝えましょう。」
「聞きましたよ、茉乃凛さん。雛菊にも伝えておきますよ。」
「人の話を聞いてるのか?他の者は?」
「伝え忘れていましたね。他の方は少し遅れるそうです。何せ色々ありましたから情報の擦り合わせでもしているのでしょう。薫さんは大丈夫なんですか?」
「ああ。美乃梨は聞かずともレポートにまとめて渡してくれたからな。」
私がそう言うと茉乃凛は口元を押さえて
「何ですそれ、流石私の姪ですわ。」
と感嘆した。
壱も続いて言った。
「流石私の従兄弟姪ですね。」
「何を競っているのだ?美乃梨は私の愛娘だ。」
「美乃梨は薫よりも私に懐いてるわ。」
「あまり話した事の無い私にも笑顔で話しかけてくれる私の従兄弟姪です。」
「従兄弟姪は遠いだろ。」
「確かに遠いですし私自身とは血の繋がりはありませんが、雛菊からはよく紫乃凛さんから聞いたと言う美乃梨ちゃんの話しを聞きますよ。」
雛菊は紫乃凛と茉乃凛の従兄弟で3人とも驚く程、仲が良いのだ。私達が言い争っていると呼び鈴が鳴ったようで壱はで迎えに行った。
「皆さん揃いましたよ。」
麗華と千歳も来たようなので会議が始まった。
「まず、七倉蓮介と言う名の景達の学校の美術教師についてです。」
「巫女といい、こちら側の関係者らしき人物といい、何故美乃梨達の周り集まるのだ。」
「偶然、ではありませんよね。」
「そうであろうな。」
「七倉蓮介は確実にこちら側でしょうね。」
「七倉蓮介に関しては京翠と貴翠にあたって貰っているので大丈夫だろう。」
「貴翠くんが居るなら安心ですね。」
貴翠のずば抜けた頭の良さは五家の者で知らない者は居ないだろう。
「そして、京駕さんや貴翠、京翠、美乃梨からの報告によると、とある"木"に美乃梨の魔力が篭っており、七倉蓮介はその美乃梨の魔力を使って何かをしているようだと。」
私がそう報告すると皆はそれぞれ驚いた表情を見せたが、茉乃凛は違った。
「私の姪の魔力を利用するなんて……絶対に許しませんわ。」
「私もだ。私の娘の魔力を利用するなんて許すわけがないだろう。」
「それより、木に魔力を篭めたのは美乃梨ちゃんなんですよね?いつ篭めたのか分からないんですか?」
「約8年前だろうと聞いた。」
「8年前……美乃梨ちゃんはまだ5歳ですよ?」
「ああ、そうだ。だが木に篭められていた魔力はとても5歳とは思えない膨大な量だった。」
「私は千秋から2歳頃の記憶が"蘇った"と聞いた。どういう事だ?」
「それは多分、美乃梨の魔力の影響だろう。恋咲家には時々、時空魔法を魔力に刻み込む者が居るのでな。いつどのような状況で美乃梨が木に魔力を篭めたのかはまだ分からない。」
私がそう言うと麗華が言った。
「その状況を突き止めるのは誰がするんですか?難しすぎますよ?」
「それは、あまりやらせたくは無いが、美乃梨本人が自分の事だから自分で調べたいと言うのでな、私も手伝うが一応美乃梨に頼んだ。」
「美乃梨なら優秀なので薫が居なくても大丈夫じゃないかしら?」
「確かに美乃梨は優秀だが、1人で心細い気持ちにさせたくないんだ。」
そして一度休憩を挟んで会議を再開した。
すると千歳が
「私の息子も役に立てるかは分からないが、美乃梨さんの為なら全力を尽くすだろう。」
と言った。
それに続いて麗華と壱と茉乃凛まで言って来た。
「それならうちの真央も美乃梨ちゃんの為に使ってあげて下さい!」
「景も美乃梨ちゃんの為なら頑張るでしょう。」
「薫、うちの碧依と紅音もそこそこは優秀な筈ですから呼んであげて下さい。」
「正直、私と美乃梨で足りるのだが……美乃梨は人気者なのだな。」
「当たり前じゃない。」
「薫さん、他には無いですか?」
「京翠から聞いたが、七倉蓮介は隠蔽魔法が中々上手いらしく美乃梨達が気付けたのは京翠の事を気にする動作を見せ、しばらく近くに居たかららしい。貴翠や京翠は魔力と巫女の力を上手く使い分けていたので、すぐに気付けたらしいが。」
「隠蔽魔法の使い手か……」
と千歳が呟いた。
「どうした千歳?何か心当たりでも?」
「ああ。もしかすると、その者の祖は九条家から追放された者かもしれない。」
「それは何年前の事なんですか?」
「そうだな、ざっと200年程前だろう。」
私達、魔法使いの家系で追放される者はそうそう居ない。だが、稀に魔法を使って一般人への危害を加えた者や魔法を悪用した者が追放される事がある。追放される時、魔力に制限をつける枷をつけられる。その枷はつけたものにしか外す事は出来ない。
……ただし、その者の子孫は魔力がある者が生まれるだろう。
「その、追放された者の魔力は多いのか?」
