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「とりあえず、1千万個の納品を行います」
東さんはスマホをぴこぴこと操作していると思うと、東さんの足元が光り、忽然とアタッシュケースが現れた。
「こちら1千万個の治癒弾です。確認お願いいたします」
アタッシュケースをテーブルに乗せ、精鋭4人に開けて見せる。
「助かるよ。ノア、預かってくれ」
「わかりました」
ルイスさんの言葉に頷き、ノアさんは東さんからアタッシュケースを受け取る。
「すでに4千万個の発注を行いましたので、到着は予定通り1週間となります」
「さて、この1週間をどう使うか」
「王都まで無地にたどり着くためにも、安全に追加分が届いてからがよろしいかと」
「僕もその意見に賛成」
「しかし、疲弊している兵力を考慮すると、周辺のゾンビを治療し、1週間の間で戦力として加えられないものでしょうか?」
「人に戻った後、すぐに動けるわけではない以上、戦力としては難しいと思う。門戸を完全に閉めて1週間籠城するのがいいかと」
「やはりそれが一番か・・・」
東さんと私をそっちのけで作戦会議が行われ、待機の方向で方針が固められていく。
「それでは、申し訳ございませんが。私どもは帰還させていただきます。1週間後またこちらの会議室まで、納品にお伺いさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
「あぁ、よろしく頼むよ」
ルイスさんの言葉を受け、東さんはもう一度スマホをぴこぴこと操作する。
そして、こちらに来た時と同様に青緑色の淡い光が体を纏、ヒュンッと消えた。
東さんのみが・・・。
「えっ?」
えっ?えっ? 私置いていかれた? 嘘でしょ?
東さんがいたあたりを呆然としながら眺めている私を、精鋭4人はなんとも言えない顔で見ていた。
『ピコンッ』
バックパックの横ポケットから聞き慣れた通知音が鳴る。
私は慌てて携帯を探し出す。見知らぬ携帯は東さんからのメッセージを受信していた。
『いつもの癖で期間人数を1人のままにしてしまっていた。 転移の回数には上限があるため迎えに行くのは、1週間後の納品タイミングとなってしまう。悪いがそちらで1週間過ごしてくれ』
私の頭の中は意味のない疑問文がたくさん並ぶ。
えっ? 1週間過ごすの? ここで? ゾンビがいっぱいいるここで?
「えっと、大丈夫?」
呆然としている私に、東さんの後輩ということで警戒心が溶けたベンさんが心配そうに話しかけてくれた。
「あの、私、ここで1週間お世話になれますか?」
「ん? えっ? ここで?」
「はい、あの、帰還しそびれて、・・・それであの、東さんが次回来る納品のタイミングまで・・・。あの」
「えっ?1週間帰れないの? 大変だね」
「あの大丈夫ですか?」
ベンさんを恐る恐る見上げてみる。
アシンメトリーの前髪から覗く切れ長の目が笑う。
「大丈夫だよ。 屯所だからいろいろ不便だろうけど、できるだけリラックスして過ごしなよ」
「ありがどうございます」
優しいベンさんの言葉に涙声で私はお礼を言う。
ベンさん優しい。
それに比べて東さんめ! おっちょこちょいか!
「そうだね。君、料理はできるかい?」
「えっ? アッハイできます」
「よし、なら働かぬもの食うべからずだ、1週間、料理を担当してくれ」
ルイスさんからの許可もでて、私のゾンビのいる世界での生活が始まろうとしていた。