こんな会社辞めてやるんですから!
「東さーん。やっぱり無理ですー」
私は心の中だけでなく声に出して、東さんに伝えたが、その場にいない東さんに伝わることはなかった。
今、私の置かれている現状を説明すると、リクルートスーツ(タイトスカート)、ストッキングの上から膝当て、パンプス、なにやら色々入っているらしいバックパック、そして両手で持っているアサルトライフル。
場所はサバゲー会場・・・だったらまだ良かったのに。
服装を間違ったサバゲープレイヤーだったらまだ、良かったのに。
私はいま、本当の戦場に立っていた。
相手は化け物・・・・いわゆるゾンビである。気絶しそう。
なぜこんなことになったのか、大学3年生の合同説明会会場まで遡る必要がある。
近年の就活は早期化していき、年度始めそうそうには合同説明会が開催された。
先輩からの「就活やばい」という呪いに近いお言葉を胸に、私は合同説明会に度々参じた。
そこで出会った東さん・・・・その出会いが間違いだった。
「ここはテンポラリーサーバント株式会社です。説明聞きませんか?」
すらりとした高身長、体は引き締まっており、スーツの上から筋肉質な肉体美を感じさせる少しセクシーなお兄さん、それが東さんだった。
短髪が清潔感を感じさせ、切れ長な目が猛禽類を感じさせる・・・そんなお兄さんだった。
「はい。よろしくお願いします」
私は、そんな東さんの色気にノックダウンし、すごすごとブースにあるパイプ椅子へと誘われた。
「テンポラリーサーバント株式会社、略してテンサーって読んでます。うちは、いわゆる人材派遣の会社です。私は営業担当で東樹です。よろしくお願いします」
説明では、いわゆる普通の人材派遣の会社であった。イベントスタッフとして派遣されるという説明であった。
なんらおかしいことは、なかった。
人を楽しませることが大好きで、体力にも少し自信があり、東さんがイケメンであったために、大学4年の夏休みが終わるころには、テンポラリーサーバント株式会社第三営業課への入社が決定していた。
入社した私にまっていたのは、オリエンテーション、説明会、交流会、そしてOJTであった。
入社後3日目に東さんに連れられて入室した第三営業課。
広いオフィスにパソコンが10台ほど並んでおり、その奥に会議室らしき部屋が4つある。
そこで渡されたのが、膝当てとバックパックと、アサルトライフルである。
「今回は、OJTとして実際に派遣現場の体験をしてもらおうと思う」
「へ?」
「この部屋から特定の現場に飛ぶことができる。今回は、私と一緒にパニックホラーの世界に飛ぶ。そこはゾンビに襲われる世界で、依頼主は特殊部隊の精鋭だ。とりあえず行くか」
そういって東さんは一番右の会議室に入り、私にも入室を促す。
たくさんの荷物を持ち呆然としながらも、なぜか足は東さんに続き私は会議室へと入室していた。
東さんが入り口の壁にはめ込まれた操作盤をぴこぴこ動かすと、会議室に青緑色の淡い光がたち一瞬の浮遊感に襲われる。