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「とりあえず、部屋だ。 女性だからね、野郎と一緒に雑魚寝はできなかろう」
「少し狭いかもしれませんが、管理室の隣の部屋が空いています」
「ふむ、あまり大部屋の近くもあれだから、そこがいいかもしれないね」
付いてきたまえ。そう言って部屋を出て行くルイスさんの言葉に従い、部屋をあとにする。
会議室を出て右に曲がり、突き当りを右に曲がり奥まった場所に部屋の入り口があった。
会議室からは目と鼻の先である。
「少し埃っぽいかもしれないな。軽く掃除でもするか」
「あ、あっあの、私、自分で出来ます」
じゃないとあなたの後ろで無表情で睨みをきかせる護衛さんがとてつもなく怖いんです。
レオンさん主を働かせてしまってごめんなさいっ。
「ん、掃除道具」
会議室を出たあと1人左へ進んで行ったノアさんがホウキやバケツ、雑巾などを持って扉の前に立っていた。
「ありがとうございます!」
「俺らは会議室にいるから、部屋が粗方片付いたら来てよ。多分そのくらいでお昼だろうし」
「わかりました。ありがとうございます」
そう言って3人は部屋から出ていった。
あれ?ベンさん会議室から出てないのかな?
「とりあえず寝れるぐらいには掃除しよ」
私は埃や汚れなどを撃退していく。
粗方掃除が終わり、ため息を一つついた所で疲労がどっと押し寄せた。
考えないようにしているが、ゾンビがいる世界なのだ。
今いる場所は安全とはいえ、絶対ではないのも事実である。
そんな場所に1週間留まるなんて・・・。
「こわいよ」
そんな弱音が出ると同時に、私の目からも涙が出てくる。
ダメだっ。会議室に行かなきゃなのに。
焦っても涙は止まらない。
そんな時、コンコンと扉がノックされた。
「ベンだけど。入っていい?」
「ベンさん。あの、ちょっと待って下さい」
私は慌てて涙を止めようとするが、ベンさんは気にせず扉を開けた。
「あのっちょっと」
「大丈夫。怖いのもわかるから。これ、お昼作ったから食べて?」
ベンさんは手に盆を持ち、その盆の上には湯気がでたスープとパンが2つあった。
「みんなにも言ってあるから。会議室には行かなくても大丈夫。とりあえず食べよ?」
ベンさんはサイドテーブルに盆を置くと、パンを一つ
渡してきた。
私はそのパンを受け取り、もしゃもしゃと食べる。
「食べながらでいいから、聞いてくれるかな。今後の君に対する方針が決まったから」
その言葉に食べながらでもいいと言われたが、手が止まる。
「この屯所は防衛には不向きな場所でね。壁があれど、出入口が4つあってね。その部分はソンビによって破壊されてしまってるんだ」
曰く、その場所には即席バリケードを作り、数人の隊士が交代で近づくゾンビの撃退を行っているらしい。
今回、そのバリケードを撤去し修理した門を頑丈に取り付けるという話になったらしい。
そして、その取り付けの作業の間、壁の外に出て、修理の邪魔をされないよう対処するメンバーに、隊員の半数近くが割かれるらしい。
もう半分は待機で、修理出来たら交代でもう1つの門を担当するらしい。
1日で2箇所2日間かけた行程だ。
その後は、門の確認は必要だが戦闘は避けられるので、休息の時間となるらしい。
「それでね、その修理作業に問題があり、ゾンビが建物内に侵入してきたときに、やはり自分の身を守るのは自分でしかないんだ」
悪い予感しかしない。
涙が止まるが、冷や汗が止まらない私にベンさんは続けた。
「初戦だと反応出来ないと大変だから、対ゾンビ戦を体験しておこう。作業は明日行われるから、それ食べたらすぐ行くよ」
だから早く食べて。
ベンさんの目がそう語っていた。