「ああ。一族で一、二を争うぐらいにな。だが、生まれながらに多かった訳では無く、自らが開発した魔力を増長させる薬を使っていたらしいが。名は九条千之助だ。」
「そうか。報告によると七倉蓮介の魔力はそこまで多くはないらしい。まあ、純血の魔法使いではないから当たり前だろうがな。だからこそ七倉蓮介は木に篭められていた美乃梨の魔力を使ったのだろう。」
「薫さん、美乃梨ちゃんの魔力の多さは実際どのくらいなんですか?」
「正直言うと私よりも多いと思っている。美乃梨は無意識のうちに表に出す魔力量の制限をしているのだろうな。だが、昔一度、美乃梨が時空魔法で過去に飛んだ事がある。しかも10年も過去にだ。」
私が言うと皆は微動だにせず固まった。
「何言ってるんですか?冗談ですよね?」
「いくら得意だと言っても限界があるだろ?」
「本当の話だ。美乃梨本人は1日くらいしか戻れないと思っているそうだがな。」
「参考として、薫さんはどのくらいまでなら過去に戻れますか?」
「そうだな、現代から離れて24時間以内で帰って来る場合は1週間程だ。無理をすれば1年前まで戻れるだろうが、現代に戻って来るまでに魔力が尽きるかもしれない。もしそうなるとしばらく戻って来れないだろうな。」
「そう聞くと美乃梨さんの奇抜さがよく分かるな。だが薫、何故それを今まで黙っていた?」
「このような状況でないと誰が10年前まで戻ったなんて信じるんだ?」
「確かにそれは……そうかもしれないな。」
千歳はそう言って出されていたお茶を啜った。
「10年前に戻って美乃梨さんは何かをしたのか?そして8年前に篭められたという木の魔力にも関係しているのであろうか?」
「そこまでは分からない。だが、私は関係していると考えている。それに美乃梨は10年前に戻った頃の前後の記憶が抜けているらしい。ただ、現代に戻って来たばかりの美乃梨が言っていたのは、魔力を誰かに預けた、という事だけらしい。」
「預けるとはまた不可解な。」
その時、会議室にノックの音が響いた。
壱が扉を開けると有栖川家の使用人が何やら焦ったような様子で壱に何かを呟いた。その後、壱は驚いたような顔をして玄関まで行くと言い、この場を離れた。
しばらくして壱は戻って来た。覚えのある2人の魔法使いの気配をつけて。
「お兄様!お久しぶりです。」
「兄上、ご無沙汰しております。」
来たのは私の妹と弟だ。
「律、響彼、どうしてここに居るんだ?」
「そんな事はどうでも良いですわ。茉乃凛ちゃん久しぶり!」
「大きくなったわね、律。」
「当たり前よ。私、今年で18だもの。麗華ちゃんも久しぶり。」
「律ちゃんは相変わらず元気そうね。響彼くんもお久しぶりです。」
「ああ、久しぶりだな、麗華。それより律、ここに来たのは挨拶する為だけじゃないだろ?」
弟の響彼がやっと本題に移り始めた。
「兄上、皆さん。私はヨーロッパである調べ事をしていました。ある時、とある古本屋で文献を見つけたのです。それは禁忌の魔法の本でした。その魔法を使うと大抵の魔法使いは命を燃え尽くすそうです。……ですが、禁忌の魔法を使わずとも同様の魔法が使える魔法使いが現れる事があるそうです。」
「それで、その禁忌の魔法とは何なのだ?」
「この世の支配をする事の出来る操縦魔法と時空間魔法です。」
私はごくりと固唾を飲んだ。
「私は、イギリスに留学していた律に一応調べて貰いました。案の定と言うか、何も見つかりませんでしたが。しかし、律は別のとあるものを見つけたそうです。」
響彼はそう言って律の方を向いた。律は軽く頷き、話し始めた。
「響彼兄様の言う文献は見つかりませんでしたが、別の文献を見つけました。随分と古い物のようだったので持ち出しは禁止されていましたので写本いたしました。内容は『不老不死』についででした。魔法使いは不死ではありませんがあまり老化は致しませんよね?その理由が書かれていたのです。」
「あまり老化しないとは言ってもな、見た目が若い者は魔法使い以外にも居るであろう?」
「違いますよ、薫お兄様。確かに最近は"美魔女"や
"美魔男"と言われる方が居るらしいですが。我々魔法使いはご先祖様がとある木になっていた果実を食べた事から不老不死になり、その血を受け継いでいるので不老だそうです。」
「でも不死で無いのは何故なのだ?」
「それは、私達の始まりのご先祖様夫婦は何処かに封印されているそうで、その影響で私達は不死では無いそうです。」
律がそう言うと千歳が言った。
「律、それは真か?」
「はい。千歳さん、ご先祖様のお話って聞いた事ありますか?」
「ああ。昔、祖父から聞いたが。それがどうしたのだ?」
「そのお話の中に『ご先祖様は大きな木の下でお昼寝をしました。』ってありませんでしたか?」
「あったな。」
