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浮遊感が治ると、周りを見る余裕ができ、自然に瞑ってしまっていた目を開く。
会議室のような風景ではあるが、第三営業課の一番右の会議室とは違っていた。
そもそも会議室には他の人はいなかったはずだが、今は私と東さんの他にタイプの違う4人の筋肉マッチョな男性がいた。
「東! 待っていたよ」
「例のブツはできたのかい?」
「ほんとあんたっていつも、いきなりだな」
「・・・・だれ?」
4人がそれぞれわちゃわちゃとそれなりに大きな声で喋り出すので、耳がキーンとなりそうだ。
4分の3人が東さん一直線ななか、一人だけ私をみて警戒心を現す。
ジトッとした目でこちらを見る青年。そんな青年の目を見つめ返す私。
変な方程式ができる前に、私はあわてて目線をそらす。
「みなさんお待たせしてしまって。申し訳ございません。ご依頼いただいた商品の試作品をお持ちしましたので、効果のほどを確かめて、改善または発注をと思いまして」
東さんはそういうとスーツの内ポケットから数個の弾丸を取り出した。
てか、弾丸丸裸で入れとくのやめれ。
「早く試そう。チームもだいぶ疲弊して来てるんだ」
その言葉を皮切りに4人全員が東さんの手の上から弾丸を2つづつ取り、ヒップホルダーにある拳銃を取り出し、弾を装填し、部屋から颯爽と出て行った。
「さて、映像でも見ながら、詳しく説明しよう」
東さんは会議室の奥にある複数のモニターの前にたつ。
「我が社は、人材派遣会社であるが、取引先は基本的に異世界だ。 異世界で不足ある人材、道具などを、他の異世界から調達し派遣するのがうちの第三営業課の仕事だ」
「異世界って・・・」
未知の言葉に慄く私に、東さんは流し目でこちらを見る。
「見たことないか? 異世界転生とかの物語を。数多ある異世界との交流を可能にする転移装置を開発した社長が『どの異世界でも過ごしやすい環境を』と掲げて発足したのがテンポラリーサーバント株式会社だ」
東さんの説明は落ち着いた時に聞いても狂っていただろう。
画面に映し出される、ゾンビと呼ばれる生物、そしてそのゾンビ相手に銃弾戦を繰り広げる複数の人たち。
そんな映像を見ながら、私は発狂するタイミングを逃してしまった。
「今回は、物資の契約で、このゾンビを完全撃退できるものまたは、治療薬をとのことだった。ゾンビになる伝染病から人々が生還した世界があって、そこから得た治療ポーションを弾丸に込めている」
「撃ったら治療にならないじゃないですか」
「弾薬は皮膚を貫通すると体内で溶けてポーションが全体に行き渡る設計になっている。ほんとは、一人一人ポーションを飲ませていくのが正式な方法らしいが、圧倒的な人手不足だ。弾丸で次から次へと撃っていったほうが早い」
画面では先ほど会議室から出て行った4人が現場に到着し、何か指示を出すと、数体のゾンビが防衛壁の中に入っていく。
入って来たゾンビはすかさず撃たれる。それを何度か繰り返した。
撃たれたゾンビは倒れこむと、淡い光を放っていた。
防衛壁付近では激しい激闘が繰り返されているなか、その場所だけが異質にも聖域のようであった。