「実は、貴翠には前もってこの情報を渡していましたの。貴翠に色々調べて貰ってそのご先祖様のお話に出て来る“大きな木”は美乃梨の魔力が篭っていたという木と同じだろうという事が分かりました。」
「貴翠くんが言うなら概ね間違っていないだろう。」
「そうでしょうね。響彼兄様、薫お兄様に"アレ"を伝えなくてよろしいのですか?」
「よろしくないに決まっているだろ。兄上、先程言った禁忌の魔法を使わずとも同様の魔法を使えると言うのは分かっているでしょうが美乃梨と煌の事です。」
「まさかとは思っていたが……美乃梨だけでなく煌もなのか?」
「はい。美乃梨と煌は時空間魔法が魔力に刻まれております故、可能性はとても高いでしょう。私は叔父として姪と甥が心配でしたのでこうして帰国しました。して、美乃梨と煌に異常はないですか?」
「特に無いと思うが。今日は本家に帰って来るのであろう?その時に見てやってくれ。美乃梨と煌だけでなく稔や架も喜ぶと思うしな。」
「そうですね。久しぶりに私も会いたいです。」
その時、しばらく何かを考え込んでいたらしい千歳が話し始めた。
「封印されたという先祖は不老不死であったのだな?では生きているのだな?」
「そうでしょうね。でも千歳さん。生きているからと言ってまともに話し合えるかは分かりませんよ?」
「確かにそうだな。でも、そこに賭けるしかないだろう。封印を解くのは容易ではないだろうがな。」
「薫お兄様、聞きました。巫女が現れたんですってね。……封印を解くには協力して貰った方が、」
「律。それは難しいという事を知っているだろう?兄上、皆さん、お気になさらず。」
響彼が律の止めに入った。巫女との協力等、私達には容易でない事だ。簡単に口にする訳にはならない。だが……
「ああ。響彼が言うように難しいだろう。」
「でも、お兄様!」
「最後まで聞きなさい。律の言う事が実現したら、大分と楽になるのも事実だ。皆はどう考える?」
私が聞くと麗華は一番に賛成してくれた。
「薫さん、私は良いと思いますよ。巫女と敵対するよりは余程。」
「私もそう思います。巫女と敵対するのは出来る事なら避けたいので。」
「麗華、壱、ありがとう。千歳と茉乃凛はどう考えるのだ?勿論私は賛成であろうと反対であろうと責める事はないが。」
「私は伯母として、美乃梨や煌に危害が及ばない最善策を選びます。たとえ馬の合わない巫女との協力だとしても、ね。」
「私も同じだ。薫は巫女との敵対よりも美乃梨さん達の安全を大優先しなさい。」
「ああ。協力を結ぶには時間が掛かるだろうが、早速次の会合で話そう。」
そして会議の締めくくりに壱が挨拶をした。
「では本日の五家会談は終了と致します。」
―おまけ―
「紫乃凛、今帰った。」
「あら、お帰りなさい。そう言えばお姉様から聞きました。薫がお姉様の事を義姉上と呼んだと。」
紫乃凛は今朝の茉乃凛と同じ顔をしていた。
「……もう伝わっているのか。」
「ええ。お姉様がそれは楽しそうにお話しするものですから、私も是非その場に居合わせたかったと思ったわ。次からは私も呼んで頂戴ね。」
そう言いながら微笑む紫乃凛は茉乃凛と違って鬱陶しく思えない。それどころか私をからかうその姿さえ、愛しいと感じてしまう。
「どうしました?」
「紫乃凛はいつまで経っても可愛いと思ってな。」
「どうして恥ずかし気もなくそんな事を言えるの?」
平然そうに言うが、少し顔を逸らしている紫乃凛は、いつもより頬が桃色に染まっていて新鮮だった。
「ははっ、紫乃凛は可愛いな。」
「……」
紫乃凛は少し黙った後、呟くように言った。
「……薫も、当主をしている時はいつもより更に、格好良い、ですよ。」
紫乃凛はそう言うと、部屋を出て行ってしまった。
紫乃凛が部屋を去った後……
「はあ、結婚してもう15年目だと言うのに……あの顔は反則だろう。可愛過ぎる。」
そして、紫乃凛とすれ違いざまにやって来たアーチーに、
「薫様、先程顔を赤くした紫乃凛様を見かけたのですが……氷でも持って来ましょうか?」
と言われてしまった。
それ程までに私の顔は赤くなっていたのだろう。
「ああ、頼む。」
「結婚してもう15年だと言うのに相変わらず仲が良いですね。」
アーチーは微笑ましそうにそう言って来た。
初めての薫目線です。
五家の当主様は昔から仲が良いのです。
初登場のキャラも出て来ました!
律は18歳の薫の妹。響彼は26歳の薫の弟です。
【呼び方】
薫→千歳、麗華、壱、茉乃凛(義姉上)
茉乃凛→薫、千歳さん、壱さん、麗華さん
壱→薫さん、茉乃凛さん、千歳さん、麗華さん
麗華→薫さん、千歳さん、茉乃凛さん、壱さん
千歳→薫、壱、麗華、茉乃凛
です。




